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   中国の観光地開発の歴史と現状

中国は広大な国土と豊かな歴史、そして多様な文化を持つ国として、長い間、世界中から観光客を惹きつけてきました。この何十年かで、中国の観光地開発と地域経済の活性化は密接に結びつき、ダイナミックな変化を遂げています。北京や上海のような大都市だけでなく、内陸部や少数民族地域など、今まで知られていなかった場所も新たな観光スポットとして注目されています。今回は、中国の観光地開発の歴史から現代の動き、さらには今後期待される展望まで、具体的な例やエピソードを交えながら分かりやすく紹介していきます。

目次

1. 中国の観光地開発の背景

1.1 歴史的背景

中国の観光の歴史は非常に古く、唐や宋の時代から名所旧跡への巡礼や観光が行われていました。当時は主に寺院や山水名勝、歴史的な事件の舞台となった場所を訪れる「遊山玩水」という風習があり、これは現代の観光のルーツとして語り継がれています。有名な「蘇州の園林」や「西湖」などは古来から多くの文人や観光客が愛した名所です。伝統的観光地の基盤は、古代中国の文化や伝承に根付いているのです。

清朝時代になると、商人の往来が盛んになり、各地の商業都市や交易地で旅館・宿場が発達しました。張家界や桂林などの自然景観地も、「奇景」を求める旅人によって有名になっていきます。さらに、多くの伝説や物語が観光地の発展に一役買いました。観光は決して近代になってから始まったものではなく、長い歴史の積み重ねが今につながっています。

伝統的な観光地が今でも多くの人を魅了している理由の一つは、このような歴史的背景にあります。例えば、故宮や兵馬俑などは「歴史を感じる」「中国らしさを体感できる」という理由で国内外の観光客に絶大な人気を誇っています。このように中国の観光地開発は、その土地の歴史文化と深く関わってきたのです。

1.2 経済発展との関係

中国の経済発展と観光地開発は切っても切り離せない関係です。1978年の改革開放政策以降、中国経済は飛躍的に成長し、国民の生活水準が向上しました。それに伴い、旅行や観光が一般庶民の「楽しみ」として広まるようになりました。バス旅行、団体ツアー、個人旅行といった観光スタイルが多様化し、観光産業は重要なビジネス分野へと変わっていきます。

経済成長が観光業に与えた最大の影響は、「地方経済の活性化」と「新たな雇用の創出」です。観光地の開発によって、都市部だけでなく農村部や西部地域にも観光客が訪れるようになり、地域産業が発展します。例えば、雲南省の麗江や四川省の九寨溝など、もともとインフラが弱かった地域が観光によって大きく変貌し、地元住民の所得向上につながりました。

また、観光地の開発は、交通インフラやサービス産業、不動産業など、関連産業にも多大な波及効果をもたらしています。高速鉄道のネットワーク拡大や高級ホテル・リゾート施設の建設は、経済発展と観光の「好循環」を作り出しています。

1.3 文化的要素の影響

中国の観光地開発の大きな特徴は、「文化的要素の取り入れ方」です。中国には56の民族が暮らし、それぞれ異なる伝統文化や祭事、美術、料理を持っています。現在開発が進められている観光地の多くは、こうした多様な文化を前面に押し出しています。例えば、貴州省のミャオ族や東北地方の満州族の村落では、民族舞踊や伝統衣装、食文化体験ツアーなどが人気となっています。

もう一つ大きな要素は、「物語性の活用」です。中国の観光地では、その土地にまつわる歴史や伝説をストーリー性のある観光資源として活用する策が進められています。例えば「西遊記」や「三国志」の舞台となった場所を巡る観光ルート、少林寺でのカンフー体験など、エンターテインメントと歴史を融合させて観光に付加価値を持たせています。

さらに、近年は「文化復興」の動きと連動し、古城再現や伝統的な建築様式の保存活動が盛んです。例えば、湖南省の鳳凰古城や河南省の開封古城区などは、伝統建築のリニューアルや現地舞台劇の上演など、「五感で味わえる文化体験」を提供し、訪れる人々に強い印象を残しています。

2. 観光地開発の初期段階

2.1 伝統的観光地の形成

観光地開発が本格的に始まる以前、中国には自然景観や歴史遺産に富んだ「伝統的観光地」が点在していました。万里の長城や故宮、西湖、敦煌莫高窟、泰山や黄山など、「中国十景」とも呼ばれる名勝地は何世紀にもわたり人々の憧れの的でした。特に、宗教や信仰と深く関わった場所は、巡礼と観光の中間のような役割を果たしていました。

こうした伝統的観光地では、数百年以上にわたり人々が集っていましたが、管理の仕組みや周辺インフラの整備は非常に遅れていました。例えば、万里の長城や黄山などは、かつてはアクセスが困難で、長い山道やほとんど整備されていない道を歩く必要がありました。観光地として「魅せる」ための工夫は十分ではなかったと言えるでしょう。

地域の伝統、地元住民の生活、季節ごとの祭りや風物詩が観光の一部として機能していた点は、現在に至るまで「中国式観光」の特徴となっています。例えば、広州の花市、杭州の龍井茶摘み体験など、日常の生活文化をそのまま観光に取り込んだ例も数多く見受けられます。

2.2 社会主義時代の観光政策

1949年の新中国成立後、観光は国家の重要政策とは見なされていませんでした。社会主義建設の初期段階では、観光よりも産業育成や社会インフラの充実が優先されていました。そのため、「観光地開発」という発想自体があまり存在せず、観光地は宗教行事や公式行事の場として限定的に利用されていました。

1950〜1970年代にかけては、訪問が許される観光地も限られていた上、国内旅行も「政治的な研修旅行」「労働者の慰安旅行」に留まっていました。たとえば、革命聖地である延安や井岡山、長征ルートなどは「愛国主義教育旅行」の目的地として多くの人々が訪れましたが、観光産業としてシステム化されていたわけではありません。

さらに、文化大革命(1966〜1976)では歴史遺産の多くが破壊されたり、観光客の受け入れ自体が停止されたりするなど、観光開発がストップした時期もありました。観光の近代化・大衆化が本格的に動き出すのは、1978年の改革開放政策以降となります。

2.3 1978年以降の変革

1978年、鄧小平による改革開放がスタートすると、中国の社会全体が大きく変わります。経済発展と都市化が進む中で、観光は新たな重要産業として位置付けられるようになりました。1980年代には観光庁(現在の文化和旅游部)が設立され、政府主導の大規模な観光開発が始まります。

この時期、多くの有名観光地の「再開発」「近代化」が進みました。北京の天安門広場や故宮、西安の兵馬俑、桂林の漓江などは、観光客向けのインフラやサービスが一気に充実します。また、外国人観光客の受け入れにも力が入れられ、国際線の開設や大型ホテルの建設が加速しました。上海の外灘や南京路などは「アジアのウィンドウ」として世界に開かれた都市となります。

地方都市や農村部でも新しい観光地作りが始まりました。例えば、成都パンダ基地は1987年に設立され、世界的なパンダブームの火付け役となりました。また、海南島や雲南省の大理・麗江古城などは、国際的なリゾート地や文化体験型観光地として脚光を浴び始めます。これらの変化が現代中国の観光産業発展の土台となっています。

3. 現代の観光地開発

3.1 地域振興策と観光の結びつき

現代中国において、観光地開発は単なるレジャー以上の意味を持っています。それは「地域振興策」と強く結びつき、経済成長のエンジンの一つとなっています。例えば深圳市の発展は、単なるITやビジネス都市としてだけでなく、テーマパークや歴史村、展示館など多彩な観光スポットを備えながら都市イメージを形成しました。

西部大開発政策の一環として、内陸部の観光地開発が本格化しています。四川省の黄龍やチベット自治区のラサ、新疆のカナス湖なども「地域資源の魅力を最大限に活用し、経済振興に結びつける」といった戦略が採られました。観光産業の発展により、地元のホテルやレストラン、伝統工芸や農業加工品など新たな商機が生まれています。

また、観光と地域振興を結びつけるために、地方政府と民間企業が連携した大型プロジェクトも増えています。湖南省張家界のガラスの吊り橋や貴州の黄果樹滝などは、観光の目玉として全国的に知られるようになり、周辺地域の経済活性化を大きく促しました。こうした「観光によるまちおこし」は、都市部・農村部を問わず現代中国のトレンドとなっています。

3.2 新興観光地の台頭

90年代以降、新たなタイプの観光地が続々と誕生し、従来の「名勝旧跡一辺倒」から大きく変化しています。その一つが大規模テーマパークです。例えば広東省の「長隆野生動物世界」や「深圳歓楽谷」、上海ディズニーリゾートなど大型レジャー施設は家族連れや若者に大人気です。上海ディズニーリゾートは2016年の開業以来、国内外から毎年数百万人の観光客を集めています。

また、近年注目を集めているのが「産業観光」です。昔ながらの茶畑や酒造、絹産業遺跡など、ものづくりや伝統産業を見学できる観光施設が増加しています。安徽省の「黄山老街」や四川省の「峨眉山竹葉青」などは、観光客が実際に伝統工芸を体験したり、地元グルメを味わうことができる場として人気です。

さらには自然体験型やアウトドアスポーツ型の観光地が若者を中心に拡大中です。雲南のシャングリラや西蔵(チベット)自治区の高原トレッキング、新疆の砂漠レースやスキーリゾート、高山ラフティングなど、個人の好みやライフスタイルに合わせた多様な観光地が誕生しています。

3.3 環境保護と持続可能な観光

近年、観光地開発と環境保護のバランスがますます重視されるようになっています。開発が進みすぎると自然環境や歴史建築の破壊が問題となり、多くの観光地でサスティナブル(持続可能)な運営がキーワードになっています。九寨溝や張家界などは、「入場制限」「環境教育の徹底」「ガイド付きツアー限定」などで負荷軽減に取り組んでいます。

現地住民が主体となり、伝統的な生活様式を守りながら観光を進めるモデルも増えています。例えば貴州省の苗族村落では、観光収入の一部を生活改善や学校建設などに還元しています。また、「無人島リゾート」や「エコビレッジ」なども、自然との共生や生態系保護を前提にして開発されています。

さらに「緑色認証」や「低炭素観光」などの取り組みも推進されています。北京の「長城エコトレイル」や云南省の麗江古城エコバスなど、環境に配慮した交通システムやゴミ分別、エネルギー消費の抑制が広まっています。中国全体で、観光と自然、社会、文化がバランスよく共存するための工夫が続いています。

4. 中国の観光産業の現状

4.1 国内観光と国際観光の変化

中国の観光産業は、近年、国内観光・国際観光ともに劇的な成長を見せています。特に、国民の可処分所得の増加によって、休暇を利用した短期旅行や家族旅行が急増しています。中国の大型連休「春節」や「国慶節」には、有名観光地で「百万人単位」での大移動が日常となり、黄山や泰山、長城などは足の踏み場もないほど賑わいます。

一方、国際観光の分野では、2000年代に入ってから外国人観光客の受け入れ体制が強化されました。北京五輪(2008年)や上海万博(2010年)などの国際イベントが中国のイメージアップに貢献し、アジアや欧米からの観光客も年々増加してきました。きめ細かな通訳ガイドの増員や多言語表記、高級ホテルチェーンの進出もこの流れを後押ししています。

近年は、日本や韓国、東南アジアからの団体旅行だけでなく、「個人型の自由旅行(FIT)」が増加傾向にあります。例えば、SNSで人気となった「重慶のライトアップ観光」や「哈爾浜(ハルビン)」の氷祭り、新疆の砂漠ドライブなど、マニアックな観光地にも脚光が当たるようになりました。

4.2 観光インフラの整備と技術革新

観光業の発展には交通・宿泊・情報インフラの整備が不可欠です。2000年代に入ると、中国は一気に高速鉄道網を拡充し、主要都市から観光地までアクセスしやすくなりました。「北京〜西安」「上海〜黄山」「広州〜桂林」など大都市と観光地を結ぶ直通列車が次々と登場し、地方の観光資源も活用しやすくなったのです。

また、宿泊施設の質的進化も著しいです。インターナショナル・チェーンホテルやスマートホテル、ブティックホテルが続々とオープンし、国内外の観光客の多様なニーズに応えるようになりました。さらに、地元の特色を活かした民宿や農家民宿(農家乐)も人気を集め、観光地らしさが強調される傾向にあります。

技術面では、スマホの普及や電子決済(アリペイ・Wechatペイ)などによる「キャッシュレス観光」が急速に広がりました。観光アプリを使ったQRコード入場やAI案内ロボット、バーチャル体験ツアーなど、観光とITの融合による新しい旅のスタイルも根付きつつあります。

4.3 コロナウイルスの影響と回復戦略

2020年以降、コロナウイルスの流行は中国の観光業にも甚大な打撃を与えました。一時的に国内外の移動がほぼ完全にストップし、観光産業は深刻な経営危機に直面しました。観光地の一時閉鎖やホテル・レストランの営業自粛で、多くの事業者が経営難におちいりました。

しかし、パンデミック収束後の「リベンジ旅行」や「近距離観光」ブームが観光市場の再活性化を後押ししました。オンライン予約やライブストリーミングを活用した「バーチャル観光」や「ネットPR」が拡大し、有名観光地の現地案内やイベントがネットでライブ配信されるようになります。さらに健康管理アプリによる入場制限や衛生管理の徹底など、安全・安心対策もしっかり導入されています。

政府は観光産業の再生に向けて、消費刺激策や税優遇、観光クーポンの配布などさまざまな支援策を打ち出しています。最新の事例では、海南島の免税政策や内モンゴルの国境観光を組み合わせた新たな観光ルートも提案されています。ポストコロナ時代、観光産業は再び成長エンジンとして存在感を増しています。

5. 今後の展望と課題

5.1 国際競争力の向上

グローバル化が進む中、中国観光産業の国際競争力向上は大きなテーマです。今や観光は単なる国内の消費産業ではなく、世界規模で比較されるビジネスとなりました。主要都市や有名観光地だけでなく、地方の小都市や農村地域でも「国際水準のサービス」と「独自の観光資源」をどのように両立させるかが問われています。

実際、上海、北京、広州などの大都市だけでなく、河南省の洛陽や山東省の曲阜、雲南省の大理といった地方都市も、独自性や歴史的価値を前面に出した観光開発で国際観光客の評価を高めています。例えば、雲南省大理の「風花雪月」文化をテーマにした観光コースや、洛陽の牡丹祭りは、海外SNSでも話題になっています。

これからの中国観光業界には、多言語ガイドの増員、国際決済の導入、多国籍対応の情報サービスなどが一層求められます。中国の伝統と現代のテクノロジーを融合させた新しい観光資源作りが、持続可能な国際競争力のカギとなるでしょう。

5.2 地域による観光資源の差異

中国は広大な国土と民族多様性を有するため、各地域の観光資源は大きく異なります。沿海部は都市型・ビジネス型観光が強みである一方、内陸や西部は自然景観や民族文化のユニークさが注目されています。それぞれの長所を生かす観光戦略が、今後ますます重要になります。

例えば、東北地方のハルビン氷まつりや牡丹江のスキー観光、チベット自治区の宗教・巡礼ツーリズム、海南島のリゾートツーリズムなど、地域ごとに全く違う魅力があります。しかしその一方で、開発が進んだ大都市と、まだ観光の基礎インフラが遅れている農村部との間にはギャップも生じています。

今後は、地方ごとの「観光ブランド化」や「差別化戦略」がますます大切になってきます。地元住民との協働や、外部資本の呼び込み、地域資源保護と活用のバランスが問われています。

5.3 統合的な観光政策の必要性

観光は、交通、文化、教育、環境、インフラなどさまざまな政策分野と関係しています。観光産業をさらに成長させるためには、「統合的な観光政策」のもと、多部門が連携した長期戦略が不可欠です。これによって、観光開発の偏りや資源の過度消費、環境破壊を防ぐことができます。

たとえば、観光資源の保護・活用・再生産をセットで計画した総合的観光マスタープランの策定が各都市で進んでいます。文化遺産の現地保存に関しても、観光収益を保護活動に回す「一体化モデル」が広がっています。さらに、デジタルマーケティングやビッグデータを活用して観光動向を分析し、効果的なプロモーションにつなげる動きもみられます。

今後は観光を軸に都市・農村のバランスある発展や、持続可能な観光のための教育・啓発活動、多様なパートナーシップの形成などが重要です。国全体として「人・文化・自然」、そして経済が調和する観光政策が求められます。

まとめ

中国の観光地開発の歩みは、まさに時代ごとの社会経済や文化と密接に絡み合ったダイナミックな物語です。伝統的な名勝旧跡から現代的なリゾートやテーマパーク、ローカルの文化体験型観光地まで幅広く発展しつつあります。歴史・文化・経済・テクノロジー・環境といった多面的な要素が一体となっているのが中国観光の持ち味です。

これから中国の観光産業は、ポストコロナ時代のさらなる回復とともに、国際的な競争力強化、地域間の資源格差是正、観光政策の統合化という新たな課題に挑むこととなります。そのカギは、独自の文化アイデンティティと現代のイノベーション、そして持続可能性の調和にあると言えるでしょう。観光を通じて、中国の地域や人々がより豊かに、そして世界と深くつながる未来が期待されています。

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