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   中国における商標法と商標権の保護

中国は世界最大級の消費市場を有し、数多くの海外企業やブランドが進出を目指しています。しかし、そんな中国市場には独自の「商標法」や商標権の保護に関する法律体系が存在します。知的財産権やブランドの模倣、偽造問題は中国ビジネスにかかわる日本企業にとって非常に重要な課題であり、商標管理の知識や制度理解が求められています。本記事では、中国における商標法や商標権の実際の保護について、基本的な内容から最新の動向まで、具体例を交えながら分かりやすくご紹介します。


目次

1. 中国商標法の概要

1.1 商標法の歴史的発展

中国の商標法は、1982年に初めて制定されました。当時の中国は改革開放政策を推進しており、外国企業の進出が急速に進みました。それに伴い、企業の権利を守るための知的財産権制度も強化され始めました。制定当初の商標法はまだ未発達でしたが、その後1993年、2001年、2013年、そして最近2023年と、複数回にわたって大規模な改正が行われています。

このような歴史的な法改正の背景には、国際的な経済活動が活発化し、偽造品や模倣品が社会問題化したことが挙げられます。特に2001年の改正は、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟するための準備として実施され、国際基準に合った内容となりました。例えば、商標の登録や保護の範囲が広がり、違法行為への罰則も強化されました。

2013年と2023年の法改正ではデジタル社会や電子商取引の発展を背景に、ネット上での商標権侵害に対する対応も盛り込まれました。このように、中国は国際標準に合わせて絶えず商標法を進化させてきたのです。

1.2 商標の定義と種類

中国における「商標」とは、商品またはサービスを他者と区別するためのマークを指します。具体的には、文字・図形・記号・アルファベット・数字・立体的形状、またはこれらの組み合わせが商標となります。日本の商標制度と似ていますが、近年では音や匂いなどの動的商標も一部認められるようになっています。

利用される主な商標の種類としては、「商品商標」と「サービス商標」があります。商品商標は実際に販売される物品に付され、サービス商標はホテル・飲食・広告などのサービスに付されます。このほか、団体商標や証明商標といった特別な商標も中国では登録が可能です。団体商標は会員が共同で使う商標、証明商標は品質や特性などを第三者が証明するための商品・サービスに付されます。

また、近年では「立体商標」や「色彩商標」も注目されています。例えば、ペットボトルの独特な形状や特定の色の組み合わせなど、消費者に強く印象づけられるものが該当します。中国ではこれらの新しいタイプの商標も登録例が増え、企業が差別化を図るための重要な手段となっています。

1.3 商標法の基本原則

中国の商標法の基本原則は「登録主義」と「先願主義」です。まず「登録主義」とは、商標権を取得するには必ず国家知識産権局(CNIPA)での登録手続きが必要で、登録されていない商標には原則として法的保護が及びません。日本同様、未登録商標に対して限定的な保護はありますが、訴訟等で十分な権利主張をするのは困難です。

そして「先願主義」とは、最初に出願した者が商標権を得る仕組みです。たとえ長年自社ブランドを使っていても、他者が先に中国で商標登録を済ませていると、原則的に商標権はその先願者に与えられてしまいます。このため、早めの出願・登録が中国ビジネスの必須事項となっています。

また、中国商標法では「良好な風俗を守る」「公序良俗の維持」など、社会倫理的な観点から登録を制限する原則もあります。国家や国際組織の名称、著名人の氏名、宗教用語などは警戒されており、これらを含む商標は原則登録が認められません。こうしたガイドラインも覚えておくことが重要です。


2. 商標登録のプロセス

2.1 出願手続きの流れ

中国で商標を取得するためには、国家知識産権局(CNIPA)に所定の手続きをとることが必要です。まず、商標の出願は原則オンラインで行われ、日本企業の場合は通常、現地の代理機関や専門弁護士を通じて手続きを進めます。現地専門家と連携することで、合否や手続き時の不備リスクを減らすことができます。

出願後、CNIPAによる形式審査が実施されます。ここでは書類の不足や記載内容の誤りなど、基礎的な条件が整っているか確認され、不備がある場合は補正命令が出されます。必要事項が揃っていれば、次に実体審査に進み、商標として登録できるかの検討が行われます。

実体審査が終了し登録が認められる場合、官報に公告されます。この公告期間(3カ月間)に第三者から異議申し立てがなければ、最終的に正式な商標登録証が交付されます。もし異議が提出された場合は、異議申立手続きに進み、公正な審査の後に結果が確定します。全体の登録手続きには通常12カ月から18カ月ほどかかります。

2.2 必要書類と提出方法

商標登録の申請には、いくつかの書類が必要となります。主な書類は「商標登録申請書」と「委任状」(代理人を立てる場合)、さらに法人であればビジネスライセンスなどの登録証明書の写しが求められます。申請者の身分証明や法人登記情報は、改ざんやなりすまし防止の観点でも厳重に確認されます。

また、出願する商標のサンプルが必要で、図形やロゴ、文字列など、登録したい形式に応じた適切なデータファイルを提出します。最近はオンライン出願が主流で、提出時にはPDFやJPEG形式など指定されたフォーマットでアップロードすることが一般的です。

中国は日本よりも書面審査が厳しい場合があり、記載ミスや証明書類の不備があるだけで却下されるケースもあります。また、商品分類(ニース協定に基づく45類別)ごとに明確な指定が求められ、誤った分類で登録すると実質的な権利保護が受けられなくなる恐れもあります。したがって、申請時には細心の注意が必要です。

2.3 登録審査とその基準

中国における商標登録審査では、いくつかの明確な基準が設けられています。まず「識別力」が重視され、単なる説明語や一般名詞、非常にありふれた形状・色彩だけの場合は識別力不足といわれ却下されます。例えば「スマートフォン」や「おいしいごはん」など、商品の特徴を直接説明するだけの語句は商標として認められにくいです。

また、「同一または類似商標の既存登録」がないか徹底的に調査されます。既に登録済みの商標や出願中のものと混同の恐れがある場合は、これも却下となります。中国は商標の「スペリング」「発音」「意味」の3点で類似性を判断するため、ローマ字表記や中国語訳などへの配慮も重要です。

さらに、公序良俗や社会的秩序を害する恐れのある商標、国家や民族を冒とくする内容、国旗や公的マーク・国際機関の名称が含まれる場合も登録NGとなります。こうした基準を満たすかどうか、審査官が細かくチェックします。近年は国際ブランドの出願が増えており、審査基準もグローバルスタンダードに近づいてきているのが特徴です。


3. 商標権の範囲と効力

3.1 商標権が及ぶ範囲

登録された商標権の効力は、中国国内全域に及びます。つまり、北京や上海などの大都市だけでなく、中国の全ての省・自治区・直轄市で、その権利は行使できます。このポイントは、日本の商標権が国内全域で効力を持つことと同じですが、中国市場は非常に広いため、地方での偽造や模倣品対策にも重要な意味を持ちます。

商品やサービスの「指定範囲」も注目に値します。商標登録時にクラス(ニース国際分類で45分類)ごとに申請が必要となり、細かな商品・サービス範囲まで規定します。たとえば、化粧品と衣料品は別クラスとなるため、両方をカバーする場合はそれぞれ別個に出願しなければなりません。これを理解していない企業が、一部のクラスだけで出願し、他分野で模倣被害に遭うケースも多いです。

さらに商標権の効力は、直接的な商標の使用だけでなく、混同を招く類似の商標使用、販売、輸出入など幅広い行為にも及びます。これにより、第三者によるコピーや悪質な利用に対しても包括的な対抗措置が取られる仕組みとなっています。

3.2 商標の使用権と譲渡権

中国において商標権を得た者は、その商標を独占的に使用する権利、また第三者に使用を許諾する権利(ライセンス)、さらには譲渡する権利(売買・相続)が認められています。たとえば、日本の飲料大手が中国現地企業とライセンス契約を締結し、そのブランド名で現地生産や販売を行う例が挙げられます。

ライセンス契約を行う場合は、中国の契約法や商標法に基づいて正式な合意書を締結し、CNIPAへの届け出が必要です。ライセンス契約が届け出されていないと、後日問題が発生した際に権利が十分に保護されないリスクがあります。

また、商標の譲渡も可能ですが、これを実行するには譲渡契約の作成と、CNIPAへの正式な登録申請が不可欠です。商標権の譲渡は、買収や合併、企業再編時に行われることが多いですが、手続きが煩雑で法律上の落とし穴も多いため、慎重に進めるべきです。

3.3 保護期間と更新手続き

中国の商標権の保護期間は、登録日から10年間です。この期間内に権利者は独占使用権を保障されます。保護期間が満了する前、権利者は更新申請を行えば10年ごとに無制限で延長が可能です。商標のブランド価値を長期的に維持したい場合、この更新手続きが欠かせません。

更新申請のタイミングは、満了日の12カ月前から6カ月後まで認められています。仮に期間内に更新し忘れた場合、一定の猶予期間が設けられますが、それを過ぎると権利が消滅し、第三者に登録されるリスクが発生します。したがって、大手企業では定期的な知財管理システムを構築し、更新漏れを防ぐ体制を整えています。

ちなみに、商標を一度も実際に使用しない場合、「継続不使用取消制度」が適用されることにも注意が必要です。他者から「3年間未使用」と異議申し立てがあれば、権利が取り消される可能性があるので、形式的でも商標を現地で使った記録や証拠を残しておくことが求められます。


4. 商標権侵害への対応策

4.1 模倣品・偽物への法律措置

中国では模倣品や偽造品が依然として社会問題となっています。商標権者は、こうした不正行為に対して法律上のさまざまな措置を講じることができます。商標法に基づき、違法な模倣品の製造や販売を取り締まるよう訴訟を提起したり、関連する行政機関に通報して捜査や取り締まりを要請することができます。

たとえば、有名スポーツブランドのアディダスやナイキは、自社商標の模倣ロゴや形状を使った偽物が中国全土で大量流通しています。これに対しては、定期的な現地の巡回調査や、商標権侵害に対する法的申し立て、警察や行政機関との連携強化など、多層的な防御策が講じられています。

また、違法業者に対しては民事賠償請求を起こすこともできます。模倣業者による被害額が大きい場合、裁判所は権利者の損害賠償請求や謝罪広告、商品の廃棄命令、さらには侵害利益の全額返還など厳しい判決を下す事例も増えてきました。

4.2 行政的執行と司法救済

中国では行政と司法の2つのルートで商標権侵害対策を進めることができます。まず行政的執行とは、工商行政管理局(AIC、現在は市場監督管理総局に統合)や税関などの政府機関が、模倣品や違法商品の現場摘発、没収、流通停止、そして罰金処分などを行う制度です。

たとえば、ある日本の有名化粧品会社が中国で偽造商品を大量に発見した際、AICに通報することで家宅捜索が実施され、偽物の廃棄や生産機械の差し押さえ、さらには製造業者への行政罰則が科された例があります。行政執行には迅速性がありますが、損害賠償などの実効的な補償を求める場合は、司法救済(民事訴訟)が効果的です。

司法救済には、商標権侵害に対する損害賠償請求、差し止め請求、名誉回復措置といった民事訴訟があります。また、刑事事件に発展した場合は、刑事裁判所での処罰も行われます。中国の裁判所は、近年知的財産権保護に力を入れており、大都市を中心に専門の知財裁判所も設置され、公正な判決や侵害品の差し止め命令が多数出されています。

4.3 実効的な権利行使の事例

中国で成功した実効的な商標保護の事例はいくつも存在します。一例として、世界的なスポーツブランド「ニューバランス」は、偽造品業者を相手取り中国で商標権侵害訴訟を起こし、合計5400万元(約10億円)以上の賠償金支払い命令を獲得したことがあります。この判決は中国国内外で大きな話題となり、模倣品対策において効果的な司法判断だと評価されました。

また、日本の食品メーカーも現地で自社ブランドのコピー品被害に遭いましたが、現地業者による出願商標に対して「不正目的による出願」として異議申し立てを行い、認められたケースがあります。この判例以降、多くの日本企業が積極的に異議申し立てや「無効審判」を活用するようになりました。

このような事例に学び、単なる消極的な事後対応だけでなく、定期的な市場監視や情報収集、専門弁護士と連携した証拠づくり、現地行政機関や税関との関係構築など、日中両国の知的財産保護ネットワークを活かした多角的なアプローチが中国では主流となっています。


5. 日本企業が直面する課題と対策

5.1 中国市場進出時の注意点

日本企業が中国市場に進出する際、最も注意すべきなのが商標の「早期出願」です。中国は先願主義のため、うかうかしていると現地業者に商標を先に取り押えられる(先取り登録)リスクが非常に高いです。進出前から中国市場への出願計画を立て、現地代理人と連携してスピーディに出願することが、リスク回避の鉄則となっています。

また、商標登録の範囲にも企業ごとにバラつきがあり、定番の製品カテゴリーのみならず、今後新展開が見込まれる分野やサービス種別にも広範にカバーしておくことが重要です。たとえば、衣料ブランドが飲料分野まで商標登録していなかったがために、全く関係のない第三者に同名出願を奪われた事例もあります。

さらに、中国特有の文化や言語背景にも配慮が必要です。商標名の中国語ローカライズや発音による混同防止、マイナスイメージを避けたネーミング戦略も大切です。例えば、資生堂が現地向けに「资生堂(ズーシェンタオ)」という中国語ブランド名を登録し、現地市場で親しまれています。このような戦略が商標保護にも直結します。

5.2 商標の先取り登録問題

中国では「悪意の先取り登録(トレードマークトロール)」が依然として大きな問題となっています。たとえば、日本の老舗企業名や人気商品名を、無関係な現地業者が先に商標出願し、その後に高額な“譲渡料”を請求してきたり、企業の進出を妨害したりするケースが多発しています。

有名な事例としては、新幹線技術や漫画キャラクター、さらには「ユニクロ」「無印良品」といった大手ブランド名までもが現地企業に先取り登録されています。こうなると、本家本元の日本企業が中国で正規の商標使用・展開ができなくなるばかりか、逆に「侵害者」として訴えられるリスクまで生じてしまいます。

近年では、中国政府や裁判所も悪質な先取り登録に厳しい目を向けており、実際に「不正目的の出願」や「有名ブランドの悪用」に対する無効判決も増加しています。ただし、依然として手続きには時間とコストがかかるため、進出前の予防策が一番有効です。

5.3 紛争を未然に防ぐための対策

商標トラブルや紛争を防ぐために、日本企業が実践できる対策はさまざまです。まず、出願計画を早期段階で立て、中国現地代理人や弁護士と細かく連携することが基本です。複数クラスや関連分野でも同時出願し、ブランド名・ロゴ・スローガンなど、あらゆるパターンを網羅しておくと安心です。

また、現地での商標使用記録やプロモーション活動の証拠を日常的に蓄積しておくと、万が一の異議申し立てや審判時に「使用の実績」として有利な材料となります。これにより仮に他社が先行出願しても、先使用権の主張や不正目的出願の立証がしやすくなります。

さらに、定期的に中国国内の商標データベースをリサーチし、類似・紛らわしい商標の出願状況をモニタリングすることも重要です。新たな出願や不審な登録の兆候があれば、すぐに公式な異議申し立てや無効審判を申請するなど、早めの「対応力」を高めることがトラブル回避の決め手となります。


6. 国際的な商標保護制度との連携

6.1 マドリッド協定に基づく保護手段

中国は1995年にマドリッド協定議定書(Madrid Protocol)に加盟しており、これは国際商標登録制度とも呼ばれる枠組みです。日本企業が「マドリッド協定」を活用すれば、日本の特許庁経由で中国を含む複数国に一括して商標出願ができます。この制度のおかげで、世界各国に同時出願し管理できるという利便性が格段に高まりました。

たとえば、ある日本電機メーカーが新たなブランド名をアジア各国で展開する際、わざわざ各国で個別申請せず、特許庁からまとめて出願管理を行いました。中国も加盟国なので、手続き負担やコスト削減、統一管理のメリットが大きいと言えます。もちろん、出願後の審査基準や運用は中国独自のものが適用されるため、専門家のアドバイスが欠かせません。

また、マドリッド協定経由で登録された商標も、中国国内法で保護され、中国企業による同一・類似商標の出願をブロックすることが可能です。国際展開を進める日本企業にとって、この仕組みをうまく活用することは最早スタンダードとなっています。

6.2 海外出願と中国商標法の関係

マドリッド協定を使って国際出願しても、中国商標法の内部ルールが全面的に優先されます。つまり、申請された商標が中国の「識別力」基準を満たさなかったり、公序良俗違反だったりする場合は、たとえ国際登録であっても却下されてしまいます。独自の審査手順や書類要求も考慮しなくてはいけません。

また、国際申請を行っていても、中国内の第三者による異議申し立てや無効審判に巻き込まれることもあります。逆に中国企業が他国で出願した商標が、そちらの国内法によって無効・制限される場合もあり、これはまさにお互いの制度の「橋渡し」として適切な管理が求められます。

最近では、中国での商標権トラブルがアメリカやヨーロッパ、東南アジアの現地子会社との国際係争に発展する例も増えています。商標保護のグローバル戦略を練る際は、中国法と国際条約、両面でバランスの良い対策が必要です。

6.3 国際企業に対する助言と支援

国際的にビジネスを展開する日本企業には、グローバル知財戦略をサポートする仕組みや、現地専門家の活用が必須です。中国は法律改正や審査運用が頻繁に変わるため、いち早く現地の最新動向をキャッチし、臨機応変に方針を見直すことが大切です。

また、専門の知財事務所や現地弁護士法人、あるいは日本政府主導のジェトロ(JETRO)などが、海外企業への無料相談・トラブル時の法的支援を提供しています。模倣品調査や現地法人設立支援、税関との情報共有まで、幅広いサポートが受けられるので、ぜひ積極的に活用しましょう。

グローバル企業であればあるほど、国際出願の時点から複数国同時管理、定期的な登録・更新スケジュール、さらには緊急時の損害補償や訴訟リスク管理体制まで、全世界レベルで商標保護対策を徹底することが肝心です。


7. 最新動向と今後の展望

7.1 法改正と規制の動き

近年、中国商標法は国際基準への対応や社会環境の変化に合わせて、短期間で目まぐるしく改正されています。2023年の商標法改正では、「悪意ある先取り出願に対する罰則強化」「登録手続きの簡素化」「不使用取消制度の運用厳格化」などが大きな特徴です。

悪意の先取り対策では、現地行政当局がトレードマークトロール業者を厳しく取り締まり、正規ユーザーからの異議申し立てや無効申立時の立証責任が緩和されました。これにより、海外ブランドにとって事後救済の道がやや広がったと言えます。

また、デジタル技術の進展にあわせてオンラインでの出願や審査、証拠提出が標準化され、デジタル証拠管理の強化やリモート審理など、新しい時代に向けた規制緩和も進んでいます。今後も制度のさらなる進化や、国際ルールとの融合が見込まれます。

7.2 デジタル時代の新たな課題

中国は世界でも有数のEコマース大国であり、阿里巴巴(アリババ)や京東(JD.com)といった大型ECプラットフォームが何億人ものユーザーを抱えています。このようなオンライン市場での「商標権侵害」も大きな問題となっています。たとえば、ネット上で大量の模倣品が出回り、新規ブランドが一気に拡散・誤用されるリスクが高まっています。

これに対し、EC運営会社も審査やモニタリング体制を強化し、知的財産権者専用の通報窓口を設置するなど迅速な侵害対策が進んでいます。たとえばアリババグループは、ブランド権者専用の侵害申告システム「IPPプラットフォーム」を用意し、速やかな削除・対応を実現しています。

また、SNSやインフルエンサー市場におけるブランド名の悪用、ドメイン名を巡るトラブル、AIによる模写・自動生成デザインの著作権問題など、従来とは異なる新しい商標権リスクも相次いで発生しています。企業はこれらデジタル時代のリスクにも細心の注意と対応力を求められるでしょう。

7.3 知的財産権保護の強化の展望

今後の中国商標法の展望として、さらに効果的でグローバルに通用する知的財産権保護体制の構築が期待されています。とくに「行政・司法」の役割分担と連携、「先取り出願対策」「オンライン侵害対策」「国際訴訟対応力の強化」などが今後の重要なテーマです。

また、中国政府自身も「イノベーション主導型国家」を目指しており、独自ブランドの育成や先端技術の保護に知的財産戦略を位置づけています。これにより、公平な競争環境を整備し、国内外ブランド双方にとって健全な市場運営が図られることが期待されます。

終わりに、中国における商標法と商標権保護は年々進化・厳格化しており、「被害者」になるのを防ぐだけでなく、「ブランド」を守る戦略ツールとしてますます重要になっています。今後も制度の動向や社会変化に敏感に対応し、積極的な商標管理を実践することが、中国ビジネスの成功への近道となるでしょう。日本企業の皆さんも、グローバル視点での知的財産保護の強化を心がけてください。

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