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   コールドチェーン物流の発展とその影響

中国のコールドチェーン物流(低温物流)は、ここ十数年で急速に成長してきました。冷凍・冷蔵食品の需要増加、輸入食品や精密医薬品の普及、消費者の品質志向の高まりなど、さまざまな要因が背景にあります。中国は広大な国土と多様な気候を持つため、従来の常温物流だけでは高品質な商品を安全に消費者まで届けることが難しかった時代もありました。しかし技術革新と投資の拡大により、今やコールドチェーン物流は中国国内の経済や生活を支える重要なインフラとなっています。

こうしたコールドチェーン物流の発展は単なる食の安全確保や流通効率化を超えて、食品産業や医薬品産業の発展を強く後押しし、ひいては輸出入分野でも中国の競争力を高めています。物流分野におけるIoT技術や自動化設備の導入も進み、世界水準に追いつきつつあるのも特徴です。では、この中国のコールドチェーン物流がどのように進化し、どのような効果や課題があるのかを、わかりやすく説明していきます。


目次

1. コールドチェーン物流の基本概念

1.1 コールドチェーンの定義

コールドチェーンとは、食料品や医薬品など温度管理が必要な製品を、製造・収穫から消費者・患者の手元まで、一定の低温状態を維持しながら運ぶ物流システムです。中国語では「冷链(れいれん)」とも呼ばれます。この仕組みが徹底されることで、輸送中の品質低下や細菌の繁殖、成分の変質などを防ぐことができます。

コールドチェーンには、冷蔵(0〜10度)、冷凍(-18度以下)、超低温(-40度以下)など複数のカテゴリがあり、扱う商品によって温度条件が細かく設定されます。たとえば、新鮮な果物や野菜は冷蔵が使われ、アイスクリームなどの冷凍食品には冷凍輸送が必要です。医薬品の多くは厳密な温度管理が不可欠で、ワクチンや一部のバイオ製品などは超低温が要求される場合もあります。

日本では宅配便で「クール便」がおなじみですが、中国では「冷链配送服务」という形でBtoB・BtoCの両方をカバーしています。特に生鮮食料品やオンラインの食品販売が拡大する中で、消費者ニーズの高まりとともにこの分野は急成長しています。

1.2 コールドチェーンの重要性

コールドチェーンが注目される最大の理由は、食品の鮮度や安全性を保つことです。特に中国では、かつて食の安全に対する信頼が低かった時代が長くあり、市場や消費者の不安を解消するためにもコールドチェーンの構築が不可欠となりました。サーモンやエビなどの輸入冷凍食品、乳製品やカットフルーツ、さらには通販で人気の惣菜セットなど、コールドチェーンがなければ適正品質で届けることは難しいのです。

医薬品分野ではコロナ禍がきっかけとなり、ワクチン輸送のためのコールドチェーン整備が一気に進みました。例えば、mRNAワクチンは-70度前後での輸送が義務付けられるため、従来の物流網では対応できませんでした。中国政府と民間企業が協力し、空港—倉庫—医療機関間のコールドチェーンを短期間で拡充した事例は、世界でも注目されました。

さらに、省エネや二酸化炭素削減の観点でもコールドチェーンは重要です。適切な温度管理と効率化された輸送により、食品ロスの削減やエネルギーの最適利用に貢献できます。

1.3 コールドチェーンのプロセス

コールドチェーン物流は、大きく6つのプロセスに分けられます。まず生産地での予冷(急速に品温を下げる作業)から始まり、冷蔵倉庫での一次保管、その後に低温輸送車や冷蔵コンテナによる中継輸送が続きます。最終的には都市部の卸売市場やスーパーマーケット、または個人宅へのラストワンマイル配送まで、全ての工程で温度管理が維持されます。

実際の現場では専用の温度ロガーやGPS機器を使い、ロット単位で温度記録をトレースするのが一般的です。これにより、問題が発生した際にはどの段階で温度異常が起こったか迅速に突き止めることができます。また、搬送時だけでなく、積み下ろし中の一時的な保冷対策にも工夫が求められます。

さらに都市部においては、交通渋滞や高温多湿の気象条件に対応するため、ドライバーや作業員の熟練度と連携も重要なポイントです。失敗できない繊細な作業こそが、コールドチェーン物流のプロフェッショナリズムといえるでしょう。


2. 中国におけるコールドチェーン物流の現状

2.1 市場規模と成長率

中国のコールドチェーン物流市場は、世界最大級の規模を誇ります。その成長速度は非常に速く、2023年の市場規模は5,000億元(約10兆円)を超えました。年平均成長率も15%以上と推定され、野菜や果物、乳製品、肉類など生鮮食品の消費が急増していることが主な背景です。

都市化と中間所得層の拡大により、消費者の「食の安全」や「新鮮さ」に対する要求が高まり、輸入食品や高付加価値食品の需要も拡大しました。また、都市部や二級都市、さらには農村部でもインターネット食品通販が普及し、全国規模でコールドチェーン物流のインフラ整備が必要不可欠となっています。

2022年の調査によると、中国国内の冷蔵車両数は約40万台、コールドチェーン専用倉庫の総面積は約2,000万平方メートルに達しています。農村地区での生鮮品宅配や新鮮な海産物の短時間流通を実現するネットワークも次第に構築されており、今後もさらに拡大する見込みです。

2.2 主なプレイヤーと企業の動向

中国市場には大手国有企業から新興スタートアップまで、多様なプレイヤーがひしめいています。中でも、中糧物流や顺丰冷运(SF Cold Chain)、京东冷链(JD Cold Chain)などは、国内外のコールドチェーン物流をリードしています。順豊冷运は圧倒的な輸送網を持ち、主にBtoBの大口配送からBtoCの個人家庭向けにもサービスを展開しています。京東冷链はEコマース大手ならではのデジタル管理による「一貫物流」体制で、安全で効率的な配送を実現しています。

2020年以降は、アリババ系の菜鸟ネットワークや、美団(Meituan)など「ラストマイル」に特化した新規参入業者も増えています。特に生鮮スーパーマーケット「盒馬鮮生(Hema Fresh)」と組んだ独自の配送網や、都市内のダークストア型拠点による30分配送など、消費者ニーズに柔軟に対応する動きも目立ちます。

既存の物流会社だけではなく、冷蔵設備メーカーやIoT企業、AI開発ベンチャーもコールドチェーン分野に参入しており、この業界のエコシステムは非常に活発です。

2.3 政府の政策と支援

中国政府は食の安全および医薬品品質確保を最優先政策の一つとして掲げており、コールドチェーン物流の発展にも多大な支援を行っています。地方ごとに「冷链物流発展計画」「生鮮農産物流通促進政策」などが策定され、補助金や税制優遇、大規模インフラ投資が行われています。

2021年には「第十四次五カ年計画(14次五年規劃)」でコールドチェーン物流の全国ネットワーク構築が盛り込まれ、主要な港湾都市や都市間高速道路沿線、地方農産地にもコールドチェーンハブが戦略的に設けられました。また、標準化や業界認証の導入も進んでおり、各種冷蔵・低温輸送ガイドラインが厳格に運用されるようになっています。

民間主導では難しかったインフラ建設にも国が積極的に関与することで、企業単独では手の届きにくい地方拠点や農村のローカル物流ネットワーク整備が推進されているのも中国ならではの特徴です。


3. コールドチェーン物流の技術的進歩

3.1 温度管理技術の革新

ここ数年、コールドチェーン物流の温度管理は劇的に進化しています。最新の冷却装置はエネルギー効率が向上し、細やかな温度制御がリアルタイムで可能になりました。たとえば大型冷蔵トラックでは、きめ細かいエリア制御ができる仕切りつき車両も増え、輸送する商品ごとに理想的な温度ゾーンを確保できます。

中国の一部新興企業では、太陽電池と併用できるポータブル型小型冷蔵庫を農村や災害地域の物流拠点で活用する例も出てきました。また、温度センサーの精度が高まり、0.5度単位の細かい監視が標準化。問題発生時には自動警報システムが作動し、即時対応が可能です。

さらには、最新の真空断熱パネルや冷却ジェル、変温蓄冷材を使ったパッケージシステムも広がってきました。これらの技術進歩が、中国全土で商品ロスを抑え、効率的により遠くまで安全に配送できる仕組みを後押ししています。

3.2 IoTとデジタル化の影響

IoT(モノのインターネット)は、コールドチェーン物流分野で急速に普及しています。たとえば、温度・湿度・振動などを24時間自動モニタリングできるスマートタグを商品やパレットに付け、クラウドサーバーで一元管理する企業が増えました。このデータにより物流現場だけでなく、発注元や最終消費者も常に配送状況を確認できるようになっています。

京東冷鏈や順豊冷運では、自社アプリを通して「現在地+温度履歴」まで分かる追跡サービスを実施。一度でも規定温度を外れた場合は直ちにアラートが届き、自動的に検品工程へ振り分ける、などの柔軟な監視体制を構築しています。

さらに最近では、AIを活用した配送ルート最適化システムや、自動異常検知・予兆保全サービスも登場しました。データに基づく予測メンテナンスや混雑回避など、デジタル技術が物流の効率化と安全性向上に大きく貢献しています。

3.3 自動化とロボティクスの導入

コールドチェーン専用倉庫や配送センターでは、ロボット技術の導入が加速しています。例えば、京東物流は冷蔵倉庫内に自動搬送ロボット(AGV)を配備し、ピッキングやコンテナ移動を人手を介さずに正確かつ素早く行っています。これにより、省力化と同時に、庫内温度を一定に保ちやすくなりました。

また、自動無人フォークリフトや、高速自動仕分け機も多用されるようになり、人的ミスによる品質劣化や配送遅延も著しく減っています。中国南部の深圳市や上海市では、無人配送車やドローンによるラストマイル配送の実証実験も増加。とくに天候や交通事情に左右されやすい都市部で大きな効果を上げています。

今後は、AIによるロボット自動学習システムの導入や、倉庫全体をスマート管理するIoTプラットフォームの普及により、更なる自動化・効率化が期待されています。


4. コールドチェーンの発展による経済的影響

4.1 食品産業への影響

コールドチェーン物流は中国の食品産業に大きな変化をもたらしています。国産野菜や果物、肉類、卵、冷凍水産品など、かつては都市部まで安定した品質で届けるのが難しかった商品が、今では全国配送できるようになりました。生鮮ECプラットフォームの発展も、コールドチェーンの普及によるところが大きいです。

たとえば、以前は広東省のライチや海南省のマンゴーなど、地元以外では「なま物の味は難しい」と言われていました。しかし、最新のコールドチェーン物流により、収穫から1〜2日以内に上海や北京の消費者のもとへ鮮度を保ったまま配送ができるようになっています。

また、外食チェーンやコンビニの冷凍・冷蔵食品メニューの充実もコールドチェーンの存在なしには語れません。マクドナルドや肯徳基(KFC)、中国発の「海底撈」なども、全国各地で品質の安定したメニュー提供が可能になりました。

4.2 医薬品業界への影響

医薬品分野へのインパクトも極めて大きいです。抗生物質やワクチン、検査薬、特殊バイオ製剤など温度変化に敏感な医薬品の流通販路が全国に拡大し、地方都市や農村部の病院・薬局でも高品質な医薬品が手に入るようになりました。

2020年のコロナ禍以降、コールドチェーンによるワクチン配送が社会的に注目され、輸送網構築に膨大な投資が行われました。従来は保管温度が問題で一部都市しか扱えなかった特殊薬品も、今では新疆や西藏などの奥地まで、厳格管理のもとタイムリーに届けられています。

新薬の研究開発も「流通インフラ」が前提となるため、国際水準のコールドチェーン確保は中国におけるバイオ医薬産業発展の大前提となっています。

4.3 グローバル貿易の促進

コールドチェーン物流の進化は、中国の国際物流・貿易の強化にも直結しています。中国は欧米や東南アジアから冷凍エビ・魚、乳製品、ワインなどを大量に輸入していますが、これらの「温度管理が命」の商品を大都市だけでなく内陸都市へも安定して届けられるようになりました。

また、中国から日韓やASEAN諸国、アフリカ、さらにはヨーロッパへの冷凍食品や生鮮食品の輸出量も急増。例えば中国産の新鮮ホタテやクラゲ、珍しい野菜などが、航空便や冷凍船で世界中に広がっています。

一方で、中国の港湾は冷蔵コンテナの取り扱い能力が非常に高く、上海や広州など「アジアのハブ港」としての地位を固めるにもコールドチェーン物流網整備は不可欠です。自由貿易港や保税区の施策と連動し、中国の経済的プレゼンスをさらに高めています。


5. コールドチェーン物流の今後の課題と展望

5.1 環境への影響と持続可能性

コールドチェーン物流のトレンドが伸びる一方で、持続可能性と環境負荷の問題が新たな課題として認識されるようになりました。冷蔵車両や大型冷凍倉庫は電力消費量が多く、温室効果ガスの排出にもつながります。世界的にSDGsが叫ばれるなか、中国でも省エネ型設備や再生可能エネルギーの活用、冷媒の種類見直しといった取り組みが始まっています。

たとえば大手企業の中には、自然冷媒(CO2やアンモニアなどエコな冷媒)を使った新世代冷蔵庫の導入や、太陽光発電と冷蔵設備の組み合わせにチャレンジする事例も増えてきました。さらに輸送ルートの効率化により、全体のエネルギーロスを減らす努力も続きます。

また、プラスチック類の梱包材・緩衝材も多いため、リサイクル可能な新素材やエコパッケージの普及促進も、今後の重要なテーマとなるでしょう。

5.2 人材不足と技術革新の必要性

コールドチェーン物流は高い専門性と厳しい温度管理が求められ、人材不足も深刻化しています。専門知識を持つドライバーや、精密な管理ができる倉庫オペレーター、IT・IoTスキルを持つ技術者など、あらゆる分野の人材が不足しています。

そのため、「技能標準認定」や「冷链技师」の国家資格創設、職業訓練校の設置など政府と企業が協力して育成システムを強化しています。さらにAI・自動化技術の導入によって業務効率を高め、省力化をはかる試みも加速。例えば無人搬送車や自動仕分けシステムは、地方都市や人手不足地域への展開が特に期待されています。

これからは「デジタル+人材」がキーワードとなり、現場のオペレーション管理とデータ分析・トラブル対応の両方に対応できる新たな人材像が求められるでしょう。

5.3 今後の市場動向と予測

今後の中国コールドチェーン物流市場は、二級都市・三四級都市、さらには農村部への普及が大きなテーマです。都市部ではすでに一定のインフラが整いましたが、地方農産物や水産品の消費地拡大にはラストマイルの整備が肝になります。

今後5〜10年で冷蔵車両数は90万台以上、冷凍・冷蔵倉庫の総面積は6,000万平方メートルを超えると予想されています。さらにオンライン食品販売の比率は年々拡大し、スマートフォン経由の「生鮮電商+コールドチェーン宅配」など新たな流通モデルも台頭しています。

政策面でも、第15次五カ年計画(2026年以降)では持続可能性や国際協力を盛り込んだ「グリーンコールドチェーン」政策の推進が見込まれ、中国国内全域で一体化したコールドチェーンネットワークが現実味を増しています。


6. 結論

6.1 コールドチェーン物流の重要性の再確認

中国のコールドチェーン物流は、単なる食品や医薬品の品質維持を超え、国内経済構造の変革を牽引する「縁の下の力持ち」となっています。この分野の発展は、国民生活の安全や健康、産業の高付加価値化、そして海外との競争力強化に直結しています。

特に今後、気候変動への対策や省エネ政策との調和、新しい流通モデルの創出など「物流×IT×環境」の融合がますます重要になるでしょう。本記事で紹介したような技術革新や人材育成、多様なプレイヤーの連携が、さらなる発展の原動力となります。

6.2 中国経済における役割の展望

コールドチェーン物流の高度化は、中国経済の安定成長や「品質大国」への転換に不可欠な柱です。都市部だけでなく地方への波及、グローバル市場での競争力アップなど、多方面で主体的な役割が期待されています。

今後は、より環境にやさしく、多様なニーズに迅速柔軟に対応できる物流網の構築が進むと考えられます。中国が世界の物流大国として、イノベーションと持続可能性を両立させていくことが、他国にとっても大きなモデルとなるでしょう。


終わりに

中国のコールドチェーン物流は、消費者の生活スタイルや産業構造、果ては社会全体の「質」を根本から変える力を持っています。日々の食卓や医療現場を「見えない形」で支えながら、それそのものが大きな付加価値を生み出す時代となりました。今後も技術や政策、社会のニーズに柔軟に呼応しながら、この分野の動向に注目していく必要があるといえるでしょう。

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