中国の著作権や知的財産権に関する法律環境は、ここ数十年で大きく変化してきました。外国企業や日本企業にとって、中国が提供する巨大な市場にアクセスする際、知的財産や著作権の扱いは非常に重要な関心事のひとつです。一方、中国国内でも高まるイノベーション志向やデジタル化の進展に伴い、知的財産保護への意識が格段に強まっています。そのため、法制度は繰り返し改正・強化されてきており、国際的な基準との調和も重視されています。この記事では、中国における著作権・知的財産権法制の改正や現状について、基礎から最新動向までを解説し、特に日本企業が注意すべき点や対応のヒントも具体的に紹介します。
1. 中国著作権・知的財産権法制の概要
1.1 中国における著作権保護の伝統と変遷
中国において著作権保護が本格的に始まったのは、実はそれほど昔のことではありません。中国の伝統文化では、書物や芸術作品は公共財として広く共有される傾向が強く、「知的所有権」という概念は近代まで存在しませんでした。しかし、改革開放政策以降、経済成長とともに知的財産の価値が認識されるようになり、法的な保護が整備されていきました。
1980年代後半には、著作権に関する最初の法律が制定されました。特に1990年に公布された「著作権法」は中国の著作権制度の大きな節目とされています。これ以降、国内クリエーターや外国ベンダーを問わず、音楽や映画、書籍、ソフトウェアなど多様な作品への権利保護が明文化されました。また、違法コピー商品が社会問題化したこともあり、法律の運用についても徐々に本格化していきます。
その後30年以上にわたり、時代の変化に応じて何度も法改正が行われてきました。デジタル技術の進化や国際貿易の拡大もあって、著作権保護の内容や範囲、救済手続などが絶えず見直されており、世界的な水準に近づける努力が続いています。中国独自の伝統から現代的な「権利」の概念へと進化した道のりは、きわめて特徴的です。
1.2 知的財産権制度の発展経緯
知的財産権(IPR)の保護についても、中国は近年特に重視してきました。かつては模倣製品やパクリ問題の温床として国際社会から批判を受けていた中国ですが、2000年代以降は政府自らが知財価値の向上を戦略の柱に据えています。これは中国企業によるイノベーション志向の高まりと密接に関係しています。
たとえば「国家知的財産権戦略綱要」(2008年発表)など、知的財産全体を総合的に保護・活用する国家レベルの方針が定まっています。産業政策とも連動し、特許取得数や出願件数でも世界トップクラスに躍り出ました。大学や企業、研究機関も積極的に特許取得を目指し、利益を最大化する動きが広がっています。
発展の過程では、特許法・商標法・実用新案法・意匠法など個別法も整備され、国際水準への接近努力が続けられています。また、行政や司法の執行体制も充実させ、特許裁判所の新設や専門人材の育成など具体的な措置も講じられてきました。
1.3 国際的枠組みとの調和
中国は世界貿易機関(WTO)への加盟や国際的な知財条約への参加を通じて、自国の知的財産権制度を国際基準に近づけてきました。特に、WIPO(世界知的所有権機関)やTRIPS協定への対応が重要になっています。
たとえば、TRIPS協定の発効にあわせて1990年代には著作権法・特許法・商標法が大幅に見直されました。また、外国企業や投資家の参入条件として、知的財産権の保護強化が常に求められてきたため、法制度の国際整合性がより強く意識されるようになりました。
一方で、中国の法律や運用は地域性や独自の慣習が強く残る部分も多く、国際基準と完全に合致しているとは言えません。たとえば、「実用新案」制度や「行政による知財保護」という中国独自の執行慣行などは、海外の専門家や企業からはやや特殊に見える場合があります。しかし近年は、知財紛争の国際的増加や中国企業の海外展開に伴い、調和の重要性がますます高まっています。
1.4 主な法律・規定の種類と特徴
中国の知的財産権関連法規には、著作権法、特許法、商標法、実用新案法、意匠法など多岐に渡る体系的な法律があります。それぞれの法律は対象や保護の方法が異なります。
例えば、著作権法は文芸・芸術・ソフトウェアなど幅広い「作品」全体をカバーしています。特許法は発明や実用新案、意匠(デザイン)に分かれていますが、中国では特に「実用新案」が手軽に取得できるため、中小企業にも人気です。商標法は、中国国内で商品やサービスを守るために非常に重要な役割を果たしており、特にブランド戦略に直結しています。
また、これらの法律はしばしば補助的な行政規則や解釈指針で補完されています。たとえば、国家知的財産権局(CNIPA)や著作権局が日々ガイドラインを出し、審査基準や救済方法などを柔軟に運用しています。そのため、単なる法律条文だけでなく、現場運用にも気を配ることが重要です。
2. 近年の法改正の背景・目的
2.1 デジタル化社会への対応
現代中国社会では、インターネット利用者が10億人を超えるなど、デジタル化が急速に進んでいます。電子商取引、SNS、クラウドサービスなど新しいネットビジネスが次々と登場し、著作物やブランド、技術のデジタルコピーや再利用もごく日常的になりました。
こうした変化に、伝統的な知的財産保護の枠組みのままでは十分に対応できません。例えば、違法コピーや無断転載、模造品販売といった「ネット上の侵害」が社会問題化し、それに対応したルール整備が必須になっています。また、AIの発展により、生成人工知能が作った作品や、自動処理によるデータ利用の在り方も新たな課題として浮上しました。
こうした背景を踏まえ、法律やガイドラインが「デジタル時代に合わせてアップデート」されてきました。具体的には、オンライン著作権侵害への罰則強化、電子証拠の採用、インターネットプラットフォームの責任明確化など、多角的な取り組みが進められています。
2.2 国内経済成長と産業高度化の推進
中国国内では、経済成長戦略の中心に「イノベーション」や「産業の高度化」が掲げられています。この実現には、新しい技術や独自ブランドを持つ企業の増加が不可欠です。しかし、知的財産権が適切に保護されなければ、企業の投資意欲や技術開発の動機付けが損なわれ、不正競争の被害も拡大します。
さらに、政府が「中国製造2025」や「科学技術強国」などの国家政策を推進する中で、自国ブランドや国産技術の知財保護が極めて重要視されるようになりました。たとえば、半導体やAI、医薬品分野での特許争いが激化しており、そのための法整備が強化されています。
同時に、スタートアップや中小企業が新たな技術を社会に実装しやすくするため、知的財産制度の簡素化や救済手続のスピードアップも重要な柱となっています。こうした一連の法改正は、「経済発展のためのインフラ整備」としての性格も持ち合わせています。
2.3 国内外の要請や圧力の高まり
中国の知的財産権に対する評価は、かつて「コピー大国」「知財侵害の温床」といったイメージが強く、欧米や日本から強い批判を受けてきました。そのため、中国政府も外国資本の流入や国際協力を進めるために、「知財保護強化」を強調せざるを得ない状況が続いています。
実際、貿易摩擦や国際交渉の場では知財分野が最重要論点となり、中国が国際投資を呼び込む条件として法改正や執行強化が求められてきました。たとえば、2019年に米中貿易摩擦の協議の一環として「知財保護の透明性」や「技術移転の強制排除」などが明確に合意され、中国は一連の制度改正を実行しました。
こうした外圧だけでなく、国内でも高まる知財訴訟へのニーズやクリエイティブ産業の発展志向が相まって、知財法の進化が加速しています。政府だけでなく、産業界・法律業界・消費者までを巻き込んだ「全社会での知財重視」の姿勢が鮮明です。
2.4 イノベーション促進と持続可能性
中国では近年、「単なる模倣」から「独自のイノベーション」へと経済戦略が転換しています。そのなかで、知的財産権の保護と活用が、技術発展と経済成長の「持続可能性」を担保するものとして見直されています。
たとえば、国家主導でのイノベーション拠点(イノベーションパークやR&D基地)の整備や、革新的な企業への知財補助金・表彰制度などの政策支援が強化されています。これは単なる法改正にとどまらず、産学官連携や人材育成を含めた包括的な動きとなっています。
また、グローバル市場での「中国発」技術やコンテンツの競争力を高めるために、国際特許出願やグローバル商標戦略の支援も推進されています。長期的には、知財環境の整備が“中国ブランド”の世界展開を後押しし、経済モデル全体の持続的な発展を支える役割を果たしています。
3. 主要な法改正の内容
3.1 著作権法の最新改正ポイント
2021年に施行された最新の中国「著作権法」改正では、最も注目された変更点がいくつかあります。第一に、著作物の保護範囲の拡大です。これまで曖昧だったデジタル作品や現代アート、ライブ配信のパフォーマンスなども新たに保護対象として明記されました。
また、インターネット上の著作権侵害に対して、サービスプラットフォームにも削除要請の義務と責任が課されました。たとえば、違法な動画投稿や楽曲のシェアに関して、著作権者が削除申請を出せば、プラットフォーム側は速やかに対応しなければならなくなったのです。この措置により、ネット上の「野放し状態」が徐々に改善されています。
さらに、「懲罰的損害賠償」の導入が大きなポイントです。悪質な著作権侵害に対しては、実際の被害額だけでなく、最大5倍までの損害賠償が命じられるようになりました。これによって、違反の抑止力が大きく高まったことは、多くの事件で報告されています。
3.2 特許法・商標法の重要な変更点
特許法や商標法も、近年大きなアップデートが行われています。たとえば、2021年改正の特許法では「懲罰的損害賠償」や「証拠保全命令(臨時差止)」の強化が盛り込まれました。これにより、証拠隠滅や侵害継続のリスクを減らし、権利者保護がより現実的になっています。
また、先使用権や善意取得に関する規定強化も進められ、ライセンス契約や技術移転に対する安心感が高まっています。商標法では「悪意の先取り商標登録(トロール商法)」への対策が大幅に強化されました。つまり、単なる登録ビジネスや悪質な「商標先取り」については、登録拒否や取り消しが積極的に実施されています。
特許や商標の審査速度も大きく短縮されつつあり、デジタル手続の全面導入やAI活用による審査支援も始まっています。これによって、スタートアップや日本企業にとっても利便性が高まり、攻めの知財戦略が実践しやすくなってきました。
3.3 新たな保護対象と権利範囲の拡大
改正法では保護対象や権利範囲の拡張も進みました。たとえば、著作権法においては「視覚芸術・現代デジタルアート」「アバターやキャラクター」「ライブビデオ」をも独立した著作物と認めるようになり、多様なコンテンツビジネスに道を開いています。
特許法でも、製薬分野の「特許期間延長」やバイオ技術、AIアルゴリズムなど新領域の技術保護を強化。スマート製品や医療機器、IoT分野での実用新案の保護要件見直しも行われ、実情に合った支援策が盛り込まれました。
さらに、従来は救済対象とならなかった「準著作物的」な二次創作、たとえばファンアートやパロディなどについても明確な救済ルールを設け、権利者・ユーザー双方の活動バランスを意識した法運用が進んでいます。これはコンテンツ流通の活性化にも大きな影響を与えています。
3.4 著作権登録・侵害救済手続きの見直し
著作権や知的財産権の紛争時には、これまで以上に「手続きの迅速化」と「難易度の平準化」が図られています。まず著作権登録については、国家著作権局(NCAC)や地方行政機関によるオンライン登録サービスが拡充され、1週間単位で電子証明を入手できるようになりました。
さらに、侵害発生時の救済手続も簡潔になっています。たとえば、証拠収集や損害計算が困難なケースで、権利者申告に基づく「推定損害計算」や「仮差止命令」などの救済措置が導入されました。これによって、小規模企業や独立クリエーターでも訴訟・救済へのハードルが下がりました。
また、行政救済ルート(行政処分や行政調査)と司法ルート(裁判所による強制執行)がより密接に連携するよう制度整備も進み、多様な侵害形態に対して柔軟かつ確実なプロテクションが可能となっています。
4. 最新動向と中国国内の施行状況
4.1 司法判断・判例にみる実務運用
中国では、近年知的財産裁判所の新設や知財専門裁判官の育成が進み、司法現場での運用基準も大きく向上しました。たとえば、北京、上海、広州といった大都市では知財事件専門の法院(知財法院)が設立されており、年間数十万件以上の事件を扱っています。
実際の判例としては、大手国内企業同士や、海外大手と中国ローカル企業の争いなどが多く、一部では「懲罰的賠償」が積極的に適用されています。有名な事例としては、Apple社が訴えたiPhone模倣品訴訟や、米国AdobeがPhotoshopの違法コピー問題で勝訴した例などがメディアでも大きく取り上げられました。
また、近年では証拠収集やデジタル証拠(ログ、メタデータなど)の採用が進んでおり、オンラインでの侵害行為も効果的に摘発されています。全体として、判例法主義ではない中国ですが、判例が現場運用のガイドラインになる傾向も強まってきました。
4.2 行政機関の役割と強化された執行体制
中国は、行政機関による知財保護の役割が非常に強いのが特徴です。たとえば、国家知的財産権局(CNIPA)や地方政府の知財局が、日常的に巡回調査や摘発キャンペーンを実施しています。特に「ダブル11」や「春節」など大規模なECイベントでは、不正商品の集中摘発が行われ、没収・罰金・公開処分などの措置が徹底されます。
また、商標や特許の侵害通報に対する迅速な対応や、「ホットライン」制度による消費者・事業者からのリアルタイム通報受付も進んでいます。こうした仕組みは、特にネット通販プラットフォームでの商品管理や違法業者排除に大きく活用されています。
さらに、税関や公安部門とも連携し、国境をまたぐ知財侵害(輸出入の模倣品摘発など)にも積極的に対応しています。越境ECやBtoCプラットフォームの普及に伴い、国際的な共同取り組みも強化されているのが現状です。
4.3 侵害事例の動向と対応策
中国国内における著作権や知的財産の侵害件数は依然として多いのが現実です。特に、模倣ブランド(コピー商品)、無断使用、ネット上の違法コンテンツ拡散などが目立ちます。近年では「ライブコマース」におけるパクリ商品や、低品質アプリの不正コピーなど、ビジネスモデルの多様化とともに侵害形態も複雑化しています。
これに対して行政と企業が連携し、AIによる自動モニタリングやデジタル指紋技術の導入など、ハイテクな摘発手法も増えています。また、著作権登録や商標出願を通じて、予防的な「先手管理」を徹底する企業も増加中です。
他方で、中小規模の事業者や個人クリエーターが権利を守るためのサポート策も強化されています。たとえば「知財法律相談所」や「無料法律援助」など、資金力や知識不足で悩む層に対するきめ細かいサービスが用意されています。
4.4 知財保護に関する問題点や課題
もちろん、中国の知的財産権保護体制には依然として課題も残っています。ひとつは地方間での法執行の差、つまり「都市部では厳格でも地方や農村部では甘い」という地域格差です。このため、全国一律の施行・対応をいかに実現するかが大きな課題となっています。
また、行政と司法の連携が強まる一方で、透明性や公正性への不安、汚職・便宜供与の温床となる場合もあります。たとえば知財審判での「現地有力者の介入」など、外部からの働きかけに悩む事例も散見されます。
さらに、法制度の頻繁な改正や現場運用の裁量幅が大きいことから、企業側が「ルールチェンジ」に追いつけないという問題も浮上しています。特に国外企業や新規参入者にとっては、法改正のたびに柔軟なアップデートが求められ、継続的な情報収集が不可欠です。
5. 国際社会との関係と日中ビジネスへの影響
5.1 WIPO/TRIPS等国際規範との整合性
中国はWIPO(世界知的所有権機関)やTRIPS協定といった国際的な知財ルールにかなりの部分で対応しています。たとえば加盟以降、関連法規の条文や運用基準を世界水準に合わせ、外資企業・多国籍企業も納得できる透明性確保に努めています。
しかし、細かな運用部分や地方実務では「中国独自の慣行」も多いため、国際規範と完全な整合性が課題になるケースもあります。たとえば、実用新案や意匠権の取得要件、証拠認定の扱いなどで日本や欧米と細部が異なる場合があります。
近年では、中国企業自身もグローバル展開を進めており、現地での特許登録や海外訴訟の増加に対応するため、自国法の国際整合性をさらに強化していく流れです。国際ビジネス環境との調和は今後ますます重要度が高まるといえるでしょう。
5.2 外資系企業に対する影響と留意点
中国に進出している外資系企業、特に日本企業にとって、知的財産権の取り扱いは長年悩みの種です。たとえば、進出当初からの「商標先取り被害」や「技術流用の危険性」、「奨励金詐欺」など、独特の現地リスクを抱えています。
しかし、近年の法改正によってヤミ業者の懲罰化や悪質な商標ビジネスの排除などが進み、外資企業にとっても法律による救済の道が開かれやすくなりました。また、現地専門家やコンサルを活用しながら「現地登録+本国本家登録」のダブル戦略を取る企業も増えてきました。
進出を検討・拡大する際は、必ず事前に「商標・著作権の早期登録」「現地語商標の確保」「主要な技術の特許管理」など、先回りしてリスクを最小化する工夫が不可欠です。加えて、現場スタッフの権利意識や管理体制を現地型にアジャストできるかが、成否を左右します。
5.3 日中間の知財摩擦・ビジネスリスク
日本と中国の間では知的財産をめぐる摩擦が繰り返されてきました。たとえば、日本発のアニメキャラクターや家電ブランドのコピー商品が中国市場に氾濫し、大きな社会問題となったことも記憶に新しいです。2020年代になっても、パクリ商品やノウハウ流出、研究成果の無断転用というトラブルが絶えません。
こうしたケースでは、両国政府間や産業連携組織での交渉や啓発活動も行われています。最近では、中国側の法改正や執行強化の流れに合わせて、日中企業間の技術提携や共同開発のガイドラインも頻繁に見直されています。
とはいえ、現地でのリスク管理や法改正に迅速に対応しないと、契約や提携の途中で思わぬトラブルに巻き込まれるケースもあります。特に合弁事業や技術移転時には、最新の法動向を常にチェックし、リスク最小化のための安全策を講じておく必要があります。
5.4 技術移転・共同開発における指針
日中企業の間では、技術移転や共同研究・開発のプロジェクトが年々増加しています。このような場面では、知的財産権の事前帰属や利用範囲、成果物の分配方法などを明確にして契約書に落とし込むことが最重要となります。
最近の法改正では、技術移転契約の公正性確保や外資出資に対する差別排除などが明文化されており、合意内容の履行が日本側の安心材料となるケースも増えました。また、不正な技術奪取や第三者流出を防ぐため、秘密保持契約(NDA)や臨時差止・損害賠償条項を厚くすることが一般的になっています。
加えて、デジタル時代の流れを受け、IT・AI・ビッグデータといった新領域での契約やライセンス実務では、従来の紙契約ではなく電子契約やオンライン証拠の活用が推奨されています。中国現地法と日本本国法の両方を見据える“ダブルスタンダード”を採用するのが主流です。
6. 今後の改正動向と展望
6.1 法改正の見通しと注目分野
今後の中国知的財産権法では、テクノロジーの進化や国際情勢の変化に応じて、新たな改訂の動きが予想されています。特に注目されるのは、「AI創作物」「ビッグデータ」「個人情報保護」といったデジタル時代の新テーマです。
これに伴い、著作権者・ユーザー・プラットフォームそれぞれの権利義務をクリアにし、コンテンツ利用や2次創作を促進しながら権利保護も徹底する“ダブルスペック”型の新制度が論議されています。加えて、地方格差や審査基準のばらつきを是正するための「全国ガイドライン」や、「オンライン争議調停」の拡充も検討されています。
今後5年以内には、生成AIやデジタル双方向サービスに特化した独立法案や、データ権利・プライバシー保護の強化条項など、複数の新テーマでの改正案が提出される可能性が高いです。
6.2 AI・ビッグデータ等新分野の課題
中国IT企業が台頭する中、AIやビッグデータ活用に関する「著作物性」「帰属」「利用権範囲」などの法的整理は必須課題です。現状、中国著作権法は「人間以外の創作物」に対して明確なルールを持っていませんが、実際にはAI作曲、AI絵画、データマイニングなどが広く社会実装されています。
問題となるのは、AI生成物の著作権帰属や、機械学習用データセット利用の正当性、アルゴリズム特許・営業秘密の保護など。日本と中国、欧米でも基準が異なり、グローバル企業は最先端ルールへのキャッチアップが求められます。
また、個人情報保護法やサイバーセキュリティ法との連動も強まりつつあり、「データ利用における知財権・プライバシー権の両立」をどう実現するかが焦点です。今後は、国を超えたビジネスや国際共同研究で、契約・管理の新ルールが急務となるでしょう。
6.3 中国における知的財産権政策の将来像
中国の政府方針を見ると、知的財産権は今後「経済安全保障」と「グローバル戦略」の観点からますます重視される傾向です。国家発展改革委員会や工業情報化部、各地方政府のロードマップには、知的財産の収益化や国際展開を支援する仕組みが次々と盛り込まれています。
また、国産技術の特許ポートフォリオ化や、主要産業クラスターごとの知財支援、R&D補助金拡充など「政府一体型」政策が推し進められています。司法・行政の連動による摘発の強化だけでなく、新しいビジネスモデルとの共存、「開かれた知財」や「標準必須特許(FRAND)」の議論も加速しています。
今後、中国発の技術やアニメ・ゲーム・音楽など「クリエイティブ中国ブランド」を世界中にプロモーションし、グローバルな知財課題のリーダーシップを狙う動きが主流になると考えられます。
6.4 日本企業の戦略的対応方法
今後の知的財産環境の変化に対応するため、日本企業には戦略的な体制作りが求められます。まず優先すべきは、現地での「早期・完全な知財登録」。新規プロダクトやサービスはローンチ前から徹底した商標・特許・著作権管理が必要です。また、現地事情に精通した弁護士・特許事務所の協力を得ることも効果的です。
現地の技術提携や合弁展開を行う際は、「共同開発契約」「秘密保持契約」「成果物帰属合意」をすべて明文化し、万一の法改正や運用変更に即応できる“アップデート体制”を組み込んでおくと安心です。
さらに、社員教育や現地拠点マニュアル整備、リスクマップの作成による、継続的なリスク管理と定期見直しが不可欠です。中国現地だけでなく、日本本社や海外支店と横断した“多層防御型”の知財運用を徹底することが、今後の成否を左右します。
7. まとめと実務への提言
7.1 日本企業に求められる最新対応策
現在の中国知的財産権法は絶えず進化しており、日本企業としては「後追い」は大きなリスクです。現地法制の最新情報に常時アンテナを張り、できるだけ早く商標・特許・著作権を現地で登録し直す「先手必勝型」が安心です。特に模倣や先取り商標への備えに、現地登録と国際登録を併用する企業が増えています。
また、契約書条項も日中いずれの基準にも沿えるよう、知財帰属・利用権・損害賠償・秘密保持など全項目を明文化・明確化する癖を付けておくと実務トラブルを未然に避けやすいです。ローカル弁護士との協力や、現地での説明責任の徹底も忘れずに行いましょう。
加えて、現地従業員やパートナー企業へのリテラシー研修、模倣品監視システムの導入、現地法改正の即時反映を図る柔軟な運用体制も不可欠です。中国拠点、日本本社双方での役割・分担をはっきり定めて管理するのがポイントです。
7.2 現地専門家活用の重要性
中国の知財運用は、細かい条文や現場慣習に熟知した現地専門家の存在が極めて重要です。自社だけの情報源や人脈に頼らず、現地の弁護士、特許事務所、コンサルタント、業界団体との連携体制を早期から整えておくことが必要です。
特に、定期的な法改正セミナーや最新判例のレポート購読、知財協会の勉強会などに積極参加し、「現地ならではの事情」を常にアップデートしておきましょう。また、現地の行政窓口やビジネスマッチングイベントへの出席も現地ネットワーク強化に役立ちます。
トラブル対応や危機管理では、即断即決が求められるため、普段から顧問専門家と素早く連絡できる体制を整えておくと安心です。日本本社と現地拠点で情報共有の仕組みを作り、フロー化するのも有効です。
7.3 継続的リスクマネジメント体制の構築
中国での知財ビジネスは、法律の動きや市場の変化が激しいため、一時的な対策だけでは不十分です。継続的なリスクマネジメント体制、すなわち法改正の即時反映、現地慣行の見直し、監査や内部報告の定期実施などをルーチン化しましょう。
また、毎年または半期ごとに自社の知的財産リスクマップを更新し、要注意商品や分野、拠点別のリスク値を比較すると、想定外のトラブル発生時にも迅速な初期対応が可能になります。外部サービスを利用した模倣品モニタリングもおすすめです。
リスクマネジメントの視点としては、主に「法的リスク」「実務運用リスク」「人材・情報流出リスク」「ビジネス戦略リスク」に分解し、各部署で具体策を決めておくと効果的です。
7.4 長期的なビジネス展開戦略の指針
今後、中国市場で持続可能なビジネスを展開するには、「知財戦略」を経営の中心に据える発想が求められます。ただ単に製品を売る、技術を移転するのではなく、その知財をいかに現地市場で守り、活用し、収益化できるかを見据えて事業計画を立てましょう。
日中間の法改正やイノベーションの波を「ビジネスチャンス」と捉え、地道な権利保護と積極的な情報発信を同時に進める姿勢が重要です。また、デジタル分野では中国の最新法制を先取りする仕組みを内製化し、常に「次の一手」を構築する現地型R&D体制も視野に入った方が現実的です。
【終わりに】
中国の著作権・知的財産権法は、世界の知財環境と共振しつつ、劇的に進化しています。現地でビジネスを拡大する日本企業にとっては、改正される法律にいち早く対応し、柔軟な現地経営を実現することが、競争力維持のカギとなります。安定した長期ビジネス展開のためには、知的財産の戦略的活用と管理体制の充実が不可避であり、今後も中国動向から目が離せません。