中国の経済とビジネスにおいて、ブランドロイヤルティと顧客エンゲージメントは今や欠かせない重要なテーマとなっています。巨大な人口、多様化する消費者の価値観、そして急速なデジタル化という特徴を持つ中国市場。この環境の中で、中国ブランドは独自の方法でロイヤルティ(忠誠心)を高め、顧客とのエンゲージメント(心のつながり)を強化しています。本稿では、中国におけるブランドロイヤルティと顧客エンゲージメントの概念や特徴、戦略、最新トレンド、注目すべきブランドの事例、そして日本企業への示唆と今後の展望について、細かい例や具体的なストーリーも交えながら紹介していきます。中国市場を理解するうえで、消費者との信頼関係と持続的な愛着の作り方はどんなものか、一緒に紐解いていきましょう。
ブランドロイヤルティと顧客エンゲージメント
1. 中国市場におけるブランドロイヤルティの概念
1.1 ブランドロイヤルティとは何か
ブランドロイヤルティとは、消費者があるブランドに対して継続的に商品・サービスを選ぶ傾向、つまり「このブランドしかない!」と感じる気持ちや習慣のことです。新商品が登場したり、他社が値下げをしても、変わらずお気に入りのブランドを支持し続ける、そんな深い忠誠心がブランドロイヤルティにあたります。単なる商品選択ではなく、「ブランドとの絆」とも言えます。
例えばスマートフォン業界を考えてみましょう。「友達がみんな使っているから」、「使い心地が最高だから」、「サポートが手厚いから」というように、愛用する理由は様々です。しかし、その根本にはブランドに対する強い信頼と期待があります。この信頼が維持されればされるほど、そのブランドに対する“ロイヤルティ”は強くなります。
ロイヤルティは企業にとって非常に大きな価値を生み出します。一度ファンになった顧客はリピート購入しやすく、他の人にも積極的に勧めてくれるようになります。つまり、ブランドロイヤルティは単なる売上だけでなく、長期的な成長と競争優位を生み出す源泉なのです。
1.2 中国におけるブランドロイヤルティの発展経緯
中国でブランドロイヤルティが注目され始めたのは、90年代の市場経済化と急速な消費社会の拡大がきっかけです。それまでは国有ブランドが多く選択肢も限られていましたが、急激な経済成長とともにさまざまな外資ブランド、そして新興中国ブランドが台頭。「安ければいい」時代から「信頼できるブランドを選びたい」時代へと大きく変わりました。
2000年代に入ると、インターネット普及が加速度的に進み、ブランドの口コミや評価が一気に拡散するようになります。この時期、大手IT企業のアリババ・テンセントの独自ブランドが消費者の間で急速に定着し、ブランドロイヤルティ構築のモデルケースとなりました。例えば、タオバオやWeChatなどのサービスは、便利さだけでなく“信頼できるブランド”として人々の暮らしに根付いています。
さらにコロナ禍以降、中国消費者の“国産支持”が一気に高まり、華為(HUAWEI)などの国内テックブランド、李寧(Li-Ning)などのスポーツブランドがZ世代を中心に強力なロイヤルティを獲得しています。「中国らしさ」「自分ごととしてのブランド」が今の中国市場をリードしているのです。
1.3 伝統と現代の価値観の影響
中国のブランドロイヤルティには、伝統的な価値観と現代的な欲求が複雑に交差しています。家族とのつながり、信用・信義の重視、伝統文化へのノスタルジーといった要素は今なお消費行動に根深く影響しています。ブランド側もこれを敏感にキャッチして、「故郷への思い」「家族と団らん」というストーリーを巧みに取り入れています。
例えば、お茶や漢方薬といった伝統産業は「信頼できる歴史」が親子三代にわたって支持される動機になっています。現代的な視点からは、国潮(グオチャオ、China Chic)ブームに象徴されるように、「伝統と最新トレンドの融合」がロイヤルティを生む重要なキーワードになっています。“古さ”も“新しさ”も上手にミックスされて効果的なブランド物語を生んでいるのです。
現代の若年層、特にZ世代では、「個性」「共感」「社会的価値」を求める傾向が顕著です。ブランドは単なる商品提供者ではなく、「自分の価値観を映す存在」として捉えられがちです。成功している中国ブランドは、伝統を大切にしつつも、現代的センスを加え“ライフスタイル全体”を共に作り上げるパートナーに進化しています。
1.4 日本市場との比較分析
日中両国のブランドロイヤルティには興味深い違いがあります。日本では長年の生活習慣や品質志向、お得意様文化などが根強く、世代を超えて「ずっと使い続ける」ブランド選びが一般的です。たとえば、洗剤や食品、お菓子といった生活必需品では“親が使っていたから自分も”という流れがよく見られます。
対して中国は、経済成長が急速で社会変化も大きいため、新しいブランドに対する受容性がとても高いです。伝統重視の側面はあるものの、「良さそうなら乗り換えてみよう」「トレンドに敏感でいたい」という“ブランド流動性”も活発。特に若年層はSNSなどで流行りの商品やサービスを積極的に体験し、飽きればすぐに別のブランドを試します。これが日本市場との大きな違いです。
また、日本のブランドロイヤルティは「安心・安全・安定」に根ざしていることが多く、堅実な信頼構築に時間をかけます。一方、中国のロイヤルティは「話題性・共感・スピード感」によって生まれることが多く、短期間でも爆発的な支持が集まる傾向があります。このような違いを理解することは、両市場での戦略策定に欠かせません。
2. 顧客エンゲージメントの重要性
2.1 顧客エンゲージメントの定義と要素
顧客エンゲージメントとは、ブランドや企業と顧客の間に生まれる深い絆や積極的な関わりのことです。単に「買う」「使う」関係以上のもの、具体的には「ブランドとの会話」「イベント参加」「SNSでの情報発信」「友人へのおすすめ」など、多面的な行動を指します。単一の取引だけでなく、ブランドとの継続的で双方向的なコミュニケーション全体が“エンゲージメント”の本質です。
中国では、エンゲージメントの繋がり方がとてもダイナミックです。ライブ配信へのコメント、オンライン投票、レビュー投稿、ブランド主催のオフラインイベントへの参加など、消費者がブランド活動に能動的に関わろうとする傾向があります。また、新しいコンテンツに触れること自体を楽しみにする消費者も多いです。
エンゲージメントが高い消費者は、ブランドに対して「自分も一員だ」という参加意識や帰属感を持っています。ブランド側も、単なる情報発信ではなく、「対話」や「共創」を重視。これが現代中国ビジネスにおいて欠かせない要素となっています。
2.2 デジタル時代における顧客との接点
中国は世界でもトップレベルのデジタル社会です。スマートフォン利用者は14億人を超え、オンライン取引やキャッシュレス決済が日常茶飯事となっています。この環境の中、ブランドと顧客の「接点」は劇的に多様化しました。SNS(WeChat, Weibo, 抖音=Douyin/TikTokなど)、ECサイト、アプリ、ミニプログラム、ライブストリーミングなど、オンライン上の接点が無限に広がっています。
例えば化粧品ブランドPerfect Diary(完美日记)は、公式WeChatやXiaohongshu(小紅書=RED)などを活用して様々なタッチポイントを作っています。購入後すぐにカスタマイズしたお礼メッセージを送る、ユーザー限定のライブ配信を開催する、オンライン・オフライン両方で試用イベントを実施するなどして、顧客との接点を絶やしません。
また、消費者は“自分ごと”として参加できる体験を求める傾向が強いです。ブランドのアンケートに答える、SNSで口コミや商品写真をシェアする、イベントでブランドの人と直接話すといった「双方向コミュニケーション」が重視されています。こうした多層的なタッチポイントの設計が、今の中国では不可欠です。
2.3 顧客満足度とロイヤルティの関係
顧客エンゲージメントとブランドロイヤルティは切っても切り離せません。顧客がブランドと日常的に関わり、ポジティブな体験を積み重ねることで満足度が上がり、その結果としてロイヤルティも高まるのです。逆にエンゲージメントが少なく、ブランド側からの発信が一方的だったりすると、他ブランドへの切り替えも起きやすくなります。
中国の消費者は“体験重視”です。たとえば、「購入から配送・アフターサービスまで全てがスムーズ」「自分の声がブランドに届く」「新商品のお試しキャンペーンに呼ばれる」といった積み重ねが、最終的に「このブランドなら安心」と感じさせ、長期的な支持につながります。
顧客満足度を単なる「不満がない」状態ではなく、「期待以上」「ワクワクする」体験にまで引き上げることが現代のブランド競争で重要です。中国ブランドはこの点で先進的な施策をどんどん生み出し、顧客が「また買いたい」「みんなに勧めたい」と思える仕掛け作りに余念がありません。
2.4 エンゲージメント指標の測定方法
エンゲージメントがどれくらい高いか、それを測る指標も近年では非常に洗練されてきました。中国の多くのブランドは、SNSでの「いいね」「シェア」「コメント」数や、ライブ配信への参加者数、EC上のレビューやアンケート回収結果など、定量的なデータを活用しています。
たとえば、「ユーザーあたりのブランドコンテンツ消費時間」「アンケート回答率」「イベントへの参加率」「リピート購入者の割合」など、詳細な指標を複数設定して総合的に分析します。中国大手のテンセント(Tencent)は、WeChat内のミニプログラム利用数やユーザー生成コンテンツ(UGC=User Generated Content)数をリアルタイムでモニタリングし、どんな施策が最も関与度を高めるか日々検証しています。
また「Net Promoter Score(NPS)」と呼ばれる、顧客が“友人や家族にブランドを勧めたくなる度合い”を数値化する方法も普及しています。数字だけでなく、顧客の声や感情を捉える「定性分析」も重視されており、消費者インサイトを生かした次世代型のブランディングが進化しているのです。
3. 中国ブランドのロイヤルティ構築戦略
3.1 コンテンツマーケティングの活用
中国ブランドはコンテンツマーケティングを駆使して、熱狂的なファン作りに成功しています。商品やサービス自体の機能性だけではなく、「ストーリー性」や「生活提案」、「季節ごとのトレンド」など、幅広い内容で消費者の心を掴んでいます。たとえば小紅書(RED)では、ユーザーが日々の美容やファッション体験をシェアし、その体験がブランドの価値を自然に高めています。
コスメブランド“Florasis(花西子)”は古典文学や中国伝統美をイメージしたブランドストーリー動画を展開し、消費者の想像力をかき立てています。使ってみて楽しいだけでなく、「自分も中国文化の一部になった気分」になれる演出が効いています。また、商品発売前にストーリー性ある動画やコミック、短編小説などをSNSで配信し、顧客が“発売前からワクワク、話題になる”仕掛けも増えています。
ブランドの公式アカウントや自社メディアも多層的な役割を担いながら、消費者発のUGCとも連動。これにより消費者は「与えられる」だけでなく、「一緒にブランド作りに加わる」感覚でエンゲージメントが自然と深まる構造になっています。
3.2 オムニチャネル戦略と顧客接触点
中国ブランドがロイヤルティを築くもう一つのポイントは「オムニチャネル戦略」です。オンライン・オフライン両方で効果的に顧客と接点を持ち、「好きなときに、好きな方法で買える・触れられる」体験を徹底しています。有名アパレルの“UR(Urban Revivo)”は、実店舗でのイベント体験や試着予約サービスを充実させる一方、Tmallや自社EC、WeChat販売チャネルもフルに活用。どこから入ってもスムーズな体験ができます。
また、「ミニプログラム」や「O2O(Online to Offline)」施策も活発です。例えば家電ブランドの“小米(Xiaomi)”は、実店舗で製品を試しつつ、そのままスマホで即購入できたり、SNSでクーポンや限定情報を獲得したりする仕組みを整えています。お客様にとって「どこでも買える・すぐ手に入る」の利便性は、強い満足感と信頼を生み出しやすく、それがロイヤルティの根本につながっています。
新型コロナ以降、リアル店舗とデジタル店舗の垣根はますます低くなり、中国ブランドは一貫した体験とサービス提供に磨きをかけています。異なるチャネルで手間なくシームレスに買い物やサポートが受けられる仕組みこそ、今の時代の“忠誠心”を支える重要ポイントです。
3.3 顧客データ活用とパーソナライゼーション
中国ブランドは、顧客一人ひとりの行動や趣味・嗜好データを徹底的に活用しはじめています。購買履歴やWeb/アプリでの行動ログ、カスタマーサービスへの問い合わせ内容など、大規模なビッグデータをAIや機械学習により高度に分析。その結果、「この人にはどんな商品がおすすめか」「どんな特典が響くのか」を精密に導き出しています。
例えば電商大手「京東(JD.com)」は、顧客ごとに異なるTOPページやレコメンデーションを自動表示し、それぞれに合ったプロモーションや割引クーポンを配布しています。コスメブランド“Perfect Diary”も、顧客の好みに応じてAIが色や質感など最適な新商品を提案し、「自分だけが選ばれた特別感」を演出します。
パーソナライズされた情報やサービスが届くことで、「このブランドは私のことを分かってくれる」「ここでしか体験できない」という気持ちが強くなります。結果として、自分ごと感が生まれ、ブランドへのロイヤルティ向上につながるのです。
3.4 ブランド体験イベントの実施事例
中国ブランドは、消費者が直接ブランドを「体感」できるイベントを頻繁に開催しています。とくに若年層向けには、ポップアップショップ、テーマ展示会、ブランドカフェ、体験型ワークショップなど、楽しみながら商品・サービスの世界観に浸れる企画が人気です。
有名な事例として、飲料ブランド「喜茶(HEYTEA)」の期間限定コンセプトカフェや、化粧品ブランド「花西子(Florasis)」の伝統工芸体験ワークショップなどがあります。実際に自分の手で商品を作ったり、ブランドアイコンと記念撮影できたりすることで、「愛着」や「忘れられない思い出」が心に刻まれます。
また、オンラインにおいてもインタラクティブなライブイベントや“VR店舗ツアー”など、デジタル体験の創出が進んでいます。これらの取り組みにより、ロイヤルティは単なる“機能的な満足”を超え、「感情のつながり」や「自分だけのブランド体験」という新しい価値へとシフトしています。
4. 顧客エンゲージメントの最新トレンド
4.1 ライブコマースとソーシャルメディアの影響
中国の顧客エンゲージメントにもっとも大きなインパクトを与えているのが、ライブコマースとソーシャルメディアの融合です。ライブ配信を使った商品紹介やリアルタイム販売は、従来のテレビショッピングとも異なり、“双方向性”と“熱狂的な集客力”で中国市場を席巻中です。
たとえば「李佳琦(Austin Li)」や「薇娅(Viya)」といったトップライバーは、1回のライブ配信で数億円規模の売り上げを叩き出すほど影響力を持っています。視聴者はリアルタイムで質問したり、コメントでリクエストを送ったりできるため、自分自身が販売プロセスに“参加している感覚”を得やすいのです。
またソーシャルメディア上では、商品レビューや利用体験の“生の声”が大量に拡散され、新たな関心層を巻き込んでいきます。ライブコマースは、エンゲージメントの即効性と、ユーザーが「今買う理由」を納得できる説得力が融合した、まさに現代中国ならではの現象です。
4.2 インフルエンサーとKOLマーケティング
中国のブランドエンゲージメントは、インフルエンサーやKOL(Key Opinion Leader:意見リーダー)の活用なしには語れません。単なる有名人ではなく、SNSや動画配信で独自の世界観や専門性を打ち出している人々が、ブランドの伝道師となってターゲット層を引き付けています。
たとえばコスメ領域では「小紅書(RED)」で活動する若手ビューティーKOLたちが、「使ってみて本当に良かったアイテム」を動画やブログでリアルに紹介。その結果、多くのユーザーが「自分もこのKOLに言われたブランドを試してみたい」「KOLの推しだから安心感がある」と口コミ的に広がります。
ブランド側は商品の単なる広告ではなく、ストーリーやライフスタイルと結びつけたコンテンツ提供を通じて、顧客とKOLが一緒に“コミュニティ”作りや価値観の共有を行っています。KOLとのコラボ企画、限定アイテム、オフラインイベントなど、多様なタッチポイントがファン化・エンゲージメント強化に直結しています。
4.3 サステナビリティと社会的価値の訴求
中国消費者、とくに若年層を中心に「ブランドの社会的責任」や「サステナビリティ(持続可能性)」への関心が急速に高まっています。単なる自己満足型の消費ではなく、「環境に配慮し、おしゃれで社会によいことをしているブランドを選びたい」という新しい動きが生まれています。
有名な例はアパレル大手「アンタ(Anta)」の取り組みです。工場のCO2削減やエコ素材への切り替え、環境保護団体とのコラボイベントなど、“エコフレンドリーな企業”としてのブランディングを徹底しています。同時に、障がい者支援活動や女性活躍推進をブランドメッセージとして発信し、「共感・信頼・誇り」を生むエンゲージメントにつなげています。
このような社会貢献活動は、SNSやライブ配信でも強くアピールされ、消費者が“それなら積極的に応援したい!”と思いやすい雰囲気が醸成されます。単なる商品購入を超えた「ブランドと一緒に社会を良くする仲間」への意識変化が起きているのです。
4.4 若年層・Z世代へのアプローチ方法
中国のZ世代・若年層は、過去の消費者像とまったく違う価値観を持っています。テクノロジーへの高いリテラシー、個性や多様性への共感、リアルとデジタルの垣根なき世界観など、従来型の販売手法だけではもはや心を動かせません。
たとえば、ローカライズされた“キャッチーな広告動画”、コミックや短編動画を使ったCM、人気KOLとのコラボなど、「遊び心」や「自分を映し出せる」ブランドコンテンツが求められています。ファッションブランド「Bosie」や化粧品の「花西子(Florasis)」などは、オフラインのポップアップイベントやアート展開、限定グッズ展開などで「自分だけの世界観」にどっぷり浸れる仕組みを作っています。
また、eスポーツやストリートダンス、アニメ・漫画イベントとの連携も増えており、ブランドは“商品”そのものを売るよりも、「共感・コミュニティ・仲間づくり」を優先しています。こうしたアプローチが、「このブランドと一緒に未来を作りたい!」という深いエンゲージメントへとつながっていきます。
5. ケーススタディ:注目すべき中国ブランド
5.1 テクノロジーブランドのロイヤルティ形成
中国のテクノロジーブランドは、製品力とサービス力をベースにしながら独自のファン文化を築いています。たとえば「華為(HUAWEI)」は、スマートフォンや5G通信インフラのクオリティだけでなく、“国家的プライド”とも直結するブランドメッセージを積極的に発信。圧倒的な技術力に加え、「中国ブランドであること」に誇りを持てる体験を提供しています。
また「小米(Xiaomi)」は、ユーザーと一緒に製品を作り上げる“ミーファン(Mi Fan)”コミュニティを運営しています。新商品の開発プロセスにファンが参加したり、年次イベントや開発者大会にリアル・オンライン問わずユーザーが集結したりと、ただの“お客さん”を超えて「ブランドの仲間」意識を高めています。
テンセントも、WeChatやQQなどのサービスを通じて、ユーザーと双方向のコミュニケーションを日常的に行い、機能改良や新サービスへのニーズを即座に反映しています。こうした取り組みが、単なるブランド支持を超えた「信頼・愛着」のロイヤルティ創造の鍵となっています。
5.2 アパレル・コスメ分野でのエンゲージメント手法
中国のアパレル&コスメブランドは、デジタル時代のエンゲージメントを牽引しています。たとえば「Bosideng(波司登)」は、冬物アウターの機能性とデザイン性を打ち出しつつ、Weiboでのファッショニスタとのコラボやポップアップイベント、SNS限定クーポン配布などを巧みに活用し、若年層との接点を拡大しています。
コスメ分野では、「完美日记(Perfect Diary)」がUGCを中心としたコンテンツマーケティングで大成功。小紅書(RED)やDouyinなど各プラットフォームでユーザーが実際にメイクアップした写真や動画を大量シェアしています。自分と同じリアルな消費者の体験やレビューが、次のユーザーを引き付け、コミュニティの一体感を高めています。
また、リミテッドエディションの企画や、KOLとの特別コラボ、コスメカウンターでのAI肌診断など、テクノロジーと体験型プロモーションの組み合わせも進化中。顧客一人ひとりに「自分専用」「自分だけ」の特別な体験を届ける工夫が凝らされています。
5.3 地方発ブランドの成功例
中国は広大な国土を持つため、地方発のユニークなブランドが次々と登場しています。四川省発祥の「波司登(Bosideng)」は、元々は中国内向けのご当地アウターブランドでしたが、実用性やコストパフォーマンスの高さを武器に全国区へと成長。その後はデザイン力やファッション性も強化し、ニューヨーク・ファッションウィーク進出など国際化にも果敢に挑戦しています。
また湖南省発の調味料ブランド「老干妈(Laoganma)」は、「おふくろの味」を活かしつつ、SNSやコラボグッズ展開も行い、若者向けのファングッズ化戦略で国民的地位を確立。地方色やローカルイメージを大胆に発信することで、「懐かしさ」と「トレンド感」を一体化させたロイヤルティ形成に成功しています。
広東省発の中華ファストフード「真功夫(Zhen Gongfu)」など、食文化や伝統行事など地元エピソードをブランドストーリー化して都市部と地方消費者双方の心をつかむ例が多数見られます。このように中国は“地方発イノベーション”が全国規模に広がるケースが多いのが特徴です。
5.4 グローバル展開する中国ブランドの特徴
中国ブランドは今や国内だけでなく、国際市場でも大きく存在感を発揮しています。たとえば「TIKTOK(抖音)」は、SNS動画アプリとして米国・ヨーロッパ・東南アジアなど世界中で爆発的な人気を誇り、現地ユーザーとのエンゲージメント施策を徹底的にローカライズしています。
家電の「ハイアール(Haier)」や「レノボ(Lenovo)」は、グローバルな視点で現地ニーズにあわせた製品開発やカスタマーサービスを強化し、「Made in China」のイメージ刷新に成功。とくにハイアールは、買収先ブランド(例:欧州のCandy、米国のGE Appliances)との共創エンゲージメントにも力を入れています。
最近では“国潮(China chic)”ブームをうまく生かしたファッションやコスメ、ヘルスケアブランドが東南アジア諸国や中東・欧米にも進出。どのブランドも“現地の声と共同で作り上げる”ローカルエンゲージメント型のブランディング手法を強化しているのが大きな特徴です。
6. 日本企業への示唆と今後の展望
6.1 中国市場進出日系ブランドの成功・失敗要因
中国市場に進出した日本ブランドのなかには、成功例もあれば苦戦した例もあります。成功したブランドとして挙げられるのは、「資生堂」「ユニクロ」「無印良品」など。これらのブランドは、中国消費者の生活スタイルや流行、市場ニーズにあわせて商品やサービスのローカライズを徹底したことがポイントです。ユニクロは中国人気KOLとのコラボや現地嗜好を反映した限定アイテムなどで、Z世代ユーザーを掴みました。
一方で失敗例としては、「日本式の品質やブランドイメージだけで勝てるだろう」と考え、現地の急速なデジタルシフトや消費者参加型のマーケティングに追いつけなかった企業も多く存在します。たとえば、“本国で人気だから中国でも売れる”と信じてブランドアピールを怠ると、あっという間に埋もれてしまいます。
現地市場に合わせたプロモーション、デジタル活用、KOLやSNS戦略、さらには“ブランド体験”の充実など、時代と地域に合ったカスタマイズが不可欠です。成功企業は決して“日本モデルのまま”を押し付けることなく、現地との深い相互理解・共同開発に力を入れているのが共通点です。
6.2 日中間で学ぶべきロイヤルティ創造戦略
日本と中国、両国のブランドロイヤルティ形成には学び合えるポイントがたくさんあります。日本側の強みは「高品質」「安心・安全」「ていねいな顧客対応」などですが、これだけでは中国の現代消費者の“心の共鳴”や“スピード感”には届きません。中国ブランドはコンテンツマーケティングやライブコマース、KOL連携、パーソナライズ対応において圧倒的な強さを見せており、日本企業もこれを柔軟に取り入れる工夫が必要です。
たとえば、SNSやアプリを使ったユーザー参加型キャンペーン、コラボ限定商品、ライブ配信でのリアルタイム対話、データドリブンの顧客分析など、現代中国の「巻き込み型マーケティング」を真摯に学ぶことが大切です。
逆に、中国ブランドは日本の「おもてなし精神」や「アフターサービス」「長期に渡る信頼構築」からも多くを吸収できます。両者がそれぞれの長所を認め合い、協力・イノベーションを進めることで、よりグローバルなロイヤルティ創造戦略が生まれるはずです。
6.3 コラボレーション・イノベーションの可能性
中国と日本両国のブランド・企業が協力し合うことで、新しい市場価値やイノベーションを創出する可能性が大きく広がっています。たとえば、アニメやキャラクター・エンタメ分野では、中日コラボアイテムが大ヒット。中国Z世代にも人気の「ドラえもん」「ちびまる子ちゃん」などを活用したファッション、店舗イベント、デジタルコンテンツなど、コラボ展開は枚挙にいとまがありません。
テクノロジーの分野でも、日本の精密機械メーカーと中国のIoT・AIスタートアップがタッグを組み、スマート家電やロボティクスでの新製品開発を進めている事例が増えています。両国の強みのかけ合わせによる「Only One」商品は、相互ブランドのロイヤルティと新たなファン層の獲得につながっています。
これからの時代、“国境を越えた共創”こそが、ユーザーとの長期的なエンゲージメント・信頼関係づくりのカギとなるでしょう。発想の柔軟さやスピード感、そして「体験価値」を重視した協業が次の中日ビジネスの新境地を切り拓くはずです。
6.4 今後の中日ビジネス関係の展望・まとめ
中国ブランドは今後さらにグローバルな展開を加速させ、デジタル×リアルの融合体験やパーソナライズ施策に磨きをかけていくでしょう。一方、日本ブランドも「体験」「共感」「多層的な接点」を意識した新しいエンゲージメント戦略へと進化していく必要があります。
今やロイヤルティやエンゲージメントは単なる顧客管理の手法ではなく、「生活そのものの一部」「価値観やコミュニティの一員」という意識まで進化しています。国や文化を超えて“顧客の心”に寄り添うブランドこそが、長期に渡って支持される存在となるでしょう。
中国と日本、両国が互いに多くを学び合い、ときには手を組みながら次世代ビジネスの新たな価値を創造していくことが、アジア、そして世界経済の持続的な発展に繋がっています。ブランドロイヤルティと顧客エンゲージメントの進化は、これからもますます加速していくことでしょう。
