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   中国市場におけるエコラベルの重要性と企業の対応

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中国は経済発展が著しく、消費者の価値観やライフスタイルも大きく変化しています。近年は環境問題が社会的な課題として大きな注目を集めており、企業にも「地球に優しい」取り組みが強く求められるようになりました。特に製品やサービスが「環境に配慮している」ことを示す“エコラベル”は、中国市場でますます重要性を増しています。ここでは、中国市場におけるエコラベルそのものの特徴と進化、そして企業がどのように対応しているのかについて、現状や成功例などを交えながらわかりやすく紹介します。

1. エコラベルの基本概念

目次

1.1 エコラベルとは

エコラベルとは、製品やサービスが環境に配慮して生産されていることを示すラベルやマークの総称です。たとえば、製品がリサイクル素材で作られている、エネルギー効率が高い、水質や空気への悪影響が少ないなど、さまざまな環境基準を満たした場合に与えられるものです。エコラベルは主に商品パッケージやカタログ、ウェブサイトなどに表示され、消費者が“より環境にやさしい”選択をするための重要な指標となっています。

中国におけるエコラベルには複数の種類があり、認証機関ごとに異なる基準が設けられています。政府が主導する認証としては、「中国環境ラベル(中国環境標誌、China Environmental Label)」があり、これは国内でもっとも権威のあるものの一つです。一方、国際的に認知された「エネルギースター」や「FSC認証」なども、中国の消費者によく知られるようになっています。

エコラベルは消費者が商品を購入する際に“品質保証”のような役割も果たしています。「この製品は地球にやさしい」と一目でわかるため、環境への配慮に関心がある人にとっては大きなメリットとなります。また、企業側としても、他社との差異化やブランドイメージ向上につながる重要な要素として注目されています。

1.2 エコラベルの歴史

エコラベルの歴史は、世界的な環境問題への意識向上と深く結びついています。最初のエコラベルは1978年、ドイツで誕生した「ブルーエンジェル(Blue Angel)」とされています。この取り組みは、その後多くの国や地域に広がり、日本では「エコマーク」、北欧では「ノルディックスワン」などが続々と登場しました。

中国でのエコラベル導入は比較的新しく、1993年に中国政府が主導して「中国環境ラベル制度(中国環境標誌)」がスタートしました。当初は基準も限られていましたが、国際社会からの要請や国内の環境意識の高まりを受けて、徐々に対象品目や評価基準が拡大。現在では家電製品や建築資材、日用品など、幅広いカテゴリに認証が広がっています。

また、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した2001年以後、国際基準を満たすエコラベル取得の重要性が一段と増しました。たとえば欧米向け輸出製品では、現地のエコラベルや環境認証を取得することが求められるケースが多くなり、中国企業も国際認証取得に積極的に取り組むようになりました。

1.3 エコラベルの種類

エコラベルの種類は大きく3つに分けられます。まず「タイプI」と言われるものは、第三者機関が厳格な基準で審査し認証するもので、信頼性が非常に高いです。中国の「中国環境標誌」がこのタイプIに該当します。製品ライフサイクル全体にわたり、材料調達から製造、廃棄まで多角的に評価されます。

次に「タイプII」として分類されるのは、企業自らが自己宣言する形のエコラベルです。たとえば「省エネ設計」や「生分解性素材使用」など、企業が自社基準で環境情報を表記します。信頼性はタイプIほどではありませんが、簡便かつ迅速に表示できるため中小企業にも広く採用されています。

そして「タイプIII」は、ライフサイクルアセスメント(LCA)に基づく定量的な環境情報を提供するものです。多くの場合、環境負荷データを第三者が検証するインターフェースを持っています。例えば、エコプロダクト宣言(EPD)などが該当し、製品購入時に環境性能を数字で比較することも可能です。中国でも大手企業や輸出志向企業を中心に、タイプIIIエコラベルの活用が進んでいます。

2. 中国の環境政策とエコラベルの関連性

2.1 中国の環境政策の概要

中国は近年、環境保護を国家戦略の中核に位置づけています。かつては急速な経済成長の裏で深刻な大気汚染や水質汚染、土壌汚染などが社会問題化しました。その反省から、「美しい中国」をスローガンに、省エネや再生可能エネルギーの推進、生態系の保護など多岐にわたる政策が展開されています。

例えば、2015年に施行された「新環境保護法」は、企業に対する規制や罰則が大幅に強化され、違反企業に重い罰金や生産停止措置が科されることも珍しくなくなりました。2020年の「カーボンニュートラル宣言」では、2060年までに二酸化炭素排出を実質ゼロにする目標が掲げられ、これに向けて石炭火力の抑制や再生可能エネルギー投資も一層加速しています。

また、各都市や地方政府も独自の環境規制や奨励措置を導入し、地域ごとに“グリーン化”の動きが活発化しています。こうした動きは、製造業だけでなく、サービス業や小売業にも広がり、環境基準を満たすことが中国市場進出の前提条件となりつつあります。

2.2 エコラベルに対する法律と規制

中国政府は、エコラベルの普及と信頼性確保のため、複数の法律・規制を制定しています。代表的なものが「製品品質法」や「循環経済促進法」などで、どちらも製品の環境性能表示やグリーン製造を推進しています。とくに「中国環境標誌認証管理弁法」では、認証審査の手続きや不正表示への罰則が明文化されているのが特徴です。

業界ごとに詳細な基準が設けられ、家電や自動車、建材、食料品など、それぞれの産業に適した環境要件が設定されています。違反発覚時には、悪質企業への市場からの排除や行政処分、誤表示が繰り返されればブラックリスト登録もあり得ます。そのため、多くの企業は法令順守の体制強化とともに、法的リスク軽減策の導入を進めています。

国際的なM&A(合併・買収)が盛んな現代では、中国の法律だけでなく、欧州連合(EU)の「REACH規則」やアメリカの「環境責任法」など、各国・地域の環境規制にも適合する対応が求められます。中国で販売を行うグローバル企業は、こうした多角的な法規制に適応しながらエコラベル取得を進める必要があります。

2.3 環境政策がエコラベルに与える影響

中国の環境政策がエコラベル制度に与える影響は大きく、特に近年は取得条件の厳格化や新分野への拡大が進んでいます。たとえば、これまで主に家電や日用品が対象だったエコラベルが、最近では建築資材、物流、ファッション業界へと拡大。実際、グリーン建築認証を取得した物件は都市部で高い人気を誇り、地価にも影響をおよぼしています。

また、政府はエコラベル認証を受けた製品や企業に対して税制優遇や公共調達の入札優遇措置を提供しています。たとえば「グリーン調達政策」により、国営企業や役所ではエコラベル認証済み商品の調達が推奨され、これが市場拡大の大きな原動力となっています。

さらに、「双碳(ダブル・カーボン)」政策の影響もあり、エコラベル取得はこれまで以上にサプライチェーン全体に求められるようになっています。具体的には、下請け企業や素材調達先の環境基準も含めて認証が要求されることが増えており、企業全体でエコシステムを構築する姿勢が問われています。

3. 中国市場におけるエコラベルの重要性

3.1 消費者の意識の変化

中国の消費者意識はここ10年で大きく変わりました。かつては「安くて便利な商品」が重視されていましたが、近年は「自分や家族の健康」「環境への影響」を考慮して商品を選ぶ人が目立っています。とくに都市部や若い世代では、エコやサステナビリティへの関心が高まり、“グリーン消費”がトレンドになりつつあります。

例えば「90后(1990年代生まれ)」や「00后(2000年以降生まれ)」の若者は、SNSや各種メディアを通じてグローバルな環境運動や話題に敏感。彼らは「小紅書(RED)」やWeChat公式アカウント等で、エコ商品の評価を積極的に発信しています。知名度の高いエコラベルがパッケージに表示されているだけで「安心して買える」と考える人が増えてきています。

この傾向に合わせ、ネット通販大手JD.comやアリババなども「エコ商品特集ページ」を用意し、消費者がラベル付き商品を簡単に見つけられるようになっています。リアルな店舗でも、エコラベルコーナーやPOP広告が導入されるケースが増加しています。こうした消費者意識の変化は、企業の製品開発やマーケティングにも強い影響を与えています。

3.2 エコラベルがもたらす競争優位

エコラベルは、企業にとって国内外の市場で大きな競争優位をもたらします。例えば、同じ価格帯・性能の製品が並ぶ中で、エコラベルがあるものは「安心」「信頼」の象徴となり、一歩リードすることができます。これまで価格勝負だった市場でも、エコ品質が差別化のカギになっています。

中国家電メーカーのハイアールや美的(ミデア)などは、いち早くエコラベル認証を取得し、政府のグリーン調達リストに名を連ねることで、安定した需要とブランドイメージを獲得しています。また、外資メーカーでも、プロクター&ギャンブル(P&G)やユニリーバは、中国向け商品に現地のエコラベルを取得し、プレミアム価格や市場占有率の向上につなげています。

中小企業にとっても、エコラベルは企業ブランドの“盾”として機能します。たとえば、SDGs(持続可能な開発目標)への対応をアピールしたい場合、エコラベルの取得は社外との信頼構築に直結します。また、海外バイヤーや投資家との営業・交渉の場でも、第三者認証の有無が採用や投資判断に大きく影響します。

3.3 ブランド価値の向上

エコラベルは製品そのものだけでなく、企業全体の社会的価値やイメージを高める効果があります。中国ではCSR(企業の社会的責任)報告の公開が大企業を中心に一般化しており、その中でエコラベル取得状況も重要な要素として位置づけられています。これにより、ブランドの信頼性と持続的発展力を強力にアピールできるようになりました。

たとえば、中国の飲料メーカー「農夫山泉」は、ペットボトル製品で中国環境標誌を取得し、さらに再生プラスチックを積極的に採用することで「環境にやさしいブランド」としての地位を確立しました。こうした取り組みが消費者やメディアから高い評価を受けることで、自然とブランド全体への好感度アップにつながっています。

また、SNSの普及により消費者からのフィードバックや「エコ企業ランキング」などが広まりやすくなっています。良い取り組みが話題になれば、口コミで新規顧客獲得やブランド支持基盤の強化にも結びつきます。さらに、政府やNGO主催の「グリーン・イノベーション・アワード」など受賞歴があれば、BtoBビジネスや新規事業分野の展開にも大きな弾みとなります。

4. 企業の対応と戦略

4.1 エコラベル取得のプロセス

エコラベルを取得するためには、所定の認証プロセスを経る必要があります。まず、企業は申請したい製品やサービスを選び、該当するエコラベルの認証基準を調査・分析します。中国の「中国環境標誌」では製品項目ごとに細かな基準が設定されており、公的機関や認証団体のガイドラインに従って申請書類を用意する必要があります。

次に、申請商品について原材料や製造工程、排出物管理、リサイクル性など多岐に渡る情報を詳細に提出します。中国では特に「生産全プロセスの環境負荷評価」が重視されており、原材料の調達先や下請け管理もチェック対象です。申請後は、第三者認証機関が工場視察や製品サンプル検査などを行い、基準に適合すれば認証マークが付与されます。

認証取得には一定のコストや時間がかかるため、多くの企業は「主要製品から優先的に」取得を進めます。また、取得した後も数年ごとに再認証やランダム検査が行われるため、継続的な品質管理体制の構築が必要です。最近ではサプライチェーン全体や関連企業との連携強化も求められています。

4.2 エコラベルを活用したマーケティング戦略

企業はエコラベルを単なる「シンボル」ではなく、積極的なマーケティング戦略の核として活用しています。たとえば、製品パッケージや広告、公式ウェブサイト、SNSキャンペーンなどでエコラベルを強調表示し、「他社製品と何が違うのか」を消費者に鮮明にアピールします。

実際、中国大手スーパーチェーン「永輝超市」では、店内にエコラベル商品コーナーを設置し、POPやモニターディスプレイで環境認証のポイントを説明。これが若年層の“体験消費”や「エシカル消費(倫理的な消費)」を後押しするきっかけとなっています。また、オンラインでは、TmallやJD.comの「グリーン認証商品」ページで、取得済みエコラベルごとにフィルタリングできる機能が整備され、消費者の環境意識向上に一役買っています。

さらに、オリジナルのストーリーや「製品がどう環境に貢献しているか」という動画コンテンツを制作してSNSで拡散したり、環境問題に関するイベントやセミナーへの協賛・参加も増えています。こうしたマーケティング戦略は、消費者との心の距離を縮めるうえで非常に効果的です。

4.3 持続可能なビジネスモデルの構築

エコラベルをきっかけに、企業全体のビジネスモデルを「より持続可能な方向」へと進化させる企業も増えています。単なる認証取得ではなく、調達から生産、流通、販売、再利用・リサイクルまで、ライフサイクル全体で環境負荷を最小限に抑える取り組みへと広がっています。

例えば、中国のIT大手「レノボ」は、製品設計から梱包資材の最適化、終売品の回収や再生利用まで、一貫してグリーン・イノベーションを追求し、その成果をエコラベルの取得によって証明しています。そのため、世界中の企業や消費者から「環境に配慮する企業」として高い評価を受けています。

また、中小企業でも、工場の省エネ化や再生エネルギー導入、廃棄物の徹底管理、エコ素材の新規採用など、ビジネスモデル全体を見直す動きが広がっています。サプライチェーン全体で環境基準を共有し、協力体制を強化することで、企業同士が“共創”の形でサステナビリティを実現するケースも少なくありません。

5. エコラベルの未来と課題

5.1 エコラベルの普及状況

中国におけるエコラベルの普及速度は、ここ数年で格段に上がっています。2022年のデータによると、「中国環境標誌」認証製品は10万点を超え、毎年数千の新規製品が市場に投入されています。特に家電、住宅建材、食品、パッケージ用品などで普及率が高く、都市部ほど取得企業が増加傾向にあります。

また、国際ブランドだけでなく、中国国内の新興ブランドやローカル企業の間でも、エコラベル取得競争が激しくなっています。EV(電気自動車)や再生樹脂利用商品、グリーン建設関連商品などの販路拡大を目指す企業は、エコラベルを先に取得することで“大手との差別化”を図っています。その一方、消費者の“選択基準”としてのラベル認知度がまだ十分でない分野も残っており、今後の継続的な普及活動が求められます。

さらに、デジタル技術の進化により「ラベル認証情報のオンライン検索」や「ブロックチェーン活用による認証履歴管理」など、信頼性や利便性を高める取り組みも始まっています。これにより、偽装や重複認証に対する不安も徐々に解消されつつあります。

5.2 現在の課題と今後の展望

エコラベル普及の過程にはいくつか課題も残っています。まず最大の課題は「偽装表示」や「グリーンウォッシング(見せかけのエコ)」です。いまだ一部には基準を満たしていない製品にラベルを貼る事例や、自己宣言ラベルのみで消費者を誤解させるケースが存在し、政府や第三者機関は監視と取締りを強化しています。

また、多数のエコラベルが乱立することで「どれが本当に信頼できるのか分かりづらい」という問題にも直面しています。これに対処するため、中国では「ラベル統一化」や「標準化」の議論が進められており、消費者や企業の混乱を防ぐための制度設計が進行中です。

今後は、AIやデジタル認証システムの導入による効率化、省エネ・脱炭素分野の新たな基準設立、そして消費者教育の強化が進むと考えられます。また、輸出産業では「国際相互承認」の仕組み拡大を通じ、中国発のエコラベルが海外でも通用するようになる可能性も広がっています。

5.3 企業の持続可能性への影響

エコラベルの導入は、企業の持続可能性と長期経営に直結しています。ラベル取得プロセスそのものが、製品やサービスの環境負荷の見直しを促進し、企業文化や社員教育にもプラスの作用をもたらします。特に、国際取引や外資系企業との提携を行う場合、エコラベル取得の有無がパートナー選定の重大なポイントになります。

たとえばグローバルな消費財メーカーや自動車メーカーは、中国向け製品で現地認証と欧州認証のダブル取得を進め、グローバル市場でのサステナビリティ戦略を強化しています。このような動きは新興国他国企業にも波及しており、中国での先進事例がアジア諸国にも広がってきています。

さらに、投資家や金融機関も「ESG(環境・社会・ガバナンス)」評価の一環としてエコラベル取得状況を重要視しており、今後、企業の資金調達や投資呼び込みにも大きな影響を与えるでしょう。

6. まとめ

6.1 エコラベルの重要性の再確認

中国市場におけるエコラベルは、今や単なる「お飾り」ではありません。消費者の価値観の多様化や環境意識の高まりにより、生活者が“自分のため、社会のため、地球のため”にどの商品を選ぶか、その指標となる存在に進化しています。また、企業にとっては競争優位の獲得やブランド価値の向上、持続的経営の基盤確立に直結する、本質的な戦略ツールへと変わっています。

エコラベルの取得は一度きりではなく、「取得後の維持と進化」が求められます。法改正や新技術の登場、消費者ニーズの変化など、時代と共に基準も要求レベルも上がり続けます。企業がこれらに対応することは、大きな負担である一方、自社カルチャーや人材育成、パートナーとの信頼関係にも好影響をもたらしてくれるでしょう。

6.2 企業が取るべき今後の対応

これからの企業のアクションとしては、まず「自社の現状把握」と「現行ラベル基準の徹底理解」が不可欠です。そして次に、サプライチェーン全体を巻き込んだ環境対策と、持続的なラベル取得・更新活動が必要になります。さらに、消費者や社会への情報発信にも力を入れ、オープンかつ誠実なコミュニケーションで信頼を築くことも重要です。

また、エコラベルの取得・活用は、企業がSDGs・ESG・CSRといった“グローバルな指標”に積極的にコミットしている証として、国内外市場でのプレゼンスをぐっと押し上げます。中国ならではのダイナミズムを生かしつつ、国際協力やイノベーションを駆使して、真の「グリーンリーダー企業」を目指すチャンスが広がっているといえます。

終わりに

中国の消費者や社会がこれからどのような「エコ価値」を求めていくのか――それは変化し続けることでしょう。しかし、環境のことを真剣に考え、エコラベル取得を通じて行動し続ける企業こそが、将来の市場や社会でリーダーとなるはずです。今こそ、企業一人ひとりが「地球、社会、消費者、ビジネス」すべての視点から、持続可能な未来への第一歩を踏み出す時代です。

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