中国の農業と食料供給チェーンの中で、食品廃棄物のリサイクルや循環型農業への移行は、環境問題や資源の有効活用、経済効率化にとって非常に大事な課題です。中国は世界最大の人口を抱え、巨大な農業大国でもありますが、経済成長や都市化の進展とともに、食料の消費量とともに、食品廃棄物も急増してきました。こうした廃棄物をどのように減らし、再利用し、循環型社会をつくっていくかは、未来の中国、そして全世界の課題ともいえるでしょう。
以下では、中国の食品廃棄物の現状から、リサイクル政策や技術革新、現場での取組、さらには日本との連携や今後の展望まで、幅広く詳しく解説します。具体的な事例も交えながら、分かりやすく説明していきますので、ぜひ最後までお読みください。
1. 中国における食品廃棄物の現状と課題
1.1 食品廃棄物の発生量とその背景
中国では経済発展とともに都市化が急速に進み、都市部の人口増加や飲食業の発展によって、毎年膨大な量の食品廃棄物が発生しています。北京、上海、広州などの大都市では、家庭から出る生ごみや、スーパー・レストランなど事業所からの食品ロスが最も多いとされています。環境省などのデータによると、中国都市部だけで1年間に約3500万トン以上の食品系廃棄物が発生しており、これは世界最大規模です。
なぜこれほどの量の食品廃棄物が出るのかというと、一つは「食文化」に根ざした側面があります。中国では「食べきれないほど注文する」ことが礼儀やおもてなしとされ、宴席や家族の集まりなどでは大量の料理が並びます。この結果、食べ残しや廃棄が多くなります。また、食料供給チェーンが未発達な農村部では、収穫後や流通段階でのロスも深刻です。
加えて、冷蔵や物流インフラの未整備も食品廃棄物増加の大きな要因です。長距離の輸送や過酷な気候条件の中で、鮮度を保てずに廃棄される農産品も少なくありません。現場レベルでの保管方法の改善や物流システムの強化も求められています。
1.2 食品廃棄物がもたらす経済的・環境的影響
食品廃棄物の増加は、単なるごみ問題にとどまらず、経済的損失や環境への負荷となっています。例えば、廃棄される食材や加工品は、農家・流通業者・消費者が本来得られるはずの利益を失うことを意味します。推計によると、中国全体で食品ロスが経済にもたらす損失は、年間数百億元規模にも達しています。
また、廃棄物処理には多大なエネルギーとコストがかかります。伝統的には埋立処分や焼却が主流でしたが、食品廃棄物は水分が多く、焼却効率が低いため、エネルギーも多く消費します。埋立の場合、メタンガスなど温室効果ガスの発生や、土壌・水質の汚染といった環境問題を引き起こします。特に中国の大都市周辺では廃棄物埋立地が飽和状態になり、新たな処分場確保も大きな社会的課題です。
さらに、世界的な食料不足が懸念される中、食べられるはずのものが無駄にされることへの倫理的な批判も強まっています。環境保護団体や市民グループからは、「持続可能な社会」の実現のためには廃棄物削減が必須だと訴える声が高まっています。
1.3 食品廃棄物削減に対する社会的認識と行動
中国政府や市民、企業の間では、近年になって食品ロス・廃棄物の問題意識が急速に高まっています。2020年には「浪費のない食卓(光盘行动)」が全国的なキャンペーンとして展開され、「食べ残しを減らそう」という呼びかけがネットやメディア、学校、企業など幅広く広まりました。
一方で、社会の意識変化には時間がかかっており、都市と地方では温度差も見られます。都市部の若者層はSNSやニュースから問題をよく認識し、フードシェアリングアプリや小盛りサービスの利用など新しい行動を積極的にとり入れてきています。レストランでも「残った料理は持ち帰りOK」というサービスが普及しつつあります。
しかし、地方や高齢者世代では「もったいない」「リサイクル」という意識がまだ十分には定着しておらず、習慣的な廃棄が続いているケースも多いです。特に農村部や小規模飲食店では、食品廃棄物の分別やリサイクルが進んでいない状況も見られます。
1.4 国際比較から見る中国の廃棄物問題の特徴
国際的に見ると、中国の食品廃棄物問題は産業構造や規模による特徴があります。例えば先進国の日本や欧米諸国と比べると、中国では都市部の人口密度が桁違いに高いことや、地域格差が大きいことが挙げられます。また、農村と都市の距離が遠いことで物流の効率が落ち、流通段階でのロスが一層深刻です。
一方、都市部を中心にデジタル技術や情報通信技術(ICT)を利用して、廃棄物管理やリサイクル運用を効率化しようとする取り組みが進んでいる点も特徴的です。上海や深圳などのビッグデータ先進都市では、分別ごみ収集とIoTごみステーションの導入が始まっています。こうした技術志向の社会的インフラ改革は、世界的にも注目されています。
しかし、管理運用の一貫性や、細かな規制・啓発の浸透という面では、まだ欧州などの成熟した制度には及びません。経済規模の大きさ、社会構造の複雑さが障壁となるケースが目立ち、独自のアプローチが求められる状況です。
2. 食品廃棄物リサイクルの政策と制度
2.1 中国政府の食品廃棄物関連政策の現状
近年、中国政府は食品廃棄物削減とリサイクル促進に力を入れてきました。2021年には「食料節約促進法」(反食品浪費法)が制定され、飲食業・ホテル業・大規模イベント等に対して、食べ残しの削減と適正な廃棄物管理が義務付けられました。政府機関の食堂でも「食べ残しゼロ運動」が定着しつつあり、全国で標語やポスターを見ることができます。
さらに、農業農村部、環境生態部、国家食品薬品監督管理局など複数の省庁が連携して、食品廃棄物削減のガイドラインや具体的なリサイクル推進策を発表しています。代表的な事例としては、「都市生ごみリサイクルパイロット都市」の指定や、「農村廃棄物ゼロプロジェクト」などが挙げられます。都市ごみ分別や食品リサイクルの義務化なども法制化されつつあります。
また、「十四五(第14次五カ年計画)」でも資源循環利用とグリーン経済が大きな柱に据えられ、食品廃棄物リサイクルは国家戦略として明確に位置づけられました。これにより、中央から地方まで各級政府で具体的な取り組みが本格化しています。
2.2 関連法規と規制の発展過程
中国の廃棄物関連法規は、1990年代から徐々に整備が進んできました。初期は都市ごみ処理法や環境保護法が中心でしたが、経済発展と都市化の進展に合わせて、「固形廃棄物汚染防治法」や「再生資源回収利用管理条例」などが追加されました。特に2000年代以降は、リサイクルや循環型経済の概念が重視され、各種の細かな規制が生まれています。
食品廃棄物に特化した法規としては、上述の「食料節約促進法」が新しく、違反した飲食企業やイベント主催者には罰金や行政指導が科されるケースが増えています。また、大都市中心に「ごみ分別条例」が導入され、食品残渣や果物くずなどを一般廃棄物と別に分離回収する仕組みも整備されてきました。
さらに、一部都市では「食品廃棄物再利用条例」や、バイオガス・堆肥化施設への食品残渣積極提供を義務付ける地方法規も導入されており、法整備の流れは今後も広がると見られています。
2.3 地方自治体における先進的取り組み
中国は国土が広く、地方ごとに経済水準や気候、食文化が違うため、自治体ごとの柔軟な取り組みが不可欠です。たとえば、上海市は全国初の「強制ごみ分別条例」を2019年に制定し、食品廃棄物は専用回収コンテナで分別、学校や企業での啓発活動も盛んです。全市民を対象にスマホアプリで「ごみ分別クイズ」や、分別情報の提供を行い、短期間で市民の認知度を高めました。
広東省広州市では、生ごみ回収ステーションへのスマートカード導入や、ポイント還元システムも運用中。こうしたデジタル化施策により、「分別すればポイントが貯まって商品券に交換できる」など、楽しみながらリサイクル参加を促す工夫も多いです。
また、北京市や江蘇省蘇州市などでは、自治体自らがバイオガス施設や堆肥工場の設立に関与し、食品廃棄物の有効利用に積極的です。地元農家や小売業者、廃棄物業者とネットワークを組み、都市と農村が連携した「ごみ-農業循環システム」を推進する先進事例も見受けられます。
2.4 民間部門・NGOの役割と協力事例
政策や法制度の整備と並行して、企業やNGOの協力も不可欠です。食品メーカーや外食チェーン、スーパーなどでは、「フードリカバリー」や「売れ残り食品の寄付」「飼料・肥料活用」など多様なリサイクルプランを導入しています。たとえば、中国最大級のスーパー「華潤万家(CRV)」は、売れ残りや賞味期限切れ直前の食品を専門業者へ無償提供し、家畜飼料やバイオガスの原料として再利用しています。
飲食チェーンの「海底捞」や「呷哺呷哺」なども、食材管理や食べ残しデータの分析を通じて、発注量や盛り付けを最適化。残った野菜くずや食肉端材は、堆肥化業者やバイオマス企業への供給に回しています。
また、NGO「緑色江南」「食衛士」などは、都市住民向けの啓発イベントや、学生による食堂での廃棄物監視プロジェクトを展開しています。特に若者世代のボランティア活動参加が増えており、社会全体で持続可能な循環型社会を目指す気運が高まっています。
3. 技術革新による食品廃棄物リサイクルの推進
3.1 有機廃棄物処理技術の導入と普及
中国では、伝統的な焼却や埋立に代わり、新しい有機廃棄物処理技術が急速に普及しています。多くの都市で導入されているのが「嫌気性消化」(バイオガス発生)技術です。これは、廃棄された食品や有機性ごみからバイオガス(主にメタン)を生成し、発電燃料や暖房、工場利用などに再利用する手法です。河南省鄭州市や江蘇省無錫市などでは、食品廃棄物処理プラントを大規模に建設し、地域の公共バスやごみ収集車のCNG燃料供給などにも利用しています。
家庭や小規模店舗向けには、「生ごみ高速分解機」の導入も進んでいます。これらの機械は、生ごみを微生物や分解剤で短期間(数時間~1日)で減容・堆肥化するものです。都市マンションでも生ごみ分別を徹底し、エコポイントや報奨金を提供する自治体も増えてきました。
また、一部では「黒水虫」(Hermetia illucens)を活用した生ごみのバイオ分解も注目されています。これは、特殊な昆虫である黒水虫の幼虫に食品廃棄物を食べさせ、幼虫自体を動物飼料などに利用する方法です。上海や広西チワン族自治区など、複数のパイロットプロジェクトがスタートしています。
3.2 バイオガス生成・堆肥化技術の発展
中国の循環型農業の中核となるのが、バイオガス生成や有機廃棄物の堆肥化技術です。政府主導のモデル地区では、都市の生ごみ・レストラン廃棄物・農場廃棄物を大型発酵プラントに集めてバイオガスを作り、そのバイオガスで電力を自家消費したり、農機の燃料にしたりしています。山東省、湖南省、広東省などの農村団地では、戸別に設置できるミニバイオガスシステムも長年普及しており、エネルギーの地産地消に役立っています。
堆肥化については、廃棄野菜・果皮・厨房くずを微生物発酵させて有機肥料を生産し、地元農家に安価販売する仕組みが一般的になりつつあります。大規模な場合は、年間数万トン規模の堆肥プラントが整備され、野菜・果物産地の品質向上にも貢献しています。
これら技術の発展により、「ごみ」だったはずの食品廃棄物が、エネルギーや農産資源として地域社会に循環しています。さらに自治体や大学、企業が共同で新しい発酵・分解技術の研究開発も進めており、国産技術の国際展開も期待されています。
3.3 情報技術(IoT・AI等)を活用した効率的運用
デジタル化が進む現代中国では、IoTやAI技術を用いた廃棄物処理のスマート化が大きなトレンドです。例えば、都市部の分別ごみ回収施設では、「IoTごみ箱」が普及しつつあります。これは、利用者がスマートカードをかざして分別投棄し、ポイント還元や投棄記録が自動的に管理される仕組みです。管理当局はリアルタイムで廃棄量・分別率を把握でき、回収ルートや回収頻度もAIが最適化しています。
飲食業界では、AIを搭載した分析システムで「どのメニューで最も食べ残しが多いか」「一人あたりの注文量適正化」など、データ分析に基づいた食材管理改革も行われています。さらに、スーパーやコンビニでは、フードロス予防システムや自動注文調整システムが導入され、過剰発注・在庫廃棄の削減に成功しています。
分別作業の自動化も進んでおり、浙江省杭州市の一部リサイクルセンターでは、AI画像認識による自動分別ラインを稼働中。大規模な都市ごみ処理インフラと次世代情報技術の融合で、効率的なリサイクル社会が目指されています。
3.4 リサイクル製品の市場化・商業化への課題
技術革新により、食品廃棄物から作られるバイオガスや堆肥、有機飼料などの「リサイクル製品」も市場に出回るようになっています。ただし、その商業化にはまだ多くの課題が残っています。第一に、リサイクル製品への消費者ニーズや信頼が十分定着していない場合があります。特に有機肥料や飼料の場合、「品質が安定しているか」「安全性に問題はないか」といった懸念で利用をためらう生産者や農家もいます。
また、通常の化学肥料や一般エネルギー源と比べて、コストや大量供給面での競争力が劣ることも、リサイクル市場拡大の壁になっています。さらに、リサイクル製品流通の規模拡大には、流通インフラと販路の整備、法的認証や品質規格の統一など、官民あげての制度設計が不可欠です。
これに対して、中国各地でのパイロットプロジェクトや小規模試験販売を通じて、農家や消費者へのメリット説明や品質保証制度の整備が進みつつあります。今後、農業生産現場や一般家庭でのリサイクル資材活用が本格化すれば、商業的にも大きな成長分野となることが期待されています。
4. 循環型農業への移行に向けた実践例
4.1 食品リサイクル資源を活用した循環型農業モデル
中国の農村や都市周縁部では、食品廃棄物を徹底的にリサイクルし、循環型農業につなげるモデル構築が加速しています。その代表例が「都市部生ごみ→バイオガス発酵→堆肥として農場利用」というサイクルです。北京市郊外や上海市近郊の一部農村では、市内の生ごみ回収を自治体や企業が一括管理し、発酵バイオガスプラントでエネルギー化および発酵後の残渣からの有機肥料生産を行い、地元農家へ供給しています。
こうしたシステムでは、廃棄物収集運搬・発酵プラント運営・堆肥流通まで、都市と農村が連携した一体的なネットワークが形成されます。結果として「ごみゼロ都市」「グリーン農村」など持続可能な地域づくりという好循環が期待できます。
さらに、果物市場や漁業集積地では、「魚の残渣→肥料・飼料化」「果物くず→堆肥化」など、高付加価値のリサイクル資材を創出し、地元ブランド野菜や果物の生産力向上にも大きな貢献をしています。
4.2 農業現場での廃棄物再利用の実際
中国の農業現場では、野菜や果実の収穫残渣、廃棄食材、各種有機系ゴミを堆肥として活用する伝統もあります。最近では、こうした地域密着型リサイクル活動が、デジタル技術や新しい設備導入によって「見える化」「効率化」され、さらに拡大しています。
広東省では、養豚農家が近隣スーパーの売れ残り野菜・果物くずを飼料として受け入れ、また発酵残渣を田畑へ施すサイクルが一般的化。吉林省や黒竜江省の大規模農場では、工場で発生する食品製造副産物もトウモロコシ畑の有機肥料や、牛・羊の飼料として再利用されています。
温室野菜農家では、KPI(主要業績評価指標)として堆肥使用率やリサイクル肥料への切替進捗を毎シーズン管理し、農協や自治体との連携会議で廃棄物再利用率アップを競うイベントも行われています。こうした現場主導の取組が、循環型農業の実態を支えています。
4.3 都市と農村の連携による循環パートナーシップ
都市と農村がパートナーシップを組み、食品廃棄物のリサイクル価値を最大化する動きも活発になっています。一例として、江蘇省南京市では、市内の大規模ホテルや飲食施設から発生する生ごみを契約農場が一括受け入れ、堆肥や飼料に変え、地元農産品ブランド化を同時に推進しています。
都市近郊の農場が「都市のごみ問題を解決するパートナー」として協力することで、双方の持続可能性や経済価値がアップします。地域限定の「グリーン野菜BOX」や「地産地消市場」を運営するNPOと中小農場の連携事例もあります。
また、「都市部の学校・レストランで発生した給食ごみ→近郊農場で堆肥化→農業体験学習へのフィードバック」という、教育と環境循環・地域ブランド戦略が融合したプロジェクトも複数立ち上がっています。
4.4 農産物ブランドと持続可能性の関係
循環型農業を採り入れることで、「環境にやさしい」「安心・安全」「地元資源循環」など新しい農産物ブランド価値が生まれています。他都市との差別化戦略として、南京や蘇州、深圳などの都市郊外農場では「リサイクル堆肥利用農作物」「フードロスゼロ野菜」といったブランド確立例が増えています。
特に、大都市の中高所得層や子育て世代ほど、「エコ」や「健康」意識が高く、高値でも安心できるブランド野菜・果物を選ぶ傾向があります。SNSやEコマースでも「循環型農業の証明書付」ブランドの人気が拡大中です。
ブランド力だけでなく、リサイクル・循環型農業は「生産コスト低減」「地域雇用創出」「消費地との直接交流強化」など副次的な社会的・経済的メリットももたらします。こうした持続可能性の付加価値が、中国農業のグローバル競争力アップにもつながり始めています。
5. 日本と中国の知見共有と連携促進
5.1 日本のリサイクル政策と中国への示唆
日本は20年以上前から食品リサイクル法やごみ分別の徹底など、廃棄物対策で多くの実績とノウハウを持っています。たとえば、日本の自治体では「燃えるごみ」「燃えないごみ」「資源ごみ」など細かな分別ルールと、市民向けの丁寧な啓発活動を通じて、高い分別率とリサイクル率を維持しています。
また、日本のスーパーや飲食チェーンは、賞味期限が近い食品の割引販売・寄付によるフードバンク支援、堆肥化やバイオガス施設との連携など、企業レベルでもきめ細かな廃棄物対策を取っています。さらに、学校給食や地域イベントでの「残さず食べよう運動」も根強く展開されています。
中国にとって、日本のきめ細かな分別・再利用制度や、「残さず食べよう」の社会的啓発モデルは、大きな参考となります。特に、分別ごみマニュアルや、地域社会ぐるみで実施するキャンペーンの手法、食品リサイクル企業やフードバンクの仕組みなどを中国の実態に応じて取り込むことが期待されています。
5.2 両国企業による共同プロジェクト事例
日中間で積極的に進められているのが「共同実証プロジェクト」や技術交流です。例えば、東京都内のバイオガス企業が中国広東省に進出し、現地パートナーと共同で食品リサイクルプラント運営を始めています。また、日本の大手リサイクル装置メーカーが上海市に堆肥化設備を供給し、現地事業者にメンテナンスや運用ノウハウの研修を行う例も目立っています。
さらに、大手商社や食品メーカーは、流通段階でのロス削減に関するデジタル管理技術や、廃棄物データ分析サービスを中国企業向けに提供しています。NGOレベルでは、日中の学生ボランティア団体が協力し、都市ごみ分別や環境啓発イベントの開催、教育ツールの共同開発も行われています。
こうした企業・NGO・公的機関の連携によって、日中それぞれの強み(技術・制度・啓発方法など)を活かしたWin-Win型の資源循環プロジェクトが生まれています。
5.3 環境教育・市民啓発活動の比較
日本では、小学校から「ごみ分別」「食べものを大切に」などの環境教育がカリキュラムに組み込まれています。地域清掃活動やリサイクル見学、美化ボランティアなど実体験型の学習も豊富です。大人向けには、自治体主催のごみ分別講座や広報紙での情報提供が充実しており、市民意識は高い水準にあります。
一方、中国でも近年、都市部を中心に学校・職場・メディアで「環境にやさしいライフスタイル」普及が進んでいますが、全土規模ではまだ格差が大きいのが現状です。ただし、デジタル技術を活用したオンライン教育や、SNS上の啓発動画・クイズ企画が若い世代への浸透に大きな効果を発揮しています。
日中それぞれの教育・啓発事例を比較し、双方の良い点を学び合うことが、今後の政策立案やアクション強化に役立つと考えられます。
5.4 日中間の今後の協力の可能性
食品廃棄物リサイクルや循環型農業の分野で、日中間の連携余地は非常に大きいです。たとえば、日本のきめ細かな環境教育や先進技術、中国の巨大な市場規模や柔軟な政策実験体制、さらには両国企業の国際的サプライチェーンネットワークなど、多様なシナジー効果が期待できます。
中国国内での制度設計や啓発活動、市場インフラ整備の現場に、日本の経験を「共創」する形で落とし込むことも可能です。逆に、中国のICT活用やデジタルガバナンスのスピード感を、日本側の実証フィールドとして活用するクロスボーダー協力も実現しそうです。
今後は、両国政府・自治体・企業・NGOがネットワークを強化し、共同研究・人材育成・実証プロジェクトなど多面的なコラボレーションをさらに拡大していくことが求められます。それにより、アジア全体の食品廃棄物削減・循環型農業発展のモデルケースになることができるでしょう。
6. 持続可能な食料供給チェーン構築への展望
6.1 食品廃棄物削減がもたらす未来像
食品廃棄物を減らすことで期待できるのは、単に「ごみ問題解決」だけではありません。農業資源の有効活用、エネルギーの地産地消、地域循環経済の活性化、食の安全・安心など、食料供給チェーン全体の持続可能性が飛躍的に高まります。例えば、都市で廃棄される食品がエネルギー資源や有機肥料に生まれ変わり、農村での高品質農産物づくりと連動することで、都市と農村が共に豊かになる仕組みが生まれます。
また、廃棄物削減を徹底すれば、限りある農地・水資源の浪費も防げ、食料自給率や将来の食糧安定供給にも直結します。今後の人口増や都市化の進展・地球環境問題を乗り越えるためにも、循環型社会へのシフトが不可欠となります。
日本や欧米に比べて発展途上段階にある中国でも、今後の技術・制度・社会意識の三位一体改革が進めば、2030年には世界モデルとなる持続可能な食料供給チェーンが期待できるでしょう。
6.2 持続可能な経済成長とのバランス
一方で、持続可能性と経済成長のバランスはとても重要です。単によい言葉を並べるだけでなく、「リサイクルが経済的にも利益につながるしくみ」を社会全体で作ることが大切になります。たとえば、補助金や税制優遇だけでは長続きしないので、リサイクルビジネスや循環型農業の市場拡大、ブランド農産物の付加価値で地域経済を底上げする好循環が必要です。
また、企業や自治体が投資しやすいインフラ整備や、リサイクル資材・製品の市場競争力を上げるための規格統一・品質保証も不可欠です。さらには、市民が「エコで安心な製品なら少し高値でも買いたい」と思える社会的ムードづくり、教育の充実も並行して求められます。
このバランスを取るため、中国では農業部門のグリーンファイナンス(環境配慮型投融資)や、地元自治体発のブランド農産物マーケティング支援なども活発になっています。経済成長と持続可能性の両立、その成功体験が他国モデルへ波及する可能性も広がっています。
6.3 政府・企業・消費者の三位一体の取り組み
食品廃棄物リサイクルと循環型農業の成功には「政府・企業・消費者」の三位一体の連携が欠かせません。政策と法制度でルールを作り、企業がイノベーションやサービスとして実行し、消費者が日々の生活のなかで行動を変える―そのサイクルがうまく回ることで、社会全体のムーブメントが生まれます。
具体的には、政府による「指導」や「罰則」だけでなく、民間の自由な発想や市場原理に基づくリサイクル・ブランド農産物・エコプロダクト拡大が必要です。さらに、学校教育や職場・家庭での啓発活動、SNS・イベント・ボランティア文化の活用による意識改革も並行して実施していくべきです。
中国でも今、「食べ残しゼロ」「分別ごみ運動」「グリーン農村づくり」「バイオガス都市」のような成功事例が点在しています。これからは、そうしたローカルの成果を横展開し、全国レベルの政策・市場運用画像へと折り重ねていくことが求められます。
6.4 今後の課題と新たな展望(まとめ)
持続可能な食料供給チェーンを本格的に実現するには、まだまだ課題も山積みです。ひとつは、地域間や都市と農村の経済格差・インフラ格差の克服です。さらに、リサイクル製品や循環農産物の「標準化」「品質保証」「安全性認証」など、社会的信頼の確立もカギとなります。分別やリサイクルは一時的なブームに終わらせず、教育と制度・市場化を一体化した「日常の当たり前」にしていく努力が続けられる必要があります。
加えて、生活スタイルや食文化への配慮も大事です。「食べ残してはいけない」と押しつけるだけでなく、ライフスタイルそのものを楽しく、無理なく、自然体でエコにする仕掛けづくりがヒントになります。たとえば、健康志向・オーガニック志向と組み合わせた商品・サービス開発、SNSを使ったエコチャレンジや口コミなど、同世代同士で自発的な波が広がっていく仕組みも有効です。
中国は、膨大な人口と急速な経済成長、豊かな食文化、多様な地域社会を背景に、食料供給と資源循環の両立に向けて動き始めています。日本や世界の先進事例も参考にしながら、自国らしい知恵とイノベーションで、「持続可能な食と農と環境」の社会像を築くことが、今後のアジア、世界にとっても重要なチャレンジになるでしょう。