中国の経済とビジネス > 中国の農業と食料供給チェーン > 食料輸出入の現状と課題
中国は21世紀に入って、世界最大級の食料生産国・消費国として、グローバルな食料市場で存在感を急速に高めてきました。一方、人口増加や食生活の多様化、都市化の進展、経済成長といった社会的要因が重なり、食料の需給バランスは複雑化しています。その中で、食料の国際的な輸出入は中国経済の安定や国民生活の基盤を支える重要なテーマとなっています。加えて、世界中でサプライチェーンの混乱や気候変動、地政学的リスクが高まるなか、中国も食料安全保障や品質管理、持続可能性といった新たな課題に直面しています。
この記事では、まず中国の食料輸出入について現状と課題を多角的に解説していきます。統計データや具体的な事例を交えながら、輸出入規模の推移、主要な品目や輸出入相手国の特徴、政策・規制に加え、サプライチェーンの問題点や今後の可能性についても掘り下げていきます。さらに、中国と日本の協力・競争関係や、今後へ向けての提言も示し、食料輸出入を取り巻く全体像をわかりやすく紹介します。
1. 中国の食料輸出入の概要
1.1 中国の食料輸出入規模の推移
中国の食料輸出入規模は、ここ20年間で大きな変化を遂げました。特に2001年の世界貿易機関(WTO)加盟を機に、対外貿易が一気に拡大し、農産物・食品分野もその波に乗りました。2002年には食料品(ここでは主に農産物とその加工品)の輸出額が約162億ドル、輸入額が179億ドルに達しました。その後、2008年のリーマンショックをはさんで増減はあったものの、安定した経済成長と食生活の高度化により、輸入規模はとりわけ急拡大しています。2022年には食料輸出額が約789億ドル、輸入額は実に2198億ドルにまで達し、かつてない輸入超過—つまり「ネットインポーター」に転換しました。
それと同時に、国内では食料自給率の低下が深刻な課題となっています。かつて中国はコメや小麦などの主食用穀物では安定した自給体制を維持していましたが、2014年ごろから大豆・油糧種子・飼料作物など「非主食系食料」の輸入依存が高まっています。その背景には、都市人口の増加や生活水準の向上によって畜産物と加工食品の需要が増し、国内生産では賄いきれない状況が続いていることがあります。
食料輸出にも変化の波が及んでいます。かつては水産物や野菜、果物などを中心に高い輸出量を誇りましたが、近年は安全・品質管理や海外市場の競争激化によって、伸び率はやや鈍化しています。しかし、それでも中国は依然として世界の食料市場で無視できない存在であり続けています。
1.2 主要な輸出入品目の特徴
中国の食料輸出において、大きな比重を占めてきたのは水産物(エビ・魚・貝類など)、野菜(ニンニクやタマネギ、サツマイモなど)、果物(りんご、柑橘類など)、加工食品(インスタント食品、調味料、缶詰、冷凍食品など)です。労働集約型の農漁業製品、高いコストパフォーマンス、豊富な生産量といった強みを活かし、アジアを中心に欧米や中近東など多様な市場に輸出しています。
一方で、食料輸入の主力品目は大豆やとうもろこし、牧草、小麦などの穀物類、食用油や乳製品、牛肉、鶏肉など動物性たんぱく食品が中心です。大豆は特に中国の輸入依存度が高く、全世界輸入の60%以上を中国が占める年もあります。家畜飼料用のとうもろこしや、ワイン・果汁など嗜好性の高い加工食品の輸入も増加しています。
これら輸出入品目の動向は、世界の農産物供給網と消費パターンの変化、さらには中国国内の政策や気候変動、国際的な需給バランスに大きく左右されています。
1.3 世界市場における中国の地位
中国は食料生産および消費において、すでに「世界一」の地位を確立しています。コメや小麦、野菜、果物など多くの品目で世界最大の生産国であり、加えて消費量も首位です。WTO加盟以降、世界第3位の農産物輸出国、さらに(2022年時点で)世界一の農産物輸入国となりました。グローバルな食料市場での影響力は年々増大しており、世界の農業価格や貿易環境にも大きく影響を与えています。
また、中国の大量輸入が世界市場の価格を押し上げたり、特定の品目(大豆など)で需給逼迫を招いたりする事例も少なくありません。逆に、中国の輸出規制や検疫の強化が、近隣アジアやアフリカ諸国の市場に打撃を与えることも指摘されています。経済力のみならず、政策・規制運営の面でも中国は世界の食料供給チェーンにとって重要なプレーヤーなのです。
このように、中国の食料輸出入は国内産業や消費者にとってだけでなく、世界中の食料市場や農業経済全体にも大きなインパクトをもたらしています。
2. 食料輸出の現状
2.1 主な輸出先国・地域
中国の食料輸出先は、地理的な近接性や貿易協定、消費者の嗜好に応じて多様化しています。その中でも最重要輸出先は、東南アジア諸国連合(ASEAN)です。タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポールなどが上位に並び、これらの国々は地理的にも非常に近く、物流コスト面での強みがあります。また、中国の伝統的な調味料や漬物、冷凍食品などが現地の食文化に浸透している点も大きいです。
日本も長年にわたる重要な食料輸出先国です。中国産野菜(例えばネギやタマネギ、冷凍野菜など)、加工水産物、果物をはじめ、最近ではインスタント食品や健康食品も人気があります。韓国も中国産農産物の有力なマーケットであり、冷凍食品や海産物などの安定した輸出先です。
その他、アメリカ、ヨーロッパ、中東、ロシア、アフリカに至るまで多層的な市場開拓が進められています。特に新興国市場での中国産品のシェア拡大が注目されています。ブラジルやサウジアラビアなど遠隔地でも価格競争力と生産体制の柔軟性を活かし、着々と輸出先を多様化させています。
2.2 輸出品目別の動向とシェア
近年、中国の食料輸出品目の中で特に成長が著しいのは水産加工品です。エビ、カニ、白身魚(バサ・タラなど)などの冷凍加工食品は、ASEANや日本、アメリカ、ヨーロッパ向けの安定需要があります。2010年代以降は、付加価値の高い即食や調理済み食品(レトルト食品やインスタントヌードルなど)の輸出も目立つようになりました。
野菜類では、安定した品質と大量生産体制を背景として冷凍野菜や乾燥野菜の輸出が好調です。例えば冷凍枝豆や冷凍ホウレンソウ、きのこ類(シイタケ、エノキなど)は、日本や韓国だけでなく欧米にも展開されています。また、ニンニクやタマネギといった低価格野菜は、中東やアフリカで支持されています。
最近では果物や加工食品(トマトペースト、ジャム、缶詰など)も市場でのシェアを伸ばしています。さらに、オーガニック食品や健康志向商品もASEANや欧米を中心に徐々に人気が出てきました。ただし、高品質やブランド力が重視される日本やヨーロッパ市場では、安全性や残留農薬に関する規制が厳しいため、品質への投資や輸出ルール順守が求められています。
2.3 輸出拡大の背景と戦略
中国が食料輸出を拡大できる背景にはいくつかの要素があります。まず第一に、農産物の生産規模自体が世界最大級であること、労働力が豊富で生産コストが低いこと、さらに輸出向けのインフラ設備(物流・冷蔵倉庫・検疫施設など)が充実していることが挙げられます。また、WTO加盟や「一帯一路」構想など政府の対外開放政策も輸出拡大に弾みをつけています。
もう1つ重要なのは、企業側の積極的な海外展開戦略です。大手農業企業や水産加工グループは、海外の流通ネットワークや現地法人との提携を進め、自社ブランドの強化と販路の拡大を目指しています。例えば、一部の大手冷凍野菜メーカーはアメリカや日本に現地子会社を設立し、OEM(受託生産)から独自ブランド商品への転換に力を注いでいます。
一方で、「中国産=安い、だけど品質や安全性にやや不安」という従来のイメージを払拭するため、品質管理や食品安全マネジメントへの投資も盛んになっています。近年は、有機認証やHACCP(食品衛生管理システム)認証の取得が欧米・日本向けの標準条件となり、ブランド力アップにも資しています。このように、コスト競争力に加え品質と信頼性を強化する戦略が、中国の食料輸出発展の鍵といえるでしょう。
3. 食料輸入の現状
3.1 主要な輸入先国・地域
中国の食料輸入が急増している主な輸入先は、アメリカ、ブラジル、アルゼンチン、カナダ、オーストラリアなどの農産物大国です。特に大豆に関しては、ブラジルとアメリカからの輸入が突出しており、中国の大豆供給の8割以上をこの両国が占めています。とうもろこしや小麦、綿花、サトウキビなどもこれら南米と北米諸国から多く輸入されています。
ヨーロッパやニュージーランド、オーストラリアからは乳製品(粉ミルク・バター・チーズなど)やワイン、肉類の輸入が近年伸びています。また、カナダやロシア産の小麦や大麦、米国やフランスのブドウ(ワイン原料)など多彩な品目の調達ルートを持つようになっています。
アジア域内では、タイやベトナムから米、インドやパキスタンから香辛料・豆類、マレーシア・インドネシアからパーム油など、地理的な近さを生かした多角的な調達が進められています。最近はアフリカ諸国からのナッツ類や果物の輸入も増え、年々サプライチェーンのグローバル化が進んでいるのが現状です。
3.2 輸入品目別の動向と依存度
中国の食料輸入の中核を占めるのは、圧倒的に大豆です。中国は世界最大の大豆輸入国であり、2022年には年間9,100万トン以上を輸入しています。これは国内自給の2倍以上であり、中国の養豚・養鶏産業の飼料需要を満たすために欠かせない存在です。とうもろこしや小麦、油料作物も高い依存状態にあり、中でもとうもろこしはアメリカ・ウクライナ・アルゼンチンからの輸入が増加しています。
牛肉・羊肉・豚肉など動物性タンパク質の輸入も年々増加中です。特に2018年以降、アフリカ豚熱(ASF)の流行で国内豚肉供給が不安定となった影響から、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリアなど南半球からの輸入が飛躍的に増えました。乳製品では、粉ミルクの需要拡大を背景にニュージーランド産が急増し、育児用粉ミルクとしても広く利用されています。
果物やワイン、果汁、コーヒー、カカオなどいわゆる「嗜好品」の輸入も拡大傾向です。経済成長とともに生活に余裕の出てきた都市部を中心に、欧米や南米産の高級フルーツやワインの人気が高まっています。これらの品目では国内生産の質・量ともに不足しているため、輸入依存度が顕著です。
3.3 輸入増加の要因と影響
中国の食料輸入が拡大した大きな要因の一つは、人口増加と都市化、食生活の西洋化です。都市部の中間層・富裕層の増加によって、肉や乳製品、果物など高付加価値食品への需要が爆発的に高まり、国内生産では需要を満たせなくなっています。また、中国の農地は面積の制約や土壌劣化などによる生産効率の問題も抱えており、限られた耕地では収量増加にも限界があります。
経済成長とともに、消費者の品質・安全意識が高まったことも輸入増の要因です。海外産品への信頼感(「外来=高品質・高安全性」というイメージ)があるため、特に乳製品やベビーフード、高級嗜好品では海外ブランドが圧倒的なシェアを占めています。2008年に発生したメラミン混入粉ミルク事件以降、中国国内の食品安全意識はさらに高まり、海外からの安全な食材調達が社会的ニーズとなっています。
その一方で、食料輸入の増加は中国の食料安全保障に新たなリスクももたらしています。たとえば、農産物の国際相場や地域紛争、気候変動など外部要因に大きく影響されやすく、万が一主要調達先で供給障害が発生した場合には、国内消費に大きなダメージを与える可能性があります。政府や研究者の間でも「輸入依存の副作用」に対して懸念の声が高まっています。
4. 輸出入をめぐる政策と規制
4.1 政府による貿易政策の概要
中国政府は、食料輸出入に関して積極的かつ柔軟な貿易政策を実施しています。「農業の近代化」や「食料安全保障」の実現を目指し、重要な農産物や食料品について国家戦略として強い管理下に置いています。たとえば、大豆やトウモロコシ、小麦、米などの主要穀物については長い間、輸入割当(トリガー数量の設定)や輸出入手続きの厳格化を通じて、国内需給バランスや価格安定を維持しようとしてきました。
2010年代以降は、国内農業保護と国際競争力向上という2つの目標を両立させる形で貿易自由化も進めています。「一帯一路」構想はその象徴で、中央アジアやアフリカ各国と新しい食料供給ルートやクロスボーダー物流網を積極的に展開しています。自由貿易区や税関特殊監管区域の設置、関税一部引き下げなども推し進め、食料の輸出入を戦略産業と位置付けて資源配分と市場開拓を支援しています。
国内の農業生産者の保護策も多いです。輸入農産物に対しては一定の関税や非関税障壁を設け、価格下落や競争激化による国内市場のダメージを和らげています。また、食料輸出では「高付加価値」「環境配慮型」「ブランド化」といった方針を打ち出し、農業の高効率・高品質化を促しています。
4.2 関税・非関税措置とその影響
中国の農産物輸出入には、多種多様な関税・非関税措置が設けられています。関税は、世界の主要農産物についても比較的高めに設定されているものが多いです。例えばコメや小麦、トウモロコシなど基幹穀物では国内生産者を守るため、10〜65%前後の関税率が適用される場合もあります。大豆など一部品目については交渉や戦略的な必要性から段階的に関税が引き下げられることもあります。
非関税障壁にも注目です。中国では農産物の輸出入検疫管理、食品衛生規格、産地証明、ラベル表示義務など、非常にきめ細やかな規制が導入されています。このため、外国企業や中国企業が海外で農産物ビジネスを展開するには、こうしたルールに迅速かつ正確に対応する必要があります。実際、日本産食品の一時的な輸入規制、オーストラリア産肉の検疫強化、アメリカとの貿易摩擦による一時的な関税引き上げなど、国際情勢の変動によっても規制が頻繁に見直されます。
これらの施策が国内市場の安定に寄与する一方で、時には国際的な摩擦や調達コストの上昇を招くこともあります。特に米中貿易摩擦時の穀物や大豆の関税引き上げは、国内の消費者価格だけでなく全世界の農産物市場に波及しました。こうした影響は今後ますます複雑化していく見通しです。
4.3 国際協定・規制との関連性
中国の食料貿易政策は、WTOなどの国際機関や多国間貿易協定とも密接に連動しています。中国は2001年のWTO加盟以降、ほぼすべての主要農産物について国際協定で定められた関税・数量割当・貿易ルールを順守するとともに、途上国優遇策(特恵関税や無税枠など)も活用しています。
また、近年注目されているのがFAO(国際連合食糧農業機関)やISO(国際標準化機構)など国際規格組織との連動です。食品の安全性・衛生管理やサステナビリティ基準、産地証明・遺伝子組換え(GMO)表示のルール制定など、世界標準への対応が迫られています。たとえば、ヨーロッパ向けの有機農産物やアメリカ向け乳製品では、現地基準に合致する生産・検査プロセスが厳格に求められています。
さらに、中国自身が周辺各国との二国間・多国間の食料貿易協定(ASEAN自由貿易地域、日中韓FTAなど)にも積極的に参加し、食料輸出入の安定化と調達多角化を進めています。これまで自国の都合で輸出入をコントロールしてきた従来型政策から、国際スタンダードとの調和・共存を模索する新たな時代に入ったと言えるでしょう。
5. 輸出入の課題とリスク
5.1 サプライチェーンの脆弱性
近年、世界的な新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミック、ウクライナ危機、気候異常など、グローバルサプライチェーンを揺るがす要因が相次いでいます。中国も例外ではありません。2020年代初頭のパンデミック時には、港湾封鎖や物流の混乱、労働力不足によって食料品の輸送が大幅に停滞し、一部品目で価格高騰や供給ショックが発生しました。主要供給先国に依存した調達体制のもろさが顕在化した瞬間でした。
さらに国際的なコンテナ不足や、燃料費の高騰、地政学リスクの増大(米中摩擦・台湾海峡有事の懸念など)も、中国の食料サプライチェーンリスクを高めています。特に大豆やトウモロコシなどは、ブラジルやアメリカといった遠隔地からの大量輸送が必要なため、船舶や航空手段に小さなトラブルが起きるだけでも国内供給が大きく揺らぎかねません。
国内物流インフラの弱点も指摘されています。内陸部や寒冷地など生産地から港湾への輸送網が不十分な地域も依然残っており、鮮度や品質の維持、納期遵守などが大きな課題です。一部企業ではブロックチェーンやAI物流管理などデジタル技術を導入して弱点克服に努めていますが、人的ミスや情報の「ブラックボックス化」など新種のリスクも増しています。
5.2 食料安全保障と品質管理
中国の食料安全保障には「量の安定確保」と「質の担保」という両面の課題があります。国内生産だけで需要をまかないきれない現状において、いかに外部への過度な依存リスクを下げ多様な調達先を確保するかが大きな争点です。特に飼料大豆や肉類、乳製品など必需輸入品目で一部調達先に過度に依存してしまうと、国際市場の変動や感染症流行、天候不順などで大胆な供給不足が生じかねません。
品質管理の面でも中国は多くの課題を抱えています。2008年のメラミン混入粉ミルク事件や偽装冷凍食品、農薬・防腐剤の過剰使用など、過去には国際社会でも大きな安全不信が広がりました。それ以降、政府は厳格な品質管理規制(HACCP、ISO22000、強化検疫など)を導入し、違反発見時の厳しい社会的制裁も進めていますが、零細農家や小規模加工業者の監視体制強化には引き続き課題が残っています。
グローバルサプライチェーンにおいても、現地輸出先での品質基準や証明書偽造、書類の不備などがたびたび問題となっています。特に高級市場(日本やEUなど)においては、国際基準を満たす細やかな品質管理とロジスティクスの徹底が不可欠です。このため、認証業者や第三者検査会社との連携、デジタル化された追跡システムの導入がますます重要になってきています。
5.3 環境・持続可能性に関する問題
中国の農業・食料輸出入の持続可能性には、いくつか深刻な問題があります。まず、生産拡大に伴う農地の過剰使用と土壌劣化、水資源の枯渇、化学肥料・農薬の大量使用による環境負荷が、とりわけ北部・東部地域で深刻化しています。国有農場や集約加工場が規模の経済を追求する一方、エネルギー消費の増大や廃棄物処理の不徹底が環境問題を一段と悪化させました。
輸入農産物の爆増も、国内農業の持続可能性を揺るがす要素です。国内生産の停滞により海外依存度が高まると、世界市場の価格変動や、気候異常・現地産出国での乱獲・森林伐採による持続性問題にも間接的に加担するリスクがあります。たとえば、ブラジル産大豆の買付急増は、現地アマゾンの森林破壊に拍車をかけたという国際的な批判も浴びています。
食品ロスや廃棄問題も見逃せません。巨大な流通網と消費量に対応しきれず、輸送中や店頭での廃棄が多発しています。これに対し、政府は「光盤運動」(食べ残し減少キャンペーン)や食品リサイクル、持続可能農業の推進を打ち出し、環境管理、エコ認証、リジェネラティブ農業(再生型農業)の拡大などにも力を入れるようになりました。
6. 今後の展望と対応策
6.1 新たな市場機会と課題
中国の食料輸出入を取り巻く環境は今後も大きく変化していくことが予想されます。まず、アジア新興市場やアフリカ地域といった成長著しいエリアで、中国産農産物や加工食品の需要が今後増加していくでしょう。海外で中国料理や中華系食文化が受け入れられており、餃子や春巻き、チャーハンなどの冷凍食品は現地でも人気急上昇中です。
一方で、高品質・高付加価値路線を狙う先進国向け市場(日本、アメリカ、ヨーロッパなど)では、引き続き安全性やサステナビリティへの対応力強化が求められます。消費者の目はより厳しくなっており、トレーサビリティやエシカル消費(倫理的な買い物)への対応が輸出拡大の突破口となります。また、遺伝子組み換え作物(GMO)やアレルゲン管理など、国際基準適合型の品質管理体制が今後の成長には不可欠です。
国内市場では、食生活の多様化と健康志向の高まりにより、新たな輸入需要が存在します。例えば「ダイエット食品」「オーガニック野菜」「高齢者向けサプリメント」など、細分化したニーズを満たす新商品や海外ブランド品の投入が期待されています。その一方で、こうした市場機会自体が新たな品質管理や規制順守コスト増、国際競争力確保といった追加課題ももたらすので、バランスの取れた対応が求められるでしょう。
6.2 技術革新と効率化の方向性
テクノロジーの進歩は、中国の農業・食料サプライチェーンにとって大きなチャンスをもたらします。まずIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータの活用によって、農場・工場・倉庫などサプライチェーン全体の可視化や効率化が一段と進みます。実際、スマート農業(ドローンや自動運転農機の導入等)、精密物流管理、在庫最適化システムなど、既に実証・商用化が進んでいます。
食品の品質管理・追跡も、最先端のブロックチェーン技術やQRコード認証で高度化されています。これにより、輸出用農産物が海外現地でどのように生産・加工・輸送されたか、リアルタイムで追跡できるようになり、食品の安心安全を担保する新たな仕組みとなっています。
食品ロスや廃棄削減に向けたAI予測発注・自動仕分けシステムも導入が加速しています。大手流通・加工企業では、これらのシステムを駆使して賞味期限切れリスクや余剰在庫を減らし、経済的・環境的コストも最小化しています。今後はサステナブル農業やエコパッケージ開発、バイオテクノロジーの革新(高効率な品種改良など)も成長領域となるでしょう。
6.3 日本と中国の協力・競争関係
日本と中国の食料輸出入関係は、協力と競争が混在する特別な関係です。協力面では、両国間で冷凍野菜や水産加工品の双方向貿易、包装や品質管理技術の共同開発、食品安全制度の相互承認などが進んでいます。日系スーパーや加工食品メーカーは中国現地に合弁工場やQAチームを持ち、日本並みの厳しい品質基準で中国産品をコントロールしています。このため、日本の消費者にも安全で安心な中国産食品が提供されやすくなっています。
一方で、競争面では農産物の輸出入シェア争いや、アジア・欧米市場での価格競争力・ブランド競争が激化しています。とくに野菜や水産品、即席めん、調味料の分野で双方が東南アジア市場等に進出し「日本ブランド」対「中国ブランド」の熾烈な競争が行われることも少なくありません。
今後は、危機管理やSDGs(持続可能開発目標)の観点から、協力の幅を広げる余地も大きいです。たとえば食料安全保障や食品ロス削減、サステナブルな生産モデル共有など、日中両国が知見を持ち寄り社会課題を共に解決するコミュニティ作りが期待されます。
7. まとめと提言
7.1 現状の総括
中国の食料輸出入は、急速な経済成長や人口動態の変化とともに大きな発展と転換を遂げてきました。自国生産だけではまかないきれない需要の拡大、都市化や西洋化による新しい食生活の浸透、そして食の安全・高品質志向の高まりによって、世界最大級の食料輸入国に成長しています。一方で、水産物や野菜、加工食品などを中心とした輸出産業も依然として大きな規模を誇り、グローバル市場での存在感も増しています。
しかし、貿易政策やサプライチェーン、品質・安全・サステナビリティへの対応課題、国際情勢の不確定要素など、中国の食料輸出入は多面的なリスクにも直面しています。今後の成長にはリスクマネジメントと技術革新、国際協調の三本柱が不可欠です。
7.2 課題解決に向けた提案
課題解決のためには、まずサプライチェーンの多層化とデジタル強化が必要です。一つの調達先に頼りすぎる「一点集中型リスク」を避け、複数国との安定契約や危機時のバックアップルート構築が急務です。加えて、AIやIoT、ブロックチェーンなどの最新技術を導入し、品質管理から配送・在庫・トレーサビリティまで一貫管理することで、外部ショックへの耐性を高めることが求められます。
サステナビリティ推進も不可欠です。農地保全、水資源管理、有機農業・環境配慮型生産モデルへの転換が進めば、中国農業は中長期的な持続成長が見込めます。さらに、輸出先各国の基準や消費者ニーズに対応した「現地化」戦略も重要であり、現地パートナー企業との連携、マーケットイン型の商品開発が出口づくりの鍵となります。
食品ロス削減や環境保全については、政府主導の運動と民間の自発的取り組みを組み合わせることで、社会全体の意識改革を進めていくべきでしょう。国際機関や先進国との共同プロジェクトにも積極的に参加し、身近な社会課題をグローバル視点で解決する「市民外交」の広がりが必要です。
7.3 日本への示唆と今後の展望
日本にとって中国の食料輸出入動向はリスクでもあり、また大きなビジネスチャンスでもあります。日本の消費者は「中国産」に対して厳しい目を持っていますが、その分、中国産品が本物の安全・高品質をクリアできるなら、コストパフォーマンス面での評価や新たな相互ブランド開発も十分に可能です。
また、食料安全保障やサステナブル経営は両国ともに共通課題です。食品ロス削減・食育・エコ農業などの分野でパートナーシップを強化し、国際的な価値ある提案を行っていくべきタイミングです。そして、消費者重視・品質重視の競争軸を大切にしつつ、サプライチェーン強靭化や災害時の相互支援協定などを拡大していけば、アジア全体の「食の安心・安全」水準に貢献できます。
終わりに
中国の食料輸出入は、かつての「世界の工場」から「世界のキッチン」へと進化を遂げつつあります。これからも激動する国際情勢の中で、リスク対応と機会創出のバランスを見極め、品質・サステナビリティ・協調型成長をキーワードに、新たな道を切り拓いていくでしょう。日本を含むさまざまな国々と連携しながら、アジア発の持続可能な食料供給の新モデルを一緒に築いていけることを期待したいと思います。