新疆ウイグル自治区は、中国の広大な西部に位置し、多様な民族と豊かな歴史、独特な自然環境を有する地域です。古代シルクロードの要衝として栄え、多くの文化が交錯してきたこの地は、現代においても経済発展と民族共生、国際交流の重要な拠点となっています。本稿では、地理・歴史・行政区画・民族構成・経済・交通・社会文化・現代の課題、さらには日本との関係に至るまで、幅広く新疆ウイグル自治区の全貌を紹介します。
地理と自然環境
位置・範囲と周辺地域との関係
新疆ウイグル自治区は中国の最西北部に位置し、面積は約166万平方キロメートルで、中国最大の省級行政区です。東は甘粛省・青海省、南はチベット自治区、西はパキスタン、アフガニスタン、タジキスタン、キルギス、カザフスタンなど中央アジア諸国と国境を接しています。北はモンゴル、ロシアと隣接し、地政学的に中国の「西の窓口」として重要な位置を占めています。
新疆はその広大な面積により、東西約1,600キロメートル、南北約1,000キロメートルに及び、複数の民族が暮らす多民族地域として知られます。隣接する中央アジア諸国との国境線は約5,600キロメートルに及び、歴史的にも交易や文化交流の要衝であり続けてきました。国境を越えた経済・文化交流は現在も活発であり、「一帯一路」構想の重要な連結点となっています。
地形：盆地・山脈・オアシスの構造
新疆の地形は大きく分けて、北部のジュンガル盆地と南部のタリム盆地の二つの大盆地に分かれています。これらの盆地は天山山脈によって隔てられており、天山は新疆の中央を東西に走る大山脈で、標高の高い山々が連なっています。南部のタリム盆地は砂漠地帯が広がり、タクラマカン砂漠がその大部分を占めています。
盆地の中にはオアシスが点在し、古くから農業や交易の拠点として発展しました。特に南疆地域のカシュガルやホータンなどはオアシス都市として知られ、周囲の砂漠地帯と対照的な緑豊かな環境が形成されています。ジュンガル盆地は比較的湿潤で、森林や草原も見られ、牧畜に適した地形が広がっています。
気候と四季の特徴
新疆は大陸性気候に属し、年間を通じて乾燥しています。夏は非常に暑く、特にタリム盆地の砂漠地帯では日中の気温が40度を超えることも珍しくありません。一方、冬は厳寒で、特に山岳地帯や北部の盆地では氷点下20度以下になることもあります。四季の変化ははっきりしており、春と秋は比較的短く、夏と冬が長く続くのが特徴です。
降水量は地域によって大きく異なり、北部のジュンガル盆地は年間200～400ミリメートル程度の降水がありますが、南部のタリム盆地は100ミリメートル以下で非常に乾燥しています。この乾燥した気候は農業や生活に大きな影響を与え、水資源の管理が重要な課題となっています。
主要な河川・湖沼と水資源問題
新疆の主要な河川には、天山山脈から流れ出るイリ川、タリム川、チャルクリク川などがあります。イリ川は北部のジュンガル盆地を潤し、カザフスタンへと流れ出てバルハシ湖に注ぎます。タリム川は南部のタリム盆地を蛇行しながら流れ、オアシス農業に欠かせない水源となっています。
しかし、乾燥地帯であるため水資源は非常に限られており、過剰な取水や気候変動による水不足が深刻な問題です。特にタリム川流域では水の過剰利用により河川の流量が減少し、下流のオアシスや湿地の環境悪化が懸念されています。これに対処するため、政府は節水型農業の推進や水資源の統合管理を進めています。
自然資源（石油・天然ガス・鉱物・農業資源）
新疆は中国有数の資源大国であり、豊富な石油・天然ガス資源を有しています。特にタクラマカン砂漠周辺の油田は中国の重要なエネルギー供給基地であり、石油・ガスの採掘が盛んです。また、石炭や金、銅、鉄鉱石など多様な鉱物資源も豊富で、資源開発が地域経済の柱となっています。
農業資源としては、綿花の生産が特に有名で、中国最大の綿花産地の一つです。その他にも果物（ブドウ、メロン、リンゴなど）や小麦、トウモロコシの栽培が行われています。放牧も盛んで、羊やヤギの飼育が伝統的な生活の一部となっています。これらの資源は新疆の経済発展と地域住民の生活を支えています。
歴史的背景
古代シルクロードとオアシス都市国家の形成
新疆は古代からシルクロードの重要な中継地として栄えました。紀元前2世紀頃から東西交易路が形成され、絹や香料、宝石などがこの地を通じて中国と西方を結びました。オアシス都市国家はこの交易の恩恵を受け、カシュガル、ホータン、トルファンなどが繁栄しました。
これらの都市は多様な民族や文化が交錯する場所であり、仏教、ゾロアスター教、マニ教など多様な宗教が伝播しました。遺跡や壁画、文献からも当時の文化交流の盛んな様子がうかがえ、シルクロードの歴史的価値は世界的にも高く評価されています。
唐・宋・元代と西域統治の変遷
唐代（7〜10世紀）には新疆地域は唐の支配下に入り、都護府が設置されました。唐はこの地域を軍事的・政治的に統制し、シルクロードの安全確保に努めました。宋代になると中央政府の影響力は弱まり、地域はさまざまな遊牧民族や王国の支配下に分裂しました。
元代（13世紀）にはモンゴル帝国の支配が及び、新疆は大元ウルスの一部となりました。元は行政区画を整備し、中央集権的な統治を試みましたが、地域の多様な民族と広大な地理的条件から完全な統制は困難でした。この時代にイスラム教が広まり、ウイグル族をはじめとするトルコ系民族の文化が形成されていきました。
清朝による「新疆」編入と統治体制
清朝は18世紀半ばに新疆を正式に版図に編入しました。1755年から1759年にかけての軍事遠征により、ジュンガル部族を制圧し、現在の新疆の基礎となる行政区画を設置しました。清は「新疆」（新しい辺疆の意）という名称を用い、中央政府の直轄地としました。
清朝は多民族共存のために「回部」「チャハル部」などの自治的な統治機構を残しつつ、漢族や満州族の移住を促進しました。また、軍事的要塞や屯田政策を通じて地域の安定化を図りましたが、民族間の緊張や反乱も断続的に発生しました。これらの歴史は新疆の複雑な民族関係の背景となっています。
近代の動揺：回乱・東トルキスタン共和国など
19世紀から20世紀初頭にかけて新疆は内外の動乱に見舞われました。1860年代の「回乱」（イスラム教徒の反乱）は大規模な内戦となり、多数の犠牲者を出しました。20世紀初頭には清朝の衰退に伴い、地方軍閥や民族勢力が台頭しました。
1930年代から40年代にかけては、東トルキスタン共和国（短期間の独立政権）が成立し、ソ連の影響も受けながら政治的混乱が続きました。これらの動乱は新疆の民族問題や中央政府との関係に深い影響を与え、現在の自治政策の背景となっています。
中華人民共和国成立後の新疆ウイグル自治区設置
1949年中華人民共和国成立後、新疆は中国の統治下に入り、1955年に新疆ウイグル自治区が正式に設置されました。自治区設置は民族自治の原則に基づき、ウイグル族をはじめとする少数民族の権利保障を目的としています。
その後、経済開発やインフラ整備が進められ、特に石油・天然ガスの開発が地域経済を牽引しました。一方で民族政策や社会統制の問題も複雑化し、現代に至るまで民族間の緊張や国際的な関心を集める地域となっています。
行政区画と都市
行政区画の基本構造（自治区・地級市・自治州など）
新疆ウイグル自治区は自治区本部のほか、地級市、自治州、県級市、県、旗（モンゴル族の自治単位）など多層的な行政区画で構成されています。自治区は中国の省に相当する行政単位で、民族自治の権限を持ちます。
自治区内にはウルムチ市（自治区首府）、カシュガル市、クチャ市などの地級市があり、またイリ・カザフ自治州、バインゴル・モンゴル自治州などの自治州も設置されています。これらの自治州は特定の少数民族の自治権を保障し、多民族共生の行政体制を形成しています。
ウルムチ市：自治区首府としての役割
ウルムチ市は新疆ウイグル自治区の首府であり、政治・経済・文化の中心地です。天山山脈の北麓に位置し、人口は約350万人（2020年代初頭）で、多民族が共存しています。ウルムチは中国西部の重要な交通の結節点であり、鉄道や道路網が集中しています。
首府として自治区政府の所在地であるとともに、商業や工業の発展も著しく、近年は都市化と近代化が急速に進んでいます。国際的な交流も盛んで、多くの外国企業や国際会議が開催されるなど、西域の玄関口としての役割を果たしています。
カシュガル地区：歴史都市と南疆の中心
カシュガルは新疆南部に位置する歴史的なオアシス都市で、シルクロードの要衝として古くから栄えました。旧市街には伝統的なイスラム建築や市場が残り、ウイグル文化の中心地として知られています。カシュガルは南疆地域の経済・文化の中心であり、農業や商業が盛んです。
近年は観光開発も進み、歴史遺産や民族文化を活かした地域振興が図られています。また、パキスタンや中央アジア諸国との国境貿易の拠点としても重要で、国際物流の要所となっています。
イリ・カザフ自治州：多民族共生と対外交流の拠点
イリ・カザフ自治州は新疆北部に位置し、カザフ族をはじめ多くの少数民族が暮らす自治州です。自然環境は山岳と草原が広がり、牧畜が盛んです。自治州はカザフスタンとの国境に近く、国際交流や貿易の拠点としても機能しています。
多民族共生のモデル地域として、各民族の文化や言語が尊重され、自治権が保障されています。教育や文化活動も多言語で行われ、地域の安定と発展に寄与しています。
兵団（新疆生産建設兵団）の特殊な行政・経済機能
新疆生産建設兵団は中国人民解放軍の一部門として設立され、農業開発や治安維持、経済建設を担う特殊な行政組織です。自治区内に独自の行政区画と経済体制を持ち、約300万人の兵団員とその家族が生活しています。
兵団は農業開発、インフラ整備、工業生産など多方面で新疆の経済発展に貢献しており、地域の安定化にも重要な役割を果たしています。軍事的性格と経済的機能を併せ持つ独特の組織として、他の行政区とは異なる特色を持っています。
民族構成と言語・宗教
主要民族：ウイグル族・漢族・カザフ族・回族など
新疆は多民族地域であり、ウイグル族が最大の少数民族を占めます。ウイグル族はトルコ系民族に属し、自治区人口の約45％を占めています。漢族は約40％で、経済や行政の中心的役割を担っています。その他にカザフ族、回族（イスラム教徒の漢族系）、キルギス族、モンゴル族など多くの民族が共存しています。
民族ごとに言語や文化、宗教が異なり、多様な社会構造を形成しています。民族間の交流や共存は新疆の社会の特徴ですが、歴史的・政治的な背景から複雑な関係も存在しています。
ウイグル族の文化的特徴と言語（ウイグル語）
ウイグル族はイスラム教を信仰し、独自のトルコ系言語であるウイグル語を使用しています。ウイグル語はアラビア文字を基にした文字で書かれ、文学や詩歌、音楽など豊かな文化伝統を持ちます。伝統的な衣装や食文化も特徴的で、ナン（パン）やラム肉料理、香辛料を多用した料理が有名です。
文化活動としては音楽や舞踊が盛んで、ドゥムル（弦楽器）やナワル（笛）を用いた伝統音楽が伝承されています。祭礼や結婚式などの社会儀礼も独特で、民族のアイデンティティを強く表現しています。
宗教：イスラム教を中心とした信仰と宗教施設
新疆の主要宗教はイスラム教であり、ウイグル族、カザフ族、回族など多くの民族が信仰しています。スンニ派が主流で、モスク（イスラム礼拝所）が各地に点在し、宗教行事や礼拝が日常生活の一部となっています。
宗教施設は伝統的な建築様式を持ち、文化遺産としても重要です。一方で宗教活動は国家の規制下にあり、宗教と政治の関係は敏感な問題となっています。宗教の自由と社会安定のバランスが新疆の課題の一つです。
多民族社会における言語政策と教育
新疆では多民族共生のために多言語教育が推進されています。ウイグル語と漢語（標準中国語）は学校教育で併用され、民族学校では母語教育が行われています。これにより民族文化の継承と社会統合の両立を目指しています。
しかし、近年は漢語教育の強化が進み、ウイグル語教育の縮小や使用制限が指摘されることもあります。言語政策は民族間の信頼関係や社会安定に直結するため、慎重な運用が求められています。
文化交流と民族間関係の歴史的変遷
新疆の民族間関係は歴史的に多様な交流と摩擦を繰り返してきました。シルクロード時代から交易や文化交流が盛んで、宗教や言語、芸術が相互に影響を与え合いました。清朝時代以降の移民政策や近代の政治動乱は民族関係に複雑な影響を及ぼしました。
現代においても民族間の経済格差や文化摩擦が課題となっていますが、自治区政府は民族団結や共生を掲げ、多文化共存の社会構築を目指しています。国際的な視点からも新疆の民族問題は注目されており、歴史的背景の理解が不可欠です。
経済構造と産業発展
経済全体の特徴と中国国内における位置づけ
新疆の経済は資源開発を基盤としつつ、農業、工業、サービス業がバランスよく発展しています。中国の西部大開発政策の一環として、インフラ整備や産業誘致が進められ、経済成長率は全国平均を上回ることもあります。
地理的に中央アジア諸国との接点に位置するため、対外貿易や物流の拠点としての役割も大きく、「一帯一路」構想の重要な地域として位置づけられています。経済の多様化と持続可能な発展が今後の課題です。
エネルギー産業：石油・天然ガス・石炭開発
新疆は中国有数のエネルギー資源地帯であり、石油・天然ガスの採掘が経済の柱となっています。特にタクラマカン砂漠周辺の油田は国内の重要な供給源であり、パイプラインを通じて中国各地へエネルギーを供給しています。
また、石炭資源も豊富で、火力発電や工業用燃料として利用されています。エネルギー産業は新疆の経済発展を支える一方で、環境負荷や資源の持続可能性が課題となっています。
農業・畜産業：綿花・果物・小麦・放牧経済
新疆は中国最大の綿花生産地であり、綿花は輸出も盛んな主要農産物です。その他にもブドウ、メロン、リンゴなど果物の産地として知られ、特にトルファンのブドウは有名です。小麦やトウモロコシの栽培も行われ、食糧生産の重要な地域です。
畜産業では羊やヤギの放牧が伝統的に行われており、肉や乳製品の供給源となっています。乾燥地帯の特性を生かした農牧業の発展は地域の生活を支えていますが、水資源の制約が生産に影響を与えています。
製造業・ハイテク産業・インフラ建設
近年、新疆では製造業やハイテク産業の育成も進められています。電子機器、化学工業、食品加工など多様な分野で工場が設立され、雇用創出と経済多角化に寄与しています。特にウルムチを中心に産業集積が進んでいます。
インフラ建設も活発で、道路、鉄道、空港の整備が進み、物流効率の向上に貢献しています。これらの基盤整備は新疆の経済発展と地域間連結性の強化に不可欠です。
「一帯一路」構想と対外貿易・物流拠点としての役割
新疆は中国の「一帯一路」構想における重要な陸路の玄関口であり、中央アジアやヨーロッパへの物流ルートの中継点となっています。中欧班列（貨物列車）はウルムチやカシュガルから欧州各地へ直通し、貿易の効率化を促進しています。
この地理的優位性を活かし、自由貿易区の設置や国際物流センターの整備が進められています。新疆は中国の対外経済戦略の要として、今後も国際貿易と地域経済の発展に寄与することが期待されています。
交通・インフラと対外連結性
鉄道網：蘭新線・南疆線・中欧班列など
新疆の鉄道網は蘭新線（蘭州〜新疆ウルムチ）を中心に発展しており、南疆線は南部のカシュガル方面へ延びています。これらの路線は新疆と中国内地を結び、貨物・旅客輸送の基幹となっています。
さらに、中欧班列は新疆を経由して中国と欧州を結ぶ国際貨物列車で、物流の効率化と経済交流を促進しています。これにより新疆は中国西部の交通ハブとしての地位を確立しています。
道路・高速道路と国内物流ネットワーク
新疆内の道路網も整備が進み、主要都市間を結ぶ高速道路が建設されています。これにより農村部や山岳地帯へのアクセスが改善され、地域間の物流や人の移動が円滑になっています。
国内物流ネットワークの強化は経済発展に不可欠であり、特に農産物や工業製品の輸送効率向上に寄与しています。道路網の整備は観光振興にも重要な役割を果たしています。
空港・航空路線と国際線の展開
新疆にはウルムチ地窝堡国際空港をはじめ複数の空港があり、国内外の航空路線が運航されています。ウルムチ空港は中国西部の航空ハブとして機能し、北京、上海、広州など主要都市と結ばれています。
また、中央アジア諸国や中東、ヨーロッパへの国際線も運航されており、国際交流やビジネスの促進に寄与しています。航空インフラの充実は新疆の開放性と国際競争力を高めています。
パイプライン・送電網などエネルギーインフラ
新疆は豊富なエネルギー資源を背景に、石油・天然ガスのパイプライン網が整備されています。これらは中国内地へのエネルギー供給の生命線であり、国家エネルギー戦略の重要部分です。
また、送電網も拡充され、風力・太陽光発電など再生可能エネルギーの導入も進んでいます。エネルギーインフラの整備は地域の産業発展と生活の質向上に不可欠です。
国境貿易口岸と周辺諸国との結節点
新疆にはカシュガルのホルゴス、アルタイのアルタイ口岸など複数の国境貿易口岸が設置されており、中央アジア諸国との貿易拠点となっています。これらの口岸は貨物の輸出入や人の往来を支え、地域経済の活性化に寄与しています。
国境貿易は新疆の国際的な役割を強化し、経済的な結びつきを深めています。今後も口岸の機能強化や通関手続きの簡素化が期待されています。
社会・教育・生活文化
都市と農村の生活様式の違い
新疆の都市部では近代的な生活様式が広がり、商業施設や公共サービスが充実しています。ウルムチやカシュガルなどの都市では多民族が共存し、文化的多様性が日常生活に反映されています。
一方、農村部やオアシス地域では伝統的な生活様式が根強く残り、農業や牧畜を中心とした生活が営まれています。住居や衣食の面でも都市と農村で大きな違いが見られ、経済格差や生活環境の差異が課題となっています。
教育制度と多言語教育の現状
新疆の教育制度は中国の全国的な枠組みに準じつつ、多民族地域の特性を反映しています。初等・中等教育ではウイグル語と漢語の二言語教育が行われ、民族学校も多数存在します。
しかし、近年は漢語教育の比重が増す傾向にあり、ウイグル語教育の縮小や言語政策の変化が議論を呼んでいます。高等教育機関も増加し、地域の人材育成に貢献していますが、教育の質と公平性の向上が求められています。
伝統的な衣食住：ウイグル料理・住居・市場文化
ウイグル族の伝統的な衣服は色彩豊かで刺繍が施され、男性はドプパ（四角い帽子）、女性は華やかなスカーフやドレスを着用します。食文化ではナン（パン）、ケバブ、ラグメン（手延べ麺）などが代表的で、香辛料や羊肉を多用した味付けが特徴です。
住居は伝統的に土造りの家屋やテント（ユルト）を用い、オアシス地域では庭付きの家屋も多く見られます。市場（バザール）は生活の中心であり、食材や衣料品、工芸品が並び、民族文化の交流の場となっています。
音楽・舞踊・祭礼（メシレプ、ノウルーズなど）
ウイグル音楽は独特の旋律とリズムを持ち、ドゥムルやサズなどの伝統楽器が用いられます。舞踊は力強く華麗で、結婚式や祭礼などの場で披露されます。メシレプ（収穫祭）やノウルーズ（新年祭）は代表的な民族祭礼で、多くの人々が参加し伝統文化を継承しています。
これらの文化活動は民族のアイデンティティを象徴し、観光資源としても注目されています。地域の文化振興や国際交流の重要な要素となっています。
観光資源と文化遺産（トルファン遺跡・カシュガル旧市街など）
新疆には豊富な観光資源があり、トルファンのベゼクリク千仏洞やカシュガルの旧市街は世界遺産候補にも挙げられています。これらの遺跡は古代シルクロードの歴史を物語り、多くの観光客を惹きつけています。
また、自然景観として天山山脈やカラクリ湖、タクラマカン砂漠の壮大な風景も魅力です。観光産業は地域経済の重要な柱となり、文化遺産の保護と活用が課題となっています。
現代の課題と国際的視点
経済発展と地域格差・都市農村格差
新疆の経済発展は著しいものの、都市部と農村部、北部と南部の格差が依然として大きな課題です。都市部ではインフラやサービスが充実する一方、農村部では生活水準や教育環境の改善が遅れています。
これらの格差は社会的な不満や民族間の緊張を生む要因ともなっており、持続可能な発展のためには均衡ある地域振興政策が求められています。
民族政策・社会安定とその議論
新疆の民族政策は民族自治と社会安定の両立を目指していますが、宗教活動の規制や言語政策をめぐり国内外で議論が続いています。政府はテロ対策や社会統制を強化する一方、民族文化の尊重も掲げています。
国際社会からは人権問題や少数民族の扱いに関する関心が高く、報道や外交問題となっています。新疆の安定と発展には多角的な理解と対話が不可欠です。
環境問題：砂漠化・水資源管理・エネルギー開発の影響
新疆は砂漠化の進行や水資源の枯渇が深刻な環境問題です。過剰な農業用水の利用や気候変動により、オアシスの縮小や生態系の破壊が懸念されています。これに対し、植林や節水技術の導入など環境保全策が進められています。
また、エネルギー開発による環境負荷も課題であり、持続可能な資源利用と環境保護の両立が求められています。地域の環境問題は経済社会の安定に直結する重要なテーマです。
国際社会の関心と報道の特徴
新疆問題は国際的な注目を集めており、各国メディアや人権団体による報道が活発です。報道内容は多様で、政治的立場や情報源によって大きく異なるため、情報の多角的な分析が必要です。
中国政府は新疆の発展と安定を強調し、外部からの誤解や偏見に対抗しています。国際社会との対話や情報共有は、理解促進と問題解決に向けた重要なステップとなっています。
今後の発展方向と地域協力の可能性
新疆は「一帯一路」構想の中心地として経済発展と国際交流の拡大が期待されています。地域内の民族共生や社会安定の強化、環境保全の推進が今後の重要課題です。
また、中央アジア諸国との経済・文化協力の深化や観光振興も見込まれ、地域の平和と繁栄に向けた多国間協力の可能性が広がっています。持続可能な発展と共生社会の実現が新疆の未来を切り開く鍵となるでしょう。
日本との関係と理解のための視点
歴史的な交流：シルクロードを通じた文化伝播
日本と新疆の歴史的な交流は直接的ではないものの、シルクロードを介した文化や技術の伝播を通じて間接的に影響を受けています。仏教や絹織物、陶磁器などの文化財は新疆を経由して日本に伝わりました。
この歴史的背景は日本人にとって新疆の文化を理解する上で重要な視点であり、両地域の古代交流の研究は日本の学術界でも注目されています。
現代の日中経済関係における新疆ウイグル自治区の位置
現代において新疆は日本企業にとっても重要な投資・貿易の拠点となっています。エネルギー資源や農産物の供給地としての役割に加え、「一帯一路」構想を通じた物流のハブとしての期待も高まっています。
日本企業は新疆のインフラ整備や製造業、観光分野での協力を進めており、経済関係の深化が地域発展に寄与しています。
観光・学術交流・留学生を通じた人的交流
日本と新疆の間では観光や学術交流も活発です。日本からの観光客は新疆の歴史遺産や自然景観を訪れ、文化理解を深めています。また、大学間の交流や留学生の受け入れも進み、人的ネットワークが拡大しています。
これらの交流は相互理解の促進と友好関係の基盤作りに貢献しています。
日本語資料・研究動向と情報の入手方法
日本では新疆に関する研究が社会学、歴史学、経済学など多方面で行われており、専門書や学術論文が多数出版されています。政府や民間の報告書、国際機関の資料も参考になります。
情報収集には大学図書館や専門機関のデータベース、ウェブサイト（例：中国政府公式サイト、国際機関の報告など）が有用です。多角的な視点から情報を比較検討することが重要です。
日本人読者が理解する際の留意点と多角的な見方
新疆問題は複雑な歴史的背景と民族問題、国際政治が絡むため、一面的な情報に偏らず、多様な情報源からの理解が求められます。文化的背景や地域の現実を尊重し、感情的な判断を避けることが重要です。
また、日本と新疆の関係を歴史的・経済的な文脈で捉え、相互理解と友好促進の視点を持つことが、正確な理解につながります。
参考ウェブサイト
- 新疆ウイグル自治区人民政府公式サイト
http://www.xinjiang.gov.cn/ - 中国国家統計局（新疆関連データ）
http://www.stats.gov.cn/ - シルクロード経済ベルト公式サイト（中国国家発展改革委員会）
http://en.ndrc.gov.cn/ - 国連開発計画（UNDP）中国事務所
https://www.cn.undp.org/ - 日本国際交流基金（文化・学術交流情報）
https://www.jpf.go.jp/ - アジア経済研究所（地域研究資料）
https://www.ide.go.jp/ - BBCニュース「新疆問題」特集
https://www.bbc.com/japanese/topics/cyx5krnw38vt - NHKスペシャル「新疆ウイグル自治区」関連報道
https://www.nhk.or.jp/special/
以上の資料を活用することで、より深く多角的な新疆ウイグル自治区の理解が可能となります。
