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   中国の観光産業の発展と経済成長における役割

中国の観光産業は、長い歴史とともに、近年急速な発展を遂げてきました。中国と聞くと、まず広大な国土や13億人を超える人口、独自の伝統文化と現代化が共存するダイナミズムなどをイメージする方が多いでしょう。その一方で、中国は観光産業の成長でも世界の注目を集めています。今回は、中国の観光産業がどのように発展してきたのか、そしてこの産業が中国経済にどんな影響や役割を持っているのかについて、歴史や現状、政策や今後の展望をさまざまな角度から分かりやすくご紹介します。未来を担う観光ビジネスのリアルな姿と日本との関係についても詳しく触れていきます。


目次

1. 中国観光産業の歴史的概要

1.1 古代から近代における観光活動の萌芽

中国の観光という概念は現代になって生まれたものではなく、2000年以上前の昔から人々の間で親しまれてきました。たとえば、古代には「游山玩水(ユサンワンスイ)」という言葉がありました。意味はまさに「山や川を巡って自然美を楽しむ」という行為です。宋や唐の時代には、有名な文学者や詩人たちが名勝を巡って詩やエッセイを残し、旅行記も数多く誕生しています。観光が特別な娯楽であったのは確かですが、すでに「地方の文化や自然を知る行為」として社会に根付いていました。

元や明の時代になると、従来の参詣や学問、官僚の転勤・赴任を兼ねた移動が増加して、全国を縦横に移動する人が現れます。古代の道路網だった「シルクロード」や「運河」も、交易だけでなく地域の観光・文化交流のルートとなりました。長江や黄河といった大河沿いの都市や村落には、今でも歴史的な観光地が多く残されています。

清朝末から民国期には、西洋の旅行文化やホテル文化が初めて中国に導入され、都市間の鉄道開通が観光移動を一段と容易にしました。当時の外国人旅行者による中国旅行記も多数残されており、北京や上海、杭州、蘇州などが既に国際的な観光地となりつつありました。

1.2 改革開放以降の観光産業の台頭

1978年、鄧小平による改革開放政策の導入は、中国経済全体に大きな変化をもたらしましたが、観光産業も例外ではありませんでした。それまで海外旅行がごく一部のエリートや政府関係者に限定されていたのが、徐々に一般国民にも門戸が開かれていきます。また、外国人観光客の受け入れも国策として本格化し、「観光を通じて外貨を獲得し国際交流を進める」という国家戦略が始まりました。

1980年代には、北京や上海、西安、桂林など、世界遺産や有名な観光地を中心に大規模な観光開発が進みました。ホテル、観光バス、ガイドサービス、飲食施設といったインフラやサービス業が急速に整備され、観光業全体が産業としての形を成し始めました。また、1990年代になると「黄山(安徽省)」や「九寨溝(四川省)」など、自然や文化を活かした観光地が一気に脚光を浴びるようになりました。

国民の生活水準向上とともに、国内旅行も一般大衆化します。鉄道や高速バスの発達、航空路線の拡充、観光地周辺への投資拡大が顕著になり、「春節」や「国慶節」といった大型連休には、国内旅行客が数億人規模で移動する社会現象が生まれました。

1.3 2000年代以降の観光インフラの発展

2000年代に入ると、中国の観光インフラはかつてないほどの高速発展期を迎えます。まず、国内のハイウェイや高速鉄道ネットワークが爆発的に拡大し、北京〜上海間をわずか4〜5時間で移動できる高速鉄道(中国版新幹線)は、観光客の大移動を可能にしました。今では中国全土の主要都市が高速鉄道や航空によってほぼシームレスにつながっています。

また、世界遺産登録が続き、現在中国には50カ所以上(2024年現在)の世界遺産があります。北京の故宮、西安の兵馬俑、四川の楽山大仏、貴州の黄果樹瀑布など、文化・自然問わず非常に多種多様な観光地が整備されるようになりました。加えて、大型テーマパーク(上海ディズニーリゾートやユニバーサル北京リゾートなど)や高級リゾートホテルの建設、MICE事業(国際会議やイベントなどを誘致)も本格的に推進されています。

さらにスマートフォンやデジタル技術の普及により、観光予約や決済、情報発信が一気に便利に進化しました。WeChat(微信)やAlipay(支付宝)によるモバイル決済、観光地アプリによる混雑予測・ナビゲートなど、現代ならではの「スマート観光」がいまでは当たり前となりました。


2. 現代中国観光産業の現状

2.1 国内観光市場の規模と特徴

中国の国内観光市場は、世界最大級の規模を誇ります。少し前の調査(コロナ禍前の2019年)では、1年間にのべ60億人を超える旅行が中国国内で行われており、「1人が年4回旅行する」という計算になります。それほど頻繁に人が移動している背景には、都市化による所得向上、大規模連休集中型の旅行需要、そして余暇や幸福追求への価値観の変化などが挙げられます。

中国人の旅行スタイルもここ10年ほどで大きく変化しました。かつては「団体ツアー」が主流でしたが、現代は個人旅行やカスタマイズ旅行が増えています。特に若い世代はSNSを駆使して情報を集め、ローカルグルメやアート、自然体験、アウトドア、歴史文化など多様な旅の楽しみ方を模索するようになりました。例えば「重慶の火鍋グルメツアー」や「敦煌のシルクロード体験」、「海南島のサーフィン合宿」など、ユニークなテーマ旅行のニーズが急上昇しています。

消費規模の大きさも目を見張るものがあります。中国文化観光省の発表によれば、2019年の国内観光消費総額は約6兆元、日本円にして100兆円近くに達しました。レジャーや宿泊のみならず、観光関連消費には土産、交通、レストラン、ショッピング、エンターテイメントなど幅広い分野が含まれています。地方の少数民族エリアや農村観光も人気で、観光を通じた貧困対策・地域活性化も進んでいるのが大きな特徴です。

2.2 インバウンド(訪中外国人観光客)の動向

インバウンド(訪中外国人観光)も近年ますます重要になっています。中国は長らく「海外からの観光客誘致」に力を入れ、2019年には約1億4千万人以上の外国人が訪中しました。コロナ禍で一時的に減少はしたものの、2023年から徐々に回復基調となっており、特にビジネスや教育、医療観光を目的とした訪問者の増加が目立ちます。

中国のインバウンド市場で特徴的なのは、その多様性です。最大の訪問国は、韓国、日本、東南アジア諸国、ロシア、そして欧米からも多くの旅行者が訪れています。観光地もいわゆる「ゴールデントライアングル(北京、西安、上海)」だけでなく、仏教聖地の五台山、南方の景勝地・桂林、少数民族の文化が色濃く残る雲南省や貴州省など、非定番スポットにも訪問者が増えています。

インバウンド振興のため、中国政府はビザの緩和や多言語表示案内、外国人観光客向けサービスの充実に力を入れています。主要空港での24時間ビザ免除制度や国際クレジットカード決済対応、外国語対応の観光アプリなど、外国人が快適に旅できる環境整備が進みつつあります。ただし、コロナ禍を経て観光のあり方や国際交流の形が変化しつつある今、新たなインバウンド戦略が求められている状況です。

2.3 観光産業を支える主要都市と観光地

中国の観光産業を牽引するのは、いくつかの主要都市と観光地です。まず北京。首都として歴史的建造物が多く、故宮(紫禁城)、天安門、万里の長城など、国際観光地として圧倒的な存在感を持っています。上海は現代的な大都市でありながら、外灘や豫園など歴史と先進性が交差するスポットが豊富です。西安はかつての唐の都であり、兵馬俑や古城壁が世界中の歴史ファンを魅了しています。

また、桂林や張家界、九寨溝のように、自然美が群を抜く景勝地も中国観光の目玉となっています。さらに近年は重慶や成都、蘇州、厦門といったサブ都市の個性も大きく注目されています。たとえば成都はグルメ・パンダ・古跡で観光客を集め、重慶は夜景や火鍋、立体都市のユニークな景観が人気を呼んでいます。

地方都市の観光開発も進み、貴州や雲南、寧夏など、少数民族文化や美しい田園風景が国内外の旅行者の注目を集めるようになりました。観光地間の競争も激しく、多くの都市が「ブランド化」を目指して独自の観光資源開発に取り組んでいるのが現状です。


3. 経済成長における観光産業の役割

3.1 観光によるGDPへの寄与

観光産業が中国経済に与えるプラスのインパクトは計り知れません。中国文化観光省によれば、観光関連の直接的、間接的な経済効果を合計すると、2019年時点でGDPの10%以上を占めるまでに成長しています。これは世界平均(約7%)を大きく上回る水準であり、「観光が経済成長の新しいエンジン」と中国政府が位置づける根拠となっています。

観光消費は、サービス業全体を活性化させます。観光客が消費するのは宿泊や交通だけでなく、外食、小売、エンターテイメント、文化イベント、スポーツなど多岐にわたり、その裾野は非常に広いです。たとえば、広東省深圳市などでは、観光・宿泊ビジネスの収益が市全体の経済成長率への強力な追い風となっている例が報告されています。

また、地方都市や農村では、観光収入が地域社会の財政基盤を支えています。地元特産品の販売や農家民宿、観光ガイド、現地体験型ビジネス(茶摘み体験や民族文化ショーなど)が経済活動として定着し、GDP成長を下支えしています。

3.2 雇用創出と地方経済の活性化

観光産業は大きな雇用の受け皿でもあります。中国全土で観光産業に直接従事する人は約3000万人、間接的な雇用も含めると1億人近い規模にのぼると言われています。観光関連の職種は多岐にわたり、ホテルスタッフやガイドから、観光バス運転手、飲食店従業員、土産物店スタッフ、現地の文化芸術パフォーマーまで多様です。

農村や少数民族エリアでは、観光が「外貨を稼げる」新たなビジネスとして定着しつつあります。たとえば雲南省の大理や麗江では、地元農民が民宿やカフェを経営し、都市部からの観光客をもてなしながら安定した収入を得ています。また、伝統工芸や民族衣装の販売、ガイド通訳サービスなどを通じて、女性や若者の新しい雇用創出にも貢献しています。

観光を通じた地方経済活性化の好例として、広西チワン族自治区の「陽朔」や「桂林」などが挙げられます。大都市からは離れているものの、壮大な自然景観と地元の伝統文化を観光資源として活用し、地元経済の自立に寄与しています。また、観光収入が地方のインフラ整備に再投資され、道路や公共交通、インターネット環境などの生活環境整備も進んでいます。

3.3 関連産業への波及効果

観光産業が他分野の産業に与える波及効果は非常に大きいです。まず、建設業。ホテルやリゾート、観光地の整備、交通インフラの拡充は数万人規模の雇用と投資を生みます。中国国内の各都市で建設ラッシュが繰り返されており、観光産業の発展が不動産業全体の活性化に直結しています。

次に、伝統工芸産業や特産品産業にも恩恵が広がっています。観光客のニーズに応えるために、昔ながらの陶磁器、織物、民芸品、地元のお茶やお酒、漢薬などの生産・販売ビジネスが復活・拡大しています。こうした地域ブランドは観光土産としてだけでなく、現地経済の自立化や後継者育成にも好影響を与えています。

また、スマート観光やデジタル技術の活用は、IT産業にも新たなビジネスチャンスを生み出しています。観光予約プラットフォームやレビューサイト、画像認識AIによる多言語ガイドシステム、混雑予測アプリなど、中国IT企業が観光産業と手を組み、観光エコシステムの構築が進められています。


4. 観光産業の発展を促す政策と投資

4.1 中央政府・地方政府による支援政策

中国の観光産業の発展には、中央政府および地方政府の積極的な政策支援が不可欠でした。中央政府は1980年代から「観光立国政策」を提起し、観光インフラ整備、ビザ緩和、観光地ブランド化、観光教育の強化など、多方面にわたる支援を継続的に進めてきました。たとえば、文化観光省(旧観光局)が中心となって毎年大規模な観光推進キャンペーンを展開し、5A級景区(最高位の観光地評価)認定制度や地方ごとの観光資源開発計画などを策定しています。

地方政府の役割も重要です。ほとんどの省や市では「観光局」や「観光促進センター」が設置され、観光事業者への補助金や投資誘致、イベント主催、地域観光ガイドの育成に取り組んでいます。成功事例としては、浙江省杭州市が「西湖文化景観」の世界遺産登録を受けて、観光振興に合わせて交通インフラ・公園整備・観光職員育成などを一体的に進め、観光収入を倍増させたことが挙げられます。

また、広州市では「広州国際観光産業博覧会」などのイベントを定期開催して、国内外の観光事業者・投資家・メディアとの交流を積極的に促進しています。こうした官民連携型の政策が、各地の観光ブランド力を引き上げ、市場競争力を高めています。

4.2 外資導入とインフラ整備

中国は早くからグローバル視点で外資導入を進め、観光分野でも外資ホテルチェーンや国際資本とのパートナーシップを戦略的に拡大してきました。2000年代以降、マリオット、ヒルトン、シェラトンなど多くの外資系ホテルが北京、上海、広州などの大都市や観光地に相次いで進出。彼らのノウハウやサービス基準の導入は、地元ホテル産業全体のレベル向上や新たな需要開拓に寄与しました。

観光インフラ整備への投資も桁違いの規模で進みました。交通面では、高速鉄道網が全国をくまなくカバーするようになり、「北京〜上海」の高速鉄道は一日の利用者が延べ10万人以上に上ります。空の便も格段に増え、各省都には国際空港と関連施設が整備され、中国内外のアクセスが飛躍的に改善しました。

また、観光地内の観光客用道路、電気バス、インフォメーションセンター、多言語表示看板、Wi-Fi環境など「観光の質」に直結する部分への細かな設備投資も進んでいます。2021年には海南島の「観光自由貿易港」構想が始動し、無税ショッピングやビザ免除、国際級リゾートの誘致が一体的に行われています。

4.3 観光地ブランド戦略とマーケティング

観光産業発展のもう一つのカギは「ブランド戦略」と「マーケティング力」です。中国政府や地方自治体は、観光地そのものを特定のイメージと結び付けてプロモーションする「ブランドツーリズム」を積極的に展開してきました。有名な例として雲南省の「大理:ヒッピーと自由の街」、四川省の「成都:パンダと美食の都」、海南島「中国のハワイ」など、「個性的な都市・観光地」としてのストーリー化が観光客の心をつかんでいます。

観光イベントの開催も非常に多いです。灯篭祭りやランタンショー、伝統的な農村祭り、現代アートフェス、国際映画祭など、年間を通して「訪れたくなる」きっかけづくりが行われています。ソーシャルメディアを活用したPRも欠かせません。中国版インスタグラム「小紅書」や動画アプリ「抖音(Douyin)」、WeChatミニプログラムを使って観光地の現地体験や口コミ動画がバズを生み、多くの若者を惹きつけています。

さらに地方自治体間による観光連携プロジェクト(例えば「長江ゴールデンベルト観光圏」や「大シルクロード観光圏」など)も立ち上がり、広域連携による観光資源の共有化・新規開発も急ピッチで進められています。


5. 直面する課題と今後の展望

5.1 持続可能な観光開発の必要性

急激な観光開発が進んだことで、中国各地ではさまざまな課題が生じています。その一つが「持続可能な観光開発」です。観光客の急増によって、一部の観光地では環境負荷が問題化しています。例えば、有名な九寨溝では過剰な観光客による自然破壊やゴミ問題が深刻となり、一時的に入場制限や観光客数のコントロールが導入される事態となりました。

このため近年は「エコツーリズム」や「グリーン観光」への注目が高まっています。政府や観光地運営者は、現地住民と協力しながら自然保護活動や環境教育、旅行者マナー啓発に取り組むようになりました。また、観光客にもエコ意識を高める情報提供や仕組み(電子チケット、ゴミ持ち帰り推奨、低炭素交通の導入など)が増えつつあります。

持続可能な観光地経営には、地域資源や伝統文化への配慮とともに、長期的な利益追求と社会共存を両立させる視点が欠かせません。中国政府も「グリーン発展」を政策の柱の一つに掲げ、今後ますます環境と共生した観光地づくりが重要となるでしょう。

5.2 文化保存と観光開発のバランス

中国の観光開発が進む中で議論されているのが、「文化財保存」と「観光利益拡大」のバランスです。特に歴史都市や民族村では、観光化が伝統風景の変質や文化財の損壊につながるケースも少なくありません。西安や麗江などでは、古城エリアの過度な商業化、外資チェーンの進出、伝統建築の移築ラッシュが物議を醸しています。

近年は「観光地登録」や「世界遺産登録」が増える一方、修復不十分なまま観光開放を優先する悪循環も指摘されてきました。また、「文化ショー」など観光向けにアレンジされた伝統芸能や飲食が現地のオリジナリティを減じるとの批判もあります。一方で、観光によって失われかけた伝承文化が再評価・復活した例(貴州少数民族の刺繍や紙切り芸術など)も少なくありません。

大切なのは「地域社会と観光産業の対話」と「専門家(文化財保護、建築、コミュニティマネジメント等)の適切な関与」です。中国各地で「住民参加型」の観光開発プロジェクトや「文化資産と経済利益の共存モデル」が模索されています。

5.3 デジタル技術の活用と観光体験の革新

中国の観光産業はデジタル技術を積極導入し、体験面での革新を図ってきました。スマートフォンによる電子チケットやモバイル決済の普及で、予約から決済・入場までの利便性が大きく向上しました。多くの観光地では、AIを活用した多言語デジタルガイドや混雑予測、AR/VR体験、顔認証によるチェックインの導入が進んでいます。

さらに、旅行前~旅行中~旅行後すべてのフェーズでSNSや動画アプリを活用した情報収集・実況投稿が定着し、個人旅行の「パーソナライズ」や「リアルタイム体験共有」が大きな特徴となっています。たとえば人気観光地「西塘」では、現地SNS投稿率が70%を超え、口コミが観光地ブランドに直結するようになっています。

今後は、IoT技術によるスマート都市化、5G高速通信・AI翻訳機能の進化による外国人対応力向上、ブロックチェーン利用による消費データ活用など、先端技術を活かした新しい観光体験が一層進展する見込みです。「デジタル+リアル」が中国観光の大きなキーワードとなるでしょう。


6. 日本への示唆と国際連携の可能性

6.1 日中観光交流の現状と課題

中国と日本の観光交流は、歴史的にも近年でも非常に密接な関係があります。2010年以降、日本を訪れる中国人観光客(インバウンド)は年々増加し、一時は年間900万人を超える勢いでした。一方で、日本から中国への旅行(アウトバウンド)も根強い人気を保っています。日本人にとって中国は「身近で行きやすい異文化体験の場」として長年親しまれており、特に若者やシニア層に根強いファンが多いです。

しかし、ビザ手続きの煩雑さや情報アクセスの難しさ、言葉や食習慣の違い、SNS投稿の制限(中国国内の情報規制)など、未だに「気軽に交流できない壁」も残っています。コロナ禍による国際移動制限を受けて、日中観光の流れは一時的にストップしましたが、両国政府はツーリズム回復に向けた協力を進めています。

最近は、アジア全体の観光回復局面の中で、「安全・安心」「地域文化体験」「サステナブル観光」など新しい交流テーマが注目されています。言語や決済の壁を超えるデジタルサービス、共同プロモーションイベントなど、今後の日中交流のあり方にも大きな可能性が広がっています。

6.2 日本の観光産業への影響や学べる点

中国の観光産業の成長とイノベーションから、日本の観光産業が学ぶべき点は少なくありません。まず挙げられるのが、「巨大な国内市場を巻き込んだ観光消費創出力」です。中国は地方創生、若者マーケティング、多様なツアーテーマの開発、観光×デジタル技術の積極導入などで先行しています。日本でも「地域資源の再発見と商品化」「パーソナル化された旅行商品の拡充」など、観光ニーズ高度化への対応は重要なテーマとなっています。

また、観光インフラや多言語表示、高速交通網の整備といった「おもてなし環境」の底上げは、日本の地方都市にとってもヒントが多い分野です。外国人観光客を引きつけるためには「わかりやすいガイダンス」「現地体験の充実」「キャッシュレス対応」「現地職員のグローバルマインド育成」など、日本が強化すべきポイントもたくさんあります。

一方で中国側も、「品質管理」や「景観保護」「文化の本質的な保存」「サービス品質の均質化」など、日本型観光地運営から学べる要素があります。相互に「長所を活かし弱点を補う」協力関係が、今後の日中観光交流の成長を支えるカギとなりそうです。

6.3 観光を介したさらなる日中協力の展望

今後の日中観光協力は、単なる旅行の往来にとどまらず、より深いレベルの国際連携へと発展することが期待されています。例えば、世界遺産や観光ブランドの共同PR、地方都市間の姉妹都市観光提携、教育旅行(小中高生の異文化交流プログラム)、エコツーリズムやグリーン観光分野での共同研究・実証事業など、多彩な交流の形が考えられます。

特にデジタル分野では、SNSを活かした両国向け観光地プロモーション、観光データ共有、リアルタイム翻訳技術やスマートツアーガイドなど「日中共同の観光ビジネスモデル」構築も現実味を帯びてきています。両国の若者を中心としたコミュニティ交流やスタートアップの相互進出も、観光産業における新しい成長エンジンとなるでしょう。

両国とも「少子高齢化」や「都市一極集中」「地域課題」など似た社会課題に直面している今、観光を通じて「経済活性化」「雇用創出」「地域文化振興」「国際理解促進」を一緒に目指すことは、互いの未来につながる意義深いテーマです。


まとめ

中国の観光産業は、古代から現代に至る長い歴史と、近年の目覚ましい発展によって今や世界でも有数の巨大市場となりました。観光はGDP成長や雇用創出、関連産業の活性化に大きく貢献し、特に地方や農村部の経済を力強く支えています。その発展には、政府の戦略的政策支援、民間投資、先端技術の導入、ブランド戦略やマーケティングなど、多様な要素が関係しています。

一方で、急速な観光開発の陰で環境保全や文化保存、持続的成長などの新たな課題も浮き彫りになってきました。これからの観光産業は、エコツーリズムや地域共生、デジタル技術革新など、新しい価値観への対応が不可欠となっています。

日本との関係においても、互いに学び合い、連携し合うことで、観光ビジネスの新しい可能性が切り拓かれるでしょう。観光を「人をつなぎ、文化をつなぐ架け橋」と位置付け、より持続可能で豊かな未来をともに築いていくことが、これからの日中観光産業の大きなテーマだといえるでしょう。

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