中国の農業と地域特産品のブランド化、そしてその市場戦略は、今日の中国経済とビジネス環境において非常に重要なテーマとなっています。中国はもともと広大な国土と多様な気候条件を持ち、それぞれの地域で独自の農産物や加工品が生まれ、地元の経済や住民の生活を支えてきました。近年、これらの地域特産品のブランド力を高める動きが急速に進んでいます。市場のグローバル化、消費者ニーズの多様化、そして品質への意識の高まりに対応しながら、特産品の付加価値を一層高め、国内外での競争力を強化するための戦略が全国的に練られています。
1. 中国農業の背景と地域特産品の意義
1.1 中国農業の現状と地域特産品の発展
中国は世界最大規模の農業国であり、古くから米・小麦・トウモロコシなどの主食作物はもちろん、野菜や果物、茶葉、畜産物、海産物など多様な農産品が生産されています。改革開放以降、農村経済の振興や農家の収入増加が国の大きな政策課題となり、農産物のブランド化や高付加価値化が積極的に推進されてきました。農業技術の進歩や物流インフラの改善により、遠隔地の新鮮な食材も都市部の消費者に迅速に供給されるようになり、地域の特産品が全国に広まる土壌が整ったのです。
一方で、各地方ごとに長年培われてきた特色ある作物や食品の生産技術、伝統的な加工方法などが見直され、地元自慢の「特産品」として注目されるようになりました。例えば四川省の「郫県豆瓣醬」や、黒竜江省の「五常米」などは、全国的な知名度と高評価を得ています。こうした地域特産品は、単なる農作物以上の「地域文化」としての価値も持ち始めています。
近年の中国経済全体の成長に伴い、消費者はより高品質で安全、かつ独自性のある商品を求めるようになっています。市場のニーズの変化を受けて、各地の特産品は「量」から「質」、そして「ブランド力」へと発展の軸を移しています。具体的には、包装デザインの工夫やストーリーテリング、ネットを通じた販路拡大など、従来にはなかった新しい動きが次々と生まれています。
1.2 地域特産品とは何か—定義と特徴
「地域特産品」とは、特定の地理的条件・気候風土・伝統的な生産技術などに根ざし、その地域独自の個性や品質を持った農産物およびそれを使った加工食品のことを指します。ただの「名産品」とは違い、産地、歴史、原材料、製造手法などが明確に結びついており、その土地でしか作れない、あるいは本物として認められない、という「限定性」を強く持っています。
例えば、雲南省の「プーアール茶」は、雲南の特有な土壌や気候、標高の高い山地で育てられた茶葉を、独自の発酵技術で熟成させることによってのみ、その独得な芳香や味わいが生まれます。浙江省の「龍井茶」もまた、杭州西湖付近のきめ細やかな気候や、地元の水源、伝統的な手炒り技術などが掛け合わされてこそ生み出される逸品です。
こうした「その土地ならでは」の価値が、消費者にとって魅力となり、ブランド化の際の大きな武器となります。また、地域特産品にはストーリーや文化、さらには地域コミュニティとのつながりといった目に見えない価値も含まれており、商品そのものだけでなく、「食体験」や「文化体験」を提供する可能性も秘めています。
1.3 地域特産品が地域経済にもたらす効果
地域特産品のブランド化は、産地の農家や中小企業に直接的な経済効果をもたらします。ブランド品は高価格での販売が可能となるため、一次生産者が受け取る利益も飛躍的に高まります。たとえば、陝西省のリンゴ産業では、ブランド戦略により標準品の2倍以上の価格を得ているケースも見られ、おかげで地域の生活が大きく向上しました。
また、特産品生産を中心とした雇用創出や、地元企業の育成、観光との連携による町おこしなど、様々な経済波及効果も見逃せません。貴州の茅台鎮では、名酒「茅台」によって酒造関連産業だけでなく、観光、飲食、物流、デザイン業など多彩なサービス業が発展し、町全体の経済が大きく潤っています。
さらに、特産品の知名度向上は、地域全体の「イメージアップ」やアピール力にもつながります。例えば、雲南のプーアール茶や、広西の柳州螺蛳粉などが全国放送やネットで話題となることで、「地方=田舎」というイメージから、「おしゃれでユニークな食文化の発信地」へとポジティブな認識が増え、移住や観光、新たな投資を呼び込む効果も生まれています。
2. 地域特産品ブランド化の必要性と狙い
2.1 ブランド化により得られる経済的・社会的メリット
ブランド化することで最大のメリットは「価格競争」から「価値競争」へのシフトです。大量生産の一般的な農産物は価格の上下に振り回されがちですが、ユニークな地域ブランド品であれば、価格ではなくその「品質」や「ストーリー」、「稀少性」によって差別化でき、安値競争から一歩抜け出すことが可能です。たとえば、プーアール茶や高級ミカンのような商品は、贈答用や富裕層マーケットで高値で取り引きされるなど、ブランド化が直接的な利益向上を生み出しています。
また、社会的側面でもメリットが大きいです。特産品のブランド化とともに、地元文化や伝統技術が保存・伝承され、地域コミュニティのアイデンティティ強化につながります。「私たちの町の名物だ!」という誇りが住民の間で醸成されることで、団結力や地域愛が育まれます。これにより地域全体がひとつの「チーム」となり、町おこしや大規模な観光プロモーションにも前向きに取り組む原動力となるのです。
環境やサステナビリティの観点も見逃せません。特産品のブランド化により、安易な大量生産ではなく伝統的かつ環境と調和した生産方法が見直され、生態系や農地の持続的利用が進められることが増えています。近年では「有機農産物」や「グリーン食品認証」などサステナブルブランドとしての育成事例も増えており、次世代の農業モデルとして注目されています。
2.2 中国におけるブランド化推進の政策動向
中国政府はここ数年、農業および農村振興政策の一環として「地域ブランド戦略」を積極的に打ち出しています。例えば、2014年から実施されている「農産品地域ブランド育成計画」は、地域ごとに魅力ある特産品を選抜し、マーケティング支援や証明書発行、品質管理体制の整備など多方面からバックアップしています。また、地理的表示(GI)の認定が国レベルで拡充され、現在では中国国内でも数百の特産品が公式に保護されています。
一方で、農業部門だけでなく、商務部や文化関連省庁など他分野との横断的な連携政策も強化されています。たとえば電子商取引プラットフォームと提携した販路拡大や、地元メディアとコラボした規模の大きなキャンペーンなど、「地元+技術+情報発信」という新たなモデルが続々登場しています。
この政策推進の中で特に注目すべきは「地域ブランドは地域経済の再生エンジン」という考え方です。各地の自治体リーダーや企業経営者たちは「自分の町のブランドをつくろう!」と競い合い、補助金や融資制度、専門人材の育成など、さまざまな制度や資源が導入され、地方発のイノベーションが生まれています。
2.3 地域間競争と差別化戦略の重要性
中国は広大で多様な国土を持つため、似たような特産品が複数の地域で生産されるケースが多く、特産品同士の「地域間競争」が激化しています。たとえば、リンゴや梨、緑茶などは中国全土で生産できますが、それぞれのブランドがいかに「ほかの産地と違うか」を明確に打ち出すことがカギとなります。
この差別化には、「味」や「見た目」などの商品力はもちろんですが、「物語」や「生産背景」、さらには「希少性」や「食の安全・安心」という点も大事です。たとえば、同じ「緑茶」でも、浙江の龍井茶は「皇帝が愛したお茶」という伝説や、特定の清流の水で育つストーリー、伝統的な手炒り製法などがアピールポイントとなっています。
差別化戦略の構築には、市場調査や競合分析、消費者ニーズを的確に読み取る力が不可欠です。地元の強みと消費者トレンドをしっかりと結びつけることで、ブランド価値の最大化が図れます。また、クオリティを徹底管理しつつ、消費者への「共感」や「安心感」を訴えかけるマーケティング活動も今後ますます重要になるでしょう。
3. ブランド構築のプロセスと戦略
3.1 地域特産品の価値発見とストーリーテリング
地域特産品のブランド戦略において近年特に重視されているのが、「なぜその品がその地域で生み出されるのか」、つまり「ストーリー」の発掘と伝達です。たとえば、雲南省のプーアール茶の場合、「千年続く古茶樹の森」「雲南の太陽と霧の絶妙バランスで生まれる唯一無二の発酵茶」など、産地の気候や歴史、文化人類学的背景を丁寧に掘り起こし、商品に厚みを加えることができます。
また、現地の農家や職人さんたちのインタビュー、世代を超えた伝統の継承物語など、「人」に焦点をあてる手法も有効です。消費者は単なる「モノ」としての農産物だけでなく、「働く人々の思い」「家族の物語」「伝統を守る挑戦」といった物語にも共感し、ブランドへの愛着や信頼を育む傾向があります。
そして、こうしたストーリーテリングは、パッケージやPR動画、SNS投稿など多様なメディアを通じて発信されます。特に若い世代の消費者は、インスタグラムやショート動画などを活用して商品とその背景の魅力を知るため、物語を「写真」や「映像」で表現することが極めて重要です。実際に、四川省の香辛料ブランド「郫県豆瓣醤」は、TikTok(抖音)での農村ドキュメンタリーや料理動画を通じて一気に知名度を高めた実例などもあります。
3.2 品質管理と知的財産権保護(地理的表示など)
ブランド構築にとって、「品質管理」は基礎中の基礎です。基本的な農薬・化学肥料の使用制限、有機JASや中国国家認証機関による安全・安心マーク取得など、第三者機関の認証を得ることが消費者からの信頼獲得に直結します。また、出荷段階のトレーサビリティ設計、バーコード管理やスマホによる生産記録の可視化も、現代中国の特産品ブランドでは必須条件となりつつあります。
さらに中国では地理的表示(GI, Geographic Indication)の取得と権利保護が近年急速に進められています。たとえば「西湖龍井茶」「阿克蘇林檎」「寧夏枸杞」など、国によって公式認定を受けた地域ブランドのみがその名称使用を許され、「偽物」や「模倣品」の流通を法的に抑制できます。これは日本の「GI」や「地域団体商標」と似た仕組みです。
知財保護の強化により、生産者の利益が守られるだけでなく、市場全体の健全化や高価格帯へのシフトもしやすくなります。ただし、管理体制の徹底や登録審査の厳格化、あるいは海外への知財申請など、解決すべき課題も多く残っています。たとえばプーアール茶の場合、海外での模倣品対策として、EUや日本でのGI登録を積極的に行った好事例があります。
3.3 パッケージ、デザイン、ネーミング戦略
ブランドイメージに強く影響するのが「パッケージ」「デザイン」「ネーミング」の工夫です。中国の地域特産品は今、海外ブランドに負けない「おしゃれ感」や「高級感」、そしてその産地らしい「和み」や「自然さ」を意識したデザイン戦略が重要視されています。たとえば、貴州の高級酒メーカーは、伝統的な陶器ボトルと現代的なラベルアートを組み合わせた独自のパッケージで国内外の消費者を魅了しています。
パッケージだけでなく、商品名(ネーミング)の工夫も大切です。「◯◯村の手作り蜂蜜」「黄山の清水米」のような、「どこで・誰が・どうやって」作ったか一目で分かるネーミングは、生活者の安心を呼び起こすポイントになります。また、日本や欧米など海外市場に向けては、現地語への翻訳や分かりやすいロゴデザインなど、「グローバル基準」のブランディングが重要になっています。
デザイン戦略の一例として、雲南のプーアール茶ブランドでは、現地の少数民族文化の伝統文様をパッケージに取り入れ、その土地ならではの文化的世界観を表現しています。こうした「見た目」からのアピールは、現代の消費者が「SNS映え」や「ギフト需要」を重視するなかで、ますます重要な差別化要素となっています。
4. 市場戦略と流通チャネルの最適化
4.1 オンライン市場とEコマースの活用
中国の特産品販売マーケットは近年、Eコマースの急成長によって革命的な変化が起きています。タオバオ、京東、拼多多など、巨大なオンラインショッピングプラットフォームを通じて、全国の消費者は手軽に地方の特産品を取り寄せることができます。特に都市部では「ご当地グルメ宅配」や「高級ギフト用詰め合わせ」などの新サービスも次々と生まれ、伝統的な市場販路から大きく進化しました。
さらに、ライブコマースやショート動画の流行も、この流通変革を加速させています。例えば、山東省の果物農家がTikTok(中国名:抖音)でライブ中継しながら商品を説明し、その場で注文を受けるスタイルが当たり前になってきました。消費者との双方向コミュニケーションは、信頼度や購入意欲アップにもつながっています。
こうしたオンライン市場の発展は、地方の中小企業や農家にとっては大きなチャンスです。限られた販売先、低価格競争に悩んでいた生産者も、Eコマースを使うことで全国規模の「販路」を一気に確保できるのです。また、販売データや消費者のフィードバックを速やかに収集できるため、商品のブラッシュアップやマーケティング戦略の最適化にも役立っています。
4.2 伝統的市場およびオフライン販売との連携
オンラインへのシフトが進む一方、伝統的な市場や直売所、百貨店などのオフラインチャネルの重要性も依然大きいのが中国市場の特徴です。とくに高齢者層や地域コミュニティとのつながりを重視する顧客層は、対面販売や試食体験のできるリアル店舗を重んじています。
オフライン販売では、季節イベントやフェア、道の駅、都市の百貨店特設コーナー、あるいは直営レストランなどの展開が効果的です。たとえば、上海市内の高級スーパーでは「全国有名特産品フェア」などが定期開催され、山西の黒酢や吉林の高麗人参といった地方名産品が直接消費者の目に触れる機会が拡大しています。
オンラインとオフラインの融合(O2O戦略)によって、消費者はネットで情報を得て、店頭で手にとって購入、といった行動パターンが一般的になっています。生産者や卸売業者は、どちらのチャネルも活用し、ターゲットごとに最適な販売戦略を展開していく必要があります。
4.3 国内外市場(特に日本市場)への進出方法
中国国内だけでなく、グローバル市場、とりわけ日本をはじめとしたアジア主要国への進出も多くの特産品ブランドがチャレンジしています。その際は、現地消費者の味やデザインの好み、衛生基準や食品表示法、流通チャネルの違いなどを十分理解したうえで、戦略をカスタマイズすることが重要です。
例えば、日本へは加工度の高い製品や、ギフト需要にマッチした高級志向の商品、また健康食品やオーガニック食品が受け入れられやすい傾向にあります。中国でも人気の「寧夏枸杞(ゴジベリー)」や「甘粛省産の高原蜂蜜」は、品質保証やオーガニック認証を取得し、日本の大手スーパーやオーガニックショップで販売を拡大しています。
また、日本市場へのアクセスを広げるためには、地方自治体やJETRO等の日本関連機関との連携、現地パートナー企業と共同でのブランド展開、繊細なマーケティングやプロモーション活動が欠かせません。例えば、上海の国際食品見本市や、東京・大阪の「中国地域特産品商談会」への参加などを通じ、実際の輸出成功事例が着々と増えています。
5. 成功事例紹介:中国の代表的な地域特産品ブランド
5.1 貴州の茅台酒ブランド成功要因
貴州省仁懐市茅台鎮で生産される「茅台酒(マオタイ)」は、世界的にも知られる中国白酒(バイチュウ)のトップブランドです。その成功の秘訣はまず、長い歴史と伝統製法にあります。茅台酒は数百年の歴史を持ち、地元の虹色コウリャンや独特な湧き水、固有の微生物を使った伝統的な発酵・蒸留技術が特徴です。この「唯一無二の風味」と「伝説的なストーリー」がブランド価値の源泉となっています。
ブランド構築においては、品質管理の徹底がカギとなりました。全ての生産工程にきめ細やかな管理基準を設け、熟練職人による判断が随所で導入されています。また、「茅台酒でなければその味は出せない」といった希少性と、徹底した地理的表示資格の管理により、「本物」と「偽物」の線引きも明確です。
販売戦略にも特徴があります。茅台酒は、用途も「贈答用」「ハレの日の特別酒」として高価格帯で展開し、限定品や記念品などプレミア商品で希少価値を訴求しています。さらに、国内富裕層だけでなく、海外出張や国際会議でも中国政府の「国賓酒」として供され続けるなど、権威あるプロモーションがブランドイメージの向上に大きく役立っています。
5.2 陝西のリンゴ産業のブランド形成
中国陝西省は、リンゴ生産量・品質共に中国一を誇る産地として有名です。近年のブランド化にあたり、特に「延安リンゴ」や「洛川リンゴ」など地域名を冠したブランディング戦略が重視され、産地イメージ向上のための品質表示・管理体制の強化が進められました。各農家は協同組合単位での生産管理や販売促進を行い、「産地の顔」としての統一感を持たせることにも成功しています。
また、マーケティング戦略にも多彩な施策が導入されています。たとえば、秋の収穫祭や観光果樹園での現地体験型イベント、SNS連動のプレゼントキャンペーン、都市部の百貨店での期間限定販売会など、「消費体験」と「物語」を前面に出したPR活動も効果を上げています。食味の違いや生産者の工夫、食卓での楽しみ方など細やかな情報を消費者に伝える工夫も評価されています。
国際市場進出では、日本や東南アジアへの輸出を開始し、現地語のパッケージや保存技術の改良、有機認証の取得などにも力を入れています。こうした多面的な取り組みが、単なる量産型フルーツから「健康・安心・おいしさ」を兼ね備えた高付加価値リンゴへの進化に繋がりました。
5.3 雲南のプーアール茶の国際ブランド化
雲南省のプーアール茶は、同省独特の気候・地形を活かした発酵・熟成茶として世界中の“お茶ファン”を魅了しています。ブランド化の成功ポイントの一つは、古樹茶林など地元独自の生態系の活用と「手摘み・伝統製法」へのこだわりにあります。これが世界的な「オーガニック・サステナビリティ志向」の市場ニーズとも見事にマッチしました。
また、国際ブランド化にあたっては、EUや日本、台湾など各国の食品安全基準やオーガニック認証・地理的表示認可の取得、現地バイヤーとの協力体制の整備に注力。おしゃれで高級感あふれるパッケージや、英語・日本語対応のECサイトも積極的に展開し、現地消費者向けに合わせたメッセージ発信やストーリーテリングを工夫しました。中国伝統文化のPRや観光産業との連携による体験型プロモーションもブランド価値向上に寄与しています。
SNSや口コミを活用した海外消費者とのダイレクトなコミュニケーションも、ブランド拡大に大きな役割を果たしました。実際に、プーアール茶の愛好家団体やティーサロン、健康志向の食品セレクトショップとのコラボレーションにより、「品質・健康・伝統文化」の3本柱を訴求し、着実に固定ファンを拡大しています。
6. 日本市場への輸出拡大における課題と対応策
6.1 日本消費者の志向と規制への適合
中国の特産品を日本市場で展開する際には、日本消費者の独特な志向や品質意識、そして法的規制への対応が不可欠です。日本市場は食の安全・衛生、成分表示、アレルギー対策などが非常に厳しく、現地の基準をクリアしない限り流通にのせることができません。例えば、原材料の農薬残留や添加物、輸送途上での衛生管理など、輸出前の「きめ細やかな準備」が求められます。
また、日本の消費者は「商品の物語」や「安心・信頼感」、さらには「見た目の美しさ」「ギフトとしての高級感」を重視する傾向があります。たとえば、ただのハチミツやお茶でも「◯◯村の天然水から採取」「家族経営の農園で丁寧に収穫」など、ストーリー性や生産者の顔が見える商品に高評価を与えます。この“ブランド消費”を意識した商品設計がとても大事です。
そして、文化や味覚の違いも無視できません。中国現地では大人気でも、日本では好ましく思われにくい香辛料や味、匂いの強い食材の場合は、消費者テストやサンプル試食会などを事前に実施し、微調整を行う必要があります。特別な食文化体験を提供しつつ、日本人の舌にもマッチする絶妙なバランスが、輸出拡大の成否を分けるポイントと言えるでしょう。
6.2 品質保証・認証の取得
日本市場では公的・民間の各種認証取得が販路拡大のカギとなります。有名な例は「有機JAS認証」「ISO22000(食品安全)認証」など、日本の食品流通業界が求める基準に合わせた生産体制の確立です。たとえば中国雲南のプーアール茶ブランドは、有機JASをはじめ、現地政府や第三者機関の調査・監査をクリアし、日本のスーパーやネットショップでの販売を拡大させることに成功しました。
さらに、日本独自の輸入検査や、自治体・協会主催による「プレミアム・チャイナ・ブランド」認定の取得も効果的です。東京・横浜など大都市圏の高級百貨店への出店、こだわりグルメセレクトショップとの提携にはこうした品質保証ラベルの取得が不可欠です。
一方、手間やコストがかかるというデメリットも避けて通れません。認証取得のための専門コンサルタント雇用、全従業員への品質教育、工場や物流センターの衛生管理体制の整備など、多岐にわたる投資と人材育成が成功の秘訣となります。実際、「高品質で信頼できる」ブランドは、市場での定着・継続的成長を果たしています。
6.3 日本パートナーとの協働と現地プロモーション
日本市場で長期的にブランド価値を維持・向上していくためには、信頼できる現地パートナーとの連携が不可欠です。輸入代理店や卸売業者、小売業者とのパートナーシップを築くことで、流通や販売、消費者対応まで一貫して管理できます。とくに日本企業は、品質・納期・顧客対応などに極めてシビアなため、パートナー選定と密なコミュニケーションがブランド維持のカギとなります。
現地でのプロモーション活動も重要です。たとえば、百貨店の催事出店や、現地食品見本市への出展、メディアとのタイアップ、SNSを使ったインフルエンサー発信など、ターゲットや商品特性に合わせたプロモーション戦略を展開することで、ブランドイメージを浸透させやすくなります。例えば、東京・大阪で開催された中国特産品フェアでは、ライブ試飲会や職人による実演販売が好評を得ました。
また、日本の消費者団体や料理研究家との協働、テレビ・雑誌などマスメディアへの露出拡大も効果的です。口コミやネットレビューで信頼度を高め、リピーター客層を拡大していく地道な“ファンづくり”が、ブランド基盤の強化につながっています。
7. 今後の展望と日中の協力可能性
7.1 技術・マーケティング分野での日中連携
今後、中国の地域特産品ブランドがグローバルに発展するうえで、日本との技術・マーケティング連携は極めて有望です。具体的には、品質管理や生産プロセスの自動化、効率化技術(スマート農業、IT活用など)で日本の先進ノウハウを中国が取り入れることで、双方の生産力や安全性が大幅に向上します。こうした連携モデルは、すでに一部大規模農場や有機生産団体で実証されています。
また、消費者動向や小売戦略に関しても、日本式の「おもてなし」「サンプル体験型イベント」「ストーリー重視のプロモーション」など独自ノウハウは、中国企業にとって高い学習価値があります。逆に、日本の企業は中国のダイナミックなネット販売、ライブコマース、インフルエンサーマーケティングや大規模販路開拓のテクニックを吸収することで、両国が補完し合い新たなマーケットを切り開く可能性があります。
さらに、地理的表示や知的財産権の保護、品質認証取得の分野でも、日中公共機関や業界団体との共同セミナー、技術交流、視察・実地研修などを通じて幅広い連携が期待されます。こうした協力関係の中から、真の意味での「安心・安全な日中ブランド」が創出されることでしょう。
7.2 持続可能な発展と地域コミュニティの活性化
これからの地域特産品ブランドは、単なる経済価値の追求だけでなく、「持続可能な発展」と「地域コミュニティの活性化」にこそ本質的な価値があるとされています。農村の人口流出や高齢化、伝統技術の継承問題など、日中共通の課題を解決するためにも、ブランド化の取り組みを「地域再生」「環境保全」とつなげて推進する必要があります。
実際に、中国の一部地方では、特産品ブランドプロジェクトを通じて若者のUターン就業が増えたり、伝統工芸や民俗文化イベントが観光との相乗効果で盛り上がった例も少なくありません。また、日本の伝統市場や朝市、町おこしイベントとの交流により、地方同士の国際ネットワークも着実に広がっています。
今後は、DX(デジタルトランスフォーメーション)やIoT活用による持続可能な生産管理、再生可能エネルギー活用型の農業など、先進的・革新的な持続可能モデルの開発も日中連携で加速する可能性が高いでしょう。これにより「グリーン食品」「エシカルブランド」といった新分野への拡大も現実味を帯びています。
7.3 デジタル化とグローバル化による新たな展開
中国の特産品ブランドは今、デジタル化とグローバル化の波にもまれながら、新たな成長機会を獲得しようとしています。Eコマースや越境EC、SNSインフルエンサーマーケティング、クラウドファンディングなど、あらゆるデジタルツールを駆使することで、国内外のあらゆるターゲット層へのリーチが可能となりました。
また、グローバル市場では、国ごとに異なる消費文化や法規制、多様なニーズに合わせた柔軟な商品アレンジも求められます。たとえば、日本向けには「ギフト需要対応パッケージ」、欧米向けには「オーガニック認証・ビーガン対応」など、より戦略的な商品開発力が必須です。
地域特産品ブランドはもっと大きなビジョンを持ち、中国の「食文化」や「地域資源」の魅力を世界中に発信していくべきです。そのためには、技術革新・マーケティング革新の双方を融合させ、地方発のグローバルブランドをどんどん生み出していく、そんな時代に突入しています。
まとめ
中国の地域特産品ブランド化と市場戦略は、単なる「おいしいもの」「珍しいもの」を売る時代から、「土地文化の誇り」「安心・安全の証」「持続可能なコミュニティづくり」へと大きく進化しています。そして、Eコマースの発展やグローバル市場への展開、品質やストーリーへのこだわりなど、さまざまなチャレンジが続いています。日本市場への進出をはじめ、日中間の協力は今後ますます重要となるでしょう。これからも、ブランド化を核に新しい産業・地域社会づくりが拡大し、東アジア全体へ波及していく未来が大いに期待されます。