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   地方における金融サービスの発展と課題

中国の地方における金融サービスの発展と課題
(イントロダクション)

中国は世界でも有数の経済大国ですが、その広大な国土には地方ごとに多様な経済環境や特徴が見られます。特に、沿海部と内陸部、都市と農村では、経済の発展段階や産業構造が大きく異なります。経済発展とともに金融サービスも急速に進化していますが、一方で地方には特有の課題や格差も残っています。本稿では、中国地方における金融サービスの発展状況や取り組み、直面している問題点、日系企業や投資家への示唆、そして今後の展望について、わかりやすく詳しく紹介します。


目次

1. 中国地方経済の概観

1.1 地方経済の多様性と発展段階

中国の地方経済を語る上で、その「多様性」は欠かせません。東部沿海部の経済大都市である上海や広州、深センは世界的にも有名ですが、一方で内陸部の貴州省やチベット自治区など、発展が遅れている地域も少なくありません。中国政府は「東中西発展戦略」を策定し、地方ごとの発展状況に応じて支援策のバランスを取っています。このような地域間格差は、歴史的なインフラ投資や自然環境、地理的な制約、産業基盤の違いなど複数の要因から生まれています。

その発展段階は場所によって大きく異なり、例えば深センのようにハイテク企業や金融サービスが大きく発展した都市と、農業中心のガンシュウ省や貴州省、内モンゴル自治区などでは、まだインフラ整備や市場経済化が進行中です。最先端の金融テクノロジーが首都圏や東部都市で普及する一方、未だに現金主義が残る農村部も多く見られます。

さらに近年注目されているのは、「都市圏」と「農村」の二重構造です。都市部でのサラリーマンや企業家の増加に対し、農村部では農業従事者が多く、外部からの投資も限られています。中国政府はこれを是正するために「農村振興」や「新型都市化」政策を打ち出していますが、依然として経済発展のスピードや質には地域差が残っています。

1.2 地方都市・農村の経済構造

中国の地方における経済構造を語る時、まず押さえておくべきは都市と農村の役割の違いです。例えば、上海や広州といった大都市では、サービス業やテクノロジー産業、製造業が主軸となっています。これに対して、多くの内陸地方や西部地域では農産業や一次産業が未だに主役です。特に黒竜江省や吉林省の農村部では、コメやトウモロコシ、小麦などの大規模生産が中心で、経済のほとんどを農産物が支えています。

地方都市と農村には構造的な分断もあり、都市ではベンチャー企業や中小企業の起業熱が高まる一方、農村では若者の都市流出による高齢化や労働力不足が深刻です。こうした地方で、農業の効率化や農産品のブランド化など産業高度化の取り組みも進められていますが、情報や資金へのアクセスが限られているため、なかなか成長につながりにくい状況が続いています。

また、地方都市の経済発展ケースとして、重慶市や成都などの新興大都市が挙げられます。これらの都市は近年、IT産業や観光業、バイオテクノロジーなど新しい分野にも力を入れ、地方経済の多角化と活性化に努めています。しかし、周辺の農村部との格差や人材・資金の集中といった課題も依然残っています。

1.3 地方産業と金融需要の特性

地方の産業構造が多様であることは、金融需要にも色濃く反映されています。例えば、江蘇省や湖北省などの製造業集積地帯では、工場や中小製造企業向けの設備投資資金、輸出入金融などのニーズが大きいです。一方、重慶周辺の農村や雲南省の山間部では、小規模農家や零細事業者向けの小口融資や営農資金、マイクロファイナンス(小口金融)がよく利用されています。

また、近年の特徴として、「地方ブランド」化した食品や農産物のEC販売、地域密着型サービス業・観光業の台頭が挙げられます。例えば、雲南や四川の有機野菜やお茶、湖南の辣椒(唐辛子)製品など、地域独自製品のブランド拡大にともない、ECプラットフォーム(淘宝など)向けの融資や物流投資の金融ニーズも増加しています。

また、農村部や辺境都市では、金融機関自体が少ない場合や知識・アクセスが限られている場合も多く、単純な「貯蓄・送金」から「住宅ローン」「起業資金融資」など、生活全般を支える多様な金融サービスへのニーズは急拡大しています。地方ごとの経済特性に応じたオーダーメイド型の金融サービスの重要性がますます高まっています。


2. 金融サービスの地方展開の現状

2.1 銀行ネットワークと地方拠点

中国では、「四大銀行」(中国工商銀行・中国建設銀行・中国銀行・中国農業銀行)をはじめ、国有商業銀行や地方銀行、信用組合といった金融機関が全国に広がっています。特に農業銀行や郵政儲蓄銀行は、農村エリアや小都市にきめ細かくネットワークを展開しています。郵政儲蓄銀行は、約4万5000店舗という圧倒的な拠点数を持ち、都市だけでなく、県レベル・郷レベルにも進出しており、農村金融インフラの要になっています。

しかし、実際には地方都市や農村部へ行くほど、銀行のサービスの幅や専門性は限定されがちです。例えば、広東省広州市内なら住宅ローンや投資信託まで取扱商品は多様ですが、貴州や雲南の県レベル支店では、預金・送金・小口融資程度の基本サービスが中心です。地方拠点ではIT化も遅れており、行員の専門性や金融商品知識もまだ十分とは言えないのが現状です。

一方、最近の動きとして注目されているのが、銀行による移動支店・バス型仮設店舗の導入です。中国農業銀行や中国郵政儲蓄銀行が、移動型ATMやバス型簡易支店を導入し、山間僻地や離島農村でも一定の金融サービスが受けられるようになりました。このような「金融包摂」の努力は、サービス格差の解消や金融市場の拡大に大きく貢献しています。

2.2 地域金融機関の役割

中国の地方経済を支えるのは、全国展開する大手銀行だけではありません。むしろ、「農村信用合作社」や「村鎮銀行」など地域金融機関の存在が、現場レベルでは重要な役割を果たしています。たとえば、農村信用合作社は、地元農家や協同組合、地方中小企業の預金・融資・決済サービスを長年担い、都市銀行や大手がカバーしきれない資金ニーズに応えています。

村鎮銀行は2007年ごろから中国政府の政策としてスタートした新しい業態で、比較的資本規模が小さいにも関わらず、地域ごとの特徴や実情に合わせた小口融資、地域再投資などに取り組んでいます。安徽省や四川省の村鎮銀行では、地元産業振興プロジェクトや農産品ブランド化の応援融資が増加しており、経済成長にダイレクトに貢献しています。

また、都市商業銀行(市商銀行)も地方都市の経済発展に不可欠です。例えば南京銀行や成都銀行、寧波銀行などは、地元企業や中小企業向けにきめ細やかなサービスを展開しています。これらの地場金融機関は地元経済とのネットワークの太さや、意思決定のスピードの速さが強みですが、資本力やノウハウの不足、リスク管理面の課題も指摘されています。

2.3 デジタル金融・モバイル決済の普及状況

中国はキャッシュレス大国として近年注目されていますが、地方部にもこの波は大きく広がっています。特に「支付宝(アリペイ)」や「微信支付(WeChat Pay)」が都市部だけでなく、農村部や小都市、観光地でも普及しているのは大きな特徴です。例えば湖南省の農村市場では、八百屋や小売業者までQRコードによるモバイル決済が当たり前に使われており、屋台や露店など「現金のみ」のイメージが強かった業態もすっかり様変わりしています。

デジタル金融の普及で最も恩恵を受けたのは、「金融アクセスが物理的に難しかった層」です。スマートフォンさえ持っていれば、銀行窓口へ行かずとも送金や決済、預金管理が容易になり、家族への仕送りや農産品のネット販売、政府補助金の受け取りなども劇的に便利になりました。雲南省や貴州省といった地理的に不利な農村部でも、スマホ一台で多様な金融サービスが利用できる時代です。

また、デジタル金融の進化は単なる送金・決済を超えて、小口融資や保険の加入、ネット証券取引といった資産運用サービスにも広がっています。一方で、スマートフォンやインターネット環境へのアクセス、金融リテラシー不足による「取り残し層」の存在やサイバーセキュリティ・詐欺といった新しいリスクも課題となっています。


3. 金融サービスの地方発展を促進する政策

3.1 政府による金融包摂政策

中国政府は「金融包摂(インクルージョン・ファイナンス)」の理念を全面的に押し出し、全国民が公平に金融サービスを利用できるよう、様々な政策を進めています。中国人民銀行や銀保監会(銀行保険監督管理委員会)が、中小銀行や農村信用社、デジタル金融企業に対し、地 理的に不利な地域や低所得者層へのサービス強化を促しています。

具体例として、農村や貧困地域への出店義務化や、小口融資の増加奨励、農業資金への専門商品開発、金融教育・普及活動などが挙げられます。例えば「金融機関農村サポート評価制度」の導入により、金融機関が農村や貧困地区でのサービス貢献度を評価され、獲得ポイントによって優遇政策やインセンティブが得られるようになっています。

また、中国政府は「インターネット・プラス」政策を後押しし、フィンテック企業や電子決済プロバイダーとの連携によって、農村エリアのデジタル化・キャッシュレス化を一気に推進しています。銀行や村鎮銀行へのデジタル端末導入補助、携帯電話通信インフラの高速化投資など、ハード・ソフト両面から官民連携で地方金融サービスの底上げに取り組んでいます。

3.2 貧困削減と金融アクセス改善策

中国は長年、「貧困削減」「農村振興」を最重要課題の一つに掲げてきました。2020年に一応の「極度貧困の撲滅」を公式発表しましたが、その中で「金融の力」を最大限に活用しています。例えば、農村の貧困世帯や零細農家へは「無担保・無保証」「低利子」による営農資金融資制度が設けられています。さらに、農業生産組合や新興の観光産業向けには、事業資金融資や設備投資・運転資金の特別融資制度も拡充されています。

地元金融機関と連携した「貧困カード(貧困救済デビットカード)」や、政府からの直接現金給付に紐づくデジタルバウチャーなども普及が進んでいます。特に貴州省や四川省の山間部では、こうした制度によって、経済的に困難な世帯や生産者が資金調達や雇用創出を実現したケースも増加しています。

また、モバイルバンキングや「遠隔金融教育(オンライン金融リテラシー講座)」による知識普及活動も強化されています。スマートフォンを通じて地元の実情を踏まえた資金調達モデルや、リスク回避ノウハウを学ぶ機会を提供することで、地場民の金融リテラシーレベル向上、より適切な資金運用・管理への道を開いています。

3.3 地方自治体の金融支援プログラム

中央政府だけでなく、各地方自治体も独自の金融支援プログラムを積極的に展開しています。たとえば江蘇省や山東省では、地元の農産企業や零細商工業向けに「地銀特別枠付小額融資」や「産業支援補助付き低利ローン」が整備されています。これらは地方レベルでの中小企業育成や雇用創出にも直結しており、経済のボトムアップ効果を目指しています。

また、湖南省や四川省などでは「農村振興金融プラットフォーム」の設立が相次いでいます。これにより、農民や中小事業者が各種融資・補助・保険商品にワンストップでアクセスできる仕組みや、営農指導・マーケティング支援の一体化も進められています。このような取り組みにより、地方経済の持続的成長と金融包摂を一体的に推進しています。

地方自治体によっては、フィンテック企業や外資系金融機関とも協働し、独自の金融イノベーションセンターや創業支援ファンド設立が進められています。例えば浙江省杭州市ではアリババやアントフィナンシャルと提携し、中小企業向けのクラウドファンディングやAI与信審査など先進的な取り組みも実験的に導入されています。


4. 地方金融サービスの主な課題

4.1 格差拡大とサービスの偏在

中国地方の金融サービスは急速に進化したものの、依然として「都市・農村」「沿海・内陸」「大規模中核都市・農村周辺部」といった区分で大きな格差が存在します。たとえば上海や広州、深センでは多様な投資商品や先進的ローン、フィンテック系の資産運用サービスが気軽に手に入ります。しかし、農村部や山間地域、貧困県では基本的な銀行口座すら持てない住民も存在し、新しい金融商品やサービスへのアクセスは大幅に遅れています。

このようなサービスの偏在は、歴史的なインフラ投資の違いや金融機関の効率志向、地理的制約など多様な要因が絡み合っています。西部や南部の遠隔地では、銀行支店やATMの物理的ネットワーク自体が未発達、加えてサービス品質やスタッフの金融知識不足も課題です。銀行窓口まで何時間もバスで移動しなければならない農村住民も少なくありません。

また、地方農村では、高齢者や教育レベルの低い層が「銀行取引」「キャッシュレス決済」「保険・投資サービス」など新しい仕組みに慣れ親しむのに時間がかかる傾向があります。そのため、地方都市と農村、また地域ごとの格差・サービスの偏在は、今後の地方金融発展の中核的な課題となっています。

4.2 中小企業・農業分野の資金調達難

中国の地方経済を支えるのは、大企業だけでなく無数の中小企業や家族経営の小規模農業です。彼らが事業を拡大したり、新規投資や経営改善を実行したくても、十分な資金調達が難しい現実が続いています。多くの場合、地方の商業銀行や村鎮銀行は貸倒リスクを恐れ、信用情報システムの不透明さから「担保主義」「保証人必須」の厳格な審査基準を適用しています。

そのため、創業間もないスタートアップや、小規模な農家、零細サービス業者などは銀行融資の対象外になることが多く、個人間の借り入れや闇金・非公式金融への依存も少なくありません。湖南省や広西チワン自治区など一部地区では、地方自治体や信用協同組合の緩和策も導入されていますが、未だ十分な資金供給には至っていません。

リアルな例として、女性や少数民族、返還軍人など「社会的弱者」とされる層は、とくに資金調達で不利です。近年、中国政府はマイクロファイナンスやクラウドファンディング、中小企業特化型のオンライン金融商品の活用を促していますが、リスク管理や返済能力評価手法、情報インフラ未整備などによって、現場実装にはまだ課題が残っています。

4.3 金融リテラシーと情報格差

金融リテラシー――つまり「お金や金融商品、サービスを正しく理解し、活用する知識とスキル」の格差も、地方金融の深刻な課題の一つです。中国の都市部では若年層を中心に金融教育が進み、スマホ決済・保険・投資信託の活用が一般的になっています。しかし、農村部や高齢者層、教育機会に恵まれなかった人々の多くは、「銀行口座の使い方」「資産配分の基本」すら十分把握していない場合も少なくありません。

例えば、QRコード決済を一度も試したことがない、送金詐欺や投資詐欺の被害を受けやすい、といった情報格差・金融知識の偏在は、デジタル金融の普及が進むほどその「取り残し層」が目立ってきます。2022年には、中国人民銀行が全土規模で「金融リテラシー普及キャンペーン」を行い、ウェブ講座や出前セミナー、テレビ・ラジオを使った広報活動も展開されました。

さらに、地元企業や農家が「どのような金融商品があるのか」「どうやって最適な融資・投資を選ぶのか」といった実践的な情報が不足し、機会損失や高リスク商品の購入・投資詐欺などに巻き込まれる例も後を絶ちません。今後は、金融サービスへのアクセスそのものだけでなく、「知識と活用力の底上げ」こそが、真の地方金融発展のカギになるでしょう。


5. 地方金融イノベーションの動向

5.1 フィンテックによる地方経済の活性化

近年、中国の地方金融のイノベーションを牽引しているのが「フィンテック(金融×テクノロジー)」の潮流です。最大手のアリババグループ傘下「アントフィナンシャル(現アントグループ)」は、支付宝(アリペイ)、花唄、借唄など多様な個人・事業者向け金融サービスを全国展開しています。これにより、地方の零細事業者や個人商店もスマートフォンひとつでキャッシュレス決済、複数の信用調査を基にしたマイクロローンが使える時代が到来しました。

例えば、安徽省の小規模な茶農家では、農産品を淘宝や拼多多といったオンラインストアで販売し、その売上データをもとにアントフィナンシャルがAI審査で運転資金や設備投資の小口ローンを提供しています。従来の「担保・保証人前提」のアナログ審査を飛び越え、データドリブンな新しい融資モデルが地方に広がっており、農村イノベーションの起爆剤にもなっています。

また、地元金融機関も大手フィンテック企業と提携し、地産地消の金融商品や地域特化型DX化サービスを展開しています。例えば重慶銀行や陝西農信社などは、自社アプリで地元特産品の販売マッチングや農家向けコンサル、AI予測によるピンポイント融資提案を積極導入。こうしたイノベーションは、金融の裾野拡大と同時に地方経済そのものの活性化にも直結しています。

5.2 インターネット銀行・オンライン融資の導入

中国では「インターネット銀行」が独自の市場セグメントとして地方部にも重要な影響を及ぼしています。代表例として「微衆銀行(WeBank)」や「網商銀行(MYbank)」は、スマートフォンアプリだけで個人や中小零細企業に対し24時間365日、無店舗・低コストの金融サービスを提供しています。一切の「紙の書類」「厳しい担保要件」なしで本人確認から審査、借入、返済までスマホで完結し、都市と地方の格差是正を追求しています。

重慶や広西など地方都市でも、伝統的銀行口座を持たない市民や零細農家がインターネット銀行サービスを初めて活用するケースが増えています。AI与信審査やビッグデータの活用によって、年齢・性別・職種・居住地域に関わらず、個人信用度合いに応じたパーソナライズ融資を実現。短期間・少額から柔軟に借りられる新しい資金調達ルートとして、地域経済の下支えになっています。

ただし、オンライン化の進展と同時に、詐欺的融資サイトや「本人確認を騙るフィッシング被害」など新たな課題も発生しています。政府や地場銀行は、本人確認の厳格化やアプリストアによるセキュリティ監査、利用者教育の強化に取り組み、健全な普及とリスクコントロールの両立を目指しています。

5.3 地方における新サービスとその課題

中国地方発の金融イノベーションには「スマート農業保険」「デジタル信用スコア」「地域コミュニティ通貨」など多様な新サービスが登場しています。例えば、江西省や湖南省の農村部では、スマートフォンGPSや気象データを活用した「天気災害型農業保険」がスタートしています。実際の降雨量や地域特性に応じて自動的に補償・給付がなされ、紙の申請や人手審査を不要にしています。

さらに、地域バンクや信用社は「デジタル信用スコア」を用いた与信サービスを導入。市場での取引実績やEC・QRコード決済の履歴、SNSでの評判までデータ化し、従来は融資対象になりにくかった若年層・新規起業家にも資金調達のチャンスが広がっています。また、地方自治体とベンチャー企業がタッグを組み、電子地域通貨やポイントサービスを発行し、商店街活性化や地元消費の底上げにもチャレンジしています。

一方で、こうしたイノベーションは「技術格差」「情報アクセス格差」「リテラシーの壁」といった新たな課題も生み出しています。全ての利用者がスムーズに使えるとは限らず、高齢者やデジタルに弱い層、インフラ整備の遅れた地域には結果的に「新しい分断」が生じる心配も残ります。今後は「誰ひとり取り残さない」デジタル包摂が、イノベーション推進の最重要テーマとなるでしょう。


6. 日本企業・投資家への示唆

6.1 日中地方金融環境の比較

日本の地方金融と中国の地方金融、両者には多くの共通点と相違点が見られます。例えば、日本でも大都市圏と地方都市・過疎地の間で金融機関の数やサービス内容に格差が存在し、中小企業・農業経営者の資金調達の難しさ、金融リテラシー課題も共通しています。しかし、中国の地方は「人口規模が大きい」「発展格差が激しい」「デジタル金融普及が急速」など、日本とは異なるダイナミズムがあります。

また、日本の地方銀行や信用金庫は保守的で地域密着型サービスが特徴ですが、中国の地方金融機関はデジタル化・オンライン化の導入スピードが格段に早いと言えます。中国では「スマホひとつで口座開設・融資申込・投資管理」が当たり前になりつつありますが、日本の地方都市では紙の書類や対面相談が依然主流の場合も多いです。

一方、日本の地方金融はリスクマネジメントが厳格で、法整備・顧客保護面での信頼性が高い一方、中国の地方金融は規制や顧客保護の抜け穴・取り残し層なども課題となっています。日中双方の地方金融の長所・短所を比較し、協力やノウハウ移転、サービス相互補完の大きな可能性があります。

6.2 日本企業の参入機会とリスク

中国地方は日系企業や投資家にとって、成長市場として大きな可能性を秘めています。とくに、次のような領域で具体的な「参入機会」が考えられます:

  • 地方都市・農村の新興産業向け(スマート農業、バイオテクノロジー、観光、物流など)の資金調達・金融支援
  • デジタル決済・金融インフラ構築へのノウハウ提供や技術提携
  • 金融リテラシー教育や信用スコア構築サービスの導入
  • 農産品ブランド化、サプライチェーン金融モデルの実践など

実際、ある日系金融機関は雲南省の農村部で現地都市銀行やFinTech企業と提携し、スマート農業ローンや信用保証型マイクロファイナンスを展開しています。また、地方自治体が外資系フィンテック企業を誘致し、保険・クラウド会計・モバイルバンキング分野での共同開発モデルも増えつつあります。

とはいえ、中国地方市場独特のリスクにも留意が必要です。法規制や金融監督ルールは日々変動し、「現地リスク管理」「プライバシー保護」「市場撤退時の出口戦略」についても入念な準備が欠かせません。また、現地パートナーとの信頼構築や行政・地域社会との関係作りがビジネス成功のカギとなります。

6.3 今後の展望と日中協力の可能性

今後、日中地方金融の連携可能性はますます拡大するでしょう。日本の地方金融は、リスク管理や高齢者対応、保守的サービス提供のノウハウが強みです。一方、中国地方金融はダイナミックなデジタル化やフィンテックの浸透が進んでおり、「スマート地方金融」「支店レス金融サービス」「オープンAPI活用」など最先端技術が揃っています。

例えば、農村信用スコアの構築や農業ローンのモダナイズ、地域密着型デジタル決済システムの共同開発、金融リテラシー出前講座の展開、気候変動対応の保険・再エネ投資金融など、日中協力テーマは多岐にわたります。両国の知見や強みを組み合わせることで、お互いの課題解決・地方創生・持続可能な発展へと大きく前進できるはずです。


7. 今後の展望とまとめ

7.1 持続可能な地方金融発展への課題

中国地方における金融サービスは急速に高度化・多様化しつつありますが、「持続可能」という観点で見るとまだ多くの課題が立ちはだかっています。まず、都市農村・地域間格差を超えて、すべての市民が安心して質の高い金融サービスを享受できる体制は、まだ十分とは言えません。経済発展の恩恵が一部都市や富裕層に集中することなく、「包摂的成長」をどう実現するかが重要です。

さらに、デジタル化やフィンテック化の進展は、利用者の利便性を大幅に向上させた一方、新しい情報格差やサイバーセキュリティリスク、高齢者の取り残し、過剰貸付や投資詐欺リスクも指摘されています。持続可能な発展には、テクノロジーと共生した「人への投資=金融教育」や、弱者への包摂・リスクコントロールも不可欠です。

また、地方経済・社会全体の発展と一体で金融サービスを進化させるには、産業政策・テクノロジー政策と金融政策の連携、政府・自治体・企業・市民が協働で「地方創生×金融」をめざすガバナンス体制の強化も求められます。

7.2 政策提言と協力強化の方向性

今後の政策方向性としては、次のような視点が重要となるでしょう。

  • さらなる「金融包摂」の強化:地方農村や非デジタル層、高齢者・弱者への教育・サポート拡充ときめ細かなサービス展開
  • 地域金融×フィンテックの持続的普及:既存銀行と新興フィンテック業者の協調・連携モデルの推進、データガバナンスと消費者保護の徹底
  • 持続可能な産業・地域社会との連動:農業、観光、物流、再エネなど地域重点産業との連携金融パッケージ、地場発イノベーション支援

さらに、国際協力・日中協力も大きな柱です。日本の経験やノウハウの移転、中国市場のデジタル化成功事例の共有など、双方向の学びと実践を拡げるべき時代に入っています。実証プロジェクトや人材交流、共同研究、越境決済・投資サービスなど具体的な連携も射程に入れるべきです。

7.3 地方創生と金融サービス発展の意義

中国地方の金融サービス発展は、単なる経済の効率化や産業振興にとどまりません。金融は「人の生活」「地域コミュニティ」「新しい産業の芽」を生み出す根幹インフラであり、その改革とイノベーションは、真の意味での地方創生のエンジンとなります。
また、日中両国の知恵や経験を持ち寄りつつ、「公平」「安心」「持続可能」な地域金融モデルをどう築くかは、これからのアジア全体の課題解決や持続的発展に直結します。
金融サービスが地方に根付き、地域ごとに最適化され、すべての人々が活力と安心を手にする未来をめざし、関係者が知恵と力を合わせていくこと――それこそが今後の課題に立ち向かう最大の意義であり、私たちが目指すべき道だと言えるでしょう。


(終わりに)

本稿では、中国地方における金融サービスの発展と課題について、経済構造や政策動向、現場の最前線事例、最新テクノロジー、格差やリテラシー問題、日中連携への示唆など幅広く紹介しました。中国の地方社会における金融は今、伝統と最新テクノロジー、地域課題と大きな成長機会が交錯するダイナミックな進化の真っ只中にあります。金融サービスの更なる進化と地方創生の成否は、地域と社会全体の未来を大きく左右します。今後も日本・中国両国が手を取り合い、人々一人ひとりの生活向上と持続可能な発展を支える金融サービスづくりを、共に進めていくことが期待されます。

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