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   農業と観光の連携による地域振興

中国の農業と観光の連携による地域振興

中国は、急速な経済発展を背景に都市化が進み、農業のあり方や地方経済の課題が大きく変化してきました。そんな中、新しい地域振興策として「農業」と「観光」を結びつけた取り組みが各地で進められています。本記事では中国農業の歴史や現状を踏まえ、観光産業との連携による地域活性化の実例や課題、今後の日中連携の可能性まで、分かりやすく具体例を交えながらご紹介します。


目次

1. 中国農業の現状と課題

1.1 中国の農業発展の歴史的背景

中国の農業は、長い歴史を持つ伝統的な産業であり、紀元前から稲作・畑作が盛んに行われてきました。黄河文明と長江文明を中心に、米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモなどの栽培技術が発展し、世界でも最大規模の農地面積と生産量を持つ国になりました。伝統的な農家は小規模家族経営が多く、農村社会は自給自足的な共同体として発展してきました。

しかし、20世紀になると、社会主義体制下で「人民公社」などの集団農業が推進され、従来の家族農業から大規模集団化へと変化しました。この体制は1970年代末まで続きましたが、経済効率の低迷や農民のやる気喪失などの問題も生じました。その後、1978年に始まった改革開放政策により再び小規模農家単位の「家庭請負責任制」へ転換し、生産性は大きく回復しました。

現在、中国の農業は工業化やサービス業の発展につれ、その比率は全体のGDPで数パーセントと低下しましたが、国民生活の基盤として依然重要な位置を占めています。歴史的な改革の繰り返しは、中国農業のしなやかさと同時に、今なお残る課題の背景にもなっています。

1.2 近年の政策と農業改革

21世紀に入ると、中国政府は農村部の所得向上と近代化に力を入れてきました。とくに「三農問題(農業、農村、農民)」は国家戦略の柱です。「田園振興戦略」や「新しい農村建設」などの政策が導入され、地域ごとの特色を生かした農業と非農産業(観光、サービス業など)の複合化が推奨されています。

最近の政策では、規模化経営・機械化・IT導入が推進されています。例えば大型トラクターや農業用ドローンの導入、スマート農業(スマートアグリ)のモデル地区設立が進んでおり、一部では日本や欧米の先端農業技術を模範にしたノウハウの交流も行われています。一方で、農地の細分化や土地権利問題が未だに大きな障壁となっています。

また、地方自治体レベルでの農産物ブランド化やEコマースの振興、地産地消のネットワーク作りも積極的に展開されています。淘宝網や京東(JD.com)のようなECサイトでは、産地から消費者へ新鮮な農産物が直送される仕組みが整備され始め、農業経営の多角化とビジネスモデルの変化が起きています。

1.3 農村経済の現状と主要課題

農村経済は近年大きく変動していますが、依然として所得格差やインフラ整備の遅れが課題です。とくに大都市圏と内陸部、小規模農家と大規模企業経営体の間では、収入や生活レベルに大きな差が見られます。農業生産の効率化が進む一方で、伝統的農家の多くは旧来の方法に頼り、経済が停滞している地域もあります。

農村部では若者の都市流出(出稼ぎ労働者「農民工」現象)が顕著です。働き手の多くが都市へ移り、農村には高齢者と子どもだけが残る「空心村」と呼ばれる集落も増えています。これに伴い、土地の荒廃や共同体機能の衰退といった社会的課題も表面化しています。

また、農業人口の減少と高齢化により、労働力不足や後継者問題も深刻です。これらの要因が絡み合い、農村経済の持続的な発展には、従来の枠組みを超えた新しい産業や雇用機会の創出が求められています。

1.4 農業人口の減少と高齢化問題

農村部の人口減少・高齢化は中国全体で極めて重要な社会問題です。統計によれば、農村住民の平均年齢は年々上昇しており、70歳以上の高齢者が多くを占める村も少なくありません。これにより、農業生産の担い手が不足し、効率的な経営や新技術の導入が難しい状況が生まれています。

加えて、若年層の都市流入が続くことで、農地の放棄や耕作放棄地の拡大も進行しています。農業人口の減少は、地域の経済活動のみならず、伝統的な生活文化・祭り・食文化の継承にも悪影響を及ぼしています。

こうした課題に対して、中国政府や地方自治体・民間企業も様々な応援策を打ち出しています。たとえば、農業体験や新しい農村ライフスタイルのPR、ITリテラシー教育、移住促進プログラムなどを通じ、若者や都市部の投資家・起業家を農村へ呼び戻す動きが活発化しています。


2. 観光産業の成長と地方経済への影響

2.1 中国における観光産業の発展経緯

中国における観光産業の発展は、1978年の改革開放以降目覚ましいものがありました。もともと観光は限られた富裕層や海外向けに限定されていましたが、所得向上と交通インフラの発達によって、国内旅行需要が急増しました。世界遺産の名所や伝統的な村落、自然景観地などが国内外の観光客を惹きつける一因となっています。

2000年代以降は都市部だけでなく、田舎や山間部にも観光客が押し寄せるようになりました。政府も観光開発ゾーンの設置や民間投資の促進、観光関連企業の育成に積極的です。2020年時点で、中国の観光関連GDPは全体の1割を占めるほど巨大な産業となっています。

特に新型コロナウイルス流行前までは、海外観光客(インバウンド)も増加し、各地の民族文化や郷土料理、手工芸体験などが人気の観光コンテンツとなっていました。近年は健康志向や体験型観光、環境共生型ツーリズムなど、多様なニーズに対応する新しい観光スタイルが拡大しています。

2.2 地方観光の多様化と新しいトレンド

近年、中国の地方観光は多様化を見せています。従来からの歴史文化都市・景勝地観光に加え、農村体験や農家民宿(民俗村)、農産物収穫体験、食文化ツアーなど、より土地に根ざした新しい観光形態が増えています。たとえば浙江省の烏鎮、広東省の開平などは、近代的な宿泊施設と伝統家屋を活かした宿泊体験で若年層からも人気を集めています。

また、「田園リゾート」や「ツーリズム農園」などのコンセプトも生まれています。地方ごとに特徴的な自然景観や民族的伝統を生かして、観光客に直接農作業を体験させたり、地元の郷土料理を味わわせたりする企画が盛んです。これらは都市部からのファミリー層や若者グループに特に人気です。

さらに、環境志向の高まりにより、「エコツーリズム」や「グリーンツーリズム」と呼ばれる体験型観光も注目を集めています。自然環境の保全と地域経済振興を両立させる持続可能な観光モデルが、各地で導入され始めています。

2.3 観光産業の雇用創出効果

観光産業は地方経済にとって大きな雇用創出源となっています。ホテルやレストラン、ガイド業、交通インフラ関連、土産物製造・販売、体験プログラム運営業者など、多岐にわたる雇用機会が生まれています。特に農村部では、直接的な農産物生産以外にも副業やパートタイムの働き口が増え、若者や女性が新たに就労するケースが目立ちます。

例えば、雲南省麗江市周辺では、観光シーズンにあわせて農閑期の農家がガイドや宿泊業を兼業し、収入の多角化に成功しています。また、民族衣装の貸し出しや伝統料理の体験教室、民芸品づくりなど、もともとの農村資源や生活文化を生かした独自のビジネスも育っています。

さらに、観光産業は地域ブランドのPRや農産物販路の拡大にも直結しています。産地直送のネット通販と店舗販売を組み合わせるなど、観光ビジネスと農業が自然に補完しあうエコシステムが形成されています。

2.4 地方自治体の観光政策と支援策

地方自治体も観光産業支援に積極的に取り組んでいます。例えば特色ある観光地の開発プロジェクトや、民間投資呼び込み、観光人材育成プログラムを支援する補助金制度などが充実しています。一部の自治体では、伝統集落の保存修復や観光インフラ(道路・案内板・公衆トイレなど)の整備も行われています。

観光情報の発信については、WeChatやDouyin(中国版TikTok)などSNSを活用したPRも近年主流となっています。観光プロモーションのための映像コンテストやフォトコンテストの開催、公式観光アカウントによるライブ配信等も盛況です。

また、観光客の誘致に合わせて農村部のインフラ整備も進んでおり、農業体験施設や直売所、体験学習センターなど、観光と農業の連携を支える設備導入が全国的に広がりつつあります。


3. 農業と観光の連携の現状とモデルケース

3.1 アグリツーリズム(農業観光)の定義と特徴

アグリツーリズムとは、農村や農業をテーマにした観光事業のことを指します。単に農産物の販売だけでなく、農作業体験、収穫体験、農家民宿、農村生活体験、郷土料理作り、伝統文化イベント参加など、農村の多様な資源を観光資源として活用するのが特徴です。

中国ではこのアグリツーリズムが、農業経営者の収入多角化、農村の雇用創出、地域文化の保護・発信という重要な役割を担い始めています。都市住民にとっては「非日常」を味わえる週末旅行先となり、農村部にとっては都市部との新しい接点となります。

たとえば、季節ごとにイチゴ、サクランボ、ぶどう、柿、ピーナッツなどの果実・作物収穫体験を提供したり、水稲・麦・茶葉の栽培体験、または地元の伝統文化や民族衣装を体験する民俗アクティビティも盛んに行われています。

3.2 代表的な地域連携モデルの紹介

中国には様々な農業と観光の連携モデルが存在します。浙江省の安吉県では「エコ農村」モデルが有名で、茶畑を中心とした観光地開発や、竹林・温泉リゾートと結びつけたアグリツーリズムが大成功をおさめています。また地元農家と行政、観光企業の三者が連携した共同経営スタイルが特徴です。

雲南省のシャングリラ地区では、標高差を活かした野生花畑の観賞ツアー、チベット系民族文化体験、伝統家屋に滞在して地元の生活を学ぶプログラムなど、多角的な観光資源開発が進められています。農業と観光が互いの強みを引き出す仕組みが、経済循環を生み出しています。

河北省や四川省の一部では、「観光型農業園区」という新しい農業団地の造成プロジェクトも進行中です。ここでは都市型住民をターゲットに、テーマ別農園+宿泊+体験+物販をパッケージ化し、従来の「物売り観光」から「体験型地域振興」へとシフトしています。

3.3 成功事例:雲南省、浙江省などのケーススタディ

雲南省の麗江古城周辺では、農村と観光資源を結合した経済振興策が非常に効果を上げています。例えば「玉龍雪山」の麓では、高山野菜の収穫体験とナシ族の伝統民族文化を組み合わせたツアーが人気で、毎年間単位で新しい観光客層を生み出しています。農作物のEC販売と観光地プロモーションも連携し、農家の所得が大きく向上しました。

浙江省安吉県では、「白茶」ブランド確立と同時に、茶摘み体験や竹林散策を組み合わせたアグリツーリズムが盛り上がっています。ここでは観光客が農家に直接宿泊し、主人の指導で茶葉を手摘みし、摘みたてのお茶を味わうユニークな体験が提供されます。地元自治体は観光道路や直売所、カフェなどの整備も積極的に進めています。

四川省では伝統的な「郷村民宿」と、パンダ保護区と農業体験を組み合わせたツアーが大成功を収めています。特に都市部のファミリー層や若年層向けに、1泊2日程度の手頃な内容にパッケージし、SNSでも話題を呼んでいます。

3.4 課題と障壁:運営、資金、持続性

農業と観光の連携には多くのメリットがある一方、運営や資金調達、持続性に関する課題も存在しています。まず資金面では、農家単独で観光インフラの整備やPR活動、設備投資を賄うのが難しい場合が多く、自治体や民間企業のパートナーシップが不可欠です。

また、観光サービス運営は接客スキルや事務管理、語学力、マーケティング、リスク管理など、農業とは異なるスキルが求められます。農村部ではノウハウ不足や人材不足が大きな障壁となりがちです。

さらに「持続性」も課題です。観光客の増加がもたらす生態系悪化や、従来の農業生産への負担過多、大型観光開発による地元住民との軋轢など、慎重なバランス調整が必要となります。また一時的なブームに頼らず、長期的に発展できる地域ブランド・体制構築が求められています。


4. 地域振興への具体的な取り組み

4.1 農村体験プログラムと地元文化の発信

中国各地では、農村ならではの体験プログラムが多様に展開されています。代表的なものに、水田や畑での「一日農夫体験」、伝統的な収穫儀式参加、動物の飼育や郷土料理作り教室などがあります。これらは家族連れや学校の教育旅行、都市部の若者グループに人気で、農村生活のリアルな一コマを「見て、触れて、味わえる」プログラムとなっています。

村祭りや伝統芸能、民族音楽、手工芸などの地元文化も、観光客を惹きつける重要な資源です。例えば雲南省の少数民族村落では、スカートダンスや彩色織物づくり、草木染めなどを実際に体験できるワークショップが行われています。都市部から参加した若者がSNSで体験をシェアし、さらなる集客につながる好循環も生まれています。

地域文化の発信には、地元住民自身がガイド役やインストラクターとなる取り組みも広がっています。自らの誇りや歴史を観光客に伝えることで、住民の意識にも変化が生じ、地域社会全体のつながり強化やエンパワーメント効果も期待されます。

4.2 地産地消と食文化プロモーション

農業と観光連携の強みのひとつが、新鮮な地元食材を活用した体験や飲食サービスです。多くの観光農園や農家民宿では、「地産地消」を合言葉に、採れたての野菜や果実を提供した料理教室、地元食材を使った特産メニューの開発が行われています。たとえば湖南省の「農家楽(農家レストラン)」は、地元住民の母親が作る素朴な家庭料理と、季節ごとの素材にこだわったメニューで大評判です。

また食文化のプロモーションイベントとして、地元名産の品評会や料理コンテスト、フードフェスティバルも各地で行われています。それぞれの地域が自分たちの風味を誇りとし、多様な食文化が自然発生的に発信されています。

特に、電子商取引(EC)サイトを通じた産地直送サービスも発達しており、観光で訪れた土地の味が帰宅後にも楽しめる仕組み作りが進んでいます。これにより、訪れた観光客との継続的なつながり=リピーターやファン層の拡大が目指されています。

4.3 環境保全とサステナブル観光

最近の地域振興で特に重視されているキーワードが「環境保全」や「持続可能な観光」です。農業と観光の連携では、自然環境や生態系を大切にするエコツーリズムの考え方が積極的に取り入れられています。具体例として、農薬や肥料を極力減らしたオーガニック農園の開設、里山の再生プロジェクト、地域の野鳥や野生動物観察ツアーなどが広がっています。

たとえば浙江省の一部農園では、ビニールハウスの代わりに古民家を活用した「エコロッジ型農家民宿」を運営したり、地域の河川や森林の保全活動を観光プログラムと組み合わせる等、持続性と観光ニーズを両立するチャレンジがなされています。観光客にも「自然と共生する意識」を伝える教育的な取り組みも目立つようになりました。

また、地元住民や観光客が一緒になってゴミ拾いや植林活動を行い、持続可能な観光地を自分たちの手で守る「参加型エコツーリズム」も増加しています。こうした活動はメディアやSNSでも話題となり、環境保全の意識が都市部の若者にも浸透しやすくなっています。

4.4 IT技術とインフラの活用(スマートアグリ・スマートツーリズム)

中国農業と観光の現場でも、IT技術やスマートインフラの導入が加速しています。たとえばドローンや自動化ロボットによる農作業効率化、AIを活用した気象・生育状況の監視システム、観光客向けにスマートフォンで使える農業体験ナビゲーションアプリの開発など、新しいデジタルツールが現場の負担軽減や体験価値の向上に役立っています。

また、観光分野では電子マネー決済やオンライン予約、ライブコマース(生中継+物販)、バーチャルツアーなど、中国独特のIT活用が進んでいます。WeChatやアリペイ、DouyinなどのSNS・電子決済インフラのおかげで、農村部でも都市と同レベルの利便性が確保されています。

BYOD(自分端末持ち込み)ガイドによる多言語対応ツアーや、スマートセンサーを使った農作物体験・収穫測定、地域おこしイベントの電子メンバーシップ制度など、ITを軸に新しいユーザー体験や働き方改革が一気に加速しています。


5. 日本との比較と連携可能性

5.1 日本における農業・観光連携の事例

中国の事例を語るにあたり、参考になるのが日本の農業観光連携です。日本では「グリーンツーリズム」「農泊(農家民宿)」といったスタイルがすでに定着しており、北海道富良野のラベンダー観光、長野のりんご狩り、九州の温泉地と農村体験など、全国津々浦々で取り組みが進んでいます。

例えば大阪府河内長野市では、地元農家と都市住民が共同で田植え・稲刈り体験を行ったり、農産物直売所とカフェ、地元食材を使った料理教室をセットにした週末プランを提供しています。日本全国からも参加希望が集まる人気企画となっています。

また、全国的に「道の駅」や観光農園が発達し、地元自治体や観光協会がプロデュースする地域特産ブランドも各地で注目されています。中国の各都市部や農村観光地も、日本のこうした柔軟な地域連携モデルを多く取り入れつつあります。

5.2 日中間の交流・共同プロジェクトの現状

日中間でも農業・観光に関する交流や共同プロジェクトが進められています。例えば農業技術分野の日中技術協力プロジェクト、観光プロモーションイベントの共同開催、多言語ガイド育成や情報発信ノウハウの交換など、民間・行政レベルの人的交流は年々増加しています。

また、日本企業による中国農村での農業技術デモンストレーションや、生態系に配慮した農村観光施設への提携投資もみられます。中国都市部の若者向けに、日本のグリーンツーリズムや食文化体験を紹介するツアー(逆インバウンド型)も人気です。

さらに、コロナ禍以降のオンライン交流や遠隔講義、共同マーケティング・商品開発なども積極的です。IT技術の進歩により、物理的距離のハードルが下がったことで「知恵」と「体験」のグローバルな共有が進んでいます。

5.3 互いに学ぶべき点と課題

中国と日本それぞれが、農業と観光の連携について互いに学ぶべき点が多くあります。中国は巨大な人口と多様な民族・広大な国土を背景にスケールの大きい取り組みが特徴であり、大胆な投資やITインフラの整備、最新技術の導入に強みがあります。他方、日本は少人数・小規模でもきめ細やかなサービス、宿泊・飲食・体験等の質の高いパッケージ化、多言語対応・高齢者・障害者対応の取り組みで先行しています。

課題としては、両国ともに農村部の高齢化と担い手不足、多様化する観光ニーズへの柔軟な対応、持続可能性を意識した観光資源管理等が挙げられます。また地元住民と観光客、自治体・企業の役割分担や利益配分のバランス調整も、どちらの国でも悩みの種です。

このように、互いにベストプラクティスを学び合い、持続・発展できるビジネスモデルや行政の枠組みを共同開発する可能性が大いに秘められています。

5.4 観光客誘致・市場拡大のための両国協力

今後さらに力を入れたいのが、中日間の観光客誘致や市場拡大に向けた相互協力です。たとえば中国の農村観光地で日本語対応ガイドや日本人観光客向けの体験プログラムを用意する一方、日本側でも中国語対応の農家民宿や中国向け観光キャンペーンを展開する等、両方向の取り組みが一層進むことが期待されています。

また、文化や習慣の違いを生かしたツアー企画や、食文化・民芸品・農産物を相互にPRできる「日中農業観光フェスティバル」なども企画されています。双方の行政・観光業者・農家・市民団体が情報を交換しながら、消費者目線でより魅力的な観光地づくりに挑戦しています。

インバウンド・アウトバウンド両面で協力することで、単なる一時的なブームではなく、未来志向で持続可能な「日中交流モデル」の確立に近づくでしょう。


6. 持続的発展のための課題と展望

6.1 地域格差と持続的発展の課題

中国では農村と都市、沿海部と内陸部、経済強県と弱県の格差が根強く存在します。農業と観光の連携による地域振興も、条件のよい観光資源やアクセス性が高い地域ほど先行しやすく、内陸部や僻地ではなかなか成果が見えてこない課題があります。

また、一部先進エリアの成功モデルがそのまま他の地域に適用できるわけではなく、地域固有の歴史・気質・産業構造に合わせた「自分たち流」のカスタマイズが不可欠です。地域住民自身の理解や主体性、外部人材との協力体制のバランスも大切になります。

さらには、新しいビジネスモデルや政策支援が一過性に終わらず、10年20年と持続する仕組みを作ることが最大のチャレンジです。地域資源だけでなく、地域コミュニティ自体の継続的な活性化が問われています。

6.2 持続可能なビジネスモデルの構築

持続的な農業×観光ビジネスを実現するためには、経済的自立と社会的・環境的インパクトの両立が必須です。近年の中国では、農村民泊や体験イベントに寄与する定期会員制度、ネット販売と観光客フォローアップを組み合わせたCRM戦略など、新しい収益モデルが登場しています。

また、地元住民と都市部専門人材、自治体・観光企業・金融機関などの多様なパートナーシップによる経営も重要です。リーダーシップを取る若手起業家や女性経営者、地域内外のネットワークが原動力となることも少なくありません。

社会的・環境的持続性に関しては、「農業による環境保全」や「伝統文化の継承」「観光による地元コミュニティ支援」など、指標を設定し行政と一体で成果測定する自治体も登場しています。こうした多面的評価が長期的な発展の頼もしい土台となります。

6.3 地元住民の参与と人材育成

農業と観光の連携にとって、地元住民の参与と多様な人材育成が不可欠です。地元出身の若者や、Uターン・Iターン希望者、都市の社会人経験者を巻き込んだ「人材ベンチャー」が全国で増加中です。彼らはデジタルスキルや商品開発力、語学力、PR力などを持ち込み、地域に新しい風を吹き込んでいます。

一方、ベテラン農家や伝統芸能の継承者も、インストラクター説明会やワークショップを通じて観光分野で再評価されています。世代や専門分野を超えた知識継承・技術共同体づくりが、地域資産の持続的活用に役立っています。

地方大学や職業訓練学校、オンライン学習プラットフォームなども、観光やサービス業・農業ベンチャーを志望する若者の育成に着手しています。人材の多様性と地域への愛着、そして学び続ける意欲がこれからの地域振興のカギとなるでしょう。

6.4 今後の政策提言と未来展望

これからの中国の農業・観光連携は、さらに「人」に着目した持続的な取り組みが不可欠です。行政には、よりきめ細かい政策支援や規制緩和、地元主導の小規模プロジェクト支援、女性・若者の起業応援、人的交流促進など、現場目線の支援を心がけて欲しいところです。

観光と農業が地域経済の二本柱になるには、消費者や観光客の声をリアルに聞き、多様なニーズに合わせて現場の柔軟性を高めていく必要があります。また、IT技術のさらなる活用とエコロジカルな視点の融合が「地域振興の中国モデル」確立の切り札になるはずです。

日中両国ともに取り組みを共有し、ベストプラクティスを学び合いながら、アジア―そして世界各地が注目する持続可能な農村・地域振興のモデルを一緒に築いていけると良いですね。


まとめ

中国の農業と観光の連携による地域振興は、これからの時代に求められるサステナブルな発展のカギです。現場にはさまざまな課題が残りますが、一歩一歩の試行錯誤から、地域の未来を切り開くヒントが生まれ続けています。日中それぞれの知恵と経験を交流させ、多様な人材とテクノロジーを現場に根付かせながら、10年、20年先も活気ある農村と多彩な観光地の共存が実現することを願っています。

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