MENU

   地域密着型のビジネスモデルと成功事例

中国経済の発展を語るとき、「地域密着型ビジネスモデル」の存在は見逃せません。中国は広大な国土を持ち、東西南北どこに行ってもその土地ならではの特徴と経済構造があります。大企業の成功はもちろん注目されますが、地方の土壌に根差した中小企業やローカルブランドが持つ力、そして独自の発想や地元コミュニティとの連携は今後ますます重要になるでしょう。本稿では、中国各地で花開く地域密着型ビジネスのモデルや事例を取り上げ、それぞれの特徴や日本企業にとっての学び、今後の展望まで、具体的にわかりやすく解説します。

1. 中国の地域経済概論

1.1 地域経済発展の背景と現状

中国の経済発展は、改革開放以降の40年以上にわたり、世界を驚かせてきました。しかし、その発展は均一ではなく、地域によって成長スピードや産業構造、所得水準に大きな違いがあります。沿海部の都市――たとえば上海、広州、深圳などでは外国からの投資が盛んに集まり、電子機器や自動車、金融サービスなど高度な産業が立ち並びます。一方で、内陸部や西部の多くの地域では、今なお農業が経済の中心を占め、収入水準やインフラ整備具合では遅れが目立ちます。

沿海部が最初「発展先行エリア」として栄え、その後徐々に内陸部へ波及していったことは、中国の経済モデルの大きな特徴です。都市ごとに特色が生まれ、例えば鄭州(チェンジョウ)は交通・物流ハブとして発展し、成都はテックとクリエイティブ産業の中心地として脚光を浴びています。このような地域ごとの違いが、中国ビジネスの多様性と地域密着型モデルの重要性につながっています。

さらに最近は一都市だけではなく、省単位、都市群単位(珠江デルタ、長江デルタ、京津冀都市圏など)での連携も進み、地域経済の発展スキームが複雑化・高度化しています。都市群全体で産業政策やインフラ整備を進め、ひとつの技術や産業に依存し過ぎない経済圏の強靭化が追求されています。

1.2 地域ごとの産業構造の違い

中国の産業分布は明確な地域色を持っています。東部沿海部では国際貿易を基盤とした製造業、特に輸出関連の軽工業、電子工業、アパレル産業が盛んです。例えば義烏(イーウー)は、世界最大級の小商品取引市場として有名で、世界中のバイヤーが商品を仕入れにやってきます。一方、深圳や東莞はハイテクや電子製造の集積地として「中国のシリコンバレー」とも呼ばれています。

内陸部や西部では、重工業や資源開発、伝統農業が主な産業です。例えば四川省では食品加工や化学工業、雲南省ではお茶や薬草、貴州省ではエネルギーと近年伸びているビッグデータ関連産業が見られます。新疆やチベットなどの省(自治区)では地域の民族文化を活かした観光業や牧畜業などが経済の柱となっています。

こうした産業構造の地域差は、各地の歴史や地理的条件、人材資源、政策による誘導などが複雑に絡み合って形成されました。結果的に、現地の実情に合わせたビジネスモデルや商品・サービスの開発が、成功の大きな鍵となっています。

1.3 地方政府の役割と政策支援

中国における地方政府の影響力は非常に大きいです。中央政府がマクロ政策を示す中、各地方政府は自らの経済発展目標を追求し、都市計画、産業誘致、人材育成、税制優遇策などを独自に展開しています。例えば深センは1980年に経済特区に指定されて以降、各種の優遇措置や行政改革を次々と実施し、世界有数のハイテク都市へと飛躍しました。

地方政府は、現地の企業や外資に対し、土地の低価格提供、税の減免、資金援助や補助金、自社独自のインキュベーションプログラムなどを幅広く提供しています。また地方に根付いた大学や高等専門学校と連携し、地元出身の優秀な人材の確保・育成にも力を入れています。これにより、北京・上海といった一部都市だけでなく、地方都市からもイノベーションや新規ビジネスが生まれやすい環境を作り出しています。

政策支援は伝統的産業だけでなく、新たな産業育成やスタートアップ・イノベーションにも重点が移りつつあります。そのため、地域の特性を理解し、地方政府と緊密に連携することが企業の成功には不可欠になっています。

1.4 地域特性がビジネスに及ぼす影響

中国の広大な地域性は、ビジネスの戦略にも大きな影響を及ぼします。まず、気候や風土、歴史、民族構成など、土地ごとの独自性が商品のニーズや価値観を形作っています。例えば、内陸部では伝統的な味や製法を重視した食品の需要が高い一方、沿海都市ではグローバルスタンダードや新奇な商品、サービスが人気です。

また地方ごとに消費者の購買力やライフスタイル、価値観も大きく異なります。西部や農村部では「所得が限られているが、家族やコミュニティ重視」といった価値観が根強いですが、沿海都市となると「新しさ・ブランド志向・個人主義」が強まります。これが一律な全国展開モデルより、現地に根ざしたサービスや商品開発が求められる理由です。

地域のマーケット特性を読み解く姿勢は、ローカルブランドの台頭や地域から生まれるイノベーションの後押しにもなっています。自分たちの土地でしか生み出せない強みを活かし、地元との信頼関係やネットワークを使いこなす企業が、新たな地域モデルの牽引役となっています。

2. 地域密着型ビジネスモデルの特徴

2.1 地域ニーズに基づく商品・サービス開発

地域密着型ビジネスの第一歩は、その土地ならではのニーズを的確に捉えることです。中国では地域ごとに生活様式も食文化も大きく異なりますので、マニュアル通りの商品では受け入れられません。例えば四川の火鍋チェーンでは激辛・麻辣の味付けを追求し、広東省の点心チェーンでは新鮮であっさりした味つけと地元食材を活用しています。

ある農村部の生活用品メーカーは、現地で頻繁にフィールドワークや家庭訪問をおこない、農民の暮らしぶりや「こうだったら助かる」といった小さな声を一つひとつ吸い上げて新商品開発をしています。結果として地元で愛され、競合が真似できないブランド力を築いています。

また、観光業やサービス業では、地元の風土や伝統、祭り、自然資源を最大限に活かした体験型の商品提案が多く見られます。例えば雲南省では少数民族村での生活体験や、自然を生かしたエコツアー、地場の農産品と連動したマーケットイベントを実施しています。こうした取組みは、地域への誇りと経済効果を同時にもたらしているのです。

2.2 地域資源と連携した価値創造

中国の多くの地方都市は、農産品や特産品、伝統工芸、自然景観など豊かな地域資源に恵まれています。地域密着型ビジネスは、これまで埋もれていた資源を再発見し、新たな発想で付加価値をつけることから始まります。たとえば福建省の安渓(アンシー)は伝統的な烏龍茶の産地で、このお茶のブランディングと観光業を組み合わせたモデルを形成しました。

また、貴州の山岳地帯では、独自の気候と高地農業のノウハウを活かしてオーガニック農産品の生産に成功。高品質なほうれん草やトウモロコシなどを「地元農家直送ブランド」としてECサイトで販売し、都市部の健康志向消費者にもアピールしています。こうした事例では、「持続可能な農業」や「生産者の顔が見える」商品の価値が消費者に伝わりやすい利点があります。

伝統工芸や現地のクリエイターとコラボした新商品開発も増えています。例えば雲南・大理の銀細工、江西省の陶磁器などに現代的なデザインや実用性を加え、「ニュー土産物」として若い旅行者に人気のアイテムとなりました。地域資源を磨き直すことで、ローカル経済に新しい息吹を吹き込んでいるのです。

2.3 地方人材の活用と育成戦略

地域密着型ビジネスのもう一つの鍵が「人材」です。地方には都市部とは異なる人材資源――たとえば農業や伝統技術の達人、現地に長く密着してきたリーダー的存在――が数多く眠っています。こうした人たちを積極的に起用し、現場運営や商品開発、観光ガイド、イベントマネジメントに登用している企業が目立ちます。

地方都市の多くは、大学や職業学校と産業界との連携に積極的です。地元の学生をインターンやアルバイトから正社員へ登用し、将来的な幹部候補生として育てる制度も進んでいます。自分の土地で働き、地元のために貢献したいという若い世代の思いをビジネスと結びつける動きも広がっています。

また、最先端ITやデジタルスキルの研修、ビジネスマナーや観光サービスなど、地域特性や産業ニーズに合わせた人材育成プログラムも地方政府や企業主導で行われています。これらの人材施策は、地域ビジネスの競争力や持続可能性を大きく支えています。

2.4 地域コミュニティとの連携

ビジネスを単なる営利活動として行うのではなく、「地域社会の一員」として地元コミュニティと深く結びつくことも、地域密着型の大きな特徴です。企業は町内会や村の長老会、地元観光協会や商工会議所など、様々な地域組織とパートナーシップを組みます。

例えば観光開発プロジェクトでは、地元住民の意見を取り入れたり、祭りや伝統イベントとのコラボレーションを行い、地域住民が運営スタッフやホスト役として参画できる仕組みを持っています。また、観光業者が地元農家から直接野菜や果物を仕入れて飲食店で提供するなど、経済効果が地元に循環する仕組みも重要です。

加えて、住民参加型の評価会やワークショップで商品・サービスの意見を聞いたり、地域活動への寄付やボランティア参加など、企業が「地元ファミリー」として信頼を築く動きも目立ちます。これらの取組みが、結果的に地元で愛されるブランドや長寿企業の土台となっています。

3. 代表的な成功事例の分析

3.1 アリババと義烏(イーウー)市場の事例

アリババの電子商取引(EC)プラットフォームは、「地方都市の潜在力」を一気に全国・世界へと解放しました。とくに浙江省・義烏(イーウー)は「世界の日用品市場」として有名で、もともとは小規模卸売業者や出稼ぎ農民の市場だったのが、アリババの台頭と同時に世界最大級のB2B取引基地へと進化しました。

義烏市はアリババと連携し、「淘宝村(タオバオ村)」プロジェクトなどを推進。地元商店や農家に対し、ネット販売やECサイト構築、物流ノウハウ、ネット広告・SNS活用のスキルを教育しています。現地の小規模メーカーや手作り品業者は、インターネットで直接世界中のバイヤーや消費者にアクセスでき、地元で生まれた商品が一夜にしてグローバル市場へと躍り出ることが可能になりました。

また義烏は、市場そのものだけでなく、数千件もの各種工場、物流企業、金融・サポート会社が集まる「ネットワーク型産業集積」を築き上げました。この「21世紀の卸売市場モデル」は、中国地方都市の持つ潜在力とITとの融合が、どれほどの経済インパクトを持つかを世界に示した好例です。

3.2 貴州省のビッグデータ産業の成長

内陸部、しかも山岳地帯が多い貴州省はかつて「発展が遅れた地域」とみなされてきました。しかし、近年では中国全土から注目される「ビッグデータ・ハブ」へと急成長しています。貴州省政府は豊富な水資源による低コスト電力、冷涼な気候、広い土地を活用し、巨大データセンターやIT企業を積極的に誘致しました。

2015年以降、Apple、Huawei、Alibaba、Tencentなど中国・海外大手IT企業が相次いで貴州に進出。クラウドサーバーやビッグデータ解析拠点を設立し、現地では年間数千人規模のIT関連雇用を生み出しています。この波に乗り、貴州大学や地元高専ではIT技術者やデータサイエンティストの育成プログラムも整備され、新卒やUターン人材の流入が加速しています。

また都市部の改革だけでなく、周辺農村の「スマート農業」や観光関連ビジネスにもIT活用が広がりつつあります。各地の村でドローンやIoTを使った農地管理、ビッグデータを利用した観光案内が導入され、伝統的産業と最先端技術の融合モデルが誕生しています。

3.3 福建省・泉州市アパレル産業の地域ブランド化

福建省・泉州市は「中国のアパレル王国」とも呼ばれ、地元発祥のスポーツウェアブランド「ANTA(安踏)」や「XTEP(特歩)」などが全国的な知名度を持っています。このエリアでは、早くから繊維・服飾工場が立地し、地元企業同士が技術・人材・トレンドを共有する「産業クラスター」を作り上げました。

面白いのは、多くのブランドが「地元発」「中小企業連携」からスタートし、独自のデザインや機能性、コスト競争力を磨きながら全国・海外市場に進出していることです。地元行政は展示会やファッションショーを重ね、デザイナー育成プログラムやEC支援、物流改善策など、エコシステムづくりを後押ししています。

結果として、泉州市は北京や上海とは異なる「地方発・中国式ライフスタイルブランド」を確立。地元のニーズを原点としつつも、SNSやKOL(インフルエンサー)を活用したマーケティング、機能素材やサステナブル路線など最新の戦略も積極的に導入しています。この柔軟性こそ、地方都市ブランドが急成長した秘訣です。

3.4 地域特産品のグローバル展開モデル

中国各地の特産品――たとえば承徳のクコの実、雲南プーアル茶、貴州の白酒、内モンゴルの羊肉――はかつて「農村の直売」や「国内流通」にとどまっていました。しかし近年は、SNS生配信や越境EC、OEMブランド開発を活用し、「中国地方の魅力」を世界中の消費者へ発信する波が起きています。

山東省のタマネギやサツマイモ、江西省の干し柿など、現地農協やスタートアップが一丸となり、海外バイヤー向けの商品説明動画・現地語サポート、品質管理体制などを整えています。欧米やアジア諸国の高級スーパーや現地ECと協業し、販路の多様化にも成功しています。

また、伝統を守るだけでなく、「ヘルシー」「サステナブル」「生産者の顔が見える」など世界のトレンドに合わせて付加価値を高める動きも盛んです。伝統酒や漬け物、乾物なども現地消費形態に工夫を加え、「ご当地発ブランド」として海外での認知度が高まっています。

4. 日本企業にとっての示唆

4.1 日本企業の中国地方進出成功・失敗要因

多くの日本企業が中国進出を果たしていますが、現地ローカル市場での成功は一筋縄ではいきません。大都市圏での知名度にあぐらをかき、現地消費者の細かな要求や文化的ニュアンスを掴み損ねて早期撤退、という失敗例も少なくありません。しかし一方で、地方法人設立やローカルパートナーとの密接な関係構築で、現地に根づいたビジネスモデルを築くことができた企業は、長期的な成長を実現しています。

たとえば、某日系食品メーカーは中国の西部都市に進出当初、「日本流」冷凍食品をそのまま持ち込みました。しかし現地主婦層から「味付けや食感が好みと合わない」と厳しい反応を受け、製品のローカライズと現地モニター活動を徹底、その土地特有の調味料や食材を新たに加えることで大ヒット商品となりました。

逆に、現地スタッフ不在で司令塔が日本本社という企業や、ローカルの規律や価値観を軽視したまま「グローバルモデル」を押し付け続けた結果、パートナーや顧客が離れて苦戦する例も後を絶ちません。地方市場ほど「現場の声」を吸い上げ、現地性を武器に活かす工夫が成果を分けています。

4.2 在地化経営のポイント

中国で成功する日系企業の共通点は「在地化」です。単純に商品やサービスを輸出するのではなく、その土地の歴史や文化、生活習慣、消費者心理を真剣に調べあげ、ときには現地人材を幹部に抜擢するほどの覚悟を持って現地密着型経営に臨みます。

また、商品企画段階では、現地の消費者グループやモニター会を開催し、「この味付けでご飯に合うか?」「パッケージは地元感が出ているか?」など細部まで徹底検証する例が多くなっています。中国語SNSやKOL(インフルエンサー)も積極的に活用し、リアルタイムで現地の声や評価を吸い上げています。

現地企業や自治体との公式な協業に加え、その土地の風習やイベントへのスポンサー参加、地元の大学や専門学校との共同研究、人材育成にも積極的です。こうした取組みは、消費者やパートナーからの信頼とロイヤルティ醸成にもつながります。

4.3 パートナーシップ構築の重要性

ローカル企業や自治体、各種業界団体とのパートナーシップは、地域密着型ビジネスの成功に不可欠です。とくに中国の場合、地方政府や業界団体のネットワークが強く、公式な協業体制を築かないと情報や資源のアクセスが困難になることも多いです。

ある日系流通業者は、現地小売チェーンや地元農協と協力し、地域産品の販路拡大に取り組みました。価格競争力やマーケティング力で単独進出するよりも、地元プレーヤーとの共同事業で現地社会に定着でき、新サービスや商品の開発でも双方のノウハウが結集しやすくなりました。

また「顔の見える」関係が非常に大切なのも中国ならでは。行政や地元コミュニティへの定期的なレポートや交流会、ボランティア参加など、公式・非公式の場での信頼醸成がビジネス推進力を大きく底上げします。

4.4 地元消費者との信頼関係構築戦略

商品やサービスがヒットしても、「一時の流行」で終わらないためには地元消費者との信頼構築が肝心です。中国の地方都市や農村では「口コミ力」が強く、家族や近隣での評判がそのまま売上に響きます。

例えば家電メーカーが現地サービス網やアフターサポート体制を強化し、万一の不具合にも迅速・親身に対応する姿勢を徹底。「日本メーカーは責任感がある」と評判になり、他社との差別化に大きく貢献しました。

またイベント開催や無料サンプル配布、地域の学校や老人向けの社会貢献活動など、「この企業は地元の一員」「困ったときに頼れる」といった安心感を育てています。こうした地道な信頼づくりこそ、長期的な繁栄の決め手となるのです。

5. 地域密着型ビジネスの今後の展望

5.1 デジタル化と地域連携の深化

中国ではここ数年、EC(電子商取引)やデジタルマーケティング、スマートシティ化が地方にも急速に広がっています。アリババや拼多多(ピンドゥオドゥオ)のようなプラットフォームを活用し、農村部や中小都市でも「オンライン直販」や「SNS発」の新興ブランドが続出。地域資源をデジタルサービスと結びつけてバリューチェーン全体を強化する企業が増えています。

たとえば湖南省では地元果物農家が短動画アプリで自家農園から直接消費者とやり取りし、リアルタイムで収穫・発送して新鮮さをアピール。微信(WeChat)や抖音(Douyin)を使って地元文化や観光情報を配信し、都市部の若者消費者の巻き込みにも成功しています。

また都市と農村、複数の県や産業団体が「地域横断」で連携し、統一ブランドや共同ECショップ、イベント開催による相乗効果も進展中。「小さな点」がつながり、「地域ブランド連合」として巨大な経済圏を生み出す流れが今後もっと加速しそうです。

5.2 地域経済のグリーン転換と持続可能性

中国全体で「脱炭素」や「エコ経済」への転換が強く求められる中、地方都市でも地元資源循環や省エネ、生物多様性保全に取り組むビジネスが増えています。たとえば四川省では地元森林の間伐材を活用した家具や建材栗のブランド化、農業残渣(納豆のカスやもみ殻)を使ったエコ商品開発が進行しています。

生産・流通段階で環境負荷を減らす手法や、オーガニック認証・グリーン認証の取得、サステナブルな観光や交通インフラの整備も進展中です。山西省などの鉱山地帯でも、今後はクリーンエネルギー開発やリサイクル産業への転換が期待されています。

各地の若い起業家たちが、サステナビリティを経営の柱に据えた新しい「地域発B Corp」型ビジネスを立ち上げ、世界標準に沿った持続可能なモデル確立を目指しています。

5.3 新興市場・内陸地域のビジネスチャンス

沿海エリアの発展が限界に達しつつあるなかで、これからは内陸部や中西部の新興市場が成長ドライバーになると見られています。たとえば成都・重慶経済圏(「成渝地区」)や西安・鄭州などの新一線都市、内蒙古や寧夏などの農牧業エリアには、新しい商機が広がっています。

都市部の若年層の流入やインフラ整備、IT化の進展により、現地消費者の購買力や新しいライフスタイルへの意欲も急上昇中です。地方農村の消費や、小都市発のファッション・雑貨ブランド、そしてヘルスケアや介護分野での新サービス開発に注目が集まっています。

またこれまでにないマーケットとして、漢民族以外の多民族エリア向け商品(食品や衣料、観光サービス)や、高原地帯特有の気候・文化に合わせた商品開発なども追い風になっています。

5.4 地域格差の是正に向けた挑戦

一方で、地域間での経済・生活水準格差は今なお大きな課題です。中国政府は「共同富裕」政策を掲げ、貧困地域支援や農村振興、都市農村間の教育・医療資源の再分配を急ピッチで進めています。このなかで、企業や地方政府が担うべき役割も大きくなっています。

たとえば農村に若者や女性の起業家を増やす政策、村ごとの「特色ある小さな会社」支援や、地域資源を育てるNPOや金融インフラの拡充など、様々な施策が進行中です。地方ごとの歴史や文化を守りつつ、先端技術や都市の消費トレンドと連動させる取り組みも重要なチャレンジです。

企業や行政の垣根を越えたイノベーションや人材交流、パートナーシップの拡大が、今後の中国経済の強靱化と調和に大きく貢献すると期待されています。

6. 地域密着型ビジネス推進のための政策や支援

6.1 地方政府による起業支援策

中国各地の地方政府は、イノベーションや地域起業を促進するための支援を積極的に打ち出しています。「大学生起業支援補助金」や「女性起業家支援」、「農村でのeコマース起業」向けの特別枠など、応募しやすく利用範囲の広い補助金が用意されています。

また創業インキュベーターやコワーキングスペース、無利子・低利ローン制度の整備、事業計画や税務手続きの無料コンサルティングなど、公的サービスも拡充。地元メディアやSNSを駆使した「スター起業家」キャンペーンで、現地若者のチャレンジ精神を喚起しています。

都市部だけでなく、農村や少数民族エリアでも、地場資源の高付加価値化や女性、若者の新規事業立ち上げを後押しする制度が目立っています。地方ごとの特色に合わせたきめ細かな政策設計は、地域経済の多様性と持続的成長の基盤づくりに効果が現れています。

6.2 ファイナンスとイノベーション支援の体制

資金調達や投資、イノベーション推進の面でも、様々な公的・民間支援体制が整備されています。地方政府や関連機関による「中小企業向けファンド」「スタートアップ支援特別枠」「産学連携助成金」などが代表例です。

クラウドファンディングやエンジェル投資、地方銀行による優遇融資など、多彩な資金供給チャネルが用意されており、民間VC(ベンチャーキャピタル)の地方展開も年々増加しています。さらに、知的財産権の出願支援や製品開発、テストマーケティングの実証実験場など、「地方×イノベーション」のエコシステム強化が顕著です。

また自動化・IT化やデジタルスキル習得プログラム、地方大学・専門学校との共同研究体制づくりも地方発の新産業モデルや起業ムーブメントを底支えしています。中小企業連合やスタートアップ同士のネットワーク連携による「相乗り型イノベーション」も加速中です。

6.3 中日地域連携の新しい枠組み

中国地方都市と日本各地の自治体や企業による「地域間連携」も熱気を帯びています。「姉妹都市提携」や「産業育成連携」など、伝統的な枠組みに加え、近年はデジタル産業やヘルスケア、農業技術、観光資源開発など多岐に渡る協業が進められています。

例えば長野県と雲南省では、山岳観光や農産物ブランド化、温泉施設運営に関する共同研究や人材交流が進行中。日本式ものづくり教育や品質管理ノウハウ、食の安全・農業生産技術など、双方の強みを補完するパートナーシップ構築が目立ちます。

また日中両国のイノベーティブ地方企業による共同実証実験や、新たな市場参入モデルのベストプラクティス共有など、より実務的な連携へと進化しています。こうしたマルチレベルの交流は、グローバルリスクを乗り越えるための大きな武器となるでしょう。

6.4 地域産業クラスター形成への動向

各地方政府は、産業クラスター戦略のもと、関連企業や研究開発機関、物流・金融サービスを一体化した高度な産業集積を目指しています。浙江省・義烏や福建省・泉州、深圳などでは、同業種・関連業種企業のコラボレーションが地域の国際競争力を大きく押し上げています。

クラスターモデルでは、地元中小企業に加えて大学やテックインキュベーター、デザイナーや職人といった多様なプレイヤーが参画。共同ブランド開発、販路開拓、設備や技術の共有、マーケティングイベントの協働開催など、現場主導のきめ細かな支援体制を形成しています。

さらに、グローバル市場のニーズに合わせた技術アップデートや、環境規制対応、サプライチェーン管理強化なども、クラスターを活用した「分業・連携型イノベーション」として加速。各地で産業生態系全体の底上げが進んでいるのです。


終わりに

中国の地域密着型ビジネスモデルは、土地ごとの経済・社会・文化の多様性と、地元に根ざした工夫を武器に劇的な進化を遂げています。生産・販売・流通・人材・技術・コミュニティといった複数レイヤーの連動によって、「中国地方発」の新しい成功例が次々に登場しています。

日本企業や行政にとっても、これまでの大都市集中型モデルでは見落としがちな「現地性」の重要性や、地域資源・ローカルコミュニティと一体となる経営のヒントが多いはずです。世界規模の変化が激しい今だからこそ、地場の持ち味をとことんまで掘り下げ、それを新しい付加価値として磨く企業や地域が、これからの中国経済をけん引していくでしょう。

今後の日中間の地域間協力やビジネスイノベーションの深化においても、現地発の知恵とパートナーシップに学び合う姿勢が、持続的で調和のとれた発展のカギになるはずです。

  • URLをコピーしました!

コメントする

目次