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   中国の健康食品市場の成長と消費動向

中国の健康食品市場の成長と消費動向

中国は経済成長とともに、国民の健康意識の高まりが顕著になってきました。特にここ十数年で、「健康食品」というジャンルが急速に拡大し、生活スタイルも大きく変化しています。現代中国人の間では「健康」が大きなキーワードになり、サプリメントや機能性食品、オーガニック製品への関心が急増しています。医療費の伸びや高齢化、食生活の多様化など、様々な社会的背景とともに、一度は「怪しい」「信じられない」とも言われた健康食品が、今や都市部だけでなく、地方都市や農村部にも広がりを見せています。

本記事では、中国の健康食品市場の歩み、市場規模の変化、その背後にある社会的要因、そして変わりゆく消費者のニーズやトレンドまで、分かりやすく紹介していきます。また、日系企業のビジネスチャンスや課題、日本市場との違いにもスポットを当てます。中国に興味がある方、健康産業に注目している方、中国市場へチャレンジしたい方、ぜひ最後までご覧ください。


目次

1. 序論:中国の健康食品市場の現状

1.1 中国における健康食品の定義と分類

中国で「健康食品」とは、一般の食品と医薬品の中間に位置づけられる存在です。「保健食品」(バオジェンシーピン、保健品とも)という言い方も一般的です。主に「特定の体の機能を改善・調整する」「あるいは特定の疾患予防をサポートする」目的で摂取される食品や飲料を指します。たとえばビタミンやミネラルなどのサプリメント、特定のハーブ、漢方エキスを使った商品、乳酸菌飲料、コラーゲン配合商品、オメガ3脂肪酸系のオイルなどが挙げられます。

中国国家市場監督管理総局により、「保健功能」と呼ばれる約27種類の健康機能(例えば「免疫調節」「疲労回復」「美肌」「骨の健康」など)が定義されています。市場には「ブルーベリーエキスで目の疲れを防ぐ」「紅景天で高地に強い体を作る」といったピンポイント型サプリメントも多く見られます。また近年、「機能性食品」や「栄養強化食品」といった名称でも広がりを見せていますが、医薬品ほど効能表示の自由はありません。

加えて、従来型の「漢方(中医薬)」や「伝統食材」を素材とした製品も健康食品として愛用されています。霊芝、冬虫夏草、高麗人参、クコの実など、中華圏独特の原料も多く、単なる「サプリ」ではなく「薬膳」や「養生」文化として深く根付いているのが特徴です。

1.2 健康食品市場の誕生と発展の歴史

中国の健康食品市場は1980年代後半から始まりました。当初は、海外からの輸入サプリメントや一部の高額漢方エキスを中心に、裕福層や外交関係者向けに流通していました。90年代にかけて、国産サプリメーカーの台頭や販売チャネルの多様化、マスコミによる宣伝効果もあり、一部都市部で急速に拡大しました。この時期、健康食品はまだ一部「うさんくさいもの」「高齢者向き」というイメージもありましたが、中流階級の形成と消費ブームに後押しされ、保健食品専門店やドラッグストア、通信販売などが普及していきました。

2000年代に入り、中国経済の安定的な発展と都市化の進行とともに、人々の健康志向も顕在化します。それにより、健康食品は富裕層から中間層、さらには若年層にまで浸透しました。この時期、乳酸菌飲料やカルシウムサプリ、機能強化型の乳製品(ヨーグルト、粉ミルク)などが爆発的なヒット商品となっています。また、オリンピック開催(2008年北京)、国産ブランドの品質向上、外資系企業の進出などをきっかけに、広範な消費者層に訴求できる製品ラインナップも増加しています。

2010年代からは特に「自然派志向」「安心・安全」「科学エビデンス」「若返り」「美肌」「ダイエット」など、消費者ニーズが多様化。スマートフォンの普及やネット通販の成長が拍車をかけ、「淘宝」「京東」「天猫」など大手ECプラットフォームでも健康食品が手軽に買えるようになりました。これが現在の「健康食品が生活の一部」になった背景です。

1.3 健康産業の中での健康食品の位置づけ

中国の健康産業は大きく分けて「医療サービス」「医薬品」「医療機器」「健康管理サービス」「健康食品・サプリメント」などに分類されます。健康食品はその中でも最も消費者の身近で、気軽に始められる領域です。生活予防の観点から、医療機関に頼らず自宅で手軽に健康管理ができる点が支持されており、「食により健康を実現する」考え方が根付いています。

特に2010年代以降、「健康中国2030」など政府の国策でも「国民全体の健康寿命延伸」「予防重視」のアプローチが強調されています。これを受けて、健康食品は医薬品や治療よりも先行的に「予防として使う」スタイルが浸透。此外、コロナ禍以降は「免疫力アップ」「体力維持」といったテーマが急浮上し、健康食品の需要が一層高まりました。

また、健康食品は医薬品との違いを認識しつつ、マーケティングや製品開発において「機能性」「品質保証」「第三者認証」の強化が求められるようになっています。同時に、中医薬(漢方)や養生理念とも融合し、食文化・嗜好品としての側面も強調されるようになりました。都市部の若者の間では「おしゃれなサプリ」「健康系スナック」など新ジャンルも立ち上がりつつあり、今や「中国のライフスタイル」の一環として定着しています。


2. 市場規模と成長要因

2.1 市場規模の推移と現状分析

中国の健康食品市場規模は年々拡大しています。最新統計(2023年時点)によると、市場規模は約4930億元(約10兆円)に達し、過去10年間で年平均10%以上の成長率を維持してきました。これは日本の同市場規模(約1兆円)のおよそ10倍に匹敵します。中国国家統計局や第三者機関の予測では、2025年には6000億元を超えるともみられ、その勢いはとどまるところを知りません。

中国の健康食品業界を支える要因の一つは、巨大な人口ボリュームです。現在中国の人口は14億人を超え、そのうち60歳以上の高齢者は2.5億人以上。この高齢者層こそが従来健康食品市場の主要消費者でしたが、最近は健康志向の若者や働き盛りの30~40代も購買層に加わってきています。また、1人当たりの健康食品消費額も都市部では特に上昇傾向にあり、一部富裕層世帯では月数千元規模を健康関連出費に充てている例も少なくありません。

伸び率の要因として無視できないのが、「コロナ禍」の影響です。2020年以降、多くの人が健康意識や生活品質向上に目を向けるようになり、「免疫強化」「ストレス対策」「美容」といったキーワードとともに新規需要が急増しました。また、EC市場の成長によって地方都市や農村部にも健康食品の浸透が進み、購買チャネルの選択肢も大きく広がりました。

2.2 市場成長を支える経済的・社会的要因

まず、大きな経済成長そのものが市場を後押ししています。2010年代以降、GDP成長の恩恵で中間所得層、富裕層が爆発的に増加。フルタイムで働く女性の増加、都市部における健康ブーム、ライフスタイルの多様化が、健康食品の消費を拡大させています。また、「健康管理」が新たなステータスとなり、余暇・趣味・自己投資文化の一部として定着していることも重要な背景です。

社会的には、高齢化の進展が決定的な要因です。国連の推計では、2030年には中国の高齢化率は25%に到達するとも見られており、持病や慢性疾患を抱える人の増加が「自己管理型ヘルスケア」ニーズを加速させています。さらに、都市部を中心に「健康=美」や「若さの維持」という価値観も強まり、美容系サプリ・ダイエット系健康食品もトレンドとなっています。

メディア、SNS、インフルエンサーの影響も大きく、製品選びの手軽さ、口コミ情報による購入、EC限定プレミアム商品など、消費者行動の変化も著しいです。特に「小紅書(Red)」「微博(Weibo)」「抖音(Douyin)」といったSNSは、健康食品市場の宣伝や消費拡大において大きな役割を果たしています。

2.3 今後の成長予測と市場ポテンシャル

今後も中国の健康食品市場は持続的な成長が見込まれています。中国健康管理協会などの予測によれば、2030年までに市場規模は1兆元、さらにその先には2兆元市場にまで拡大する可能性もあります。中長期的には「高齢者」「子ども・学生」「女性」「スポーツ愛好層」など、細分化されたターゲット向け商品が続々と登場すると予想されます。

市場ポテンシャルの高さは地方都市や農村にも広がっています。これまで都市部中心のビジネスモデルでしたが、インターネット・モバイル決済・物流インフラの発達により、「下沈市場(地方・三線都市以下)」の消費潜在力が注目されています。大手EC企業も地方専用キャンペーンなどを展開し、今まで健康食品になじみのなかった人々にもアプローチを広げています。

一方で、規制の厳格化・品質要求の高まり、消費者教育・科学的根拠の提示など、持続的成長のための課題も出てきています。ただし、日本や欧米からの製品・技術・アイデアも積極的に導入され、市場参加者にとっては多くのチャンスが広がっているのも事実です。今後は「デジタル化」「クロスボーダーEC」「健康管理サービスとの融合」など新たな成長ドライバーにも期待が高まります。


3. 消費者動向と消費習慣の変化

3.1 消費者層の特徴とニーズ分析

中国の健康食品市場を支える消費者像は多様化しています。かつては主に高齢者や中高年層が中心でしたが、今では20~30代の若者や、キャリア志向の働く女性など、多彩な世代・層に広がっています。都市部の若いカップルが「将来の健康のため」や「子どもへの投資」の一環として健康食品を購入する例も一般的です。例として、プレママや育児ママが葉酸・鉄分サプリなどを定期購買し、仕事で疲れやすい会社員が「脳の働き活性化」「目の健康」系サプリに人気が集まるなど、自分や家族のライフステージに合わせた選択が特徴です。

ニーズは「免疫力アップ」「疲労回復」「美肌・アンチエイジング」「体重管理」「骨・関節のケア」など非常に広範。特に近年は「機能性」を重視し、パッケージや商品説明に表示された効果訴求ポイント(例えば「DHAで頭脳明晰」「紅景天で高地でも元気に」など)を見て購入まで至る傾向があります。また、子どもの健康や親の養生を気にする「家族志向型」のニーズも見逃せません。

座談会やSNSの書き込みからは「信頼感」「品質保証」「科学的根拠」「ブランド力」なども重要な購買決定要因であることがわかります。『日本製』や欧米ブランドなど「海外品質」への信頼感も強く、贈答用として高級サプリやプレミアム健康食品を選ぶ例も増えつつあります。

3.2 消費動向の変化と影響要因

消費習慣の変化で最も特徴的なのは「日常消費化」と「継続的な利用」です。コロナ禍をきっかけに、定期購入やサブスク型サービス、SNSでの情報シェアが活発化し、単なる一時的流行ではなく、すっかり生活の一部となっています。例えば、朝食に「乳酸菌飲料」や「穀物バー」を取り入れる、仕事合間に「コラーゲンドリンク」を飲む、就寝前の「カルシウムサプリ」が日課というような具体的な例が多く見られます。

また「デジタル決済」「短納期配送」「パーソナライズ化」など、ITの進化が消費動向を大きく変えました。購買方法の主流がECに移行したことで、「試しやすい」「口コミが参考にできる」「定期便で忘れずに済む」など利便性も影響しています。その反面、類似商品が多すぎて選ぶのが難しいという声も増え、ますます「信頼できるブランド」「高評価レビュー」の重要性が上がっています。

家族や友人への「健康ギフト」文化や、伝統的な中医薬ベースの商品を祖父母や両親に贈る習慣も根強く、その一方で若い世代は「美」に特化した商品、「低糖質」「グルテンフリー」などトレンド型商品への感度が高いです。消費スタイルの多様化は今後も続くでしょう。

3.3 日本市場との比較

日本と中国の健康食品市場を比較すると、いくつか共通点と差異が見えてきます。まず、消費者層の若返りや美容・アンチエイジング志向の高まりは両国共通です。しかし日本では、法規制や表示義務、科学的根拠への要求が厳格なため、商品説明・広告での効果表示がより控えめになっています。それに対して中国では「睡眠サポート」「ダイエット」「免疫強化」など分かりやすい効能訴求が多く、宣伝表現も比較的自由です。

日本の健康食品市場は古くから成熟しており、消費者がサプリメント選びに慎重な傾向があります。中国ではまだ「初めて健康食品を買う」という人も多く、口コミや第三者評価、国際認証が重視されます。また日本は大手ドラッグストアや専門店を中心に「信頼のブランド」「こまやかな商品説明」「試飲・試食」といった細やかなサービスが特徴ですが、中国ではECサイトのダイナミックなプロモーションや、SNS・ライブコマースを活用した販売が主流です。

その一方、中国も年々規制が厳しくなり、消費者が品質保証や安全性、認証マークを見るようになったこと、消費スタイルが多様で新しいものへの適応が早いこと、日本より高い「贈答ニーズ」があることなど独特の側面も多数あります。最近では「日本製」や「日本の機能性食品」への憧れや信頼感も強まり、「日本ブランド」の市場参入が活発化している点も見逃せません。


4. 主要な健康食品の種類とトレンド

4.1 機能性食品・サプリメントの現状

中国の健康食品市場では、サプリメントや機能性食品が売れ筋となっています。たとえば「ビタミンC」「カルシウム」「亜鉛」「DHA・EPA」などのベーシックな栄養サプリに加え、「肝機能サポート」「目の健康」「快眠」「ダイエットサポート」など、高い付加価値を持つ製品も次々と登場中です。特に働き盛りのビジネスパーソンの間では「脂肪燃焼系サプリ」や「集中力向上系」も人気を集めています。

商品例としては「合生元(Biostime)」の乳酸菌サプリ、「汤臣倍健(BY-HEALTH)」のビタミンサプリ、「无限极(Infinitus)」の多機能サプリなど、国内トップブランドが広いラインナップを展開。さらに、外資系の「ネスレ」「アボット」「ファンケル」「DHC」等も中国市場への本格進出を果たしています。「高齢化サプリ」「妊婦・育児用サプリ」「アスリート用プロテイン」など、ターゲット特化型の商品開発も活発です。

また、スマホアプリと連携した「パーソナライズサプリ」や、利便性重視の「錠剤、グミ、ドリンク型」など消費者の利用シーンに合わせた製品も広がっています。口コミ、SNSシェア、インフルエンサーとのコラボ商品なども、今の中国健康食品市場の象徴的な形といえるでしょう。

4.2 伝統的な健康食品(漢方・中薬など)

中国ならではの特徴といえば、やはり漢方・中医薬ベースの健康食品です。日本ではサプリメントや栄養ドリンクが主流ですが、中国では「霊芝(レイシ)」「冬虫夏草」「鹿角」「紅景天」「高麗人参(人参)」「亀板(きばん)」など、伝統薬材を使った健康食品が長い歴史と文化的背景を持っています。日本でいう「漢方薬」に近いイメージですが、調合や加工技術が進化し、サプリメント化・粉末ドリンク化などモダナイズされています。

高級ギフト用「冬虫夏草エキス」や「霊芝エキスドリンク」は老親への贈り物として人気で、「中華メディカルツーリズム」と呼ばれる専門クリニックや薬店も賑わいを見せています。中薬製品専門のECストアや直営店舗も拡大しており、若者向けにデザインやパッケージを一新した新ジャンル商品も増加。中医学にルーツを持つ「食養生」「未病」理念と、現代の機能性・エビデンスの融合がカギとなっています。

最近では「阿胶(ロバニカク)ゼリー」「枸杞(クコの実)入り健康茶」「黒ゴマ・黒豆プロテイン」など、「古くて新しい」商品が再注目されています。健康志向の高い中間層や、伝統文化を重視する世帯にとって漢方由来の健康食品は、今後も大きなポテンシャルを持つと言えるでしょう。

4.3 新しいトレンド:オーガニック・自然派志向製品

現代中国の若年層・女性層を中心に、「無添加」「オーガニック」「ビーガン」「グルテンフリー」といった自然派系健康食品への志向が高まっています。ここ数年で国内外の有機農産物ブランドによるスムージー、植物由来プロテインバー、ヘンプシード・チアシードを使ったグラノーラ、機能性オーガニックティーなど、見た目にもおしゃれで新しい健康食品が人気です。

特に「植物由来プロテイン」のような欧米でも流行している商品カテゴリが、SNSやコラボイベントを通して若者世代へ爆発的に拡がりました。パッケージもカラフルでインスタ映えするデザインが目立ち、「健康でおしゃれな生活スタイル」として認知度が上昇しています。企業も「安心・安全な原材料」「持続可能な生産プロセス」などSDGs的な価値観を打ち出すことで、商品価値の差別化を図っています。

また「オーガニック認証」や「グリーンラベル」への関心の高まりを受け、国産有機野菜ジュース、無添加ナッツ・ドライフルーツ、自然派シリアルといった商品も増えています。品質志向・イメージ重視の行動は、日本市場とも共通点が多く、「健康だけでなく地球に優しい」トレンドは今後さらに広がるでしょう。


5. 流通チャネルとマーケティング戦略

5.1 オンライン販売とECプラットフォームの拡大

近年、中国における健康食品流通で最大の変化は「オンライン販売」の爆発的拡大です。「天猫(Tmall)」「京東(JD.com)」「拼多多(Pinduoduo)」といった総合ECモールのほか、「小紅書(RED)」「抖音(Douyin)」のようなSNS型プラットフォーム、「唯品会(vip.com)」や「蘇寧易購(Suning)」の専門ECも含め、多種多様なネットチャネルが出現し、市場を牽引しています。

特に、コロナ禍により外出自粛が続いた2020年以降は、ECチャネル経由の売上が全体の6割以上に到達。新商品や海外商品などもほぼリアルタイムでネット流通に乗るため、消費者のニーズ変化や流行をすぐ反映できるのが強みです。人気ブランドは各モールに直営店を持つだけでなく、「ライブコマース」や「KOL(Key Opinion Leader)によるおすすめ動画」など双方向的な宣伝手法も活用しています。

また、「ネット限定」「定期購入割引」「SNSシェアでポイント還元」など、オンラインならではの消費者優遇も一般化し、消費体験の質の向上につながっています。ネットワークを使ったサポート・アフターサービスも充実し、相談窓口やチャットボットによるフォロー体制も進化中です。

5.2 伝統的小売と新規チャネルの融合

都市部を中心に、従来の薬店やスーパーマーケット、ドラッグストアチェーンなども依然として大きな存在感を保っています。特に漢方・中薬系健康食品や高齢者向け商品は、対面販売・カウンセリング型のサービスが重視され、専門知識を有するスタッフによる提案販売が好評です。高級感のある外観や贈答用パッケージなど、実店舗で実際に手に取って「確かめて」から購入する消費傾向も根強いです。

ただし、従来の店舗販売もデジタル化の波に乗っています。例えば店舗でサンプル体験・相談を受けた後に、スマホで専用ECサイトから注文・宅配する「O2O(Online to Offline)」型サービス、会員制リワードプログラム、QRコードで簡単に商品詳細確認・認証もできる仕組みなど、リアルとネットの融合が進んでいます。大手スーパーも「健康食品ゾーン」「漢方体験コーナー」など独自売場づくりを始めています。

また、小規模な地元健康食品店でもSNS・コミュニティアプリを駆使して、ロイヤルカスタマー獲得やソーシャルリファレンス創出に力を入れるケースも増加。都市郊外・地方進出も見据え、物流・冷蔵配送・出張販売会など新しいチャネル開拓も積極的です。

5.3 マーケティング手法の多様化

中国の健康食品マーケティングは、従来のテレビCMや新聞広告以上に「デジタル広告」「SNSインフルエンサー施策」「体験イベント」など多彩なアプローチが特徴的です。SNS分野では「小紅書」や「抖音」でのレビュー動画・ハウツー動画、「微博」でのトレンドワード展開など、若者世代向けの情報発信力は絶大。ブランド公式アカウントも自ら出演し、「栄養士の知識シェア」「定期セミナー」をライブ配信する取り組みも見受けられます。

また、リアルな体験イベントやオンライン・オフライン融合型キャンペーン(例:買い物祭りや、リアル展示会の同時ライブ配信)など、消費者参加型プロモーションも盛ん。一部の商品は「限定パッケージ」「有名人コラボ」「季節限定フレーバー」など話題性で注目を集め、消費者の「シェアしたい」「贈りたい」心理を刺激する戦略も効果的です。

さらに、健康食品業界では「健康診断」や「ウェルネス相談」など付加価値サービスの導入も進みつつあります。アフターサービスやリピータープログラムも多様化し、「一度使ったらまた買いたくなる」体験設計に注力する傾向が強まっています。今後はAI・ビッグデータ活用の個別最適化、NFTやバーチャル広告など最新技術を使ったマーケティングにも注目です。


6. 政策・規制と品質管理

6.1 中国政府の政策と市場管理体制

中国政府は、健康食品市場の急拡大に対応するため、多くの政策制定・監督強化に乗り出しています。とくに「健康中国2030」政策に則り、健康食品が公衆衛生の維持に果たす役割や国民の健康寿命延伸を重視。国家市場監督管理総局(SAMR)や国家薬品監督局(NMPA)が法規制の制定と執行を担い、登録認証制度や流通管理の監視体制を大幅に強化しています。

従来、「保健食品認証」取得には煩雑な審査・証明プロセスがあり、企業には厳格な成分表示、ラベリング、エビデンス提出が義務付けられています。2017年以降は「食品安全法」や「保健食品管理弁法」など新たな関連法が施行され、「誇大広告」「有害成分混入」「虚偽表示」への罰則も格段に強化されました。こうした規制強化は、消費者保護だけでなく健全な業界発展に大きく貢献しています。

また、不適切な表現や健康被害の自主回収制度、オンライン販売における品質チェック・販売許可制の拡大といった動きも活発です。市場監督機関による抜き打ち検査や表示違反への迅速な行政指導など、信頼性・透明性の維持に努めています。

6.2 輸入品・国内品に対する規制動向

輸入健康食品については、さらに厳しい規制が設けられています。「海外食品」と「国産製品」で異なる審査基準があり、一般食品と医薬品の中間領域となる健康食品には、輸入時の検疫・成分証明・効能データ・現地認可取得が必要不可欠です。日本・アメリカ・EU製品など世界の有力ブランドが中国進出を果たしていますが、その多くが「中国向けラベル・書類対応」「成分基準の現地適合」「現地語表記への対応」など複雑な手続きをクリアする必要があります。

その一方で、「越境EC」制度の特例によって、海外製品をネット経由で個人輸入するモデルが近年は急成長。たとえば「天猫国際」や「京東国際」などECプラットフォーム上で「直送」「個人並行輸入」型の販売が増え、「中国未承認でも購入できる」商品群が登場しています。しかしこの分野も今後は更なる監督強化や新たなルール制定による取締りの強化が予測されます。

国内市場向け健康食品も、過去には無認可製品の流通や成分偽装などが社会問題化しましたが、ここ数年で明確な「正規登録」「品質認証」付与商品が主流となりつつあります。新興ブランドや中小企業製品についても、消費者サイドの評価力・問題意識の向上が市場健全化を後押ししています。

6.3 品質保証と安全性に関する課題

品質保証と安全管理は、中国健康食品市場最大の課題の一つです。拡大期には、成分偽装や違法販売、粗悪品の流通などが社会問題となったこともあり、今でも消費者の間には「本当に安全か?」という警戒感が根強く残っています。これに対し、大手ブランドや日系・欧米系プレミアムブランドでは第三者機関の認証取得(ISO、HACCP、QSラベル等)や、世界基準に準じたGMP(適正製造規範)の徹底、原材料トレーサビリティ管理など、国際品質基準への対応が進められています。

例えば、ヨーロッパ産オメガ3サプリや日本製乳酸菌商品などは、製造ロットごとの品質証明、成分分析試験済シール、現地工場のビジュアル映像公開、体験談レビュー表示など、細やかな信頼構築策を提供しています。また、現地検査機関によるランダム試験や、不良品発生時の迅速なリコール対応なども消費者期待に直結しています。

ただし、まだまだ小規模ブランドや地方生産品では基準徹底が課題であり、ニセモノや違法コピー商品の排除・厳正対応も引き続き求められます。消費者教育と企業の品質保証体制、規制当局の監視や情報公開が、今後の業界成熟には不可欠です。


7. 日中間のビジネスチャンス

7.1 日本企業による中国市場進出事例

中国の健康食品市場は、長年にわたり日本企業の進出先として大きな魅力を放ってきました。たとえば「ファンケル」や「DHC」「オルビス」など日本国内有数のサプ

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