中国市場は近年、世界的にも注目される成長を見せており、特に消費市場の変化と流通チャネルの多様化が著しく進んでいます。中国では都市と農村、あるいは東部と西部などの地区間による流通構造の違いだけでなく、オンラインとオフラインの融合、O2O(Online to Offline)の拡大、デジタル技術の浸透など、さまざまなトレンドがブランド展開を大きく左右しています。これらの変化に柔軟に対応しなければ、企業は中国の巨大で競争の激しい市場で生き残ることが難しい時代となっています。本稿では、中国における流通チャネル戦略とブランド展開について、現状や戦略的なポイント、先進事例、そして日本企業への示唆に至るまで、詳しくご紹介します。
1. 中国における流通チャネルの現状
1.1 中国流通チャネルの特徴
中国の流通チャネルは、そのスケールの大きさと多様性が際立っています。国土が広く人口も膨大であるため、地域によって消費者の嗜好や購買力が大きく異なります。さらに、省都や大都市では現代的なショッピングモールやECの発達が著しい一方、中小都市や農村部では伝統的な市場や個人商店が未だに根強く存在しています。この「複線型」チャネル構造が、中国らしいユニークな流通の特徴です。
さらに、中国では流通業者の数も極めて多く、問屋、中間卸、小売店といった従来型の階層的な流通モデルだけでなく、直接消費者に届ける直販型モデルが急速に拡大しています。例えば、家電製品では、広州に巨大な流通センターがあり、全国への商品供給の拠点になっています。一方、生鮮食品では「社区団購」と呼ばれる地域密着型の共同購入モデルが急速に浸透しています。
また、中国特有の“スピード”も見逃せません。新しいチャネルや流通手法が現れると、爆発的な勢いで広がります。例えば、2010年代半ばからECプラットフォームが急拡大し、翌年にはライブコマースが始まるとわずか数年で主要な購買チャネルとなりました。こうした変化の速さに企業は常に対応することが求められています。
1.2 主要業種ごとの流通構造
業種により流通チャネルの構造も大きく異なります。例えば、家電やスマートフォンの場合、大型の家電量販店チェーン(国美電器、蘇寧電器など)、オンラインの天猫(Tmall)、京東(JD.com)、更には自社直営店舗と複数のチャネルが使われています。一つのブランドが、実店舗でもネット上でも同じような価格やサービスを提供することで、消費者の購買体験を統一しようと工夫しています。
食品や飲料品、小売日用品では、都市部だと大手スーパーやコンビニチェーン(華潤万家、物美、美宜佳など)が主流ですが、農村部では地場スーパーや零細商店、さらには地域の集市場が未だ根強いです。加えて、急速に伸びているのが生鮮食品のECプラットフォーム(盒馬鮮生、叮咚買菜など)で、消費者にとってはこれまでになかった新しい購買チャネルとなっています。
一方、ファッションや化粧品の分野では、デジタルチャネルを重視するブランドが増えています。若い消費者層向けには、小紅書(RED)、抖音(Douyin/TikTok)、微博(Weibo)などのSNSを通じて認知を拡大し、ライブ配信を活用して直接購買へつなげるケースが多く見られます。これにより、実店舗とオンラインストアの垣根が次第に曖昧になりつつあります。
1.3 オンラインチャネルとオフラインチャネルの融合
中国の流通市場でもう一つ大きな特徴は、オンラインとオフラインの「融合」(OMO: Online Merges with Offline)が大きく進んでいる点です。たとえば、アリババ傘下の「盒馬鮮生(Hema Fresh)」は、リアル店舗とECを融合させた生鮮スーパーで、オンラインで注文すれば30分で自宅まで届けるサービスが都市部の消費者に人気です。一方、店舗ではその場で新鮮な商品や調理済み食品を楽しむことができ、オンラインとオフラインの垣根をなくしています。
また、伝統的な百貨店やショッピングモールも、デジタルシフトを加速しています。LINEのような微信(WeChat)や支付宝(Alipay)と組み合わせたモバイル決済、店舗でのクーポン配布やポイント付与、AR技術を使ったバーチャル試着サービスなど、デジタル技術を駆使して新たな顧客体験を提供しています。一方で、消費者はオンラインで見てからオフライン店舗で確認・購入、またはその逆といった多様な購買行動を選べるようになっています。
小規模小売業では、地域コミュニティや団体をベースにした共同購入や、WeChatグループを活用した「私域流量(プライベートトラフィック)」の利用が進展しています。オフラインの“顔なじみネットワーク”と、オンラインの拡散力を組み合わせることにより、新規顧客の獲得とリピーターの醸成を同時に実現しているのです。
2. 流通チャネル戦略の多様性
2.1 伝統的流通チャネルとその変遷
中国の伝統的流通チャネルは、卸売市場や中間商、零細店舗を中心に発展してきました。1990年代から2000年代初頭までは、都市ごとに大型の卸売市場が存在し、地元の小売店舗がその市場から商品を仕入れて販売する「多段階流通」モデルが一般的でした。これは物流インフラや情報技術が十分に発達していなかった時代の名残です。
しかし、2000年代後半から大手流通企業の台頭や物流ネットワークの整備、さらにはEC化の進展により、伝統的流通モデルは大きな変革を迎えます。広域の卸売市場が徐々に廃れ、管理の行き届いたチェーン型スーパーやコンビニが都市部を中心に増加しました。また、家電や携帯電話の分野も、かつては地元の小店舗が担っていた流通チャネルが、今では家電量販チェーンや直営店、あるいはネット通販へとシフトしました。
こうした流れの中で、伝統的な流通業者も変革を迫られます。例えば、伝統的な卸業者が微信や抖音などを活用して、小売店舗や消費者に対して情報発信/販促を行い、小規模ながらもデジタル対応を模索する動きが急増しています。これにより、伝統的チャネルが完全には消滅することなく新しい形で共存していく傾向が強まっています。
2.2 モダントレードと新興流通チャネル
2000年代後半から、中国市場では「モダントレード」と呼ばれる近代的流通チャネルの存在感が一気に高まります。これは、外資系を含めた大手スーパー、ショッピングモール、コンビニエンスストア、専門チェーン店などが急速に発展したことを指します。特に大都市では、「沃尔玛(Walmart)」や「家乐福(Carrefour)」といった外資系スーパー、「華潤万家」「永輝」などの国内大手、小型モールの「便利蜂」等が主要な販売チャネルとなりました。
一方、スマートフォン普及とともにネット通販(EC)が新たな主役へと躍り出ます。アリババの「淘宝(Taobao)」「天猫(Tmall)」、JD.com(京東商城)、拼多多(Pinduoduo)などの巨大ECプラットフォームが全国規模で商品流通を可能にし、中国の消費者は場所にとらわれず商品を手に入れられるようになりました。これに加え、モバイル決済、スマートロジスティクスの発展が、ECのさらなる成長を後押ししています。
最近では「新興チャネル」として、ライブコマースやショート動画プラットフォーム(抖音、快手、RED)、さらには「社区団购」やグループ購入プラットフォームといったタイプが続々登場しています。これらは商品情報の広がり、消費者体験、購入ハードルの低減など、従来型チャネルとは異なるダイナミズムを生み出しています。
2.3 オムニチャネル戦略の台頭と成功事例
近年、中国市場で大きなトレンドとなっているのが「オムニチャネル戦略」です。「オムニチャネル」とは、実店舗、ECサイト、アプリ、SNS、カスタマーサービスなどあらゆるチャネルを組み合わせ、消費者に統一されたブランド体験を提供する手法です。消費者はオンラインで情報収集し、実際の店舗で商品を手に取る、またはその逆など多様な購買行動ができるようになっています。
オムニチャネル戦略で際立った成功を見せているのが、アリババ傘下の盒馬鮮生です。店舗での購入、アプリ注文による即配、ライブ配信で商品の説明・販売、または微信ミニプログラムをつかったポイント管理など、あらゆるタッチポイントで消費者にシームレスな体験を提供しています。同じくユニクロ中国も早くからオムニチャネル化に取り組み、アプリやWeChatミニプログラムで在庫検索・予約注文、「オンラインで注文して、オフライン店舗で受け取り」など、多様なサービスを積極的に展開しています。
さらに注目なのが、SNSを活用したカスタマイズ体験やコミュニティ連携です。例えば化粧品のPerfect Diary(完美日記)は、SNS・KOL(キーオピニオンリーダー)を活用して消費者との交流を深め、リアルタイムで応答できるカスタマーサポートも含め、あらゆるチャネルを駆使してブランド価値を訴求しています。
3. ブランド展開におけるチャネル活用の要点
3.1 チャネル選択とブランドイメージの関係
流通チャネル選択は、企業のブランドイメージ形成に非常に大きな影響を与えます。例えば、高級感や品質感を重視するブランドが、無差別のディスカウントストアや安売りサイトばかりに展開すると、ブランドイメージが毀損してしまう恐れがあります。一方、ターゲット顧客層の利用チャネルに合わせて展開すれば、ブランド浸透と価値向上の両立が可能になります。
中国では特に、消費者がブランドの「どこで・どのように買えるか」を非常に重視します。たとえば、海外高級ブランドは北京・上海・広州など一線都市の高級百貨店に旗艦店を設け、“特別感”を演出します。一方で、若年層向けのカジュアルブランドはSNSやオンラインモールを積極活用し、手軽さと話題性によって認知拡大を図っています。
また、ブランドの長期的な成長を考えた場合、チャネルごとの役割分担も重要です。店頭での体験やサービスにこだわりを持たせ、オンラインチャネルでは利便性とスピードを提供するなど、ブランドポジショニングに応じたチャネルミックスが成功の鍵となります。
3.2 流通チャネルごとのプロモーション戦略
流通チャネルごとに効果的なプロモーション手法も大きく異なります。実店舗を中心に展開する場合は、店舗でのPOPディスプレイ、試食・試用イベント、店員によるカスタマーサービス強化といった、触れ合い重視のプロモーションが有効です。中国人消費者は“体験”や“ストーリー”を重要視するため、ブランドストーリーを伝える店頭演出がよく取り入れられています。
一方、ECプラットフォーム上では、タイムセールや限定商品、ポイント還元、SNS連動キャンペーンなど、オンラインならではの即効性・拡散性を活かしたプロモーションが不可欠です。例えば、アリババの「ダブルイレブン(11月11日)」セールでは、事前のSNS抽選・ライブ配信などを組み合わせて大規模キャンペーンを展開するブランドが多いです。
さらに新興チャネルやO2Oチャネルでは、インフルエンサー(KOL/KOC)とのコラボや、消費者参加型コンテンツ、ユーザー投稿キャンペーン、グループ購入イベントなどがトレンドとなっています。ブランドの世界観に合ったプロモーションを選び、それぞれのチャネルで強みを発揮できるよう工夫が求められます。
3.3 ブランド価値最大化のためのチャネルマネジメント
市場シェア拡大やブランド価値向上のためには、一貫したチャネルマネジメントが不可欠です。まず重要なのは、ブランド体験のバラつきを極力なくし、どのチャネルでも同じ品質・サービスを維持することです。たとえば複数の代理店や小売業者と契約する際は、価格統一や販促物の規定、カスタマーサービス基準の統一など、細かなルールを設定することでブランド価値の毀損を防げます。
また、競合ブランドがひしめく中国市場では、スピーディーなチャネル分析やPDCA(計画・実行・確認・改善)サイクルが求められます。売れ筋商品の変化やトレンドを定期的にモニタリングし、状況に応じてチャネル戦略を柔軟に見直す必要があります。リアルタイムで在庫・販売データの可視化や分析を行うためにデジタルツール導入も進んでいます。
もう一つのポイントは、「顧客データの活用」です。WeChatやアプリを通じて顧客の購買履歴・関心情報を蓄積し、チャネル横断でパーソナライズドな提案やフォローアップができる仕組みを構築すれば、LTV(顧客生涯価値)向上に繋がりやすくなります。企業は時代に合わせたチャネルマネジメント体制を常にブラッシュアップしていく努力が求められます。
4. デジタル化と流通チャネルの変革
4.1 ECプラットフォームの発展と影響
中国におけるEC(電子商取引)プラットフォームの発展は、世界でも類を見ないスピードと規模で進行しています。タオバオ(Taobao)、天猫(Tmall)、京東(JD.com)、拼多多(Pinduoduo)といった大手ECサイトは、毎年数十兆円規模の取引額を生み出しており、小売の主戦場となっています。また、これらのプラットフォームは全国どこでも同一価格、同一品質の商品が手に入る利便性、即日・翌日配送のスピード、AIによるレコメンドなど、消費者ニーズに応える多彩なサービスを提供しています。
企業にとっては、ECプラットフォームは新規顧客や即効性の高い販売チャネルとして重宝されています。一方で、価格競争の激化や、プラットフォーム依存による手数料コストの増大、ブランド独自性の希薄化といった課題も指摘されています。そのため、一部のブランドはECプラットフォーム「内外」に独自の公式オンラインストアを開設したり、自社アプリを運用することで、顧客との直接的なコミュニケーションや差別化を図る戦略を強化しています。
また、ECの発展は、「農村消費」や「逆流通」といった新しい現象も生み出しています。都市部だけでなく農村部までカバーする配送網が整い、これまで大都市限定だったブランド商品や海外商品が地方の消費者にも届くようになりました。一方、一部の農村産品や地域色の強い商品が都市部や海外へ向けて発信される「逆輸出」現象も新たな市場機会となっています。
4.2 O2O施策による消費体験の最適化
O2O(Online to Offline)施策は、中国で特に大きな影響を及ぼしています。たとえば、料理の持ち帰り・宅配サイト(美団、餓了麼)、モバイル決済&クーポン配布(支付宝、微信支払)、ネット予約+実店舗サービス(美容院、クリーニング、フィットネス)など、O2Oサービスは日常生活に溶け込んでいます。消費者はスマートフォン一台で、情報検索、予約、支払い、レビュー投稿までを完結することができます。
ブランド側から見ると、O2Oはオンラインとオフラインのシームレスな顧客体験設計が重要です。たとえばアパレルショップでは、「ネットで最新コレクションをチェックし、実際の店舗で試着・購入/受領」や、「店舗在庫がない場合はアプリで即注文→配送」といったサービスが当たり前になりつつあります。また、実店舗で取得した顧客データをオンラインストアの会員情報と結び付け、全チャネルで一貫性のあるプロモーションが可能となっています。
さらに、ライブ配信販売のような「イベント性O2O」も台頭しています。人気KOL(インフルエンサー)が実店舗からライブ配信を行い、新商品体験会や限定販売を行うことで、顧客のオンライン→オフライン移動、あるいはその逆の消費体験を促進しています。リアルとデジタル双方のチャネルを活用したダイナミックなマーケティングが進んでいるのです。
4.3 デジタル技術を活用したブランド露出戦略
中国市場でブランドが目立つために欠かせないのが、最新のデジタル技術の活用です。AI(人工知能)を用いたパーソナライズ推薦エンジン、大規模なユーザー行動データの分析、AR/VRによるブランド体験、さらにはショート動画・ライブストリーミングといった新たな露出手法は、消費者のブランド認知・購買体験を格段に高めています。
特に注目は、SNSやコミュニティ型プラットフォームでの露出戦略です。小紅書(RED)は若年女性を中心に美容・コスメのクチコミやテスト体験談が拡散し、新商品が爆発的に売れるきっかけとなっています。同様に、抖音(Douyin/TikTok)や快手などのショート動画アプリでも、ブランド・インフルエンサー(KOL・KOC)を活用した話題作りがトレンドです。
また、デジタル技術ですぐに反映できる「キャンペーン」の柔軟性も重要です。リアルタイムでのフラッシュセール、限定クーポンの発行、バーチャルイベントやチャレンジ動画キャンペーンなど、ブランドの鮮度・新鮮さ・親しみやすさを持続的に露出することができます。こうしたデジタル戦略の巧拙が、競合との差を生む大きなポイントとなっています。
5. 中国企業のグローバルブランド展開
5.1 海外進出と流通チャネルの最適化
中国ローカル企業のグローバル展開は、ここ10年で劇的に加速しています。特に家電、電子機器、自動車、アパレル、オンラインサービスなど多数の中国ブランドが、海外での認知度向上・市場拡大に取り組んでいます。中国企業の海外進出は単なる販路拡張に留まらず、チャネルの最適化、多国市場ごとのローカライズ戦略が鍵となっています。
例えば、スマートフォン大手の「小米(Xiaomi)」や「OPPO」「Vivo」は、インドや東南アジアなど新興国市場向けには現地チャネルパートナーとの連携を強化しつつ、オンライン直販にも力を入れています。一方、ヨーロッパや日本など成熟市場では現地の家電量販店との提携や、自社公式ECサイトによる「安心・信頼」の訴求が重要視されています。
また、アリババグループ、テンセント、バイトダンスといったIT系巨大企業も、現地ECプラットフォームやデジタルサービス会社の買収・資本提携を通じて、ローカル市場ごとの流通チャネル最適化に取り組んでいます。こうした動きによって中国ブランドは単なる“安さ”から“品質・信頼性・サービス”でグローバル競争力を強めています。
5.2 現地市場に合わせたチャネル戦略
中国企業のグローバル展開では、それぞれの現地市場の特性を研究し、最適なチャネル設計を行うことが不可欠です。東南アジア市場では、ECの普及度合いと現地ドラッグストアや専門店の特徴を細かく分析し、有力なチャネルを使い分けています。また、インドでは“展示即売”イベントや現地パートナーと協力したプロモーションイベントなど、消費者参加型キャンペーンがよく採用されています。
欧州や北米では、アフターサービスの充実や「サステナビリティ」「個人情報保護」など、現地消費者が重視する価値観に合わせたブランド訴求も欠かせません。アパレル大手の「SHEIN(シーイン)」は、ヨーロッパのEC市場で特有のショート動画アプリや現地インフルエンサーを積極的に活用し、急速に知名度を高めました。さらに、現地のInstagramやYouTube、TwitchといったSNSもチャネル展開の重要な要素になっています。
このように、現地のチャネルパートナーや消費者コミュニティとの信頼関係構築、情報のローカライズ、現地法律・社会慣習への適応といった細やかな戦略が、ブランドの現地定着や成長に直結しています。
5.3 クロスボーダーECと日本市場へのアプローチ
クロスボーダーEC(越境EC)は、中国企業と日本市場との結びつきを特に強めています。アリババの「天猫国際」や京東の「JD Worldwide」などを通じて、日本ブランドが中国消費者向けに商品を直接販売する一方、中国ブランドも日本市場への参入ハードルが下がっています。実際、化粧品やヘルスケア商品、家電、ファッションなどの分野では、越境ECチャネルを利用した中国ブランドの日本進出が急増しています。
例えば家電製品メーカー「Haier(ハイアール)」は、日本国内に拠点・サービスセンターを設けましたが、Amazonや楽天などの日本ECモールや、ヨドバシカメラ・ビックカメラといった家電量販チェーンとの連携でブランド認知を拡大しました。さらに、中国で人気のECライブ配信やSNSマーケティングのノウハウを日本市場に応用するなど、デジタルチャネルでの実験的アプローチも見受けられます。
このように中国ブランドが越境ECやデジタル施策を通じて日本市場に接近する一方、日本企業も中国消費者の好みに合わせて、現地SNSやライブコマース、KOL活用など中国市場特有のチャネル手法を逆輸入的に学び、戦略を見直す動きが強まっています。
6. ケーススタディ:成功企業とそのチャネル戦略
6.1 家電・電子機器ブランドの中国市場戦略
中国家電業界の代表的成功例といえば「Haier(ハイアール)」や「美的(Midea)」「格力(Gree)」などの大手企業です。これら企業は過去、全国各地の卸売市場や地場量販店を活用した伝統的流通から、直営旗艦店舗・全国規模の家電量販チェーンへと大胆なチャネルシフトを果たしました。近年はオンラインとオフラインを完全に連携させ、天猫・蘇寧易購・京東などでの販促と、全国網のカスタマーサービス体制を両立させています。
小米(Xiaomi)は、完全なオンライン直販型スタイルで市場参入し、広告宣伝のデジタル化や強力なSNS/コミュニティ戦略で一気にブランド熱狂を作り出しました。その後はショッピングモールや駅前にも直営店舗「小米之家(Mi Home)」を展開し、O2Oを武器にファン層拡大に成功。オンラインで集めたデータと、オフライン店舗での体験を巧みに連携するモデルが注目されています。
最近ではスマート家電領域で「IoT(Internet of Things)」型サービスが伸びており、AI音声スピーカーと連動するスマート家電がオンラインで予約・購入、設置サポートまでワンストップで受けられる新サービスも人気です。ブランド側の積極的なデジタル投資と、流通チャネルの「体験価値」重視が功を奏しています。
6.2 食品・日用品ブランドの流通事例
中国の食品・日用品業界では、「蒙牛(Mengniu)」「伊利(Yili)」など乳製品メーカーが、全国規模の卸売網と冷蔵物流、さらには都市部スーパー・コンビニ主導の流通体制へと進化しています。また、SNSや団購プラットフォームを組み合わせたコミュニティ流通も台頭し、消費者がWeChatグループで一斉注文→近隣小売店で受け取るといった新しい購買モデルも定着しています。
海外ブランドでいえば、日本の「花王」や「資生堂」は中国現地のスーパー・百貨店展開、さらにTmallやJDといったECでの公式旗艦店、RedやWeChatの公式アカウントでの情報発信など、多層的にチャネルを使い分ける“きめ細かい流通戦略”でブランド価値を守っています。
また、外食チェーン「海底捞(Haidilao)」は、外食オペレーションに加えてデジタル技術を最大限活用し、店舗予約/順番待ち通知、顧客情報分析に基づく限定メニュー表示、さらにオーダーミスや料理提供遅延などの顧客意見も即時反映してオペレーション改善を行っています。こうした「O2O」「オムニチャネル」の組み合わせで、ブランドロイヤルティ向上を実現しています。
6.3 ファッション・化粧品ブランドの展開モデル
中国市場で最も目覚ましいチャネルイノベーションが起きているのが、ファッション・化粧品分野です。「Perfect Diary(完美日記)」は、SNSマーケティングとライブコマースの巧みな組み合わせで急成長を遂げました。新商品発表のたびにKOLやKOCによる体験動画拡散がSNSで話題となり、ライブ配信で限定製品を即時完売させる手法が定番化しています。その一方で、上海など大都市中心地にブランド旗艦店を設け、オフラインでも「体験価値」を高めつつ、顧客コミュニティ形成に力を入れています。
ファストファッションの「SHEIN」は、越境EC型のデジタルチャネルのみで急拡大している稀有な事例です。TikTokやInstagramのインフルエンサーを大量動員し、「バイラル動画」→「即購入」→「レビュー拡散」という独自のウルトラファストサイクルを生み出しています。倉庫管理とロジスティクスの最先端IT導入によって、数百点の商品を“ほぼ同時販売”できる強みを持っています。
また、ラグジュアリーブランド(シャネル、ディオールなど)は、中国市場専用の特別プロモーションや限定パッケージ、WeChat/RED/抖音の公式アカウントでのイベント運営を通じて、ファン層の拡大に成功しています。中国版「パーソナライゼーション」や「体験重視」の潮流に対応し、ローカル戦略を徹底している点が評価されています。
7. 日本企業への示唆と今後の展望
7.1 日本ブランドの中国進出時の課題
日本ブランドが中国市場へ進出する際に直面する最大の課題は、流通チャネルの多層性と、そのダイナミックな変化スピードへの適応です。日本国内で実績のあった流通モデルが中国でも通用するとは限らず、県境を越えて一律運用できる仕組みづくりや、ニセモノ対策、チャネル競合(価格統一・約束遵守)など「現地ならではの難しさ」がつきまといます。
また、現地代理店や小売チェーンへの販促施策の説明や交渉、ECプラットフォームの手数料や広告競争の理解不足、越境ECでの通関や配送リードタイム管理など、慣れないオペレーション問題も発生します。たとえば、日本では現金やカードが主流ですが、中国では“QRコード決済が当たり前”という「現地消費習慣への対応」も必須です。
更には、中国独自のKOLプロモーション、ショート動画やグループ購入の利用頻度、消費者の「声」に対する即時レスポンスなど、ブランドマネジメントの手法も日本とは異なります。“日本式の誠実さ”だけで戦える時代ではなく、“中国流”のスピード&実効性を学びながら体制を変革できるかどうかが重要な分かれ目です。
7.2 中国市場で成功するためのチャネル戦略
日本企業が中国市場で成功するためには、「オムニチャネル志向」と「デジタル体験重視」の二本柱が不可欠です。まず、実店舗での安心と体験、ECでの利便性とカバー率、SNSでの情報拡散とパーソナライズコミュニケーション…「三位一体」のチャネル戦略を描くことが成功の关键となります。そのためには、「一線都市」「新一線都市」「地方都市」「農村」など地区ごとに消費者マインド&購買特性を細かく分析し、最適なチャネル構成をプランニングすることが必要です。
また、中国独自の「デジタルファースト」文化への対応も非常に重要です。既存のオフライン小売店(百貨店・スーパー・専門店)だけでなく、Tmall、JD、RED、抖音など中国ならではの主要プラットフォーム上で公式ストアを展開すること、さらにKOL/KOC起用やライブ販売への柔軟な対応力を備えることが不可欠です。現地パートナー企業との連携も密にし、現場担当者の権限委譲と情報共有の仕組みづくりを徹底することが成功への土台となります。
各チャネルごとの顧客データを横断的に分析し、消費者一人ひとりに最適なメッセージ・オファーが出せるデータドリブン型のチャネルマネジメント体制の構築も今後の成否を分けます。チャネル同士の無意味な“競争”ではなく、“最適連携”によるブランド全体価値の最大化を企業全体で実現することが期待されます。
7.3 日中ビジネス交流促進のための提言
今後の日中ビジネスの発展を促進するには、両国間の消費者理解の深化と、「現地発のノウハウ交流」がますます重要になるでしょう。中国市場では、“世界最速のトレンド検証”ができるフィールドが整っており、日本ブランドが現地チャネルパートナーや中国人消費者の声に真摯に耳を傾け、新しい戦略を即実践できる環境を活用することが肝要です。
また、現地若手スタッフのリアルな視点や、KOL/デジタルマーケターらの柔軟な発想を積極的に取り入れる体制づくりが求められます。日本企業から中国企業への「品質・サービス精神」の伝承と同時に、中国企業から日本企業への「速さ・柔軟性・デジタル武装力」の逆輸入も、両国のブランド価値成長に寄与します。
終わりに、中国市場は今も変わり続けています。日中双方が、流通チャネル・デジタル技術・ブランド発信手法を絶えずアップデートし続けることで、より多様で豊かなビジネス交流が生まれることを期待しています。本稿がみなさんの中国ブランド展開・流通チャネル戦略の設計に役立つ手がかりとなれば幸いです。