中国の経済とビジネスの発展に伴い、医療分野も大きな変革の時代を迎えています。特に中国では、医療産業が急成長しており、人口の高齢化や生活習慣病の増加など、様々な社会課題に対応する必要に迫られています。その中でも、情報技術の活用は医療の質や効率を向上させるための大きなカギとなっており、近年ではAIやビッグデータのみならず、ブロックチェーン技術にも大きな注目が集まっています。病院やクリニック、製薬企業から保険会社、そして民間のヘルスケア企業まで、業界を挙げて様々なデジタル化の施策が進んでいるのが現状です。今後、中国の医療産業がどのように発展し、ブロックチェーンという新しい技術がどのような可能性を切り開くのか、具体的な事例や日本との比較も含めて詳しく見ていきます。
1. 中国医療産業の現状と課題
1.1 中国の医療産業の発展動向
中国では、経済の急速な発展とともに医療産業も著しい成長を遂げています。2023年時点で中国の医療関連市場規模は約8兆元（約160兆円）に達し、アメリカに次ぐ世界第2位の巨大マーケットとなりました。政府主導で医療インフラが整備され、特に都市部では近代的な大型病院の建設が相次いでいます。更に、医薬品や医療機器の研究開発も活発で、多国籍企業との提携や海外進出も進められています。
一方で、中国広大な国土に加え、人口分布が偏っているため、都市と農村部の医療格差が深刻な問題となっています。都市では高水準の診療が受けられますが、農村部、内陸部ではいまだに基本的な医療サービスへのアクセスが困難な地域も多いです。そのため、政府は「健康中国2030」などの国家戦略を掲げて国民全体のヘルスケア水準の底上げを図っています。
また、近年は生活習慣病の患者数が急増し、慢性疾患や高齢化による医療費の膨張も大きな課題となっています。医療リソースの効率的な運用、予防医療の拡充、医師不足や医療従事者の負担軽減などが求められ、これらの課題解決のためにテクノロジーの導入が急務となっているのです。
1.2 医療サービスのデジタル化の流れ
中国の医療産業では、デジタル化が加速度的に進行しています。2010年代以降、政府主導で医療ITインフラの整備が強力に推進されてきました。大都市圏では電子健康記録（EHR）や電子処方箋、ネット受付・予約など、次々とデジタルシステムが導入されています。スマートフォンによる医療予約や問診、オンライン診療など、患者と医療機関をつなぐプラットフォームも普及し、多忙な都市住民の利便性向上に貢献しています。
特に新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、遠隔医療のニーズが爆発的に高まりました。TencentやAliHealthなどの中国IT大手企業は、AIを活用した診断プラットフォームや症状相談サービスを展開し、都市部・地方部にかかわらず誰もが高品質な医療知識にアクセスできるようになっています。
こうしたトレンドの中で、IoTデバイスを用いたバイタルデータの自動収集や、高度なクラウドシステムを活用した医療画像の共有など、診療効率を大幅に高める取り組みも増えています。不正請求やミスの削減、患者一人ひとりに合わせた医療の提供（パーソナライズド医療）が可能になりつつあり、デジタル化の恩恵が実感される場面が着実に増えてきました。
1.3 医療分野における課題とニーズ
デジタル化が進む一方で、医療分野では依然として多くの課題が残っています。まず第一に、医療情報の管理とプライバシー保護です。中国は世界最大級の人口を抱えるため、膨大な医療データが日々生成・蓄積されていますが、その管理体制や情報セキュリティにはまだまだ改善の余地があります。患者データの漏洩や不正利用、改ざんなどのリスクは尽きません。
また、医療機関間のデータ連携が不十分な点も大きな問題です。たとえば、A病院での検査結果がB病院で有効に活用できない、患者が転院や二重診断を繰り返さざるをえないといった事例が後を絶ちません。電子カルテシステムの標準化や相互運用性の欠如が、医療サービスの質の低下を招いています。
さらに、医療業界の不正請求や偽薬問題も大きな社会課題です。薬剤流通の透明性が確保されておらず、医薬品サプライチェーンの信頼性向上が強く求められています。現場で働く医師や看護師、患者にとっても、「本当に安全で正しい医療を、安心して受けられる社会」を実現する仕組みづくりが喫緊のニーズと言えるでしょう。
2. ブロックチェーン技術の基本と医療産業への適用
2.1 ブロックチェーンとは何か
ブロックチェーンは、もともと仮想通貨「ビットコイン」を支える基盤技術として誕生しました。その最大の特徴は、分散型台帳技術による「改ざん耐性」と「透明性」にあります。一つひとつのデータ（トランザクション）を「ブロック」として時系列に連結（チェーン）し、ネットワーク上の多数のコンピュータ（ノード）によって共有・管理する仕組みです。
従来のシステムでは、データベース管理者や特定の企業が情報を一元管理しますが、ブロックチェーンでは「みんなで分散して管理する」ため、特定の組織や悪意のある第三者によるデータ改ざん・削除が極めて困難となっています。そのため、銀行取引や契約記録、出荷履歴といった、「誰もが正確さと信頼を求める情報管理」に適していると言われています。
自律的なスマートコントラクト機能もブロックチェーンの特徴の一つです。これは、契約や約束ごとをプログラムとして「自動化」できるもので、人手や第三者機関を介さずに、ルールどおりのデータ更新や決済処理を実現できます。金融の世界だけでなく、あらゆる業界で応用が進んでいる最先端の技術です。
2.2 ブロックチェーン技術の主な特徴
ブロックチェーンのもっとも大きな特徴は「改ざん防止力」です。各ブロックには、直前のブロックへの「署名」（ハッシュ値情報）が記録されるため、一部のデータをこっそり変えようとすると全体のチェーン構造が崩れ、すぐに不正が発覚します。つまり、「一度記録した情報は、みんなで見張っているからごまかせない」という仕組みです。
また、全てのデータがネットワーク上の複数の端末にコピー・分散保存されるため、サーバーダウンやサイバー攻撃によるデータ消失のリスクも大きく下がります。これによってシステム全体の「耐障害性」「可用性」が飛躍的に高まるため、重要なデータ管理に最適です。
さらに、「トレーサビリティ」（追跡可能性）や「透明性」も特筆すべきポイントです。たとえば、誰がいつどのような修正や追加を行ったか、全ての履歴が明確に残り、正しく運用すれば「不正やごまかし」が事実上不可能になります。医療情報や薬品流通などの「正確さ」と「信頼」が不可欠な分野には、まさにうってつけの技術なのです。
2.3 医療産業における応用の意義
医療分野では、個人のプライバシーや命に関わる重要な情報が扱われています。そのため、従来からデータ管理の信頼性やセキュリティに関する問題がつきまとってきました。ここにブロックチェーンを応用する意義は非常に大きいと言えます。
例えば、「電子健康記録（EHR）」の改ざん防止や情報共有を安全に行うことがブロックチェーンなら容易になります。患者、医師、薬局、保険会社が「正しい情報」に同時にアクセスでき、医療ミスや重複診療を防止する仕組みづくりが可能です。
また、医薬品のサプライチェーン管理や、診療報酬請求の自動化、がん治療の症例データ共有など、医療産業全体の「質」「効率」「安全性」を高める多様な用途が考えられています。特に多くのステークホルダーが関わる中国の大規模医療市場でこそ、ブロックチェーンの「みんなで正しくデータを管理する」価値はますます高まるでしょう。
3. 中国医療におけるブロックチェーン導入の現状と事例
3.1 中国政府と業界の取り組み
近年の中国では、政府主導でブロックチェーンの実用化推進が進んでいます。2019年、習近平国家主席が「ブロックチェーンのコア技術としての発展」を強調して以来、ヘルスケアや教育、行政分野での応用が本格化しました。とりわけ医療分野では、全国規模のデータ連携やプライバシー保護の観点からも、ブロックチェーン導入がきわめて相性が良いと見なされています。
地方都市や一部の大病院では、医療記録の電子化・分散管理の試験プロジェクトが始まっています。中国国家衛生健康委員会（NHC）や工業情報化部は、医療データの標準規格策定やプラットフォームづくりといった取り組みを急ピッチで進めています。2021年には「デジタル健康中国」戦略が正式発表され、IT大手・新興企業・医療機関による協働プロジェクトも増加しています。
一方で、現場レベルでは情報共有や技術導入コスト、既存システムとの共存などに関する課題も見られます。とはいえ、「安心・安全な医療プラットフォームを国策として構築する」というトップダウン式の改革方針のもと、政策・規制・産業界が一体となったイノベーション促進が特徴的です。
3.2 医療ビッグデータ管理への応用事例
中国の大都市では、医療ビッグデータをブロックチェーン技術で一元管理する事例が実際に増えてきました。たとえば広東省深圳市の大手病院では、数百万件に及ぶ患者記録・診療データを、地域レベルのブロックチェーンネットワーク上で安全に共有・保存しています。このシステムでは診療履歴の真正性を保ちながら、患者の同意に基づき、指定した医師や保険会社とだけデータをやりとりできます。
また、遠隔診療やAI診断のための医療画像データも同じネットワーク上で取り扱われ、患者のプライバシーを守りつつ、複数機関の間でシームレスに情報共有ができるようになりました。医療従事者間のコミュニケーションの質が格段に向上し、不要な重複検査の削減、診断ミスの予防など、現場でのメリットも多数報告されています。
さらには、製薬会社や研究機関も参加する「ブロックチェーン型医学データバンク」の事例も生まれています。治験データや疫学調査の結果をチェーン上で厳密に管理することで、データの真正性や追跡性、知的財産保護など、多くの社会的課題への解決策が示されたのです。
3.3 電子健康記録（EHR）システムの革新事例
上海や北京の大病院では、電子健康記録（EHR）の管理・運用にブロックチェーン技術を取り入れた先進的な事例が注目を集めています。たとえば「華山医院」では、患者の診療履歴、検査結果、画像データなどを自院内だけでなく、患者同意の下で他病院や保険会社とリアルタイムで連携できるシステムを導入しました。
このシステムでは、患者本人がアクセス管理権限を持ち、データを「自分自身で」管理できます。家族や指定した医師だけが一時的にデータを参照できる仕組みとなっているため、プライバシー面でも安心感があります。今までは紙カルテや各病院ごとにバラバラになっていた記録も、全て一つのチェーンで連携できるようになり、転院時やセカンドオピニオンの取得も格段にスムーズに。
また、同システムはAIとの連携も強みの一つです。患者の健康データが正しく一元化されることで、より高度な健康診断や未病対策の提案、病気の早期発見など「患者に寄り添った医療サービス」が現実のものとなっています。こうした成功例は各地に波及し、今後の全国普及に向けたモデルケースになると期待されています。
4. ブロックチェーンが中国医療にもたらす可能性
4.1 医療情報のセキュリティとプライバシー保護
中国のように巨大な医療マーケットでは、個人データの流出リスクが常につきまといます。ブロックチェーンの「暗号化」と「分散管理」の特性を最大限に生かすことで、第三者による不正アクセスやサイバー攻撃から患者情報を守ることができます。
最近、中国国内で問題視されていた「医療データの違法売買」や「個人情報漏洩事件」も、ブロックチェーンが広く普及すれば大幅に抑制できます。患者が「自分の情報は自分で管理・コントロールできる」という安心感を得ることで、社会全体の医療リテラシーも底上げされるでしょう。
加えて、診療記録や検査データの「真正性証明」も重要な機能です。すべてのデータが「記録時のまま」保存され、不正な修正や削除が事実上不可能なため、「誤診」「カルテ改ざん」などの事件も未然に防げるようになります。こうした切り口からも、ブロックチェーンは医療情報セキュリティの最前線技術として注目されています。
4.2 医薬品流通と偽薬防止
中国の医薬品市場は世界でもトップクラスの規模を誇りますが、その一方で「偽薬流通」や「不正転売」にまつわる問題が後を絶ちません。ブロックチェーンは、薬品の流通履歴を一元管理するツールとして非常に有効に働きます。
たとえば、薬品メーカー→卸売業者→薬局→患者まで、「誰が・いつ・どのロットの薬を出荷し、受け取ったか」という全行程をチェーン上に記録できます。不審な取引や偽造品が混入した場合も、即座に履歴をたどって真偽判定や回収対応が可能。各業者間での情報共有コストや、規制対応の負担も大きく軽減できます。
既に中国では、ブロックチェーンを使った「医薬品サプライチェーン管理システム」を導入する製薬大手も登場しています。このような仕組みの普及によって、「国民全体が安全で本物の医薬品にだけアクセスできる社会」が少しずつ実現しつつあるのです。
4.3 医療保険と支払いプロセスの効率化
中国では医療保険制度の加入率が年々高まっていますが、「支払い／請求の手続きが煩雑すぎる」「不正請求や二重請求が多発する」などといった課題があります。ここでもブロックチェーンの出番です。
患者の受診情報、診療内容、処方薬データなどをチェーン上で管理すれば、保険会社・医療機関・患者の間ですべての情報がリアルタイムに共有されます。不正請求や書類の改ざんリスクがほぼゼロとなり、審査や支払いプロセスが大幅に迅速化されるのです。
北京市の一部保険会社では、こうしたシステムのパイロット運用が始まっています。利用者は診療後、スマートフォンを通じてその場で即時に保険請求が可能となり、煩雑な紙の手続きや現場スタッフの負担も大きく減少しています。これからは中国全土でこうした効率的な医療保険管理が本格普及することが期待されています。
5. 導入推進における課題と今後の展望
5.1 標準化と相互運用性の課題
どんなに便利な技術も、「みんなが同じルールで使えないと意味がない」という現実的な壁があります。ブロックチェーンも例外ではなく、中国医療業界でも「標準化」と「システム間の相互運用性」が大きな課題となっています。具体的には、病院ごとに異なる電子カルテフォーマットを使っていたり、地方政府ごとにデータ規格・管理体制がバラバラだったりするため、全国レベルでのスムーズな連携が難しいのです。
この課題に対処するため、中国政府は国家レベルの医療ブロックチェーン標準作りを急いでいます。たとえば中国標準化管理委員会（SAC）や工業情報化部による「分散型台帳標準」や「医療データ交換仕様」の策定が進行中です。しかし、現場では古いシステムの置き換えやソフトウェア開発ベンダーの対応が追いついていないケースも多く、社会全体で「みんながちゃんと使える環境」を整えるには時間がかかると見られています。
グローバル視点で見ると、この標準化競争は国際市場での「覇権争い」でもあります。他国の規格との互換性や、シームレスなデータ流通を考えたプラットフォーム作りが、今後の中国医療デジタル化の鍵となるでしょう。
5.2 技術的・法制度的な制約
ブロックチェーン導入には、技術的なハードルも存在します。例えば、中国のように膨大な数の医療記録を扱う環境下では、チェーン全体のパフォーマンスや処理速度、ストレージの問題が出やすくなります。「ビッグデータ×ブロックチェーン」をいかに高速・低コストで運用できるかが、産業界の大きな課題となっています。
また、法制度面でもクリアすべき点が山積しています。たとえば「個人情報保護法」の観点からは、「一度ブロックチェーンに乗せた情報は本当に消せないのか」「患者が自分の情報の消去や修正を求めたらどうなるのか」といった問題が生じる可能性があります。そのため、法律と技術のバランスをどうとるか、政府・法曹界・IT業界が一体となった議論が進行中です。
さらに、ブロックチェーン技術自体が常にアップデートされており、今導入した仕組みも数年後には「時代遅れ」となるリスクもあります。医療分野は特に慎重なシステム運用が求められるため、技術変化についていける専門家人材の育成やセキュリティ対策が欠かせません。
5.3 普及に向けた今後の展望と中国特有の動向
現時点では、ブロックチェーン型の医療情報ネットワークが先行導入されているのは主に大都市部や一部の先進病院に留まっています。農村部や地方都市への普及には、コスト・人材・インフラ面の課題が根強く残っています。しかし、これを逆に捉えれば「全国区でインパクトを持つ大きな成長余地」が残されていると見ることもできます。
また、中国ならではの動向として、「国を挙げたデジタル経済集中投資」や「中央集権的な政策ドライブ」の効果が注目されています。民間・行政・IT大手が一体となり、規模とスピードで世界に先んじる「中国流医療デジタル化モデル」を構築する可能性があります。
今後は、「スマートシティ」「健康中国」の国家戦略と組み合わせて、全国規模の医療情報インフラがブロックチェーンで構築される未来も現実味を帯びてきました。これにより、患者・医師・企業・社会全体が安心して「正しい医療」「安全な医薬品」「効率的な請求・保険サービス」を利用できる国家レベルの仕組みが実現する日も、そう遠くはないでしょう。
6. 日中連携の可能性と日本への示唆
6.1 中国と日本の共通課題と協力の必要性
中国も日本も、高齢化社会の到来や医療コストの増大、地方医療格差、偽薬・不正請求の問題など、共通する課題が数多くあります。お互いに人口構造や医療制度の違いはあるものの、「安心・安全な医療情報インフラ」の必要性は両国共通のものです。
中国がブロックチェーンによる大規模医療管理にチャレンジしている一方、日本でも2022年の「医療DX推進指針」に基づき、電子カルテの相互運用性やマイナンバー連携の推進、個人情報管理の強化などが課題となっています。このように日中両国では、「技術」「制度」「現場のニーズ」を柔軟にすり合わせながら、共通基盤づくりやノウハウ共有の重要性が高まっています。
また、高度なテクノロジーだけでなく、「倫理や患者理解」「現場の医療従事者・患者目線」といったソフト面での課題も共通しています。国際連携や共同プロジェクトを通じて、お互いの強みを活かし合う仕組みづくりが今後のカギとなりそうです。
6.2 日本医療産業への応用可能性
日本ではまだブロックチェーンの医療応用は限定的ですが、中国の成功例は大きな参考となります。たとえば、地方の中小病院どうしの診療ネットワーク強化や、医薬品流通トレーサビリティの徹底、遠隔診療の記録管理システムなどは、日本社会でも高い需要がある分野です。
また、日本の高齢者向け医療や見守りサービスにおいても、「患者本人が自分のデータを細かくコントロールし、必要に応じて医療者だけに一時的に情報共有できる」ブロックチェーンの仕組みは大いに役立つでしょう。マイナンバー制度や保険証との連携も、透明・正確なデータ管理にプラスに働くはずです。
テクノロジー面でも、中国のようにAIやIoTとブロックチェーンを組み合わせた診断・予兆分析、サプライチェーン透明化の仕組みなどは、日本の医療現場でもすぐに応用できる分野です。むしろ「使ってみて、初めて生まれる新サービス・新価値」にも大きな期待ができます。
6.3 両国による新しいビジネスチャンスの創出
中国の巨大な医療市場、日本の高い技術・サービス品質。この両国が連携することで、単なる技術移転にとどまらない新しいビジネスチャンスが生まれます。たとえば、日中共同の「医療データ交換プラットフォーム」や「医薬品トレーサビリティ認証サービス」など、民間企業やスタートアップの新しいビジネスモデルが想定されます。
また、高齢者見守りや遠隔医療、AI診断支援などの分野で、両国の医療従事者やITエンジニアが協力して新サービスを世界市場に展開することも夢ではありません。中国の圧倒的なスケールと、日本の現場志向・きめ細やかな品質管理が融合すれば、第三国市場向けの「アジア型医療情報インフラ」モデルも現実的です。
今後の日中連携では、単なる「技術輸入・輸出」だけでなく、利用現場のニーズに応じた柔軟なカスタマイズや、共同研究・人材育成なども重要なテーマと考えます。また、「どこまで個人情報を共有できるか」「患者本人の同意をどう担保するか」といったセンシティブな課題も両国で連携して解決する必要があります。
まとめ
中国は人口や経済規模を背景に、医療産業のデジタル化・ブロックチェーン活用で世界をリードしています。しかし、システム相互運用性や法制度、医療現場の課題など乗り越えるべき壁も多いのが現実です。一方、日本も医療DXを推進する中で、安心・安全な情報管理と社会全体の合意形成、現場で使えるシステムづくりが急務となっています。
今後は、両国がそれぞれの経験と強みを活かしながら新しい医療インフラ・サービスを生み出す時代です。ブロックチェーンは技術的な解決策のみならず、社会の「信頼」と「安心」を再構築する大きな可能性を秘めています。日中の協力を通じて、アジアひいては世界に新しい医療の未来を示していける。その第一歩として、中国の事例や課題から日本が何を学び、どう応用していくかが、今後ますます重要になっていくでしょう。
