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   円明園遺跡公園 (圆明园遗址公园)

北京の旅といえば、歴史あるお寺や近代的なビル、にぎやかな胡同(フートン)など、さまざまな魅力が思い浮かびます。そのなかでも、ひそかに多くの人の心に残る場所が「円明園遺址公園」です。かつて「万園の園」とも呼ばれた円明園は、壮麗な宮殿と美しい庭園が広がる、清朝最大の離宮でした。今では遺跡公園として、歴史の重みと新しい命が入り混じる、独特の空間になっています。今回は円明園遺址公園をテーマに、歴史や建築、四季の見どころ、文化体験、周辺のスポットなど、さまざまな角度からその魅力をたっぷりご紹介します。旅行好きな方、北京に興味のある方、歴史探訪が好きな方の参考になれば嬉しいです。

目次

1. 円明園の歴史をひもとく

1.1 輝かしい時代

円明園は、清の康熙帝の時代に始まり、雍正・乾隆帝のもとで最盛期を迎えた、まさに清王朝の栄華を象徴する場所でした。歴代皇帝に愛され、壮大な建物と美しい庭園、そして異国情緒あふれるデザインが融合した趣き深い庭園でした。もともと円明園は皇帝のプライベートな空間であり、政務の場である紫禁城と異なり、じっくりと自分の時間を楽しめるように設計されていました。

その規模は想像を超え、3つの主要園区(円明園、長春園、綺春園)から構成されていました。それぞれの園は個性的で、合計して350 ヘクタールもの広大な敷地を持ち、湖や小川、山、建物が絶妙に調和していました。当時、中国式だけでなく西洋から取り入れた最新の建築技術や美術も使われ、訪れる者を大いに驚かせました。

文化を重視した清の皇帝たちが、世界中から優れた文物や技術を集め、園内には見事な書画や彫刻、陶磁器、金銀細工などが溢れていました。この場所には、時の流れを越えた美、知恵の結晶、人々の優雅な暮らしが凝縮されており、「地上の楽園」とも謳われていたのです。

1.2 戦火による損失

円明園の輝かしい時代は長くは続きませんでした。1856年から始まったアロー戦争(第二次アヘン戦争)で、欧米列強が北京に攻め入り、1860年、ついに英仏連合軍が円明園を徹底的に破壊してしまいました。伝えられるところによると、このとき、火を放たれた建築群は3日3晩も燃え続け、美しい庭園の象徴はほとんど灰と化してしまいました。

失われたのは建築物だけではありません。園内に集められていた貴重な美術品や工芸品も、多くが略奪され、世界中に散らばりました。「円明園の失われた財宝」は今もイギリスやフランスの博物館などに残っており、中国人の心に痛みを残しています。たくさんの人々が「もし円明園が焼かれていなければ、どんなに素晴らしい遺産が今に残っていただろう」と思いをめぐらすのです。

それでも円明園は、歴史の語り部として後世に様々なメッセージを伝えています。廃墟となった現在の姿からも、当時の栄華や文化交流の痕跡、そして戦争の残酷さが感じられ、中国だけでなく世界中の人々に深い印象を与え続けています。

1.3 再生と保護の歩み

円明園が完全に廃墟となってしまった後も、中国の人々は決してこの場所を忘れませんでした。20世紀に入ると、遺跡保護の機運が高まり、学者たちが記録や資料の収集に尽力し、多くの市民が保存運動に参加するようになりました。1980年代には政府の主導で修復と再生のプロジェクトが始まり、失われた建築の一部が再構築されました。

現在は「円明園遺址公園」として整備され、廃墟の美しさと緑豊かな景観が調和した、特別な公園になっています。修復の際には、元の建物の痕跡や建設図面なども参考にされ、歴史的な正確さが大切にされています。園内には説明パネルやガイドツアーもあり、歴史を学びながら散策できるのが魅力です。

さらに、近年は環境保護やエコツーリズムの観点からも注目されています。園内では野鳥や動植物が増え、失われた自然も少しずつ戻ってきました。ここは廃墟を守るだけの場所ではなく、未来へ向けて新しい命が吹き込まれる場所へと生まれ変わっているのです。

2. 円明園の印象的な建築

2.1 フォロツニの西洋風建築

円明園といえば、中国的な優美さだけでなく、欧米スタイルを大胆に取り入れた「フォロツニ」と呼ばれる西洋風建築群が特徴的です。乾隆帝がヨーロッパの美学に強い興味を持ち、イタリア人やフランス人の建築家を招いたことで誕生しました。白い大理石と彫刻が鮮やかで、優雅なアーチ型の窓や噴水のある景観が広がります。

「西洋楼」とも呼ばれたこの建築群は、かつては中国の伝統美とヨーロッパの先端建築が見事に調和していました。アジアとヨーロッパの文化が出会い、ひとつの景観を生み出したその姿は、とても斬新で当時の人々に大きな衝撃を与えました。今も石の柱や彫刻の一部が残り、近くで見ると、壊れてはいるもののその豪華さが十分に感じられます。

廃墟となった今も、フォロツニの遺構は映画や絵画のモチーフになるほど印象的です。遺跡を巡りながら、「ここにどんな人が住み、どんな日常があったのか」と想像しながら歩くと、タイムスリップしたような気分になります。写真スポットとしても大人気で、多くの観光客が不思議な美しさに心を奪われます。

2.2 大水法の精巧さ

「大水法」は、フォロツニ建築群の代表的な存在で、円明園の中でも特に壮観なスポットです。噴水や建築が一体となった西洋式の大噴水庭園で、18世紀中国ではとても新しい発想でした。当時の技術者や職人たちは、ヨーロッパから伝わった噴水技術を学び、精巧な水路やポンプシステムを設計したと言われています。

噴水の中央には巨大な背もたれ椅子の形をした石造りの台座があり、その両側には獅子の彫刻やその他の装飾が並んでいます。元々は、皇帝や賓客が上がって水の流れや光の具合を楽しんだとされます。その荘厳さを今も感じることができますが、部分的に壊れた彫刻や崩れかけた台座が、逆に歴史の深さを感じさせます。

かつては300以上の噴水ノズルがあり、朝夕の指定された時間に水が一斉に吹き上がる光景は、訪れる者すべてを驚嘆させたそうです。今は噴水自体は使われていませんが、記念イベントやフェスティバルのときなどに、現代の技術で噴水ショーが再現されることもあります。過去と現在が交錯する瞬間を、ぜひ目で、耳で、感じてみてください。

2.3 乙女の夢の湖

円明園といえば、その広大な湖と池も大きな特徴です。中でも、「乙女の夢の湖」とも呼ばれる湖は、穏やかな水面に周囲の緑や遺跡が映りこみ、神話の世界に迷い込んだような幻想的な美しさです。湖の上には小さな橋がかかり、散歩道がゆるやかに湖岸を縫うようにのびています。

四季折々の風景が楽しめるのが、この湖の大きな魅力。春には桜や柳の新芽が水面に優しく揺れ、夏には蓮の花が咲き誇ります。秋は紅葉が湖を彩り、冬には薄氷と雪が神秘的な雰囲気を創り出します。写真好きな方なら、どの季節に訪れても絶景に出会えること間違いなしです。

湖畔にはベンチが置かれ、観光の合間にゆっくりと腰かける人たちでいつもにぎわっています。忙しい現代の生活を忘れ、静かに水面を見つめていると、まるで時間が止まったような安らぎを感じます。ここではカップルや家族連れも多く、子供たちが湖でスワンボートを漕いだり、写真を撮り合ったりしている姿も微笑ましい光景です。

3. 見どころ

3.1 春の花見: 桜と牡丹

北京の春はやや短いですが、その短い期間こそ色とりどりの花々が一気に咲き乱れる素晴らしい季節です。円明園遺址公園の春の花といえば、まず思い浮かぶのが桜。園内には数種類の桜の木が植えられていて、3月下旬から4月初旬にかけて園内のあちこちがピンク色に染まります。「中国の桜の名所」としても広く知られ、地元の人だけでなく国内外から花見客が集まります。

さらに、桜の次には牡丹(ぼたん)が登場します。中国では牡丹は「花の王」とも呼ばれ、貴重さと優雅さの象徴です。円明園にはさまざまな色や種類の牡丹が植えられており、モコモコとした大輪の花が咲く時期には園全体が優雅な香りに包まれます。牡丹の季節には写真愛好家が多く、どこを撮ってもフォトジェニックな1枚が撮れます。

春の円明園には地元の家族連れ、恋人同士のお散歩、時には写生をする学生もやってきます。みんな思い思いに春のひとときを楽しんでいて、日本の花見文化ともどこか通じる和やかさに満ちています。園内のベーカリーや喫茶店では、季節限定の桜や牡丹の和菓子も登場するので、甘いもの好きな方には見逃せません。

3.2 秋の紅葉: 見逃せない景色

円明園遺址公園は、秋もまた格別の表情を見せてくれます。10月から11月にかけて、イチョウやカエデ、ポプラなどさまざまな樹木が赤や黄色に色づき、園内がまるで1枚の絵画のように鮮やかになります。とくに西洋楼の遺跡周辺や湖畔の小道、長春園区は紅葉の名所として地元でも評判です。

紅葉シーズンになると、週末は写真を撮る人たちやスケッチブックを持ったアート志望の学生、ゆっくりとウォーキングを楽しむお年寄りなど、多彩な人々が集まります。ときには伝統音楽の生演奏や茶会のイベントも開催され、歴史ある遺構と秋の自然が融合した、特別な雰囲気が味わえます。

また、秋は涼しくて過ごしやすい時期でもあります。時間をかけて園内を歩き、古い橋を渡りながら、落ち葉のじゅうたんを踏みしめてみてください。木々の隙間からさし込む柔らかな陽射しが、円明園ならではのやさしい秋の美を引き立ててくれます。忙しい毎日を忘れ、ゆったりとした気持ちで散歩するのにぴったりな季節です。

3.3 清池の静寂: 静かなひとときを

円明園のなかでも「清池」と呼ばれる池は、ひそかに人気の癒しスポットです。喧騒から離れて、ほっと心を落ち着けたい時にぴったりの場所で、早朝や夕方には特に静かで幻想的な雰囲気に包まれます。水面を泳ぐカモや、池のほとりでひなたぼっこするカメの姿に、思わず笑顔になります。

この池の周りは、行き交う人が少なく、ベンチに座ってぼんやりしていると、時間がゆっくりと流れていることを実感できるでしょう。リラックスしたいとき、本を読みたい方、あるいは瞑想にふけりたい人には最適のスポットです。季節によっては蓮の花や水鳥も見ることができ、自然と一体になれる貴重な体験となります。

春や秋の柔らかな風が水面をわたっていく様子を見ながら、日々のストレスや悩みごともそっと流れていくように感じるから不思議です。旅行の合間に少し足を止めて、この静かな池で自分だけの休息のひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

4. 円明園の文化体験

4.1 現地の伝統お茶会

円明園を訪れたら、現地の伝統的なお茶会体験にぜひ参加してみてください。北京の茶館は雰囲気が独特で、円明園の園内やすぐ近くには、歴史ある建物を使った落ち着いた茶館が点在しています。お茶会では多様な中国茶が楽しめ、スタッフが一つ一つの作法や味わい方を丁寧に説明してくれます。

お茶の種類も実に豊富で、緑茶、烏龍茶、ジャスミン茶などから選べます。なかでも円明園のイメージにぴったりなのが「白牡丹茶」や「龍井茶」。美しい茶器に注がれるお茶の香りを楽しみながら、優雅なひとときが過ごせます。日本の茶道とはまた異なる、中国式のお茶の世界に触れるいい機会です。

お茶会では伝統音楽や作法のデモンストレーションも一緒に楽しめることがあり、プチ文化体験として記憶に残ります。春や秋の気持ちいい季節には、屋外テラスで自然を感じつつお茶を味わうのも素敵です。旅の途中でほっと一息つきたいときや、お土産話にぴったりな体験になるでしょう。

4.2 古代中国の衣装試着

円明園では、古代中国の衣装を実際に羽織って写真撮影できるサービスが人気になっています。さまざまな清代の宮廷衣装や、漢服、旗袍などが用意されており、観光客だけでなく地元の若者たちにも大好評です。衣装スタッフが着付けを手伝ってくれるので、初めてでも心配ありません。

衣装を着て園内を歩くと、まるで昔の皇族のような気分になれます。写真スポットも多く、特に西洋楼遺跡や大水法の前で撮ると、まるで時代を跳び越えたかのような1枚が完成します。家族写真やカップルで撮影する人も多く、みんな楽しそうに笑顔を浮かべて撮影の順番を待っています。

こうした体験は、観光に少しエンターテインメント要素を加える素敵な思い出づくりです。スタッフも気さくで、衣装の由来や着こなし方なども解説してくれます。旅のアルバムが一気に華やかになるので、ぜひチャレンジしてみてください。

4.3 太極拳の朝の集い

中国の朝といえば、やはり太極拳。円明園遺址公園でも、毎朝早くから地元のお年寄りや健康愛好家たちが集合し、太極拳の集いが行われています。広々とした芝生や池のそばで、ゆったりとした動きがリズミカルに続く光景は、とても美しく風情があります。

興味があれば、観光客も飛び入り参加が大歓迎です。インストラクターが基本の動きをやさしく教えてくれるので、中国式の健康法を気軽に体験できます。英語や日本語ができるガイドさんと一緒なら、言葉に自信がない方も安心。ゆっくりとした動きを覚えているうちに、心も体もリフレッシュしていくのを感じられます。

早起きして太極拳に参加し、その後、公園内のベンチで中国茶を飲んだり、清池の景色を楽しんだりする――そんな休日がとても贅沢に思えてきます。現地の人々との交流も生まれやすく、旅のエピソードとしてもきっと忘れられない体験になるはずです。

5. 円明園周辺の楽しみ

5.1 円明園西門市場での食事

円明園の西門を出てすぐのところには、地元に密着した活気あふれる市場やストリートフードの店があります。北京は「食」の宝庫。円明園を訪れた後は、ぜひこのエリアで北京ならではのグルメを楽しんでください。春巻き、餃子、羊肉串など、屋台飯の種類はとても豊富です。

市場エリアでは季節ごとの野菜や果物、地元の特産品も並び、お土産探しにもぴったり。おやつに人気なのは「驢打滾(リューダーグン)」というもち米のスイーツや、「豆汁(ドウジー)」という北京独特の飲み物。見た目や香りにびっくりするかもしれませんが、旅の思い出にチャレンジしてみてはいかがでしょう。

地元の食堂では家庭的な中華料理をリーズナブルに味わえます。お昼時にはたくさんの人で賑わい、その雰囲気の中で地元ならではの味を体験できます。コミュニケーションが難しくても、ジェスチャーと笑顔でなんとかなりますので、ぜひ中国の食文化にも触れてみてください。

5.2 頤和園との交流

円明園遺址公園の近くには、もう一つの北京の名所である「頤和園(いわえん)」があります。徒歩やタクシーで15分ほどの距離なので、セットで観光するのがおすすめです。頤和園は清朝の皇帝や皇后らが愛した夏の離宮で、湖や長い回廊、見事な楼閣が広がる壮麗な庭園です。

頤和園と円明園は歴史的にも多くのつながりがあります。円明園が戦火に焼かれた後、宮廷の暮らしや文化の一部が頤和園に受け継がれました。両方を巡ることで、清王朝の贅沢な生活、そして庭園設計の美学をより深く味わえます。

季節や時間帯を変えて訪れると、また違った魅力を発見できるのが面白いところ。円明園の静寂と頤和園の華やかさ――対照的な2つの名園を味わいながら、北京観光をより充実したものにしてみてください。

5.3 地元アートギャラリー観賞

円明園周辺には、北京らしいアートギャラリーや文化施設が点在しています。近年、こぢんまりとした現代美術館や、地元アーティストによるギャラリーが増えており、散策がてらアート鑑賞を楽しめます。歴史遺産とはまた違った、現代の北京の息吹や、若者たちの熱意を感じ取れます。

ギャラリーでは写真展や絵画展、インスタレーション、彫刻作品など様々な展示が開催されています。円明園の遺跡や自然からインスピレーションを受けた作品も多く、訪れるたびに新しい発見があるのが特徴です。週末はアーティストによるワークショップやトークショーが行われることもあります。

観光の締めくくりにアートで心を潤し、旅の余韻を味わうのも素敵ですね。ギャラリーだけでなく、カフェや書店が併設されている場所もあるので、気軽に立ち寄ってみてください。円明園周辺でしか味わえない、地元密着のカルチャー体験は、日本ではなかなかできない貴重な思い出になるはずです。


終わりに

円明園遺址公園は、ただの遺跡観光地ではありません。過去の栄華、戦火の悲劇、そして今へ続く再生と希望――その全てが、園内を歩くたびに静かに語りかけてきます。壮麗な遺構や美しい庭園、季節ごとの自然、豊かな文化体験、周辺に広がる北京の街……どの角度からも新しい発見があります。

旅行で北京を訪れる際には、ぜひ一日時間をとって円明園遺址公園の散策を楽しんでみてください。歴史好きな方も、自然やアートを愛する方も、誰にとっても特別な旅の思い出になるはずです。北京の奥深い魅力に触れ、心豊かなひとときを過ごしましょう。

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