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   持続可能なサプライチェーンの構築とその事例

中国は世界でも有数の経済大国であり、製造業や物流、サービス業などあらゆる分野で急速な発展を遂げています。その一方で、急速な経済成長に伴い、環境問題や資源不足といった課題も浮き彫りになってきました。特にここ数年、“サステナビリティ”という言葉がビジネスの世界で大きな注目を集めており、中国国内でも「持続可能なサプライチェーン」の構築という新しい流れが本格的に起こり始めています。本記事では、中国での持続可能なサプライチェーン実現の動きと、具体的な事例を踏まえて詳しく紹介していきます。日本企業やグローバル企業にとっても参考になる内容を、できる限りわかりやすく掘り下げて説明します。

目次

1. はじめに

1.1 研究の背景

ここ数十年、中国の産業は圧倒的なスピードで拡大し続けています。しかしその背後で、深刻な大気・水質汚染や、資源の過剰消費、廃棄物の問題が社会問題となってきました。これまではコスト削減や生産効率の追求ばかりが優先されてきましたが、世界中の消費者の価値観が多様化し、「環境に配慮した商品」「倫理的なサプライチェーン」という考え方が浸透しつつあります。中国でもこうした流れに合わせて、ただ安く大量生産するだけではなく、より長期的な視点で「持続可能性」を重視したビジネスモデルへの転換が求められるようになりました。

1.2 目的と重要性

本記事の主な目的は、中国における持続可能なサプライチェーン構築の必要性や実現方法、具体的な事例について、日本の読者に伝えることにあります。サプライチェーン全体が環境・社会への責任を問われる時代となり、メーカーも消費者も今まで以上に「どのように作られたか」「どこから来たか」「きちんと透明性があるか」に注目するようになっています。日本企業にとっても、中国の動向は無視できないものです。なぜなら日本は中国に多数のサプライヤーや生産拠点を依存しているからです。中国で実際にどんな取り組みや変化が進んでいるかを知ることで、今後のビジネス展開やリスク管理にも大いに役立つでしょう。

1.3 本記事の構成

これから、まず「持続可能なサプライチェーン」の基礎となる概念と原則から説明します。次に、中国の現状、政策、企業のトレンドなどを具体的に分析。続いて、どのように持続可能なサプライチェーンを構築していくのか、その実務的なプロセスや注意点を挙げていきます。そして、中国国内外で実際に成果を上げている企業の具体的な事例紹介を通じて、理想論ではなくリアルな改善やチャレンジを明らかにします。最後に、これからの展望や解決すべき課題、日本企業への示唆などについてまとめます。

2. 持続可能なサプライチェーンとは

2.1 定義と概念

「持続可能なサプライチェーン」とは、単に製品が消費者に届くまでの物理的な流れだけを指すのではありません。原材料の調達・加工・製造・物流・販売・消費・廃棄まで、サプライチェーンのすべての段階で環境や社会に配慮し、長期的な視点に立った経営をしていく考え方です。たとえば、森林伐採による環境破壊リスクの高い木材や、不適切な労働環境で作られた製品を使わない、温室効果ガスの排出量削減のために仕組みを変えるなど、幅広い配慮が求められます。

2.2 主な要素と原則

サステナブルなサプライチェーンにはいくつかの中核的な要素があります。例えば、(1)環境インパクトの最小化(省エネルギー・リサイクル・廃棄物削減など)、(2)社会的責任の履行(公平な労働環境、児童労働の排除、現地コミュニティへの貢献)、(3)経済的な持続可能性(全体のバランスが取れて無理なく続けられる体制)が挙げられます。そして、最も大切なのは「透明性」と「トレーサビリティ」です。つまり、消費者や関係者に対して原材料調達の流れや工程を正しく公開し、問題のある部分があればすぐに対策を講じられる柔軟性・誠実さも重要です。

2.3 利益と課題

持続可能なサプライチェーンを導入するメリットは多岐にわたります。まず、大気・水質汚染などの負荷を減らせるため、企業イメージの向上や国際基準(ISO14001等)への対応がしやすくなります。また、最近では投資家や消費者がESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を重視するため、資金調達や市場展開にもプラスに働く事例が増えています。ただし、一方でサプライチェーン全体を見直し効率化するための投資や、関係各所との協調・情報公開などでコストが一時的に増えるケースもあり、現場では「持続可能性」と「利益」のバランスを取るのが意外と大きな課題となっています。

3. 中国における持続可能なビジネスの現状

3.1 環境問題の概要

中国は、急速な工業化と都市化によって“世界の工場”と呼ばれるほどの生産力を誇る一方、大気・水質・土壌の汚染が深刻な社会問題となっています。北京や上海などの大都市でのPM2.5問題、大規模な工場排水による河川汚染、化学物質による土壌劣化など、根深い環境課題が絶えません。さらに、地方都市や農村部では廃棄物処理や違法伐採、違法採掘などのトラブルも多発しています。こうした背景から、持続可能なサプライチェーンが本格的に求められてきたのです。

3.2 政府の政策と規制

近年、中国政府は環境保護について非常に厳しい政策を打ち出すようになっています。たとえば、「十三五計画」や「十四五計画」では“グリーン発展”が重要テーマとなり、製造業を中心に省エネや排出削減、生態系保護分野での目標値が明確に定められました。また、2020年以降は「カーボンピークアウト・カーボンニュートラル」政策を打ち出し、企業にも具体的なCO2排出削減計画やリサイクル率の報告、環境基準の厳守を義務付ける動きが進んでいます。こうした規制によって、企業経営の意識も少しずつ変わり始めています。

3.3 企業の取り組みとトレンド

中国国内の大手IT、製造、食品、アパレルなどさまざまな業界で、サステナブルなサプライチェーンを意識した動きが拡大しています。たとえば、家電業界の「美的」はサプライヤー管理全体をクラウドで可視化し、環境データをリアルタイムで監視する仕組みを開発。インターネット大手の「テンセント」は、物流やデータセンターのエネルギー消費削減プロジェクトを推進しています。小売やアパレル分野でも、フェアトレード認証の素材使用や「グリーン商品」の拡充、トレーサビリティ技術の導入事例などがどんどん増えてきています。

4. 持続可能なサプライチェーンの構築プロセス

4.1 ステークホルダーとの協力

サプライチェーンが“持続可能”であるためには、自社だけでなく関連する全てのステークホルダー——つまり原材料供給者、運送業者、下請けメーカー、物流会社、流通業者、最終消費者に至るまで、全員が同じ方向性を持ち、協力体制を構築することが大切です。例えば、原材料を調達する時点で「レインフォレスト・アライアンス認証」や「FSC認証」など、国際的に認められた基準を導入し、サプライヤーにもその遵守を要求します。こうしてサプライチェーン全体に環境・社会意識を根付かせるのです。

一部の先進企業では、調達先の工場監査や現場訪問、環境負荷や労働環境の独自評価制度を積極的に実施しています。この結果、基準に達しない業者には改善を求めたり、場合によっては取引停止なども辞さない姿勢を見せています。また、現地で働く労働者や地域社会の声を聞く「ダイアログ会議」を開催したり、NGOや地域住民とパートナーシップを組むケースも増えてきました。企業が“良心的”であることが信用と競争力につながることが明確になっています。

自治体や業界団体、海外のパートナーとも連携し、共同の研修や情報交換を行うことも有効です。特に多国籍企業の場合、各国・各地域で基準やリスクが異なるため、現地の専門家の意見を積極的に取り入れ、グローバル基準と現場の現実をうまく両立させる取り組みも始まっています。こうしたマルチステークホルダーアプローチが、これからの標準となりつつあります。

4.2 データと透明性の確保

サプライチェーンの全過程を“見える化”するためには、正確なデータを収集・分析し、それを分かりやすく公開するシステムが欠かせません。中国でもブロックチェーン技術を駆使したサプライチェーン管理が注目されており、各企業で製品の履歴や原材料の出所、CO2排出量などのデータをリアルタイムで蓄積・公開できる仕組みがつくられています。

たとえば食品分野では、製品一つひとつにQRコードをつけて、消費者がスマートフォンをかざすだけで全ての履歴情報や生産者の証明を確認できるサービスも導入されています。アパレル大手の「アンタ」は、工場から店舗まで全工程の省エネ・CO2排出状況を毎月公開。どのお客様でもウェブサイトで確認でき、責任ある消費を後押ししています。このようなイノベーションが業界全体へ広がることで、「不正な商流」や「隠れた環境負荷」を防ぐことができるのです。

もちろん、こうした透明性の確保には膨大な手間とコストがかかりますが、長い目で見れば信用とブランド力を大きく高める投資と言えるでしょう。また、中国ではデータセキュリティやプライバシーに関する法規制も強化されているため、ITベンダーや第三者機関の協力のもと、個人情報や機密データの扱い方にも慎重さが求められます。

4.3 効果的なリスク管理

サプライチェーンの持続可能性を考えるうえで「リスク管理」は避けて通れません。気候変動、自然災害、資源高騰、サイバー攻撃、不正調達など、多面的なリスクが存在します。中国では過去に大規模な洪水やエネルギー不足が発生し、一気に生産ストップ・納期遅延などが多数起きました。こうした経験から、本社だけでリスクを判断するのではなく、現場ごとに“事前リスク分析”を徹底し、複数の調達先を持つ「冗長化」や緊急時のマニュアル整備が進められています。

最近では、A.I.を活用して需給変動の予測や物流最適化など、データに基づくリスク低減の実験も行われています。また、人権問題や環境事故といった“潜在的なリスク”への早期発見も重視されており、社外の監査機関やNGOからの指摘にも迅速に対応する企業が増えています。こうして一つ一つのリスクに“ダブルチェック体制”を作ることで、万が一の場合もサプライチェーン全体がダウンしない堅牢さが求められる時代となっています。

さらに現地で「リスク共有保険」を活用したり、重要なサプライヤーとは長期契約を結び、安定的な資材供給や価格交渉を重視する企業も増加中です。単なるコスト・スピードだけでなく、危機管理への未然準備とリカバリーの早さが、中国の新しいサプライチェーンの強みとなりつつあります。

5. 事例研究:成功した持続可能なサプライチェーン

5.1 企業Aのケーススタディ(ハイアール:家電大手のグリーンサプライチェーン)

中国最大の家電メーカー・ハイアールは、いち早く「グリーンサプライチェーン」戦略を全社的に導入しています。まず同社は、主要部品のサプライヤー選定時に、ISO14001環境認証やエネルギー消費基準をクリアしていることを必須条件に設定。すでに700社以上もの取引先の工場を現地で監査し、違反が見つかれば契約の見直しや改善計画指導まで行っています。

ハイアールの特徴は、サプライチェーン全体での省エネ・CO2削減指標が社内全体に共有され、定期的な「エコ優秀賞」表彰制度によって社員・パートナーのモチベーションも上げていることです。自社の大型工場では太陽光発電や再生可能エネルギー設備も積極的に導入。スマート家電でのエネルギー効率データをリアルタイムで追跡し、設計から廃棄工程まで「見える化」しています。

また、同社はサプライチェーンに係る温室効果ガスや有害廃棄物の排出データを、四半期ごとに公式ウェブサイトで一般公開。その透明性の高さから、欧米や日本企業との共同ブランド開発や、サステナブル認証商品の輸出でも大きなプラスとなっています。こうしたロールモデルは、中国国内の家電業界全体にも波及し始めており、“コストだけを重視しないビジネス”の重要性を示しています。

5.2 企業Bのケーススタディ(アリババ:eコマースのリサイクル物流)

中国最大の通販プラットフォーム・アリババは、爆発的な取扱量による“物流の環境負荷”が大きな課題となっていました。2021年からは「グリーン物流プロジェクト」を立ち上げ、自社及び提携宅配会社に対し、「再利用可能梱包材」の積極採用、「電動配送車」の導入を一気に拡大しました。これにより、年間1,000万個以上の梱包箱をリサイクル素材に切替、CO2排出量を大幅削減することに成功しています。

また、アリババグループは、商品のトレーサビリティ強化のために「区块链(ブロックチェーン)」基盤の追跡システムを自社開発。消費者が購入前に製造元や輸送経路、各工程の温室効果ガス排出量までウェブ上で簡単に確認できる仕組みを全商品に普及させています。お客様の「安心・安全」志向を満たす先進的な取り組みとしても注目されています。

さらに、農村でのCO2削減や環境意識の向上策として、「エコポイント」の贈与や配送員と地元住民による広告キャンペーンも展開中。2023年にはリサイクル推進成果が高く評価され、中国環境保護局からも表彰を受けました。アリババの事例は、中国におけるサステナブル物流事業の新しいモデルとなっています。

5.3 企業Cのケーススタディ(アンタ:アパレル大手の持続可能購買)

スポーツウエアメーカー「ANTA(アンタ)」は、中国国内大手アパレル企業の中では先駆けて「持続可能な原材料調達」を本格導入しています。同社が率先して行ったのは、綿花・ウールや合成繊維の調達先を公表し、国際認証基準(例:グローバル・オーガニック・テキスタイル基準(GOTS)、責任あるウール基準(RWS)など)を全サプライヤーに義務付けたことです。また、工場や縫製現場で働く労働者の安全・権利を守るため、第3者機関の常時監査体制を設け、「奴隷労働ゼロ」宣言を明確に発信しています。

ANTAがユニークなのは、“サステナブル商品”を「企業イメージアップ商品」として打ち出すだけでなく、一般向け商品にも同様の原材料ルールを徹底している点です。また、全体のエネルギー管理についても自社システムを開発し、毎年の温室効果ガス削減や水資源節約の具体的数値を年次報告書で公開しています。

さらにはリサイクルブランド「ANTA GREEN」シリーズを立ち上げ、回収した古着を新しいスポーツウエアに再生するサイクルも拡充中です。これら一連の取り組みが高く評価され、同社は世界自然保護基金WWFや国連グローバル・コンパクトにも加盟。中国発サステナブルアパレルのリーダー的存在として、海外市場でも注目の的となっています。

6. まとめと今後の展望

6.1 主要な成果

ここまで紹介してきた通り、中国における持続可能なサプライチェーンの取り組みは、以前の“安価大量生産”重視モデルから大きく舵を切っていることが分かります。政策面・企業の意識変化・最新テクノロジーの導入により、透明性・リスク管理・協力体制など各側面で着実な成果もあがっています。具体的には、工場やサプライヤー監査の徹底、トレーサビリティ強化、省エネや再生可能エネルギーの利用拡大、そしてデータ開示と監督体制の強化などが進んでいます。これらの動きが中国国内外に広がれば、より公平で持続可能なグローバルサプライチェーンの実現に一歩近づくでしょう。

6.2 課題と解決策

一方で、全ての企業・業種が順調に進んでいるわけではありません。中小企業の資金・技術的な課題や、一部地域の意識不足、現場レベルでの監督体制の未整備など、乗り越えるべき壁も多く残っています。また、環境規制が強化されることで一時的なコストアップや業務負荷増加を心配する声も根強いです。今後の解決策としては、(1)政府と民間の支援・補助強化、(2)ステークホルダー全体での知見共有、(3)スマート技術の一層の活用、などが挙げられます。特に中小企業向けの教育やコンサルティングの普及が急務です。

6.3 今後の研究方向

これからのサステナブルなサプライチェーン研究・実践の方向性としては、単一企業や単一業界の枠を越えた「水平連携」や「地域一体型」の仕組み作りがカギとなるでしょう。また、労働環境や人権、循環型経済(サーキュラーエコノミー)など新たなテーマも重要性を増していきます。テクノロジーの更なる進化――AI、ビッグデータ、IoT、リサイクル技術の融合活用――も欠かせません。加えて、消費者や投資家自身が「買う」「支援する」という立場で環境や倫理を評価する文化の浸透も、今後のサプライチェーン進化の大きな推進力となります。

6.4 まとめ・終わりに

中国のサステナブルサプライチェーンは激動と変革の真っ只中にあります。日本や世界中のビジネス関係者にとっても、中国での実例や現場の知恵は非常に貴重なヒントとなるはずです。今後も中国の経験・成長事例を積極的に学びつつ、自社や地域での持続可能経営に応用していくことが大切です。そして何より、一人一人の「未来を良くしたい」という意識が企業や社会を次の時代へと導いていきます。中国も日本も世界も、“サステナブル”というキーワードを合言葉に、協力しあえる時代がやってきているのではないでしょうか。

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