近年、中国は世界的な経済大国としての地位を確立し、技術や文化の分野でも著しい発展を遂げています。その中で、知的財産権、特に著作権の保護と活用は、国際社会と中国の双方にとって非常に重要なテーマとなっています。インターネットの普及やデジタル経済の成長に伴い、国境を越えた著作権の問題や協力の必要性が高まっています。本記事では、国際的な著作権保護における基本的な考え方から、中国の著作権制度の進化、国際条約との関わり、さらには日本を含む世界経済の中での役割と今後の展望まで、わかりやすく解説していきます。
1. 国際著作権保護の基本概念
1.1 著作権とは何か
著作権とは、文学・音楽・映画・ソフトウェアなど、人間の思想や感情を創作的な形で表現したもの(著作物)に対する権利です。創作した人、つまり著作者が、その著作物を他人に無断で利用されないように守るための法律上の権利が著作権です。日本語で“著作権”と言いますが、英語では“Copyright”と表記します。著作権は自動的に発生し、特別な登録や申請の必要は基本的にありません。
著作権には、著作物をコピーしたり、発表したり、翻訳したりする権利(財産権)だけでなく、著作者としての名誉や人格を守る「著作者人格権」も含まれます。たとえば、本を書いた人の名前を勝手に変えたり、意図に反して作品を改変したりすることも法律で制限されています。著作権は個人だけでなく企業や団体にも認められており、ビジネスにも大きな影響を与えます。
著作権の保護期間は国ごとに違いがありますが、多くの場合、著作者の死後50年から70年程度保護されます。この期間が終了した著作物は“パブリックドメイン”となり、誰でも自由に利用できるようになります。こうした基本的なルールが、世界的にも徐々に共通化されてきました。
1.2 著作権保護の国際的枠組み
著作権は本来、国ごとの法律で定められてきましたが、国際的な創作物やビジネス取引が盛んになる中で、国境を超えた保護の仕組みが必要とされてきました。そこで生まれたのが、さまざまな国際条約です。これにより、他国でも自分の著作物が一定の条件下で保護されるようになりました。
国際的な枠組みの中で最も有名なのが、1886年に始まった「ベルヌ条約」です。この条約の加盟国同士では、著作物は自国と同等の保護を受けることが原則です。例えば、日本でつくられた音楽作品が中国やアメリカ、フランスでも自動的に著作権保護を受けられるのは、このベルヌ条約のおかげです。
また、国際社会には世界知的所有権機関(WIPO)や世界貿易機関(WTO)など、著作権を含む知的財産権全体の共通ルール作りに取り組む組織もあります。こうした機関や条約があることで、グローバルなビジネスや文化交流がよりスムーズになっています。
1.3 世界の著作権条約と協定
著作権の国際的保護に関する主な条約には、前述のベルヌ条約以外に、WIPO著作権条約(WCT)、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)などが挙げられます。WCTはインターネット時代の著作権保護に対応するために1996年に設立され、デジタルコンテンツの著作権を明確にしています。
TRIPS協定は、WTO加盟国に義務付けられる形で1995年から施行され、著作権だけでなく特許や商標など知的財産権全般をグローバルな貿易ルールの中に組み入れるものです。この協定のおかげで、多くの途上国も知的財産権の整備を進めてきました。
さらに、WIPOは国連専門機関として、著作権に関する国際協力や技術支援、統計の収集など多方面に活躍しています。こうした国際的な合意や協力体制によって、異なる法体系を持つ各国が共通のルールで著作権を守る基盤が築かれました。
1.4 著作権の経済的・文化的意義
著作権の意義は、単なるクリエイターの権利保護にとどまりません。今や音楽、映画、書籍、ゲーム、ソフトウェア、アートといった幅広い分野で、世界のビジネスや経済成長を支える重要なインフラとなっています。例えば、ソフトウェア産業や映画産業が生み出す巨大な収益の根底には、強固な著作権保護が必要不可欠です。
また、著作権法は創作者のインセンティブとなり、より質の高い作品やサービスの誕生につながっています。安心して創作できる環境があってこそ、多様な文化的表現や新しい発想が社会に広がります。「著作権は文化の発展なくして語れない」と言われるほどです。
さらに、著作権制度は教育や科学の発展にも関わります。著作物の公正な利用(例えば引用や教育目的の利用)は、人々の学びや研究の活性化にも寄与しています。このように、著作権は経済的市場の成長と、多様で活気ある文化社会の両立を支える柱なのです。
2. 中国の著作権制度の発展
2.1 中国における著作権法の歴史
中国の著作権法は、比較的新しい歴史を持っています。1978年の改革開放路線を皮切りに、中国でも経済や文化の近代化が急速に進みました。その中で、著作権保護の必要性が徐々に認識されるようになりました。日本や欧米と比べると制度の始まりは遅いですが、1980年代後半から1990年代にかけて、著作権の法整備が本格化しました。
1985年には「著作権法起草作業チーム」が発足し、その後数年の議論を経て、1990年に初めての「著作権法」が成立・施行されました。これは中国にとって画期的な出来事でした。文学・芸術・科学技術の分野における著作物の権利が明確になり、中国国内のクリエイターや企業の活動も活性化しました。
ただし、最初の著作権法では対象や守備範囲が限られ、実際の運用面で多くの課題も残りました。このため、時代や社会の変化に対応する形で、繰り返し法改正が行われています。こうした法制度の発展は、中国の著作権保護意識の進化を象徴しています。
2.2 改正と現代化のプロセス
中国の著作権法は、国際標準やIT技術の進展に合わせて繰り返し改正されています。特に2001年の改正では、WTO加盟とTRIPS協定との整合性が求められ、外国人著作物の保護や著作権者の権利範囲拡大など、内容が大きく強化されました。この改正をきっかけに、国際社会でも中国の著作権保護に対する期待が高まりました。
さらに、2010年・2020年と続く改正では、デジタル時代への対応が重点となりました。スマートフォンやインターネットの普及による新たな著作権侵害の登場に備え、インターネットサービスプロバイダの責任明確化や、法定損害賠償の仕組み導入など制度が強化されています。これにより、オンライン上での著作物共有やコピー問題にも厳しく対処できるようになりました。
一連の法改正の流れを受け、中国社会全体で知的財産権へのリスペクトが高まり、ビジネス面でも国際競争力が強化されてきました。たとえば、百度やアリババなど中国発の大企業は、著作権管理や知的財産部門を強化し、自社だけでなく協力企業やクリエイターの権利保護にも積極的に取り組んでいます。
2.3 中国の著作権管理体制
中国における著作権の運用と執行は、主に国家版権局(NCAC)が担っています。この機関は全国の著作権登録や管理だけでなく、方針作成・法執行・国際協力など幅広い役割を持っています。また、地方政府レベルでもそれぞれの著作権局が設置され、全国的なネットワークを形成しています。
近年では、業界団体や著作権集団管理団体の役割も拡大しています。たとえば、中国音楽著作権協会(MCSC)や中国著作権協会(CCC)は、音楽や出版分野で集団管理を実施し、権利者への分配とライセンス許諾を効率的に行う仕組みを導入しています。こうした団体があれば、個人や中小企業の著作権も守りやすくなります。
さらに、警察や裁判所、消費者保護団体など多様な機構との連携も進んでいます。違法コピー商品や著作権侵害サイトの取り締まり、啓発活動、利用者と権利者のトラブル解決など、多岐にわたる実務が行われています。統一感のある管理体制は、中国の著作権ビジネスの発展に大きなプラスとなっています。
2.4 著作権意識の社会的変化
以前は「中国はコピー天国」といったイメージが海外で強かったのも事実ですが、ここ20年ほどで中国国内の著作権意識は大きく変わってきました。映画や音楽、マンガ、アニメ、アプリなど、地元産クリエイターやコンテンツ企業の台頭によって、“自分の権利は自分が守る”という意識が広まっています。
また、教育現場でも小中学校から大学、社会人研修にいたるまで、著作権や知的財産権の基礎教育が導入されています。2020年の著作権法改正では、未成年者の著作権侵害に保護者責任を定める条文も加わり、家族単位での意識改革も進んでいます。
さらに、SNSや動画投稿サイトの普及により、一般ユーザー自身がクリエイターとして著作権を意識する場面が増えました。たとえば、動画をアップロードする際に他人の音楽や画像を使う場合、権利処理が必要になることが一般常識となりつつあります。こうした社会全体の意識転換が、中国を国際的な著作権社会へと変革させています。
3. 国際的な著作権条約と中国の参加
3.1 ベルヌ条約への加盟と影響
中国は、1992年に「ベルヌ条約」に正式加盟しました。この条約加盟により、中国の著作物は加盟国すべてで自動的に保護され、逆に外国の著作物も中国国内で同等に守られるようになりました。このステップは、中国の国際社会への本格的な知的財産統合を象徴するものでした。
ベルヌ条約に加盟したことで、中国の映画・出版・音楽などの業界は、海外市場でのフィールドを広げやすくなりました。たとえば、中国アニメの「どらえもん」人気やローカル漫画の国際展開などは、ベルヌ条約のおかげでスムーズに行われています。逆に日本や欧米クリエイターが中国市場で著作権侵害された場合、中国の法律で保護されるため、法的な交渉や訴訟も可能となりました。
一方で、この加盟をきっかけに、海外から中国への著作権侵害批判や、国内法との整合性への要求も一層強くなってきました。そのため、法制度と運用の両面で国際水準へのキャッチアップが一気に加速しました。たとえば、ベルヌ条約の“自動保護”“無方式主義”の考え方を国内法に取り入れるなど、合意内容が現実の法律やビジネスに反映されています。
3.2 TRIPS協定と中国の対応
中国が2001年にWTOへ加盟した際、「TRIPS協定」は不可避の国際ルールとなりました。TRIPS協定はベルヌ条約の内容をより厳格化し、知的財産全般の保護を義務化しています。これによって、中国国内法も定期的な見直しや改正を迫られました。
たとえば、TRIPS協定の下では、著作権侵害時の損害賠償拡大や刑事罰の導入、執行メカニズムの強化など、中国の従来型制度ではカバーしきれなかった点が法律化されました。また、日本企業や欧米企業が中国でビジネスを展開する上でも、グローバル基準での「セーフティーネット」が働くようになりました。
加えて、TRIPS協定の精神は、知的財産の貿易取引や技術移転にも直結しています。多国籍企業間の技術ライセンス契約や共同開発プロジェクトでも、国際条約という「共通言語」によって中国企業との交渉がスムーズになりました。こうした国際協定の加盟は、中国自身の発展だけでなく、世界経済との結びつきを一段と強固なものにしています。
3.3 WIPO(世界知的所有権機関)での中国の活動
中国はWIPOに積極的に参加し、知的財産政策の国際的な議論や実務において重要な役割を担うようになりました。WIPOでの中国の発言力は年々増大しており、理事会メンバーとしてルール形成やガイドライン作成で中心的なポジションに位置付けられています。
近年、中国はWIPO管轄下の国際特許制度(PCT)や商標制度(マドリッド協定)にも積極的に参加し、海外展開を目指す中国企業の支援を行っています。たとえば、2010年以降、中国からの国際特許出願件数は世界トップクラスまで伸びており、自国クリエイターや技術者の保護をより実効的に行っています。
さらに、中国は発展途上国支援や知的財産啓発事業にも注力しています。アジア・アフリカ地域に知的財産の専門家を派遣したり、教育プログラムの提供を行ったりと、「知財のモデル国」としての存在感を高めています。国際舞台でのこのような積極姿勢は、経済面だけでなく政治的な信頼感の向上にもつながっています。
3.4 二国間・多国間協力の現状
国際条約加盟やグローバル機関での活動だけでなく、中国は二国間や多国間での著作権協力も積極的に進めています。日中や中米、中欧など、さまざまな国・地域と知的財産保護に関する協定や覚書を結び、共同での取り締まり・教育・研究活動など、具体的な連携が実現しています。
たとえば、中国とフランス間の映画・映像著作権強化プロジェクトや、日本の経済産業省と中国商務部との間に設立された知的財産権作業部会などがその実例です。こうした協力枠組みの中で、共同研究や研修の実施だけでなく、著作権侵害事件への相互通報・情報共有、迅速な問題解決なども行われています。
また、アジア太平洋経済協力(APEC)や東南アジア諸国連合(ASEAN)とも、デジタル社会に対応した新しい国際ルールづくりやネット上の著作権侵害対策のための共同声明・ガイドライン策定に参加しています。技術、法制度、文化交流のいずれの面でも日々連携が進んでいるのです。
4. 中国の著作権実務と課題
4.1 著作権侵害の現状分析
中国は過去、著作権侵害の“ホットスポット”として世界から指摘されてきました。偽ブランド品や海賊版CD・DVD、無許可のネット配信など、中国を発信源としたコピー商品が世界中に出回った時期もあります。しかし、最近ではこうした状況に大きな変化がみられます。
中国政府は違法なコピー商品や著作権侵害ウェブサイトの摘発を大幅に強化し、2010年代以降はネット通販サイトの管理も厳しく実施しています。例えば、「淘宝(タオバオ)」や「京東」など主要ネットショップ運営企業が、違法出品の自動検知システムを整備し、知的財産侵害商品の流通を減らす努力をしています。
ただし、完全な解決とはいかず、特に新興のデジタルプラットフォームやライブ配信、SNSなどでの無断転載やコピーが後を絶たない状況も残っています。また、地方都市や農村部では、まだ著作権に対する意識が十分浸透しているとは言えない地域もあります。こうした現状から、引き続き社会全体での啓蒙活動や技術革新が必要とされています。
4.2 執行メカニズムとその効果
中国では、国家版権局と地元の著作権監督部門が連携し、日常的に大型キャンペーンを実施しています。例えば、「打撃ネット著作権侵害特別行動」「清網2019」などと題したキャンペーンでは、数千件規模の侵害サイトまたは違法コンテンツ削除が行われました。こうした対策によって、ネット空間での著作権保護意識が急速に普及しています。
また、知財裁判所の設置が著作権保護に大きなインパクトを与えています。2014年以降、北京、上海、広州の三大都市で知的財産専用裁判所が開設され、複雑な著作権紛争や産業関連の事件を迅速・集中的に審理する体制ができました。この結果、権利者が自信を持って訴訟に臨める環境が整ってきました。
さらに、行政処分と刑事罰の“両輪”が強化されています。警察による現場摘発だけでなく、ネットワーク経由の証拠収集やAIを使った違法コンテンツ検知システム、重大なケースでは懲役刑・罰金など厳しい制裁も導入されています。これによって大手プラットフォーム企業もリスク管理を徹底しています。
4.3 権利者保護と消費者保護のバランス
著作権保護強化が進む一方で、消費者のアクセス権や「公正な利用(フェアユース)」とのバランスも重要なテーマとなっています。たとえば、教育目的や批評・パロディに該当する場合や、インターネット上での二次創作活動についても、権利者と利用者が対話しながら適切な線引きを模索しています。
中国の著作権法では、引用や報道目的、教育機関での資料利用について「合理的利用」であれば侵害とみなさない例外規定が設けられています。これは世界的な流れと一致しており、社会の発展や学術研究の活性化と著作権保護の“両立”を目指している証拠です。
近年では、二次創作やファンアート、パロディなどネットコミュニティに根付いた新しい文化現象への対応にも注目が集まっています。中国の一部クリエイティブ大手は独自ライセンス制度を導入し、二次利用を公式に認めることで消費者と共生関係を築いている事例も増えています。
4.4 著作権訴訟の事例研究
著作権訴訟は、現代中国においてビジネス実務の現場に密接に結びつく重要なトピックとなっています。たとえば、2015年に起きた「バイドゥ音楽」事件では、大手インターネット企業が無断で音楽を配信したとして、複数の音楽出版社が集団訴訟を起こしました。最終的に、バイドゥが著作権料を支払い、配信方法を大幅に改善したことは有名です。
また、動画サイト「愛奇芸」や「騰訊視頻(テンセントビデオ)」を巻き込んだテレビドラマの権利紛争、ゲーム産業におけるキャラクター著作権侵害事件も注目事例です。たとえば、大ヒットゲーム「王者栄耀」と日本のアニメキャラクターの類似性を巡る問題など、グローバル展開企業ならではの新しい訴訟も生じています。
判決の内容や和解のプロセスは多様ですが、注目すべきは「著作権者の声が届きやすい司法環境」や「急速な被害救済」が進んでいることです。また、裁判例がたびたびメディアで大きく取り上げられることで、一般社会の著作権意識向上にも寄与しています。
5. グローバル経済における中国の役割
5.1 知的財産の国際取引と中国市場
中国市場は世界最大規模を誇り、国際的な知的財産の取引においても中心的な存在となっています。たとえば、中国内で人気のある日本アニメ、韓国ドラマ、アメリカ映画などは、いずれも正式なライセンス契約によって合法的に流通し、膨大な収益を生み出しています。
この背景には、中国政府が積極的に輸入コンテンツの権利管理制度を整え、海外企業向けの審査や著作権登録プロセスの効率化を進めてきたことがあります。特に、デジタル配信やスマートフォンアプリ、SNS向けコンテンツに関しては、ライセンス取得の手続きが格段にスピードアップされています。
さらに、中国の映像・音楽・ゲーム市場自身も急成長中です。最近は中国発の映画やドラマがアジアやヨーロッパでヒットするケースも登場し、“中国発コンテンツ”の輸出拡大も著作権ビジネスを後押ししています。グローバル経済における中国の著作権動向は、世界のクリエイティブ業界に大きな影響を与えています。
5.2 海外企業との著作権問題
中国市場でビジネスを行う海外企業にとっては、現地の著作権実務・運用の難しさが課題となることもあります。例えば、日本のアニメ制作会社が中国で無断配信サイトや違法グッズ販売に悩まされるケースがあります。また、アメリカ映画会社も類似の海賊版流通への対処が求められています。
ただしここ数年、違法商品の摘発や権利侵害サイトの強制閉鎖など、当局の対応が以前より迅速かつ厳格になっています。現地弁護士や著作権コンサルタントとパートナーシップを組み、中国の裁判所・当局への申立手続きを経験する日本・欧米企業も増えています。
具体的には、日本の「集英社」と中国のネット配信企業「快看漫画」の間で著作権ライセンス契約が拡大し、同時に違法アップロード対策に共同で取り組む事例や、アメリカの「Disney」が中国の知財裁判所で正規訴訟を通じてダメージコントロールした実例などが挙げられます。中国の著作権実務を正しく理解し、事前リスク回避策を入念に立てることがこれからの国際ビジネスのカギとなっています。
5.3 デジタル時代の国際協調
デジタル技術の進化によって、著作権の国際協調はいっそう複雑かつ重要なテーマになりました。例えば、SNSやストリーミングサービス、クラウドベースのアプリ導入により、著作物の拡散は一瞬で国境を越えるようになっています。従来の国別法やローカルルールのみではカバーしきれない新たな課題が噴出しています。
このような中、中国はWIPOや各種国際会議の場で、著作物の“電子フォーマット共有”や“グローバル・デジタルライセンス”などのルールづくりで重要なプレイヤーとなっています。特に、AIによる自動生成コンテンツや音声合成、イラスト自動制作といった最先端分野でも、国際的なガイドラインや法整備策への提案を積極的に行っています。
また、欧州やアメリカ、日本といった先進国と中国が共同で違法配信・コピー対策のためのAI技術研究や標準化活動を進めているため、デジタル社会の著作権トラブルは以前よりもグローバルに迅速に対処されるようになっています。今後も国際協調と国内法改革の“両輪”で革新が続いていくでしょう。
5.4 日本と中国の協力と課題
日本と中国は、アニメや映像、音楽産業などクリエイティブ分野で長年交流が深い国同士です。著作権分野でも日中間での協力スキームが築かれてきました。たとえば、JASRAC(日本音楽著作権協会)と中国音楽著作権協会(MCSC)の間で著作権使用料徴収・分配の協定が実施され、日本楽曲の中国配信時に双方で透明性のあるビジネスモデルが確立されています。
日中政府レベルでも、「日中知的財産権作業部会」や「日中次世代クリエイター交流プロジェクト」などを通じ、共同啓発イベントやワークショップ、リスク管理方法の共有、違法コンテンツ情報の交換等を行っています。これにより、トラブルが発生した場合もお互いの信頼関係をベースに迅速に対応できる体制が出来上がっています。
ただし、中国の地方都市やネットベースの新興事業で著作権侵害が起こるケースや、ライセンス運用ルールの齟齬などの課題も依然存在します。今後はAIやブロックチェーンなど最新技術を活用した権利登録や流通管理、教育普及活動の共同展開が両国の主要テーマとなっていくでしょう。
6. 未来展望:日本にとってのインプリケーション
6.1 中国著作権法制の進化と日中ビジネス
中国の著作権法制が国際水準にキャッチアップし、実務面でも急速な進歩がみられる今、日本企業にとっても中国市場での新たなビジネスチャンスが広がっています。すでに日本のアニメやゲームコンテンツは大ヒットしており、日系企業の現地パートナーシップ展開や共同投資も増加しています。
中国側でも、アニメや書籍、漫画産業に本腰を入れる企業が増え、日本のコンテンツ・IP(知的財産)の仕入れニーズが非常に高まっています。たとえば、大手ストリーミングサービスのビリビリやテンセントビデオは、日本アニメの独占配信権を積極的に取得し、“正規ルート”のコンテンツ流通を拡大中です。
その一方で、日本企業には中国現地法制やビジネスルールへの正確な理解、現地のコンサルタントや弁護士との連携、各種リスク管理体制の構築が求められます。法制度・規則・商習慣の“ミスマッチ”を防ぐためにも、日中両国による継続的な意見交換や情報共有が今後ますます重要となるでしょう。
6.2 国際共同プロジェクトへの期待
これからの時代、単一国だけで著作権問題を解決するのは難しいという共通認識が広がっています。日本と中国の間でも、AIによる自動著作権検知システムやブロックチェーンを使った著作物管理プラットフォームの共同開発、デジタルアーカイブ事業、映画・音楽・ゲームの共同制作プロジェクトなど、幅広い分野で国際共同プロジェクトへの期待が高まっています。
例えば、日中共同で新しい著作権教育カリキュラムを作成し、子どもや若者への「知的財産リテラシー」教育を強化する事業や、日本企業のノウハウを活かして中国コンテンツ産業全体のクオリティアップにつなげるアドバイザリー契約なども想定されています。
こうしたプロジェクトは単なる経済利益にとどまらず、持続可能なイノベーション環境や“安心して創作できる市場”の構築に資するものです。日中の信頼関係が深まれば深まるほど、世界の著作権保護ネットワーク全体の強度も増します。
6.3 日本企業の著作権リスク管理
日本企業が中国ビジネスに参入する際、著作権リスク管理は最大の課題のひとつです。たとえば、現地での著作権登録、商品化や配信時の明確なライセンス契約の締結、知的財産権侵害時の迅速な被害申立手順の把握など、事前準備が不可欠です。
また、現地パートナー企業や配信プラットフォームの選定、安全保証条項や損害賠償条項の明文化、社内外での著作権教育(コンプライアンス研修)の徹底も重要です。近年では、知的財産専門の中国語担当弁護士との契約、AIを用いた市場監視ツールの導入、日本本社と現地法人間での情報共有ルール作成など、さまざまな取り組みが進んでいます。
著作権リスク管理を行う上で非常に大切なのは、「ダメージが起きてから対処する」のではなく、「起こる前に予防する」「トラブル未然防止」を徹底する姿勢です。定期的な現地法令チェックやリスクアセスメント体制づくりが、今後の日中ビジネスの安定成長に不可欠となります。
6.4 持続可能な知的財産協力関係の構築
今後、日本と中国がともに発展するためには、単なるビジネスパートナーを超えた「イノベーション協力関係」の構築が求められます。両国はそれぞれ異なる文化・産業構造を持っていますが、知的財産分野での共通課題(デジタル時代の侵害対策、クリエイター支援、国際的な人材育成など)が明確となっています。
継続的な官民合同の対話の場を設けること、著作権保護の現場データや判例をオープンに共有すること、アジア全体で共通の著作権教育カリキュラムを推進すること、新技術導入に関するルール策定を共同で行うことなど、持続可能な協力枠組みを地道に積み上げる努力が今後の成功のカギとなります。
また、個々のビジネスで得た実体験やノウハウを日中間だけでなく世界中にシェアすることで、グローバルな知的財産保護ネットワークの基礎がより強固に築かれるでしょう。
まとめ
中国の著作権保護制度は、この30年間で飛躍的に進化し、国際社会でも中心的な役割を果たし始めています。日本との交流・協力も多方面に広がり、著作権をめぐるトラブルも減少傾向にあります。一方で、日中それぞれの法体系や商習慣、文化的価値観の違いから、ときに予測困難なトラブルや「グレーゾーン」も残ります。
これからの時代、“知的財産”は日本・中国だけでなく地球規模での成長エンジンとなります。ビジネス・教育・技術・文化交流のいずれの局面でも、著作権が持つ社会的意義を正しく理解し、積極的な国際協調に取り組むことが求められます。
双方の信頼関係構築と透明な情報共有、新しいテクノロジー活用により、日中は持続可能な知的財産パートナーとして今後も世界を牽引していけるはずです。日本にとっても、中国とのハーモニーある未来を創るためには、知的財産の分野こそ最大のチャンスであり、最重要戦略の分野と言えるでしょう。